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神と愛の祝福、十四

今回はハクの戦闘回です!

ではどうぞ!

「おい、マスター。まさかと思うがひとり戦うつもりじゃないだろうな?この後に及んでそんな無謀なことは絶対に許さんぞ」


「いや、そのまさかだ。今回は俺一人で戦う」


「はあ!?」


「また始まったわね………。ハクの悪い癖が」


「まあ、そう言うなよ。サシリの言う通りこれは俺の悪い癖なのかもしれないけど、今はお前たちだってアリエスと同じ状態になっちまうかもしれないんだ。そうなったらそれこそ俺でも手がつけられなくなる。それに………」


「それに、なんですか、ハク様?」


 俺の言葉にそう返事を返してきたシルに俺は少しだけはにかんで口を動かしていった。それはエリア以外にはまだ語ったことのない事実、そして思い。だがもう躊躇わない。それを言葉にすることが俺の役目だと確信していたから。


「大好きな女の子ひとり救えないようじゃ、男が廃るだろう?」


『ッ!』


 その言葉は間違いなく会心の一撃だったと思う。みんなの表情がいささか明るくなり、呆れるような笑みを浮かべてくる。そして無言の肯定を作り出すと、そのまま俺を送り出してくれた。

 その意思を汲み取った俺はキラやサシリたちのさらに後ろにいるザークに言葉を投げていく。もし仮に今俺がザークと使徒の間に割って入らなければ、どちらかが死んでいただろう。そしてその結末はきっと俺たちが望んでいるものにはならなかったはずだ。

 ザークもザークなりに考えていたようだが、これは俺たちの問題だ。であればその始末は俺がつける必要がある。


「ザーク。悪いけど、キラたちを頼む。あいつの狙いは強力な力を持った存在そのものだ。いつ隙をつかれてみんなが喰われるかわからない」


「ほう?高々異世界の神がこの俺に命令とは随分と大きくなったものだな?」


「まあな。少なくとも今この場において言うならば俺はお前より強い。それはお前もわかってるはずだ」


「………ちっ」


「だからみんなを頼んだ。俺は俺の手でアリエスを助ける。お前としても久しぶりの戦いで燃えてたんだろうけど、それはまたの機会に置いておいてくれ。どうしてもっていうなら、全てが終わった後に俺が相手になってやるから」


「………その言葉、嘘ではないだろうな?」


「ああ、もちろん」


 俺はザークの目を見ながらそう呟く。視線は外さない。このザークなら、好きな人のために戦ったことのあるザークなら俺の要求を飲んでくれると信じていたから。

 するとザークは大きなため息を吐き出すと、自身の背後から赤黒い触手のような腕を出現させてキラたちを守るように配置していった。その光景を肯定と受け取った俺は軽く頭を下げて体の向きを変えていく。


「ありがとう」


「さっさと終わらせるんだな。お前が戦っている場所がどこか忘れるなよ?」


「ああ」


 それが仲間たちを交わした最後の言葉だった。これより俺の思考は倒すべき的に向けられていく。

 白い髪に水色の瞳。何度も何度も目にしながらずっと隣にいてほしいと願った人の姿。だがその背中と頭には彼女にはなかったものがついている。三十六枚の羽に光り輝く天輪。気配は感じないのに体を押しつぶしてくるようなプレッシャー。

 それはその姿を持つ者が持っていなかったもの。ゆえに俺はこの存在を敵と認識する。腹に力を入れ、空中で足を踏ん張りながら体全体に魔力を流していく。その魔力は俺の体を駆け巡るうちに神の力へと変換され、俺の気配を爆発的に上昇させた。


「………はぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!」


 空が割れる。空間が歪む。海が渦巻く。

 天地が開闢された直後のような世界が俺の力によって再現されていく。

 そして同時に俺の体には変化が起きていた。髪は長く伸び、瞳はいつも以上に赤く輝く。そして純然たる神の力が体を包み、そこにいるだけで世界を壊してしまうような存在を作り出していった。

 完全神妃化。

 星神を倒した時に使った神妃の究極形態。あまりの力に抑止力が俺を閉鎖空間に閉じ込めなければいけない事態を引き起こした力でもある。

 その力を発動させて俺はこいつと対峙していく。アリエスの全てを奪った、この使徒に。

 するとそんな俺を見ていた使徒は口に何かを喜ぶような笑みを浮かべながらこんなことを呟いてきた。


「ふふふ、随分と早い到着ですね、神妃さん?そんなにこの子のことが心配だったんですか?」


「当たり前だ。二十四時間なんて面倒なこと言ってられない。お前とアリエスを引き離す準備ができたなら、すぐにでもお前を屠ってやる。その気概で俺はここに立ってるんだ」


「ふむふむ、なるほどなるほど。そうですか、それはまあ、なんともご大層な使命感ですね」


「何が言いたい?」


「いや、そのですね、ご立派な意思だとは思いますけど、もうすでに手遅れなのですよとお教えしたくて」


「………」


「先ほど、ついに彼女は自分の全てを私に預けてくれました。何度も痛い、痛いと叫びながら、最後にはあなたこそが自分を不幸に陥れた張本人だと思い込んでいました。ああ、これ以上愉快なことはないですねえ。本当に人間というのは甘く、鈍感で、馬鹿な生き物です。ですが、彼女の気持ちもわかるんです。私は彼女で、彼女は私ですから。お互い似た者同士ってやつです。だからこそ私たちは一つになった」


「………知ったような口をきくなよ。お前にアリエスの何がわかる?」


「わかりますよ。彼女はあなたを求めていました。激痛に耐えながら、それでも最後まであなたの助けを求めていた。そして好いていました。ですがあなたは来なかったんです。彼女が壊れるその瞬間に、あなたはいなかった。だから彼女にとってその事実は裏切りとなんら変わりません。その感情は心を完全に崩壊させ、どんな気持ちも憎悪へと変化させる。それが今の彼女なのですよ」


「………」


「あなたは一体何をしてきましたか?彼女が思いを告げているのにそれを無視し、適当に誤魔化し続けてきましたよね?それに世界のためだと言って何ヶ月も彼女に会わなかったり、縁談を開いていると知っておきながら顔を出さなかったり。その全てが彼女を傷つけていないと思っているんですか?」


 ………それは事実だ。

 俺がこれまで目を背けてきた現実。アリエスのことが好きなのに、色々と理由をつけてその気持ちに応えてこなかった。それがアリエスを苦しめていたなんて考えてもいなかったのだ

 いや、理解はしていた。でも心のどこかでアリエスなら大丈夫、アリエスならきっと俺のそばにいてくれる。そんな楽観的な考えが頭のどこかにあったのだ。

 そして俺はそれに頼りすぎた。

 だがその結果がこれだ。アリエスには見放され、そのアリエスも使徒に喰われてしまった。キラやサシリたちからは非難されて、結局また俺は一人になってしまっている。

 これは俺が招いたこと。それは変わらない。ゆえに使徒の言葉を真正面から跳ね返す台詞は俺の中には存在しない。

 だがそれでも、一つだけ絶対に容認できないことがある。


「………確かに俺はアリエスに嫌われてもおかしくない態度をとってしまった。それは否定しない。否定する資格もない。今更手を伸ばしたって遅すぎることはわかっている。………だが、だがな。それをお前の、アリエスを力を奪って調子に乗っているお前にだけは言われたくない。お前がそれを語るな、お前がアリエスをはかるな。お前にそんな資格はない。お前に俺を否定する権利はないんだよ」


「ッ!?」


 その瞬間、使徒に向かって俺の濃密な殺気が叩きつけられた。それは使徒の体を吹き飛ばし、数メートルほど後ろに下げさせる。

 アリエスに嫌われるのはいい。アリエスが俺をそう思ってしまっているのなら、納得できる。それだけのことを俺はしてきてしまっているのだから。

 だけど、そのアリエスを乗っ取って力を振るっているだけのこの使徒にアリエスの気持ちを代弁する資格はない。この使徒にだけは俺を、アリエスを否定することは許したくないのだ。

 ゆえにここで俺は怒りを露わにした。全身から迸る神の力をさらに増幅させて腰を落としていく。目を細め相手の動きをよく観察しながら隙を窺っていった。


「覚悟はいいな?言っておくがいくらお前がアリエスの姿と声を似せていても俺は手加減するつもりはない。完全神妃化で足りないと感じたら、容赦なくその上の力だって発動させる。お前だけは生かしておくわけにはいかねえんだよ」


「………そうですか。ふふふ、そうですか、そうですか。ふふふ、あははははははは!では早速始めましょうか。こうなった以上、私があなたを完膚なきまでに殺して彼女を喜ばせてあげることにします。もしかしたらこれはもうすでに彼女の意思なのかもしれませんが」


 その瞬間、使徒の姿が消えた。気配は相変わらず感じない。ゆえに居場所を探ることが困難になってしまった。こうなるとどこから攻撃を仕掛けてくるかわからないので、いつ、どこで不意打ちをくらうかわからないという最悪な状況が出来上がってしまう。

 だが、それは俺が普通の人間だった場合の話だ。生憎俺は自分で言うのも何だが普通じゃない。それこそ神の領域を踏み越えてしまうくらいに。

 だから俺は使徒と同じように超高速で体を動かすと、見えないはずの使徒の後ろに出現してその背中を蹴り飛ばしていく。


「遅いぞ?」


「なっ!?………かあっ!?」


「一撃でくたばるなよ、三下」


「くっ!」


 俺の一撃を受けた使徒は顔を歪めながらすぐにまた高速で動いて姿を消すと、今度は俺の背後を取るように移動してきた。その攻撃も気配がない以上位置を割り出すことすら難しいのが普通なのだが、今の俺にはやつの動きが手に取るようにわかる。

 なぜならそれは………。


「ど、どうして私の居場所がわかるんですか!?私に気配はありません。それどころかあなたには魔力すら感じ取れないはず………」


「簡単な話だ。全て目で追っている。お前がどれだけ早く動こうが所詮は俺よりも遅い。そのスピードにこの俺がついていけないと思ったか?」


「な!?そ、そんなことが………」


「それと、お前は確かにアリエスの力を手に入れ、強くなったんだろうが、それは致命的な弱点を身につけてしまっている。それがある限りお前は絶対に俺に勝てない」


「ち、致命的な弱点………」


「お前が喰らったアリエスに戦い方を教えたのは誰だ?」


「ッ!?ま、まさか!」


 俺の言葉を聞いてようやくその事実に気がついた使徒は自分の体に視線を落としながら、その体を何度も何度も見つめていく。そしてそれは確信へと変わっていった。使徒の表情がみるみるうちに変化し、怒りと不安が混じったような顔を俺に向けてくる。


「わ、私は無意識のうちに彼女の戦い方を真似ているというのですか………!?」


「その通りだ。なにせお前が言ったんだろう?私とアリエスは一つだって。どうやらお前はアリエスに深く近づきすぎたみたいだな。それはお前の敗北を意味している。どんなに強い力を振るおうが、それは所詮アリエスの力だ。それを熟知している俺からすればお前はこれ以上ない鴨なんだよ」


 これがもしアリエス本人が俺と戦っているならこんな楽に戦いを運ぶことはできないはずだ。戦士において一番大切なのは相手の動きを予測すること。それは仮に戦い方を知っている相手であっても、常時動きが変化するため適応することは困難を極める。

 だが今のこいつはアリエスと溶け込みすぎたのか、アリエスの動きをそのままトレースしたような攻撃しかできなかった。それはあまりにも単調な攻撃だ。ザークと戦った時のように明らかに明確な実力差がある場合や、アリエスの戦い方を知らない相手には通用する力かもしれないが、俺相手ではそれも無に帰ってしまう。

 ゆえにこの戦いは戦士同士の戦いというよりは、俺とただの化け物の戦いという方が正しい。この使徒には理性はあるものの、戦士としての経験と実力がない。

 であれば、こんな戦い、すでに勝敗は見えている。俺は肩をコキコキと鳴らしながら使徒を睨み付けると、余裕の笑みを浮かべながらこう吐き出していった。


「さて、そろそろこっちから攻撃させてもらうぞ?お前とアリエスを分離させるにはかなり大きな隙を作る必要がある。つまりお前を瀕死に追い込まないといけないってことだ。だから………」


 そして放たれる。

 絶対最強の力を持った一人の神の言葉が。




「俺を怒らせたことを後悔するんだな」




 そしてその直後、二つの大きな力が勢いよく激突した。

 世界とアリエスの命運をかけたこの戦いは俺の圧倒的有利な状況で幕を開けたのだった。


次回はさらに戦闘が激化していきます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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