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神と愛の祝福、五

今回はアリエスに焦点を当てます!

ではどうぞ!

「そっか………。そんなことがあったんだね」


「うん。ご、ごめんね?いきなり押しかけちゃって………。わ、私今ちょっと動転してて、どうすればいいかわからなくなっちゃったから………」


「だから誰もいない、それこそハクさんだって干渉してこない私たちのところにきたんだね。でも、大丈夫。私たちはいつだってアリエスを歓迎するよ。まあ、アリエスのお屋敷みたいに豪華なお家じゃないけどね」


 ユノアはそういうと、私にも差し出してくれた紅茶に口をつけ、それを喉の奥に流し込んでいった。対する私はその紅茶にすら手をつけられず、ただその液面を眺め続けている。

 私がやってきたのは、ルモス村から遠く、遠く離れた、それこそ秘境と呼ばれていてもおかしくなさそうな場所。そこは自然が微笑むようにあふれており、黄色い花々がたくさん咲き乱れている。

 そんな中にひっそりと一つのお家が建てられていた。決して豪華な装飾がなされているわけでもなく、石や鉄で作られているわけでもない。近くに生えている木々を切り倒して作られた木造住宅がそこにはたっている。

 そこに住んでいるのが二年前の戦いから無事に生還し、めでたく結婚したユノアとレントだ。今では二人の間に可愛い双子の兄妹ができており、この場から席を外しているレントが今はその二人の世話をしている。

 で。

 どうしてそんなレントにわざわざ席を外してもらわなければならなかったかと言うと、それは単に私が暗い表情を引っさげてこの場にきてしまったからだ。

 私としてはこの場にレントがいても何ら問題はなかったのだが、何かを悟ったユノアが気を遣って二人きりにしてくれたのだ。ユノア曰く「そういう話は女の子どうしてしたほうがいいと思うから」とのこと。

 正直言ってその気遣いは本当に嬉しかった。心が冷えきっている私にとって少しでも優しくしてくれる人は誰であっても心を支える力をくれる。

 だから私はユノアに今まであったことを全て話した。私が焦って縁談を開いたこと。その場にハクにぃが姿を現さなかったこと。その全ての顛末を事細かに私はユノアに打ち明けた。

 ユノアはその話を黙って聞き、時折相槌を返しながら頷いてくれる。そして最後に「そっか………。そんなことがあったんだね」と言葉を漏らした。

 私が初めて会った時のユノアは何と言うかこう、もっとか弱い感じだったのだが、今のユノアは正反対。どこから見ても、何を話しても、私よりも大きな世界を見ているのだと感じてしまった。

 ゆえに私は自分からこの会話を続けることができなかった。また、私は誰かに助けられることを望んでしまったのだ。

 今のユノアなら私を導いてくれる。これからどうすればいいか、それを教えてくれる。そんな甘い考えが私の口を閉ざしてしまったのだ。

 と、そこに。

 ユノアはゆっくりと口を開きながら突然こんなことを呟いてきた。


「ねえ、アリエス。アリエスにとってハクさんって一体どんな人なの?」


「………え?ど、どんなってそれは………」


「それは?」


「す、好きな人だよ!世界で一番!」


「うんうん、なるほどなるほど。前々からアリエスはハクさんのことが好きだって公言してたし、その言葉に嘘は感じられない。だからアリエスは間違ったことは言ってないよ。でも私が聞きたいのはそういうことじゃないの」


「ど、どういう意味………?」


「私が聞きたいのはもっと内面的なこと。うーんと、それじゃあ質問を変えよっかな。アリエスは、ハクさんのどんなところに惹かれて好きになったの?」


 また、どんなって言われても、そんなの決まってる。ハクにぃは私にとって………。

 私に、とって………。

 とって?

 あ、あれ、なんでだろう………。すぐに言葉が出てこない。

 こ、こんなにハクにぃのことが好きなのに、咄嗟に反応できない。ど、どうして………?


「答えられないの?」


「へっ!?い、いや、違う違うっ!えっと、ハクにぃは、強くて頼もしくて、いつも助けてくれて、それで………」


「うん。それは私も知ってる。でも他にもあるよね?アリエスだけが知ってるハクさんのいいところ。それを聞かせてほしいな?」


 わ、私だけが知ってるハクにぃのいいところ………?

 そ、そんなのあったっけ………?わ、わからない、わからないわからない、わからない………。

 いっぱいあるはずだ。ハクにぃを好きになった理由なんて。でもそれはみんなの好意を自然と集めてしまうハクにぃの姿だ。そこに私だけなんて言葉はついてこない。

 だから私はユノアの言葉に何一つ反応を返せなかった。額には大粒の汗が滲んで、呼吸も少しだけ荒くなってしまう。

 するとユノアは軽く微笑んで首をかしげると優しい声でこう呟いてきた。


「うふふ、ごめんね、アリエス。少し意地悪な質問しちゃったね」


「え………?」


「でもこれでわかったよ。今のアリエスは私の質問に答えられないくらい混乱してる。だからこれからのことを考える前に一度思考を整理する必要があるみたい。焦らなくていいよ。時間はたっぷりあるから。私はずっとここにいるし、レントだって外で待ってる。だからゆっくり、時間をかけて思い出して?アリエスとハクさんだけの思い出を」


 そう言ったユノアはゆっくりと目を閉じると本当に何も喋らなくなってしまい、ただただ静かな時間が流れ出していった。

 その状況に私は驚きを隠せなかったのだが、結局このままでは何も進まないと判断し、ユノアの言う通り自分の思考を整理しながらハクにぃが刻まれている自分の記憶を掘り返していった。

 そしてそれと同時に、私は完全に時間から切り離され、当時の環境が頭の中に再現されていく。その光景に私は意識を全て落としていった。











 ………初めは恋愛感情なんてなかった。

 あったのは憧れ、ただそれだけだ。

 盗賊から私を救い出してくれたハクにぃは当時の私にとってヒーロー同然の存在だった。ちまたで噂になっていたSSSランク冒険者の人たちよりもずっと格好よく見えたのだ。

 だがその時点では私の中に恋愛感情は生まれていない。むしろ利用しようとすら考えていた。あの時の私はバリマ公爵から無理矢理婚約を迫られていた。ゆえにこの人がいれば私はバリマ公爵と結婚しなくても済むかもしれない。この人にはそれを叶えるだけの力がある。だったら私のすべきことは………。

 ひどい話だが、そんなことを当時は考えていた気がする。

 そしてその結果、子供ながらにハクにぃに思いをぶつけ、なんとかバリマ公爵の婚約は破棄された。泣いて、泣いて、泣いて、最後に頼った。

 全て私の思っていた通りに動いたのだ。明確な意思でハクにぃを利用しようとは思っていなかったが、それでもその力と行動力に頼っていたのは事実だ。それは否定しない。

 言ってしまえば最低だ。

 最低な女だ。

 まだ小さいから、女の子だから。だからハクにぃは私を守ってくれる。ハクにぃは私のヒーローなのだ。そう思っていた。

 だから私はハクにぃの旅についていくことにした。すでにそのときにはシラ姉とシルもパーティーに加わっており、家族との別れを惜しみながらも四人で和気藹々と村を出たのを覚えている。

 だが。

 その先は私の認識が一気に崩れ落ちていった。

 ハクにぃは別に私だから助けてくれたわけではなかったのだ。その証拠にキラやエリア姉、ルルン姉、サシリ姉にアリス姉。そのみんながハクにぃに助けられていた。その生い立ちはみんなバラバラでも結局、最後はハクにぃが手を伸ばし、助け出す。

 そんな景色を私はパーティーの中で見せられ続けた。

 それからだろう。私は徐々に焦っていった。自分だけのヒーローだと思っていたハクにぃがどんどん遠くなっていくように感じ、私じゃない他の女の人に取られるんじゃないかと思うようになっていったのだ。

 現にエリア姉やキラはそういう行動に積極的だったし、アリス姉に関しては私よりも前から知り合いだったという事実まで明らかになった。

 そんな時。

 いや、正確にはアリス姉に出会う前から。

 私は少しずつハクにぃのことが「好き」なのだと自覚し始めていった。もちろん最初は「好き」といっても尊敬的な部分が多かったはずだ。私はハクにぃに頼られたいがために魔術も勉強して、剣も持って、力をつけた。それはハクにぃに背中を預けてもらえるようにという意味合いが大きかったと思う。

 でも、それは次第に変わっていった。

 明確に変化したのは間違いなくアリス姉がハクにぃの前に現れたときだ。あの時、私は自分にとても似ている顔を持っているアリス姉の存在に困惑した。

 そしてこう考えてしまった。

 ハクにぃが私に優しくしてくれたのは、私がアリス姉に似ているからなのだと。

 だっておかしいのだ。容姿で見ればエリア姉が、スタイルで言えばルルン姉が、力で言えばキラとサシリ姉が、家事などの女子力で言えばシラ姉とシルが。ハクにぃを惹きつける魅力を持っていた。

 であれば私には何が残るのか。

 否、何も残らない。

 容姿も、スタイルも、力も、女子力も何もかもみんなに勝てるものがない。だから私はアリス姉が現れた瞬間、ハクにぃをひどく恨んだ。所詮私はアリス姉の代わりだったのだと、今まで優しくしてくれていたのは、アリス姉と私を重ね合わせていたからなのだろうと、そう考えてしまったのだ。

 しかし。

 それをハクにぃは否定した、まっすぐ、私の心を貫くような瞳で。

 それからだ、明確に私がハクにぃに恋を抱くようになったのは。

 でも、その恋は一度終わりを迎えてしまう。星神との戦いを終えたハクにぃは三年間この世界に姿を現さなかった。その理由はわかっていたが、結局私たちにはどうすることもできなかった。

 だから私は誰とも結婚せず、ハクにぃは見守ってくれるこの世界で、一人で生きていこうと決心した。

 なのだが、それは嬉しくも破られハクにぃはめでたくこの世界に帰還した。

 泣いた、泣いたとも。こんなにも嬉しいことがあるものかと私は泣き喚いた。そしてこう思ったのだ。

 もう二度と離れたくない、と。

 それからの私は極めて積極的になった。ハクにぃに告白するなんて毎日の日課のようになってしまい、多少うざがられてもアタックはやめなかった。

 だが、知っての通り、ハクにぃは毎回毎回その答えを濁し続けた。理由は今もわかっていない。加えて、同時期にユノアやシラ姉が結婚するという事態が発生してしまった。

 ゆえにまたしても私は焦った。しかも今度はできることは全てやった上で焦っていたのだ。手は尽くした、だといういのにハクにぃは振り向いてくれない。

 そんな時間が長く続いてしまった結果がこれである。

 縁談でハクにぃを振り向かせようという作戦は見事に失敗し、もはや家にも来てくれなくなってしまった。何やら今回はハクにぃにも事情があったようだが、それでも避けているのは間違いないだろう。でなければあの場で屋敷の前まで来ていて帰るのはおかしい。

 そこまで思い出した瞬間、途端に悲しくなった。

 ああ、やっぱり自分は何かをどこかで間違えたのだ、そんな後悔が心を支配していく。

 だが同時に、頭の中にはいつだって笑いかけてくれるハクにぃの顔が浮かんでしまう。

 あの人の、ハクにぃの隣に立ちたい。ずっと、ずっと一緒に生きていたい。そう思ったからこそ、私はハクにぃのことを好きになったのだ。

 初めは憧れで、嫉妬にまみれて、打算だけで近づいたかもしれない。

 でも今は、断言できる。この世界で私が一番ハクにぃのことを愛していると。

 重いと言われるかもしれない。でも、もう私にとって自分の人生を捧げられる相手などハクにぃ以外にいないと私は確信していた。

 でも結局のところ、これは私の気持ちでしかない。もしハクにぃがそれを拒むなら、その事実を私は受け入れなければいけないのだ。

 子供だから我儘は許される。お母さんはそういった。でも誰かと結婚するということはもう子供ではなくなってしまうということだ。

 ゆえにこの我儘は通用しない。誰も聞いてくれない。耳を傾けてくれない。

 でも。

 でも。


 でもっ!


 それでも私は………。












「………ああ。な、なんだ、すごく簡単なことだったね………。私だけが知ってるハクにぃのいいところなんて必要ない。だって私の中に、私の記憶に残ってるハクにぃとの思い出は私だけのものなんだもん。それを拒否されても、跳ね除けられても、私はもう………」


 涙がこぼれ落ちていく。

 その雫は私の服を少しずつ濡らしていき、しみを作っていった。だがそんなことにすら気がつかない私は、そのまま濡れた頬をぬぐいながら最後にこう吐き出していった。




「理由なんていらないくらいハクにぃが好きなんだ………!」




 一度恋に落ちてしまえば、その人のことしか考えられなくなる。

 それは必然。

 何かに取り憑かれたように、何かに急かされるように、何かの使命のようにハクにぃを求めていた私は今この瞬間、消えた。

 そこにいるのは純粋に思いびとを求める一人の少女。

 涙に濡れた、どこにでもいる恋する少女だった。


 そしてそんな私を見ていたユノアは一言。


「うん。やっと、やっと辿り着いたね、アリエス。頑張った、頑張ったよ。えらいね」


 その言葉にはとても、とてもたくさんの意味が込められている。

 それがわかったからこそ、私は嗚咽を漏らしながらゆっくりと涙を流していったのだった。




 だが、そんな私の背後に予想すらできない悲劇が迫っていることにまだ誰も気がついていないのだった。


うーん、少々話を重くしすぎた気がしますね(笑)

ですが今の今までハクの視点でしか描かれなかったハクとアリエスの関係が明らかになった回でした。うん?アリエスの気持ちが重たすぎるって?それは気のせいです。だって恋する乙女はそういうものですから!(何を言ってるんだ、私は)

というわけで次回はもう少しだけユノアとアリエスの会話が続きます!そして物語は不穏な方向へ………。

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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