第八十三話 エルヴィニア秘境巡り
今回はエルヴィニア秘境を練り歩きます!
では第八十三話です!
俺たちは起きてきたアリエスたちを加えて朝食をとる。
しかしその手つきはなにやらぎこちなく物凄く硬かった。
「うー、まだ昨日の筋肉痛が取れないよー。すっごく痛いし」
「そうね……。肩から上に腕が上がらないわ………」
「う、動けない………」
「さ、さすがにこれは効きますね………」
俺はその四人の表情を見て苦笑すると、そのまま手に持っていたお茶を啜る。まあ昨日あれだけ動いたのだから当然といえば当然なのだが、それにしてもルルンのダンスは慣れていないものには相当堪えるようでもはや後遺症レベルで痛みが襲って来ているようだ。
このような状態ではダンジョンどころか里の探検すら出来ないのではないだろうか……。
「あはは………。それじゃあ今日は一日休むか?別に明日でも明後日でも買い物や探検はできるだろ?」
「「「「それは嫌!」です!」です………!」です!」
うおわあ!
そんなに怒らなくてもいいだろうに……。
もう四人とも顔がガチなんですけど……。こういうときは、助けてキラ様!
と思い俺はキラの方向を向くのだが、そのキラは俺には目も合わせず、朝食にがっついていた。
「む?マスター話は後にしてくれ。今はこの旨い食べ物を食べておるのだ」
…………。
もう精霊女王の威厳の欠片もないですね……。
俺はそのメンバー達の態度を改めて確認すると、無理やり喉にパンを流し込んでいく。
その味は昨日のものとは変わっており、昨日はバターと塩の辛みが絶妙なパンだったのだが、今日はほんのりと砂糖が振りかかっており口の中を甘い味が包み込んでいる。
どちらかといえば俺は甘党なので、こういうパンは大好物だ。
俺はそのまま朝食を済ませると、机の上においてあったこの世界の情報誌の様なものを手に取った。
そこには、色々な魔物の情報や国の経済状況。また目立った冒険者やランク昇格のお知らせなどがズラッと並んでいた。
そこにはあのシルヴィニクス王国のことも書いてあり、なんでもシーナが国に攻め入ってきたオナミス帝国の兵士を壊滅させたのだとか。
張り切ってるなあ、シーナのやつ。
そのほかにも色々と情報が書いてあったのだが、そこで俺の目に留まったのは一つの大きな見出しだった。
そこには、「神核とダンジョンの関係性!」と大きくかかれていたのだ。
さすがにそこまで俺たちにタイムリーな話題が書かれていては見ないわけにもいかず、俺は次のページを開く。そこには細々とした字でこう書かれていた。
『われわれはついに神核という神々しいまでの存在に対面した。そこはオナミス帝国の奥深くに立地している第五ダンジョンの内部でだ。そのダンジョンはこれまでのダンジョンとは違い階層が二階層しかなくすぐさま神核と対面することが出来た。なんでもこのダンジョンは入り口を見つけること自体が困難なようで、偶然発見したわれわれはからりラッキーだったと言えるだろう。しかしその中で待っていたものは地獄だった。まったく光が差し込まない空間。足を踏み入れた瞬間、死を叩きつけられるような殺気。それは一瞬で私以外の仲間の命を奪い。血液だけを残し死んでいった。どのような者が仲間を殺したのか、というのは確認できなかった。本来このダンジョンは一階層しかないと思われており、われわれが入ったその階層は未到達領域だったのだ。しかし、その殺気からわれわれを襲ったのは神核だと私は判断する。そして注意を促しておこう。神核とはたやすく人間の命を奪ってしまう。それはものかつてのような人類の守護者ではない。もしかすればこれがダンジョンと神核のあるべき姿なのかもしれないのだ』
………。
俺はその記事を読み終えるとそっとその情報誌を閉じ、目を瞑りながら思考の渦に浸った。
今までの神核は俺を襲う過程で人を傷つけることはあっても、自ら率先して人を襲うことはなかった。それにそもそも神核の人類の守護者という特性は失われていない。
であればこの記事に書かれている第五神核は一体どういうことなのか。
ふーん、これはまた考えることが出てきたな………。
と、俺が一人で考えていると、朝食を食べ終わったアリエスたちがいつの間にか席を立ち俺の隣にやってきていた。
「ほら、ハクにぃ!そろそろ行こう!早くしないと、全部回れないんだから!」
アリエスが俺の前に顔を寄せそう呟いてくる。
うーん、いつ見てもアリエスは可愛いな。いっそこのまま抱きしめようか。
『こら変態主様。そのようなことをすると私とキラが容赦せんぞ!』
おっと、それは冗談では済みそうにないな。
俺はしぶしぶその考えを捨てると、椅子から立ち上がり玄関へ向かう。
「そうだな。ハルカ、それじゃあ少し出てくるよ。今日はダンジョンに行くつもりはないから、できるだけ早めに帰るよ」
「はい、わかりました。お気をつけて」
俺はハルカにそう言うとアリエスたちを引き連れて屋敷の門を潜った。
そこはいまだに熱波を放つ灼熱の太陽と澄み渡る青空が顔を覗かせており、俺の心をくすぐった。
「ねえ、ハクにぃ!これ食べたい!」
「私はこれがいいですハク様!」
「私はこれで……お願いします」
「では私はこれで!」
「マスター、妾はこれだ」
というわけで俺たちはこのエルヴィニア秘境の商店街らしきところにきているのだが、そこは昨日と打って変わって人の量がとてつもなく多かった。
まあ七割がたエルフたちなのだが、それでも人族を筆頭にハーフエルフや魔族、竜人族なんかも混ざっている。
竜人族。
これは第二神核が言っていたように第二神核を祖とする種族で、なんでも普段は人の姿で過ごし戦闘時になったら竜の姿になるのだとか。第二神核のやつはそれが逆だったが年代を重ねるごとに竜人族は環境に合わせて進化したらしい。
とはいえ他の種族に比べて強力なのは事実であり、噂であれば吸血鬼とも互角に戦えることもあるのだという。
まあそんな色々な種族がいる中に俺たちもいるわけだが、そこでは案の定女子会の様な雰囲気が広がり、俺は完全にお財布管理と荷物持ちの担当になっていた。
一応、大量のワイバーンと第二神核を倒したことによって莫大な褒賞金が俺の手元にはあるのだが、それでもお金は大切にする主義なので、あまり使おうとは思っていなかったのだが。
結局はこうですよ。どんどん俺の蔵からお金が飛んでいくんですよ。
アリエスたちはお金のことなどまったく気にせず商店街を練り歩き、文字通り爆買いしているのである。
まあ食べ物に関してはわからなくもないよ。俺だって食べたいしね。
でも、でもですよ!さすがに服とかアクセサリーの類は買いすぎじゃありませんかね!?実際それを口にしてみたのだが、その瞬間みんなの顔がいきなり険しくなり、ダメなの?という視線を放ってきたので俺はしぶしぶ引き下がったのである。
というわけで今はもう何件目かわからない出店の前でカステラまがいのものを買おうとしているわけだが、なにやらこれは味がそれぞれ選べるらしく、アリエスたちは各々その店主と俺に注文を出していた。
「はい、まいどあり!お兄ちゃんはどれにする?」
「え、えーとじゃあ、この一番普通の奴で………」
「はいよ!それじゃあ全部で三千五百キラだ」
俺は言われた金額を素直に差し出す。
それと同時にそのカステラまがいのものがアリエスたちに手渡された。それを受け取ったメンバーはそれぞれ嬉しそうな表情を浮かべており、一気に毒を抜かれてしまった。
はあ………。俺って甘いのかな……。
そう思いながら自分もそのカステラを口の中に入れつつ、アリエスたちについていく。
今度はガラス細工アクセサリーの店のようで、女子受けしそうなものがズラッと並んでいた。さすがに俺一人店の前に佇んでいるわけにもいかないので俺もその中に入る。
どこの店もそうだが氷魔術で空調が効いており、外の暑さを打ち消すようにひんやりとした空気が流れていた。
「ねえ、ねえキラ、これ見て!キラにはこういうのが似合うと思うの!」
「むう、しかし少し派手でではないか?それにそれなら妾よりアリエスのほうが似合いそうだ」
「シル!なにそれ!すっごく可愛いわよ!」
「姉さん……はしゃぎすぎです……」
「むーん、ハク様を誘惑するにはどのようなものがいいのかしら………。迷いますね」
とメンバー達はそれぞれ楽しんでいるようでその顔には笑顔がずっと浮かんでいる。ちなみにクビロはと言うとアリエスの後ろ首に捕まるようにして巻きついていたりする。
かくいう俺はさすがに女装趣味はないので手には取らず眺めているだけなのだが、そこで不意に目が止まったものがあった。
「これは………」
俺の目の前にあったそれは水色の輝くガラスが埋め込まれている少々大きめのペンダントだった。俺はそのペンダントを手に取り観察してみる。その大きなガラスの周りには金色の金属が囲んでおり、ガラスを上手く引き立てている構造になっていた。
俺はそのペンダントを左手に持ちながら右手を蔵の中に突っ込み、とあるものを取り出す。
それは今俺が見つけたペンダントと、うり二つのペンダントだった。
このペンダントはかつてアリスが身に着けていたものであり、真話大戦の最後に譲り受けたものである。とはいえ中央に埋まっているのはガラスではなく正体不明の鉱石なので重さは明らかに違うのだが、ここまで同じ外観をしていると、さすがに惹かれてしまう。
俺はアリスのペンダントをしまうとそのペンダントをもう一度まじまじと観察してみた。
するとそこにその店の店員さんがやってきて声をかけてきた。
「彼女さんへのプレゼントですか?」
「え?いやいや、まさか。俺は彼女なんていませんし……」
「あら、ではあちらの方々は?」
「あれはパーティーメンバーです。特段そのような関係ではないですよ」
「でしたら何故それを?」
「そうですね………。一言で言えば懐かしかったというところです。知り合いが持っているものとそっくりでしたので」
「そうでしたか。ではお買いになりますか?」
「ええ、お願いします」
男がこのようなものを彼女のプレゼントでもないのに買うのは少々気が引けたが、これも何かの縁だろうと思い俺はそのペンダントを購入することにした。
見ればアリエスたちも好きなのものを選び終わって会計の準備をしている。
実はこのお店とてつもなく高額なものばかり置いていたのだが、まあそれは仕方ないか、と無理やり暗示を自分にかけ納得させたのだった。
日も沈み始め、そろそろ帰ろうかと思い、俺たちはハルカの屋敷に足を進ませていた。
大量に買った物は俺の蔵の中に収納されているので全員手ぶらの状態でエルヴィニアに里を歩く。
丁度第三ダンジョンの前に差し掛かったところで、アリエスがなにやら声をあげた。
「昨日から思ってたんだけど、このお墓みたいなのなにかな?」
「ん?」
俺はそう言われてアリエスが指差している方向を見た。
そこには苔で覆われている石碑のようなものが立っており、文字が掘り込まれているようだが掠れてしまって読むことが出来ない。
「うーん、なんでしょうね。お墓にしては形状が違いますし少し大きいです………」
エリアがそう頭を悩ませ、首を傾ける。
「キラ、何かわからないか?」
「むう、このようなものは精霊が住んでいた昔の住処に大量にあったからな、妾では区別がつかん」
キラでもわからないとなると、それはかなり不思議なものだ。このエルヴィニアにありながらあまり清掃されていないところを見ると、一応壊さずに置いてあるもののエルフの人達はあまり気にしていないらしい。
俺はその石碑に近寄って軽く触れてみようとする。
しかし次の瞬間、俺のローブの中に入っていた二つの宝玉が光りだした。
「な、なんだ!?」
それは第一、第二神核が鍵となった宝玉でありそれぞれ赤と紫に光り輝いている。
その宝玉の光は目の前にある石碑を照らし出し、すぐさま事象を呼び起こす。
グゴゴゴゴゴゴゴという音と共に石碑が置かれていた床が動き出し、地下への階段のようなものを出現させた。
「こ、これは………」
俺たちは目の前で起きた出来事をまじまじと見つめただ呆然と立ち尽くすのだった。
次回は突如出現した地下への入り口の内部に潜入します!
誤字、脱字がありましたお教えください!