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神と愛の祝福、十七

今回でこの戦いは決着します!

ではどうぞ!

 この使徒が何かを捕食するときに使用する触手は一種の消化器官だ。ゆえにこの触手を辿ればアリエスが捕まっている場所にたどり着くことができる。

 厳密に言えばそれはアリエスの存在が格納されている空間に、ということになるのだが、今の俺にはその場所にたどり着くための情報が欲しかった。俺の想像していた以上にアリエスと使徒がシンクロしてしまっているこの状況で、アリエスを無事に助け出すためにはそれを知る必要がどうしてもあったのだ。

 ゆえに俺はこの時を待っていた。やつが追い込まれて、体力を削られて、この俺でさえ喰わなければいけなくなってしまうようなこの瞬間を。


「さて、ここからが本番だ。悪いが探らせてもらうぞ?」


「な、なに、を………?」


 俺は使徒が放ってきた触手を掴み取ると、その触手の中に気配探知の能力を流していった。それは一瞬にして使徒の体の構造を俺に伝え、目的地へと誘っていく。

 使徒には気配がない。それは周知の事実だ。だが、今の使徒はアリエスと同化しかかっている。加えて喰らったアリエスをまだこいつが体内に残しているという事実がある以上、こいつの気配は感じ取れなくとも、アリエスの気配だけは掴むことができるはずなのだ。

 通常時では決して探ることのできない使徒の体内であっても、アリエスが囚われているであろう場所に繋がっているこの職種に触れることができれば、その場所を割り出すことができる。

 これが俺の作戦だった。

 そして俺は気配探知の能力から得た情報を一気に頭に流し込むと、右手で触手を握りながら、「あの神宝」を蔵の中から取り出していく。その瞬間、その圧倒的な力に世界そのものが軋みだしていった。


「がっ!?あ、ああぁ、ああぅぅあ!?そ、その、その、剣はあああ!?」


名形なき終焉の祖(リアスリオン)。俺が持っている最強の武器だ。今のお前からアリエスを切り離すには並の神宝じゃ太刀打ちできない。だったら話は簡単だ。とっとと最強を出してしまえばいい。最強っていうのはどんな力であってもとって代わることのできる力なんだよ」


「ふ、ふふ、ふはははははははっ!?な、なにを、言い出すかと、思えば………!む、無駄です、よ………。た、確かに、その剣は、最強です………。で、でも、強すぎます………。仮にその剣で、ほ、ホワイト、ワールド、なんてものを使おうなら、私だけじゃなく、この子だって、死んじゃいますよ………?ふ、ふふふ、い、今のあなたは、その剣を持っていても、私には、絶対に………」


「誰がホワイトワールドを使うなんて言った?」


「………は?」


「言っておくが、俺はお前が思っているほど馬鹿じゃないぞ?確かに俺の得意技で、奥義的な力はホワイトワールだが、あの力は絶対的な破壊を呼び寄せる力だ。それこそ瞬滅の生成すら凌駕する威力を持っている。だがそれをお前に使ってしまえば、お前だけでアンクアリエスまで消しとばしてしまうのは誰にだってわかる話だ。それにホワイトワールドならわざわざ剣を持ち出す必要はない。生身の状態でも発動することは可能だからな」


「だ、だったら、どうし、て、その剣、を………?」


 その疑問はある意味当然だろう。

 この使徒は俺がこの世界で発動してきた全ての力を知っている。おそらく死んだ使徒や星神たちの力がこの使徒を作り出すまでの間、こいつはずっと俺のことを見ていたはずだ。

 ゆえに不思議に思ったのだろう。この局面で俺が使うとすれば最強の技、ホワイトワールドだと。だがそれに俺は首を振った。その事実に疑問を隠せないのだ。

 しかし実際問題、ここでホワイトワールドを使ってもアリエスは救えない。今言ったように威力が強すぎてアリエスごと消滅させてしまう恐れがある。この局面でそんな危ない橋は渡れない。

 だから俺がこの場で求める力は、それこそ人を手術するときのように繊細に、アリエスだけを取り除くことのできる力だった。そしてそんな力を持つ能力、いや剣技が一つだけ存在している。

 それを発動するために俺はこの剣を引き抜いてきたのだ。


「………お前は知っているはずだ。俺が持っているその力について。………世界に紐づいた力すら切り落とす、赤い光を帯びたその剣撃を。かつて死ぬことがないと言われていた第一神核を倒したその技を」


「ッ!?ま、まさか………!?」


「そのまさかだ。お前とアリエスのつながりはかなり強い。それを無理矢理ホワイトワールドで切り離そうとしたって、暴力的な解決方法じゃうまくいくはずがない。だが、もし正攻法があるなら?何かと何かを切り離すためだけに生まれた力があるなら?………そんな便利な力があるなら使わない手はないだろう?」


 次の瞬間。

 刀身のないリアスリオンが俺の言葉に呼応するように赤い光を放ち始めた。そしてその力は、それを見ていた使徒を恐怖させる。

 理解したのだろう。この力が自分の生命線であるアリエスを絶対に切り離してしまうことに。だが同時に悟るはずだ。この神宝は絶対必中なのだと。どこに逃げても、どこにいても防ぐことのできないまさに絶対最強の一撃なのだと。

 本能がその事実を理解してしまうはずだ。


「ああ、ああぁあぁぁ、ああ、あああ、ううう、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 そんな叫び声が聞こえた。それと同時に使徒は残っている力の全てを振り絞りながら俺に突撃してくる。

 しかしその声すら俺にはほとんど聞こえていない。俺が「視ている」それはただ一つだけ。使徒の奥に、奥深くに 眠っている一人の少女。苦しみながら、涙を流しながら、今もなお戦い続けている自分の思い人。

 彼女を助けるために、俺は己の全てを込めて剣を振るう。




「………赤の章(エリアブレイク)!!!」




 その剣線が空を切った瞬間、使徒の中で何かが壊れる音がした。

 そして伸びてくる。

 俺を求めるように、世界の光を欲するように、使徒の中から「彼女」は戻ってきた。

 そんな彼女に俺はこう告げていく。




「ごめん、遅くなった。………でも、これだけは言わせてくれ。おかえり、アリエス」




 その言葉はこの戦いが無事に終了したことを告げていくのだった。













「………ッ!?」


 目が覚めた。

 いや、起こされたというべきか。

 赤い、赤い、赤い剣が私の体に突き刺さっている。それは決して痛みを伴うものではなく、ゆっくりと私の体をその場から持ち上げていった。

 そして思い出す。意識を乗っ取られている中、私がしてしまった過ちを。

 ………わ、私はなんてことを!?は、ハクにぃを、あのハクにぃを殺したいなんて思っちゃうなんて………!そ、それにあの使徒と混ざりすぎて自分を失うだけじゃなく、自分の手でハクにぃを攻撃していた………!?

 馬鹿だ、馬鹿すぎる。

 本当に何をやっているんだ、私は。

 辛いから、悲しいから、痛いから。そして私と使徒は似ているから。大切な人を求めて、でもどうしても手に入らないという境遇が似ていたから。それに同情してしまったから。だから私は使徒の誘惑に負けた。その快楽に溺れてしまったのだ。

 だけど、だけど、だけど!


「………違う、違うよ!私はあなたじゃない。私は私。ルモス村で生まれてハクにぃと一緒に冒険したアリエスなの!!!」


 その瞬間、私に突き刺さっている赤い剣がさらに輝きを増していく。

 わかる、わかるってしまう。この剣と力はハクにぃのものだと。こんな最低な私をまだ助けてくれようとしているハクにぃが眠っていた私に手を伸ばしてくれていること。その事実を私は理解した。そしてその力こそが私をギリギリの局面で引っ張り上げてくれたのだ。

 体に巻きついていた黒いテープがブチブチとちぎれていく。それに呼応するように私は体を必死に動かしながらこのテープの拘束を振りほどこうとしていった。

 だがそこに、ク苦しそうに顔を歪めながら地面に蹲っている使徒が怒鳴り声を上げてくる。その彼女は先ほどまでの余裕が一切なく、もはやただの醜い化け物に変化してしまっていた。


「に、にが、しま、せん、よ………!あ、あなたは、私と、ともに、歩く、の、です………。ここから、逃げるなど絶対に、ゆ、許しま、せん………!」


「………嫌だ。私は帰る。みんなのところに、ハクにぃのところに!」


「ど、どうして、どうして、です、か!?あの、あの神妃、は、あなた、を、傷つけた………!な、なのに、どう、して………」


「………あなたの言うことは間違ってないよ。ハクにぃが私の気持ちに答えてくれないって思った時はすごく辛かったし、悲しかった。でも、でも、でも!そんな感情の何倍もの幸せを私はハクにぃから貰ってるの!今まであなたの言葉に惑わされてそれすら忘れてたけど、今は違う。あなたが使っている力も、姿も、声も全部私のもの。そんな他人に頼ることでしか生きていけないあなたに、私を、ハクにぃを語る資格なんてないんだから!」


「うううう、ぅぅぅぅぅああああああああ!!!だ、黙りな、さい!!!」


「ッ!?ま、また、テープが、体に絡みついて………!?」


「に、逃がさない、と、言った、はず、です………!私には、あなたが、必要、なんで、す!私の、目的を、達成するためには、必ず………!」


 使徒の言葉に反応するように新たなテープが私の体に巻きついてきた。それはすぐに私の体を拘束し、視界すら塞いでしまう。少しづつ前に動き始めていた体がまた後ろに押し戻されてしまった。

 だけど、もう私は負けない。

 もうこれ以上ハクにぃに迷惑はかけられない。

 勝手にいじけて、勝手に嫉妬して、勝手に縁談なんか開いて、勝手に落ち込んで、勝手に傷ついた私が唯一この場でできること、それは………。


「………絶対に負けない!何がなんでも私はハクにぃの下に帰る。あなたを倒して私は、あの場所に戻るの!」


「ふ、ふざける、なああああああああああああああああああああああ!!!」


 その瞬間、私の体に突き刺さっている剣がさらに赤く輝いていった。そしてその光は私に絡みついていたテープを悉く両断していく。


「ば、馬鹿な………!?あ、あの神妃の力が、もう、こんなところまで………!?ま、まだ、終わってません………!ま、まだ、私は………!」


「ううん。もう終わりだよ」


「ッ!?」


 そう私が呟いた時には、すでに私の体に黒いテープは一つも残されていなかった。二本の足で地面に立ちながら、狼狽えている使徒と対峙している。

 そして。

 その右手には体に突き刺さっていた赤い剣がしっかりと握られていた。その剣を使徒に突きつけて私はこう言い放っていく。


「………私とあなたは深く繋がりすぎてしまった。だからわかるよ。あなたが一人で生きる意味を見つけようとしてたこと、それがいつの間にか星神への恋心に変わっていたこと。私は全部知ってる。でも、あなたはやりすぎた。他人に迷惑をかけすぎた。私のことはどうでもいいよ。でも、あなたはハクにぃたちを悲しませた。だから私はあなたを斬らないといけない。本当に、全てを終わらせるために」


 そして私は剣を振り上げてあの技の名前を口に出していった。その技はわなわなと震えている使徒の体にゆっくりと吸い込まれていく。




赤の章(エリアブレイク)!!!」




 その攻撃を受けた使徒は最後に涙を流しながらその場に倒れていった。そしてその体はやがて光に飲まれるように薄くなっていき、気がついたときにはもうそこに使徒の姿はなくなっていた。

 そんな使徒が倒れていた場所を見ながら私は一人、こんなことを呟いていく。


「………もしあなたが人間として生まれていたら、私たちは仲良くなってたからもしれない。でもごめん。今回は、どうすることもできなかった。だから恨むなら私を恨んで。あなたの期待に応えられなかった私を」


 その言葉を真意を知るものはいない。

 だが語る気もなかった。だってそれはあまりにも虚しい気持ちになってしまうから。




 こうして。

 私やハクにぃを巻き込んだ全ての戦いが決着した。

 そして物語は、ハッピーエンドへと向かっていく。


次回はハクとアリエスの恋の行方を描きます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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