神と愛の祝福、一
今回からハクとアリエスの番外編を少しだけ投稿します!
ではどうぞ!
………。
なんというか、この話をするのはやはり気恥ずかしい。
顔から火が出そうになるというか、体が熱くてたまらないというか、うん、まあ、そんな感じだ。
時間は少しだけ遡る。
始中世界で言えば少し前。俺からすれば一年前、アリエスからすれば十六年前。ユノアの一件から二年後。
まあつまり隻腕の救団の事件より数ヶ月前の出来事だ。
ユノアとレントが結婚し、二人の家も無事に見つかった後。
そこではそれなりに大きな出来事が起きていた。今の今までそれを説明してこなかったのは、単純に話すタイミングがなかったのと、やはり恥ずかしいからだ。
………。
うん、ここまで言うとなんとなくわかるかもしれないな。
まあ、なんというか、その、端的に言えば………。
俺とアリエスが結婚する、そんなお話だ。
「ふ、ふふふ、うふふふ………!」
「おい、アリエス。女として見ていられないほど気持ちの悪い笑みを浮かべているが、色々と大丈夫なのか?一応お前は公爵令嬢だろ?」
「うふふ、うふふふふふ………!完璧だよ、完璧。これで全部準備は整った………。だからあとは明日を待つだけ!!!」
「聞いていないな、こいつ………」
「大丈夫だよ、キラ。というかオールオッケー。これ以上ないくらい順調だよ。ほら、これ見て!」
「………いや、見なくても大体のことはわかっている。だが、だからこそなのだ。本当にそんなことをして問題ないのか?これはかなりの博打だぞ?」
アリエスの言葉にそう返したキラは大きなソファーに座りながら足を組んでアリエスが差し出してきた神を睨みつけていた。そこには大量の名前とそれに関する情報が書かれており、頭がクラクラしてしまうほどの文字が羅列している。趣味が物書きであるはずのキラでさえ、この光景にはめまいを覚えてしまうほどだ。
だというのに、この状況を前にしても当事者であるアリエスは目を輝かせていた。キラとしてはそんなアリエスに疑問しか抱けないのだが、それでも一応自分の主人であるアリエスに気を遣っていく。
「それにこれは十中八九世界を混乱させる。新話大戦の件もあるが、二年前にはユノアたちの解決してしまっているのだ。その渦中にいたお前が、こんなことをいきなり開催するなんて宣言したら、本当に大変なことになるぞ?」
「うん、わかってるよ。でももう遅いよ。ハクにぃは私にこの手札を切らせたの。そうなるまでハクにぃはまったく動かなかった。だから、だから!もう私には、この手段しか思いつかない!」
「い、いや、その気持ちもわかるが………。下手をするとマスターから軽い女だと思われるかもしれんのだぞ?さすがにそうなってしまうと、本当に引き返せなくなってしまう。お前は本当にそれでいいのか?」
「よくない!」
「それは断言するのだな………。うん、そうか。………っていやいや!だったらどうしてこんな手段を取る!?もっとやり方はあるだろう!」
「だって!もう何をしても、どれだけ押してもハクにぃは私を見てくれないんだもん!だったら、押すんじゃなくて引かなくちゃ!」
「どこの恋愛本を読んだらそんな思考に至るんだ………。それに巻き込まれる奴らの気持ちも考えてみろ。振られると決まっていて遠路はるばるここまでやってくるやつらの気持ちはどうなる?責任取れるのか?」
「取れない!」
「だああああー!?そこは断言するなっ!どうせまたエリアの力を借りてもみ消そうとしているんだろう!知ってるぞ、お前がエリアにこのことを手紙で伝えていたことは!」
キラはそう吐き出すと目くじらを立てながらアリエスの両肩を掴んでその体を揺らしていく。しかしアリエスは逆にキラの手を掴み取って握り返しながらこう呟いていった。
「………だって、だってぇ。ユノアも結婚しちゃうし、シラ姉だって………。私だけ置いていかれてるみたいで不安なの………。それにこんなにアタックしてもハクにぃは振り向いてくれない、だから焦っちゃって………。私ってそんなに魅力ないのかなって思ったりして………。何考えても最近暗いことばっかり考えちゃうの」
「………アリエス」
「だから、これに賭けるの!これでダメならもう諦める………。そうなったら多分、私はハクにぃには必要ない存在だったんだろうから」
「………ッンンー、ぐぐっ!」
その言葉にキラは自分の髪を自分でかきむしりながら一度アリエスから視線を外した。そして床を足で何度か踏みつけると、ゆっくりとアリエスに視線を戻してこう吐き出してくる。
「………今回だけだ」
「え?」
「こんな関係のない人間を巻き込んだ我儘を聞いてやるのは今回だけだと言ってるのだ!今回がお前にとって一世一代の大勝負なのだろう?であれば主人の意見は尊重すべきだ。それが聖霊というものだからな。だからお前の行動によって生まれた全ての責任は妾が引き受ける。なんとしておこう」
「キラっ!」
「だがっ!二度はない。己だけが責任を負う我儘であればいくらでも聞いてやるが、このようなことは二度と聞かない。引き受けない。それで納得しろ!」
「うん、うん!ありがとう、キラ!それじゃあ、私早速明日の準備してくるね!」
「ああ」
アリエスはそう言うと笑顔を振りまきながら部屋から出ていった。大方明日着る衣装の調整だったり、メイクの準備だろう。そう結論づけたキラは一人部屋の中でため息を吐き出していった。そして心の中でこんなことを考えていく。
(とはいえ、妙な話ではある。ユノアの件から二年。いや、それよりも前からアリエスはマスターに好意をぶつけていた。そしてマスターもまんざらでもない様子。だというのにマスターは頷かなかった。今に至るまで一度も。あのマスターがここまで答えを濁し続ける理由はなんなのだ?………リアか?アリスか?それともマスターの世界にアリエスよりも大切な存在がいるというのか?………一体何を考えているのだ、マスターは)
そしてキラは若干の怒りを滲ませながら、最後にこう吐き出した。
「だがまあ、ここまでアリエスを待たせたのだ。少しばかりの制裁はくわえさせてもらうぞ、マスター?」
これがことの始まり。
アリエスとキラが企てた恋愛大作戦。
それが全ての始まりだった。
だがそれは少しだけ想定外の方向に進んでしまう。
やはりこの世界は何事も一筋縄ではいかないようだ。
「………ああ、ああ、わかった。そんな感じで頼む。一応明日そっちに顔は出すだろうから、その時にもう一回確認するよ。………え?もう伝えたのかって?馬鹿か、お前は。それを伝えたら何の意味もないだろう。………ああ、よろしく頼む。じゃあな」
俺はそう言うと、定期的に連絡しているリアとの念話を切った。
リアは現在、俺と別れてかつて住んでいた神々の住処の中で生活している。何やら今までサボってきた仕事が山積みらしく、神妃の称号を失ってもなお忙しそうにしていた。
まあ、今回はそんなリアに少々用事があって連絡を取ったのだが、それも順調らしいので、俺はとりあえず安心していた。
ってなわけで現在。
俺はテンジカの上で寝っ転がりながら優雅に日向ぼっこを楽しんでいる。体に当たる日差しは暖かく、心地い。かなり高度が高いがそこは能力で気圧や空気の濃度をコントロールしているので、最高のコンディションと言える空間がそこにはあった。
今日は特に冒険者としての仕事もなく、現実席にも戻るつもりはなかったので久しぶりの休暇というやつを楽しむことにしたのだ。修行や鍛錬もいいのだが、たまにはこうしてのんびり休暇を過ごすのも悪くないだろうと俺は考えたのだ。
空を見ていると落ち着く。
だから俺はテンジカを引っ張り出してその上で寝ている。
いつ見てもこの世界の空は綺麗だ。初めてこの世界に来た時と何も変わってない。青くて遠くて、どこまでも広い、そんな空。見ているだけで眠気がやってきて雲に包まれているような感覚が押し寄せてくる。
ゆえに今日の俺は気分がよかった。このまま眠りについて夜を迎える頃になったら起きる。そしてまた明日がやってくる。たったそれだけの一日。そんな時間を過ごすことができるのだから、これ以上に幸せなことなんてない。
そう思っていた。
やつがこの場にやってくまでは。
「ふう………。本当に気持ちいいな。あと数分もすれば完全に寝ちまうだろう。それまでゆっくり空を眺めて………」
「………ッ!」
ん?
今、何か聞こえなかったか?
「ハ……様ッ!」
いやいや、さすがに気のせいだろ。なんていってもここは雲より高い場所だぞ?そんなところに誰かやってくるなんて常識的に考えて不可能な話………。
と、呑気に考えていた瞬間。
それは。
やってきた。
「ハク様ぁぁああああああああああああ!!!」
「ぐほぉあわあぁ!?」
腰が飛んだ。
俺が寝ていたテンジカごと腰を吹き飛ばすように、何かがぶつかってきた。それは俺の腰を一瞬で砕き、仰向けに寝ていた俺の体を数百メートル上に吹き飛ばしていく。
い、い、いってええええええええええええ!?
な、なんだ、なにが起きたんだ!?魔物か?爆弾か?それともテロか?一体何が俺を吹き飛ばしたんだ!?
俺は心のなかでそう叫びながら砕けた腰をさすってなんとか態勢を整えていく。砕けたといっても別に骨が折れたというわけではないので、治癒の必要はないのだが、それでも痛いものは痛い。ゆえに俺に突撃してきた犯人、ないし物がわかり次第それなりに制裁を加えようかと思っていたのだが。
そこで俺は俺と同じように空中に浮かんでいる一人の人間を発見した。その人間水色の髪を持ち、豪華なドレスに身をまとった一人の女性だった。
で、それが俺の知らない人物ならまだよかたのだが、案の定そうはならず………。
「え、エリア!?なんでお前はここに!?というか、何人の腰に突撃してきてるんだ!」
「ハク様、ハク様あああああ!!!」
「うわあああああっ!?」
まずい。
と思ったときにはもう遅かった。
思考が働く前に俺の目の前にはその女性の腕が広がってしまう。そして同時に花を突き抜けるようなバラの匂いが漂い、柔らかいものが俺の胸に押し当てられてきた。
「ああぁ!ハク様、ハク様!今日も以前と変わらず格好いいです!どうか、どうか!このエリアを抱いてください!」
「だああああっ!いきなり抱きつくなよ!と、というかその、色々当たって………」
「あら、それは故意に当ててるんですよ?気づきませんでしたか?」
「………こ、この………いい加減にしろ!」
「あうっ!?」
鉄拳制裁。こいつを引き離すにはこれしかない。それは今までの経験から知っていることだ。目の色をピンクに変えて俺に突撃してくるエリアは何を言っても聞いてくれない。となれば一定の痛みを持って正気に戻すしか手段はないのだ。
そのためわりと強めに振り下ろされた俺の拳はエリアの頭を揺らし、一瞬だけその意識を途絶えさせた。すると何やらむすっとした表情のエリアが頭を抑えながらこちらに視線を投げてきた。
「ううぅ、ひどいです。女の子に手をあげるなんて。いくらハク様でもそれは許されませんよ?」
「一国の王女が年頃の男にいきなり抱きついてくるほうが事案だと思うけどな………」
「ああんっ。それを言われると返す言葉がありません………。まあ、これは毎度恒例のスキンシップみたいなものですので、辞めるつもりはありませんので、ご安心ください」
「安心できねえよ!」
「………とまあ、すっかり空気も和んだところで」
喚く俺をエリアは置いていくようにそう呟くと、吹き飛ばされていたテンジカを呼び寄せてその上に飛び乗っていった。そしてその上に俺を座るように誘導すると、何やら神妙な顔つきでこんなことを言い出してきた。
「ささ、ハク様。立ち話もなんですから一度お座りになってはいかがですか?今回はふざけられるお話にはなりそうにありませんので」
「座るも何も、お前が突撃してくるまで俺はそこに寝てたんだけどな………。んで、なんななんだよ、その話ってのは。確かお前は今シルヴィニクスに戻ってるはずだろう?王女の仕事を放り出して俺に会いにくるってのはただごとじゃないように思えるんだが………」
「ええ、ただごとじゃありません。ですが何の巡り合わせか、これは私の公務中に知ったことなのです。何が目的かは………ああ、いえ、これは火を見るよりも明らかです。忘れてください」
「は?」
「とにかく、信じられない情報が入ってきたんです。今日はそれをハク様にお伝えしようと思ってここにやってきました」
は、はあ、なるほど………。
つまりエリアはどしても俺に伝えたいことがあってこの場にやってきたってことだよな?
そうなるとまた新手の魔物が現れたとか、国家間の問題とか、事件の香りがしそうなのだが、俺はその予想を自分の中にとどめて最後までエリアの話を聞くことにした。
だが。
そこで俺は自分の耳を疑った。
なぜならエリアが語ったそれは俺の想像をはるかに超える出来事だったからだ。
「ハク様、よく聞いてください。今日、フィルファ家の息女アリエス=フィルファが婚約者を選ぶ縁談を開いています。それもこの世界中から希望者を募って。ハク様ならこれが何を意味しているのか、お分かりになりますよね?」
その瞬間、俺の思考は雷に打たれたかのように固まってしまった。
今までうやむやにしてきていた二人の結婚エピソードこれから紡いでいきます!
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の更新は明日の午後九時になります!




