続・エピローグ
今回は続・エピローグになります!
こちらは次に始まるお話のエピローグに続くお話です1
「いってきます」
誰もいない家を私はそう言ってあとにする。鍵をしっかりかけて、かじかむ手に手袋をはめていった。そして十センチほど積もった雪の上に足を置いてそのまま歩き始める。
気温はおそらく一度か二度。吐く息が全て白く染まっていかにこの空間に漂っている空気が冷えているのかを私に伝えてくる。
本当ならこんな日は家にこもってコタツの中で寝ていたいのだが、そんなことをしている日ではないというのが現在だ。
一世一代。いや、さすがにそれは言い過ぎか。まあ、それなりに大切な日。この日によって人生が左右されると言っても過言ではない、そんな一日。
そんな一日が今、始まろうとしていた。
私はそんなことを考えながら昨晩、無理矢理頭に叩きこんだ知識を脳内で復唱して近くのバス停に向かった。この道はそれなりに車の行き来があるので五分ほど待てばすぐにバスがくるはずだ。まあ、雪が降っているので大幅に遅れる可能性は否定できないが。
と、思ってると、案の定そのバスは定刻通りに姿を現した。その中には私と同じ制服を身にまとった生徒が十人ほど乗っており、かなりの人口密度の空間が広がっていた。
数ヶ月前の私ならその光景を見ただけで怖気づいていたのだが、今は奥歯を強く噛むことで乗り越えられる。ゆえに電子マネーが記録されたカードを手に持ちながらバスの中に侵入していく。ピッという機械音とともに入車を許可された私は、バスの前の方に移動して手すりに手を伸ばした。
そしてそのバスはゆっくりと発進していく。体が揺られる感覚が走るが、別に酔うほどではない。周りを見渡せば、いつも笑いながら話している女子たちが気持ち悪そうな顔を浮かべている姿が目にとまった。
おそらく緊張しているのだろう。同情できなくもないが、さすがに大げさすぎないか?と思ってしまう。
この日が私たちにとって大切な日であることはわかっているが、別に死ぬわけではない。命の危機が待っているわけでも、鋭い剣を首に突きつけられているわけでもない。
その感覚自体、この時代ではおかしいのかもしれないが、まあ、あくまでスケールの問題だ。言うなれば私はこの程度の恐怖で怯えることはない。
と、思っていたのだが。
(ま、まずいかも………。私も少し緊張してきちゃった………)
案外平気な顔している人の方が心の中では緊張している、そんな典型パターンにはまってしまっていた。
ゆえにそこからの予定が一気に崩れていく。本来であれば鞄の中に入っている参考書を手にとってそれを少しでも見たいところなのだが、その鞄にすら手が伸びない。ただ悶々と唇を噛む時間だけが流れ、首に巻かれたマフラーに顔を埋めることしかできない時間が流れてしまう。
そして。
そんな時間を味わっている間に、私を乗せたバスは目的地に到着してしまった。エンジンの止まる音とともにバスにつけられた扉が勢いよく開いていく。それと同時に外の冷たい空気がバスの中に侵入してきた。
その空気は無理矢理私の背中を押してくる。結果、私はバスの外に追い出されるように降りてしまった。呆然と立ち尽くす私の前にあるのは大きな校舎。校舎というか一つの高校だ。その校門には大きな文字で「入学試験」と書かれている。
そう、何を隠そう今日は私が第一志望と掲げている公立高校の入学試験の日なのだ。私の隣には同じ受験生だろうと思える生徒たちが次々とバスから降りてくる。
そしてそんな彼らは顔を真っ白に染めながらそのまま校舎の中に歩き出していった。気合十分、でも緊張は解けない。どうしようもなく怖い。そんな感情が体からにじみ出ている。
そんな背中を見ていた私はここにきて足がまったく動かなくなった。別にこの程度怖いことなんてない。私はできる、恐るな。そう思えば思うほど嫌な記憶ばかりが蘇ってきて私の体を石に変えていく。
(何をやってるの、私は!動け、動くの!このままこんなところで立ち止まってる暇なんて私には………)
と、心が勝手に荒れ始めた瞬間。
その背中押すように強い風が吹いた。その風は私の髪と鞄についていた「とあるもの」を揺らしていく。
それはお互いがぶつかって澄んだ風鈴のような音を響かせていった。
「ッ!」
その音は私の耳に響いた瞬間、体の拘束を一気に解いていく。そして私¥はその音が流れてきた発生源を見つめていった。
そこにはクリスタル型の小さな小瓶が三つついており、中に何も入っていない状態で鞄にぶら下がっていた。
これは一体何のか。
それを知るものは少ない。
少なくともこの高校の中には一人もいないだろう。
だが、これは私にとって「勇気」をくれる大切なものだった。
かつて起きた「とある戦い」の勝者だけが手にすることのできる「万能薬」の空き瓶。それがこの小瓶たちだ。
そしてこれこそが唯一残されている「お兄ちゃん」との絆。その結晶。
だからその小瓶が奏でる音色は強張っていた私の心を温めていった。まるで、「お兄ちゃん」隣に立ってくれて応援してくれているような、そんな感覚を私に走らせてくる。
だから。
元気が出た。
そして。
私はこう呟いて力強く前に足を踏み出していく。
「いってきます、お兄ちゃん」
きっとどこかでその人が私を見てくれていると信じて。
私は今日もこの世界で生きていく。
だからこれはそんな私が前へ進む「勇気」を得る物語だ。
次回はあとがきになります!ティカルティア編の細かい設定も公開しますので、ぜひご覧ください!
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の更新は明日の午後九時になります!




