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神と愛の祝福、十三

今回はアリエスの視点とザークの視点でお送りします!

ではどうぞ!

「………」


 もう、声もあげられなくなった。

 自分が誰で、自分が何者で、自分がどうしてこんな目に遭っているのか、その判別すらできない。それどころか快楽と苦痛もなくなって、今の自分は楽しいのか苦しいのか、それもわからなくなってしまっていた。

 目から光が消え、口は開いたまま塞がらない。体の全てから力が抜け、ただそこにあるだけの人形。今の私はまさにそんな状態になってしまっていた。

 するとそんな私をずっと見ていた私と同じ顔を持つ彼女が唐突に話しかけてくる。その声は先ほどよりもずっと深く、心の奥に突き刺さっていく。


「あら、もう壊れちゃったんですか?こちらとしては好都合ですが、意外と呆気なかったですね。まあ、死にたくなるような激痛が絶え間なく走っているわけですから、こうなってしまうのは予想できていましたけど」


「………」


「ああ、それにしても本当に愛おしいですね、あなたは。大切な人をほしいと思うばかりに空回りして、自分を責め続けて。あなたがた人間が抱く感情はまったく理解はできませんが、それを見ている側としては本当に楽しいです。ああ、いえ、とはいえあなたと私は実のところとても似ているのでした。思い人を得ることができず、その夢を諦めたという点で、ですが」


「………」


 そう呟いた彼女はまったく反応を示さなくなってしまった私の背後に近づき、体に手を回しながら抱きしめてくる。その体はありえないほど冷たく、背筋が凍りつきそうになってしまう。

 だがそれも持続的に走っている激痛によってかき消されてしまった。喉の奥から漏れてくるのは怒声のような低い唸り声だったが、それは今の私に置ける悲鳴のようなものだった。


「あぁ、があ、あぁぁあああぁぁあ………!」


「痛いですか?苦しいですか?ああ、これは愚問ですね。だって、あなたはずっと苦しんできたんですから。私にはわかりますよ?私はあなたで、あなたは私。あなたの考えていること、思っていること、その全てが手に取るようにわかります」


「………あぁぁぁ」


「ですからもう、あなたは楽になっていいんです。この私と一つになれば、こんな痛い思いはしなくていいんです。そして壊しましょう、殺しましょう。あなたをこんなにも苦しめた張本人を。あの憎き神妃をあなたの手で殺すのです」


 ………憎き神妃?

 そう言われて、頭に思い浮かんだのは金色の髪を持った青年だ。その青年を見るたびに頬があつくなり、胸の奥がうずうずしてしまう。

 その感情は間違いなく私にとって好感的なものだったはずだ。あの人の顔を、匂いを、力を感じることが私を幸せにしてくれていた。

 そのはず、だったのに。

 今はどうしようもなくその青年が憎かった。

 違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う………。違うのに、そんなこと思いたくないのに、頭も心もそれを否定しているのに、「何か」が私を無理矢理壊していく。

 なんで私は一人でこんな目にあっている?どうして私はこんな痛い思いをしなきゃいけないの?どうして誰も助けに来てくれないの?

 ………ああ、そうか、やっぱり全部、あの人が悪いんだ。あの人に出会っちゃったから、私は今苦しいんだ。こんな死にたくなるような苦痛に耐えて、それでもなお私は何がしたいの?何を守りたかったんだっけ?

 わからない。わかっているはずなのに、思い出せない。

 痛くて痛くて、死にたくなるほど痛くて。もうこんな痛い思いをするのは嫌だ。逃げたい逃げたくてたまらない。今すぐ楽になれる方法があるなら、それが欲しい。

 欲しい、欲しい、欲しい、欲しい。

 ………………。

 だったら。

 その望みに近づくには。

 らどうするればいい?

 わかっている。そんなことわかっているはずだ。もっとも簡単な方法。私がこの苦痛から解放される唯一の方法。

 それは………。




 ハクにぃ(あの人)を殺せばいい。




「ッ!?あ、あああぁあぁぁぁぁ!!!」


「どうしたのですか?まだ怖いんですか?大丈夫、大丈夫ですよ。だって彼はあなたにとって害をなす存在。あなたが彼に目をつけられたから、血なまぐさい戦いに巻き込まれ、悲劇を背負い、今こうして死ぬような思いをしているんです。それを手放すことになんの躊躇がいるんですか?全てあなたを苦しめる害悪であるというのに」


「………が、い、あ……く?」


「はい。彼があなたに害をなす存在であるならば、あなたは逃げなくてはいけません。それはとても自然なことです。だから躊躇う必要はありません。今、ここで全てを捨てて私とともに、私と一つになれば、あなたは救われる。楽になれるんです。さあ、最後はあなたが決めてください。あなたが私の手を取るか、それとも、この地獄のような時間を続けるか。あなたが選ぶんです」


 彼女は私に抱きつきながらそう呟くとまたしても私の顔を舐めてくる。飴を舐めるかのようなその動作は、とても気持ち悪いものだったがなぜだか先ほどよりも嫌悪することはなかった。それどころかむしろ彼女を求めてしまうかのような感情が心の中に芽生え、妙に愛おしく感じてしまう。

 だが。

 わかっていた。理解していた。

 すでに彼女の感情が私を蝕み、一つになろうとしていることに気がついていた。私の自我を操り、自ら彼女に力を捧げさせることによって、私と言う存在全てを喰らおうとしていることは知っていた。

 だから頭ではハクにぃを殺したくない、誰よりも愛しているという気持ちが先行している。しかしそんな私の思考を彼女の意識が握りつぶしてくるのだ。

 激しい憎悪と、怒りと、殺意が入り混じったどす黒い感情が私を支配していく。それははじき返したくても、弾き返せない。

 なぜなら少なからず私が彼女の式に同調してしまっているからだ。心のどこかで、ハクにぃに対してどうして、なぜ、という感情があるから、私は彼女に付け込まれている。

 その状況の全てを私は把握していた。

 していた、のだが。

 目の前に垂らされている快楽と、常に襲いかかってくる苦痛を前にした私がそんな冷静な判断を下せるわけがない。人間とは弱いもので、苦楽を前にしてしまうと基本的に楽な方を選んでしまうのだ。

 ゆえに、今の私も最後の最後で半ば強制的に彼女の手を取ってしまった。

 背後から抱きついている彼女に無言のまま体を差し出すように体重を預け、全てを差し出していく。その動作の意味を汲み取った彼女は最後に軽く微笑むと、周りに落ちていた黒いテープを持ち上げてこう呟いてきた。


「よかったです。あなたが愚かな道に進まなくて。誰しも苦痛から逃れたいものですから当然といえば当然ですが、変なこだわりを見せなかったことは称賛に値します。………では早速、あなたをその苦痛から解き放ってあげましょう」


「………」


 と、次の瞬間。

 彼女が持っていた黒いテープがものすごいスピードで動いたかと思うと、それらは勝手に私の体に巻き付いていき、肌の全てを覆い尽くすと私を繭のような形に縛り上げ拘束していった。

 だがその一瞬。

 私は私の全てが奪われることを自覚しつつ、まぶたの裏にハクにぃの姿を思い浮かべていた。もう遅い、もう遅いのだと理解しつつも、やはりこの瞬間だけは結局ハクにぃのことを考えてしまうのだった。


 ごめんね、ハクにぃ………。

 私もう、ダメ、かも………。


 しかしその思いは届くことはない。

 なぜならこの瞬間から、私の存在は彼女に奪われてしまったのだから。














「ッ!?」


(ち、力の質が変わった………!?くっ、よもやあの娘、自ら自分を受け渡したのではあるまいな!?い、いや、ありえん話ではない。おそらくあの娘が置かれていた状況はカラバリビアが再現する地獄よりも苦痛が伴う場所。であればいくらあの娘でも折れるかのせいは十分にある………。だがそうなると、この状況は………)


「ふふふ、どうやら気がついたようですね。今しがた彼女は完全に私のものになりました。今でさえ押されているあなたにすれば聞きたくない情報だったかもしれませんが、これが現実なんですよ?」


「………ほざけ。他人の力で強くなったと錯覚する馬鹿に俺は負けん。所詮は借り物の力だ。扱い方すらわかっていない貴様に俺が負けるものか」


「では試してみますか?この絶対的な力にあなたがどこまで耐えられるか、その限界を」


「ッ!ちっ、ここでその鍵を抜いてくるか………」


 ザークと使徒の戦いは苛烈を極めていた。ザークの背後には赤黒い職種のような腕が大量に伸びており、その全てに凶悪な武器が握られている。しかしその腕は使徒に触れる前に使徒の力によって消滅させられており、いまだに決定的な一撃は加えることができていなかった。

 だが逆に、使徒の攻撃はほぼ全てザークに突き刺さっている。

 仮にも使徒が使っている力はあのアリエスのものだ。その力はいまやキラやサシリを凌ぐものとなっている。加えてこの使徒は使徒の中のイレギュラー。そもそものスペックが高い。いくらザークといえど、この使徒を相手にするにはかなり分が悪かったのだ。

 とはいえ、ザークにとってこの戦闘は久々の刺激。このままやすやすと殺されるほどザークは弱くない。己の中にくすぶっている力が使徒を叩き潰そうと燃え上がっていく。

 ゆえにザークはアリエスの顔をした使徒がついに発動してきたカラバリビアの鍵を前にしてもとくに狼狽えることはなかった。それどころか口元に笑みを浮かべてこんなことを呟いていく。


「………ふふふ、ふはははははははは!待っていた、待っていたぞ、その力!娘がその力を持っていては絶対に俺に振るわれることはない。ゆえに少々落胆していたのだが、今は違う。貴様がその力を持っているからこそ、俺は真の意味でリベンジすることができる!これほど高揚する展開はない。滾る、唆る、熱くなる!この感覚、久しいぞ!」


「負け惜しみですか?それとも私の力を浴びて壊れてしまったのですか?どちらにしても、気色悪いことに変わりないのですが。まあ、その笑顔を浮かべていられるのも今のうちです。すぐにあの世に送ってあげますから」


「ぬかせ。俺は貴様にこの城を受け渡すつもりはない。貴様を地に這いつくばらせるまでは死ねないのだ。まあ、すぐにわかる」


 ザークがそう呟いた直後、ザークの上空に赤黒い巨大な穴が出現した。そしてその中からヘドロのようなものを被った一体の死神が出現する。厳密に言うとそれは死神ではなく、人間たちが想像する死神の姿をした何か、なのだが、その奇妙な力に使徒でさえ戦慄してしまった。


「ッ!?そ、その力は………!?」


「わかるか、人形?これはこの世界に住む人間たち感情を堕天化させ、一箇所に集めたものだ。それもこの感情は負のオーラを帯びている。いくら鍵を持つ貴様といえど、この力に触れればたちまち命を落とすだろう。体は腐り魂は焼けただれ、存在は抹消される。この数千、数万年の間、魔天使である俺が何もしてこなかったと思っていたのか?」


「くっ!く、腐っても天使と悪魔の長というわけですか………」


「そうとも。だが腐らせたからこそ、貴様を殺す死の化身が出来上がったのだ。感情のヘドロにまみれたこの力を貴様は受け止められるか?」


 ザークが呼び出したのは、力や能力に関係なく存在全てを溶かし尽くす最恐の力だ。この技はすでにユノアたちと戦った時に完成された技ではあったが、あの時はザークはユノアもレントも殺す気は無かったので使用することはなかった。

 しかし今は違う。

 ザークはザークなりに考えていた。万物を溶かすこの力ならば実力差のある使徒を倒しアリエスを救い出せるのではないか、使徒だけを殺すことができるのではないか。

 当然、使徒だけに狙いを定めるにはそれ相応の調整を加減が必要だが、今のザークにアリエスを助けながら使徒を倒すことを可能にする力はこれ以外にない。

 ゆえにザークはこの力を発動させた。そしてそれを使徒が鍵の力を使うと同時に振り下ろしていく。


「さあ、終幕だ。借り物の力を使っている貴様がこの死神をどう受けるか、見させてもらうぞ?」


「………いいでしょう。そこまで言うのなら見せてあげます。ただし、強力すぎて世界すら吹き飛ばしてしまうかもしれませんが、悪しからず」


「やれるものならやってみるがいい」


 そしてついに。

 両者の力はまったく同じタイミングで放たれた。

 ヘドロを身にまとった死神と、万物を封じ込める鍵の力。質がまったく異なる二つの力が二人の中間地点でぶつかっていく。

 それは当然とてつもない衝撃波を撒き散らし、使徒の言ったように世界を壊してしまうレベルの余波を周囲にばらまいていくはずだった。

 はずだったのだ。


 しかし。

 現実はそうはならなかった。

 なぜなら、その攻撃を一瞬にしてかき消した存在がこの場にやってきたからだ。




「悪い、ザーク。迷惑かけちまったな。だけどもう大丈夫だ。ここからは俺がやる。こいつの始末は俺につけさせてくれ」




 金色の髪に白いローブ。絶対的な気配にほとばしる魔力。

 それを携えている存在はこの世界にたった一人。その存在は四人の仲間を引き連れてこの場に降臨した。

 そして使徒に向かってこう言い放っていく。




「つーわけで、ここからは俺が相手になる。言っておくが俺はお前を許すつもりはない。最初から全力でいくぞ」




 こうして戦場に全ての役者が揃った。

 そしてアリエスをめぐる争奪戦がようやく幕をあけるのだった。


次回からハクの戦闘回です!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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