神と愛の祝福、十
今回は使徒について掘り下げていきます!
ではどうぞ!
「………ハク様。一応こちらの混乱はなんとか抑えました。シラには他の参加者たちの混乱を抑えるためにも客人として扱い、帰らせています。本人は相当嫌がっていましたが、こちらの采配でそうさせていただきました」
「………そうか。ありがとう、助かったよ、エリア」
「いえ、お気になさらず。むしろ今回の件は私たち王族の問題です。この城に侵入してくる輩を発見できなかったがゆえにこのような事態になってしまいました。………本当に申し訳ございません」
そう口にしたエリアはその場で立ちながら顔を俯けていった。それと同時にこの部屋の中に漂っていた空気がより一層冷えたものに変わってしまう。
夜。
時間にして深夜ゼロ時を過ぎたあたり。立食パーティー自体が夜に開催されていたため、その後。
そんな時間になっても俺たちはまだシルヴィニクス王城の中にいた。その一室、先ほどのパーティー会場十分の一ほどの大きさの部屋に俺たちはいる。メンバーは俺、エリア、キラ、サシリ、シルの五人。かつてのパーティーメンバーのうち五人がこの場に集結している。今となってはあのパーティーの中の五人が集まるという事態はそれだけで珍しいことなのだが、俺たちに突きつけられている現実がこの光景を作り出してしまっていた。
すると、そんな状況を整理するようにキラが机の上に足を組んで座りながら口を開けていく。
「エリアが謝る必要はないだろう。なにせ今回の相手はあの使徒だ。七年前に妾たちをこれ以上ないまでに苦しめた星神の部下。やつらには気配という概念がない。その存在を察知すること自体が至難の技だ。それを一介の警備兵にやれというのは酷なことだろう」
「………ですが、あの場には私もいたのです。もう少し、いえ、アリエスよりも先にあの使徒に気がつけていればこのような事態にはならなかったかと………」
「それはダメよ、エリア。あなたはこの国にとって大切な存在、王女なの。あなたも私たちも七年前とは取り巻く環境も立場も違う。あの時の私たちなら自分を犠牲にしてでも、という考えが通用したかもしれないけど、今、この国であなたが犠牲になるという手段だけは絶対に容認できないわ。もしそうなってしまった時の国の混乱を考えなさい」
「そ、それは、そうですが………」
「サシリ。やめておけ。これ以上仲間を責め立てても事態は好転しない。妾たちがもめているようでは、助けられるものも助けられなくなるぞ?」
「………わかってるわよ」
「ならいいのだ。であれば軽く状況を整理しょう。そうでなければ話は前に進まん。………マスターよ、辛いのはわかるがアリエスの容態について話してくれ。妾たちも薄々気がついているが、明確な答えが欲しい」
キラはそういうと、俺に視線を投げながら返答を求めてきた。それに続いて他のみんなもこちらを向いてくる。
キラの言う通り、とりあえず状況を共有しなければ前に進まないと思った俺は大きく息を吐き出しながら、まだ心の中に残っている怒りの感情を殺して声を上げていった。
「………今のアリエスは生きていて死んでいるような状態だ」
「そ、それはどういうことですか………?あ、アリエス様は本当に死んで………」
「ない。死んではいない。今、ベッドに寝かされているアリエスは呼吸も安定していて、その命自体は無事だ。だがみんなも感じている通り今のアリエスには………」
「気配がないわね。それに魂自体も無くなってる。それどころか力だって綺麗さっぱり消えてしまってるわ」
「………ああ。サシリの言う通り、今のアリエスにはアリエスになければいけないものが全てなくなっている。ベッドで寝ているアリエスはアリエスであってアリエスじゃない。いわば体だけ、その『存在』を収めておくはずの器しか残ってないんだ」
「………ということはアリエスは『この世界にアリエスという名で生きていた存在そのもの』を喰われたということなのか?」
「ああ。おそらくそれで間違いないだろう。存在っていう概念は気配や魔力、それを生み出している魂、果てにはその自我までも内包している大きな枠組みの一つだ。それが引き抜かれた人間は、器以外の全てを奪われたといっても過言じゃない状況に追い込まれる。生きていることは生きている。だがそれはもはや死んでいるのとなんら変わらない。………つまり今のアリエスは、アリエスを形作っていたものが全て奪われたという状況になっているんだ」
「そ、そんな………!?な、なんとかならないのですか!?私たちならともかく、ハク様の能力ならそんなアリエスを取り返す方法も………」
「まあ、待て、エリア。急がずともマスターは全てを語ってくれる。物事には順序があるはずだ。今この瞬間、ママスターが暴れ散らしていないところを見ると、当然アリエスを救い出す手段もすでに考えているのだろう。違うか、マスター?」
「………」
………さすがだな、キラは。俺やアリエスと一緒にいる時間が長いだけあって、俺が考えてることなんてすぐにわかってしまう。
だが今回は半分正解だ。
もちろん、あの場でも言ったように使徒からアリエスを取り返す手段はある。今すぐにでもやつの目の前に立てれば奪い返せるだろう。
しかし現実は違う。厄介なことに使徒は気配がない。ゆえに今やつがどこにいて、何をしているのか、それが俺でもつかめていないのだ。
記憶庫や事象の生成を使用してやつの位置を探ることもできなくはないが、おそらくそれはやつも想定済みだろう。何らかの策を講じている可能性が高い。
そのため、今回の一件は相手の場所をいかに世界核に探り出すかが鍵となってくるのだ。アリエスを取り返す手を持っていても、見当違いの場所に向かってタイムリミットの二十四時間を切ってしまえば、全ては泡沫に消えてしまう。
だからキラの読みは半分正解。今の俺でもアリエスを助け出せる可能性は百パーセントとは言い切れないからだ。
俺は自分の心を落ち着かせながらそう考えると、今自分が知り得ているあの使徒に関する情報を開陳していった。そうすることでみんなとの情報の共有をはかっていく。
「まあ、大方まとまりつつあるというのが正直なところだ。だがその前に一度、あの使徒に関する情報をまとめよう。みんなも感じたと思うがやつは俺たちが知っている使徒とは何かが違う。各々が感じた感想をまとめていこう」
「ならまずは私からいくわね。確か星神の使徒っていうのは背中についている羽の数でその強さと地位が決められていたはずよ。それを鑑みると今回の使徒の羽は全部で三十六枚だった。つまり今まで私たちが戦ってきた中では破格の強さを持ってるってことになるはずよ」
「だろうな。あの使徒は羽の数を見ずとも妾たちに匹敵する強さを持っていると本能が告げていた。それに加えてアリエスの力まで使えるとすると、厄介と言わざるを得ない」
「………ですが、確かあの戦いの後、使徒は全て消えたはずですよね?星神の力によって生かされていた彼女たちは星神の死によって消滅した。その事実だけは変わらないはずです」
「シラの言うことはもっともです。しかしあの姿はどこからどう見ても星神の使徒でした。最終的に容姿はアリエスとまったく同じものに変化していましたが、羽や天輪は私たちの記憶にある彼女たちと同じものです」
「であればやはりあの使徒はあの戦いの後なんらかの理由で、この世にとどまり続けていたと考えるのが妥当だな。俺は前に星域を調べたことがあるが、その時もあんな使徒はいなかった。となると、あの使徒は星域以外のどこかで生まれたんだろう」
星神の使徒はほぼ全てがザークの住処であった星域で作り出されていた。実際、俺が聖域を調べた時はその使徒たちと生成ちたであろう残骸が大量に転がっていたのだ。
だがそこにあの使徒の姿はなかった。
加えてあの使徒の力はすでに星神を超えている。自身を超える力を持つ部下を作り出そうなどとあの星神が考えるとは到底思えない。
ゆえに一つの推論が浮かび上がってくる。
「………ということはあの使徒は星神が作り出したものではないのか?」
と、考えるのが妥当、なのだが、俺はキラが提示したそれを即座に切り捨てていく。
「いや、それはあり得ない。あの使徒は星神が殺されたことに対する復讐を俺にしようとしていた。あの殺気は紛れもなく本物だ。だから俺はあの使徒は星神の予想をはるかに超える、『使徒のイレギュラー』だったんじゃないかと思うんだ」
「し、使徒のイレギュラー………?そ、それは私やキラと同じってこと………?で、でもイレギュラーって確か世界が危なくなった時に作り出される守護者みたいなものでしょ?なのにどうして世界を壊す使徒にそれが生み出されるの?」
「これはあくまで推論だけど、あの使徒は設計された段階じゃ、あそこまでの存在にはならないはずだったんだと思う。でも星神が死んで、全ての使徒が消滅して、そんなやつらの思いと願いが消えることなくあの使徒に集まった。だから使徒のイレギュラー。みんなもわかってると思うけど、新話大戦で放たれた使徒たちの量と力はそれこそ世界をもう一つ作り出させてしまうほどのものだった。だからそれが何かの突然変異的な現象で、あの使徒を生み出してしまったんだと思う」
「………となりますと、やはりこれ以上ないくらいに厄介な相手ですね。イレギュラーとしての力を持った使徒というのが強敵でないはずがありませんから」
「ならば、あのアリエスを飲み込んだ口のような力もそのイレギュラーとしての能力なのか?もしそうであればエリアが言うようにこれ以上ないほどの強敵に感じてしまうが」
「だろうな。おそらくあの力は飲み込んだ相手の存在を奪うというもの。そして自分の存在と混ぜ合わせることで完全な同化をはかる力。そんなところだろう。そして存在を奪われたアリエスが完全にあいつに取り込まれるまでの制限時間が………」
「二十四時間ということなんですね………」
俺の言葉を引き継いだシルがそう呟くと、またしてもこの部屋の中にくらい雰囲気が漂いはじめてしまった。それもそうだろう。あのアリエスがあのどうしようもなくにくい使徒と同化してしまうなんてことを聞かされているのだ。みんな平気でいられるはずがない。
かく言う俺もそろそろ限界だった。
いくら星神の使徒と言えど、あの程度のやつの接近を俺は気づけなかったのだ。つまりエリアが責任と感じるまえに、あの場でもっとも油断していたのは俺であると言わざるを得ない。
気配探知に頼りすぎていた弊害がこの事件を生んでしまった。ゆえにそんな自分への怒りとあの使徒への怒りが混ざり合って、俺の心の中に渦巻いていたのだ。
もしここに誰もいなければ俺はおそらく力を暴走させて暴れまわっていただろう。それほどまでにアリエスを奪われたと言う事実は俺を苦しめていた。
と、そこに、いつも以上に思考の切り替えが早いキラが気になることがあると言いたげな雰囲気を出しながら声をあげていった。そしてそれこそが俺が一番悩んでいる問題であった。
「で、結局のところアリエスを助け出すにしても、肝心の居場所がつかめていない。気配が探れない以上、その場所を探すのは至難の技だ。それに関してマスターはどうするつもりなのだ?」
「………それはお前が言ったように気配が感じられない以上、俺でも探れていないというのが現状だ。俺の力でそれを探ろうとしても、おそらくやつはそれを想定している」
「な、ならどうするのよ?ここで指をくわえて待てって言うつもり?」
「まさか。確かに能力でやつの場所を探ることはできないが、単純に予測することはできる。大分大きな賭けになるが、俺はあの場所にやつはいると思ってるんだ」
「そ、その場所とは一体………?」
俺の言葉にエリアが不安そうな、それでいて期待が混じっているような顔を向けながらそう呟いてきた。その声に俺はゆっくりと一つの結論を口に出していく。
そして。
その答えこそが、次なる戦いの舞台を示していくのだった。
「やつは間違いなく星神の使徒だ。仮にそうでなくとも星神を尊敬していることは間違いない。であれば、そんなやつが俺の首と同等に取り返したいと思っている場所。それがこの世界に一つだけ存在している」
「そ、それは、まさかっ!」
シルの声に俺は大きく頷いた。
そして。
その答えこそが、次なる戦いの舞台を示していくのだった。
「星域。かつて星神が己の根城として使っていた魔天使のだけの空間。そこにやつはいる」
おそらく気づいた方もいると思いますが、このお話は隻腕の救団の物語と似ています。ですが、あの時のハクと今のハクではその精神状態がかなり異なっているのです。それはまだアリエスに対する気持ちに迷いがあるからだと、私は考えて執筆しています。そのような視点でお読みなっていただけると、より一層楽しんでいただけると思います!
次回は星域にいる彼に視点を移します!
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の更新は明日の午後九時になります!




