第二百三十五話 女王vs神姫、五
今回は戦闘回です!
では第二百三十五話です!
「ぁ………」
自分が一番信じられなかった。
この圧倒的な力。カラバリビアすら超越する神の力。
全身に迸っているのは地面を叩き割るような白い稲妻。目を閉じていても周の状況が手に取るような感覚。研ぎ澄まされた肌の触覚は自分が得体のしれない別次元の存在に変わってしまったことを明確に悟らせていった。
私は変わってしまった自分の体を見渡すように両手を前に差し出して握ったり開いたりしてみる。またくるくるとその場で回転し背中をひねりながら伸びきった髪の毛に視線を落としていった。
そしてその観察の結果、私は一つの結論をはじき出した。
これは私。
私という神が神格を得た結果なのだと、そう思い至ったのだ。
ゆえに全ての歯車が噛み合った。
かつてカラバリビアの鍵が私の体に溶け込もうとした時も一時的に全ての能力が使えなくなったことがあった。そしてそれはハクにぃですら手の出せない状況だったのだ。
ゆえに納得できる。
つまり今回も新たな力の覚醒が控えていたからこそ、私はあり得ないほど疲弊していた。それが私の体質なのかはわからないが、抑止力の力が消えた状況でどうして体力が回復しなかったのか、その理由がこの瞬間明らかになった。
と、ここで私の中に流れているとある力に意識を持っていかれた。それは私の腕に刻まれている契約印。精霊女王であるキラの根源だった。
その根源は私の体全身に満たされており、神の力と混ざり合ってさらに私の気配を大きくしてしまっている。どうやら今回の覚醒はキラと深く繋がりすぎてしまったことから起こってしまった現象らしい。
そしてそれを私は知らないうちに完全に自分のものにして、一人の神として存在を確立させてしまった。
それがこの「神姫化」という力の正体だ。
私はそれを一度頭の中で整理するとまだ覚束ない思考を携えながら右手を真っ直ぐアナに向かって突き出していった。そして軽く、そう、本当に軽く魔力を込めていく。
「………凍って」
と、次の瞬間。
時間が止まった。
「ッ!?!?」
アナが驚愕する。
反応する前に現象が引き起こってく。
バキバキとガラスを割るような音とともにこの部屋の全てが凍りついた。物質は熱運動を無理矢理中止され、持っていた運動エネルギーを外に放出できなくなってそのまま瓦解していく。
部屋の壁が何かに切断されたように真っ二つに崩れ、太陽の光を私たちに当ててきた。それによって空気中に飛んでいた氷の結晶が煌めき私の体をキラキラと輝かせてくる。
それは私がここに完全復活したことを示すような光景を作り出していき、最後の戦いの狼煙を上げていくのだった。
「………ねえ、アナ?」
「ッ………!」
話しかけただけ。
たったそれだけだというのにアナは怯えたように後ずさる。
この世界においてアナは最強の命剣使いだ。最強の力を持ってその圧倒的な力で全てを蹂躙することができる存在。その力はもはや絶対という領域にすら踏み込んでしまっており、いかな剣主であっても今のアナを打ち倒すことは不可能だろう。
そしてそれはアナ自身が一番理解していた。
ゆえに今の私が受け入れられないのだろう。
紛れもない神の力を滲ませ、対峙しただけで勝てないと悟らせてしまうような暴力的な力。それでいてどこまでも静かで柔らかな気配。
そんな不可解なものを見せられてしまっては恐怖とも呼べない謎の感情に体が反応してしまうのは当然だろう。
だが。
それでも私は前に進む。
長い髪を引きずりながら一歩ずつ前に、前に進んでいく。
「………私ね、お姉ちゃんね、アナに隠してたことがあるの」
「………隠して、た、こと?」
「うん。それはね、もしアナに、この世界のみんなには絶対に言えないことだった。だから誰にも言ってこなかったし、言う気もなかった。………でも、でもね。アナは自分尾の気持ちを言葉にしてくれた。今の自分が辛く苦しいって言ってくれた。だからお姉ちゃんの私はそんなアナを救いたい。そしてそのためにはもうアナのお姉ちゃんではいられなかった………」
だから最初に名乗った。
私はアナの姉であるアリエス=フィルファではなく、アリエス=リアスリオンなのだと。
その名前は数多の世界の頂点に立つ神妃の名前だ。その名前は今や私にも受け継がれている。
それを口にしたその瞬間から、私はもうアナの知っている私ではなくなっていたのだ。
ゆえに隠してきた真実を言葉に乗せる。喉が渇いていることに鋭い痛みを走らせてくるが、今はそれすら感じない。
痛覚すら人間の領域を超えてしまった私は、少女アリエスではなく女神アリエスとしてアナの前に立った。
「アナ、よく聞いて。私はこの世界じゃないまったく別の世界からきた神様。神妃と結婚した一人の女神なの」
「………は?」
「信じられないよね。でも本当なの。魔術が使えて、気配が読めて、神の力を携えてるのはそれが理由。でもそんなことみんなには言えなかった。言っちゃいけなかった。私が神様だってわかったら、みんなおかしくなっちゃう。何かあったら心のどこかで私がいるからって甘えが生まれちゃう。それに私を巡って変な戦いが起きちゃうかもしれない。自意識過剰って言われちゃうかもしれないけど、少なくとおもその可能性を潰すために私は自分の正体を隠し続けてきた」
「………ッ」
「でもそれもおしまい。私ももう逃げないよ。私も私と向き合うことに決めた。本当はこの力だってさっきまではなかったの。私の知らないところで勝手に目覚めただけ。ただ、どんな形であれ神の姿を見せちゃった以上、私は逃げられないし逃げようとも思わない。この戦いに勝って、アナとまた二人でこの世界で生きていきたいから」
神として顕現した私の存在をこの世界に人たちが知ってしまえば、それはまた争いの火種になりかねない。抑止力と記憶庫が作り出した第一剣主という最強の力を超える力を持つ私がこの世界にいてはその調和を乱してしまうのは明白だ。
だがもう逃げない。
それがわかっているんだったら、アナという存在がいなくても、その力がなくても平和な世界を築けると私が証明すればいい。それだけのことなのだ。
ゆえに、私はまた一歩前に進む。
氷に覆われた床に裸足のまま足を置いていく。その足は床に触れる数センチ上で止まっており完全に宙に浮いていた。その足が一歩、一歩進むたびに水を揺らすような波紋が足元に漂っていった。
そしてそこで私は絶離剣を捨てた。
今の私に魔力供給は必要ない。ボロボロ状態で覚醒したことで残っている体力は少ないが、それでもこの戦いを終わらせるだけの力は辛うじて残っていた。
ゆえに私は己の魔力を集中して氷剣を作り出すと真っ直ぐアナを見つめながらこう宣言していった。
「いくよ、アナ?私の気持ちは変わらない。アナをその連れ戻す。それだけだよ。そのためだったら私は神にだって自分の魂を売るんだよ!」
「ッ!」
その言葉が響き渡った直後、私の体はアナの目の前まで移動していた。それだけのことでその余波が氷の床を破壊していく。だがそれよりもその後に起こった現象のほうが凄まじかった。
「はああああああああああああ!!!」
「くっぅぅぅ!?」
氷剣を思いっきりアナに叩きつける。その速度は神速と呼ぶにふさわしいものでペインアウェイクンと激突した瞬間風が何重にも重なったような爆風を周囲に撒き散らしていった。
空気が消える。空間が歪んだ。光すら追いつけない究極の戦いがここに幕を開ける。
それから戦いはもはや剣主であろうとついてくることのできないレベルになってしまった。剣を振るえば空間が引き裂かれ、爆音と爆風と爆発が入り乱れる常識を超えた戦闘。まさに神と神が戦っているような超高次元な戦いが繰り広げられていった。
だがどう考えてもこの戦いは私優勢だった。
アナの力は抑止力から聞かされて熟知している。今まではその圧倒的な力が手の内がばれていても何一つ抵抗できないほど強力だったがゆえに反撃できなかった。
しかしその前提が崩れれば話は別だ。操作、掌握、幻想、消失、無限の命、寿命の操作、命の奴隷化、その全てが私の前では無に帰す。
命が尽きないのであれば気配そのものに攻撃を叩き込むだけだ。攻撃が消滅してシムのならその出力を上回る攻撃で握り潰せばいい。圧倒的な力には絶対的な力で対処すればいいだけのこと。
先ほどまでアナが私に行なっていたそれを私も実行すればいいのだ。
「くっ!?全て、全て消えて!姉さんの攻撃を握りつぶして!!!」
「………無駄だよ、アナ。言ったよね、力っていうのは全て気配が元になって構成されてる。その気配に攻撃できる私はアナにとって天敵なの」
「どうして、どうして、どうしてええ!!!どうして姉さんはそんなに、何度も何度も立ち上がれるの!?神様だったなんてどうでもいい。だって姉さんは神様じゃなくたって私の前で立ち上がった。それは何があっても変わらない!だから、だからだからだから!………全て終わらせるために全力を攻撃を叩き込んだ。それが決まればいくら姉さんだってもう立ち上がれないって確信してたから!なのにどうして………」
「………どうして、か。それは何度も言ってるけどアナと一緒にこれからもこの世界で生きていたいからかな。私はね、この世界にきたとき一人だった。でもアナと出会っちゃった。それから十六年間ずっとアナと過ごしてたら、もうアナのいない生活なんて考えられなくなってたの。だからかな。血の繋がらない、世界には忌み子なんて呼ばれる、最強の剣主を誰よりも自分のものにしたいって思うのは。………すっごい我儘だよ、私って。でも、そうしないとアナは自分で不幸になるって思ったから、私は立ち上がるの。誰かのために誰かを助けるために戦うことが誇るべきことだって大切な人が教えてくれたから」
ずっと追い求めてきた。
ハクにぃの背中を。
ハクにぃは異世界に住んでいた私たちになんのためらいもなく手を差し伸べてくれた。それは色々な人を救って、最後は世界も救ってしまった。
だからそんなハクにぃに追いつきたくてその真似事をしてきた。それをアリフさんやミルリアさんに糾弾されることもあった。
でも、それでも、私はそれを貫き通した。
その結果、見えたものがある。
この世界に来たばかりのころは靄がかかっていたそれは、かつてないほど鮮明に私の前に立っている。
だから確信した。今の私なら真にハクにぃの隣に立てると。
と、次の瞬間。
私の言葉に歯を食いしばっていたアナの魔力と気配が一気に消滅した。それは私の頭上に巨大な魔法陣を描き出し、とてつもない冷気を伴って事情に変換していく。
それは何度も見たことがある魔術だった。
なにせその魔術は争奪戦のあの日、アナが私に向かって叩き落としてきたそれだったからだ。
「氷の終焉………。全ての魔力を注ぎ込んだんだね、アナ………」
「はあ、はあ、はあ………。お願い、お願い、この一撃でいい加減折れてよ、姉さん!!!」
「………折れないよ、絶対。私はアナを取り戻すまで絶対に負けない!!!」
その言葉は魔力を伴ってアナとまったく同じ魔法陣を描き出す。アナが使おうとしているその魔術は私の最も得意とする技だ。ゆえに熟練度でいえば私のほうが上。
だが油断はできない。アナは命剣に宿らせている力も、己が保有する魔力も気配も、全てを注ぎ込んでこの魔術を発動させてきた。
魔術は少なからず使用者の感情が威力に作用してしまう。つまり魔力や気配で優っていてもその勝敗は実際にぶつけて見ないことにはまったく予想できないのだ。
だから一切の慢心を断ち切って私は右手に魔力を集中させていった。部屋の中にさらなる冷気が満たされ、バチバチと具現化した魔力が紫電を撒き散らしていく。
そして。
そして。
そして。
私たちの魔術は真っ向から激突した。
はるか頭上からアナの魔術が、私の目の前から私の魔術が。空を挟むように放たれたそれはお互いの声によって顕現していった。
「「氷の終焉!!!!!」」
大量の氷と雪が魔法陣から放出された。
それは空中で混ざり合い、爆ぜ、消滅し合う。その激突は時間が経つにつれどんどん大きくなり最終的に私たちの体すら飲み込んでしまうほど巨大化していった。
その結果。
あたりを私たちの魔術が埋め尽くし、視界がホワイトアウトした。
一体どちらが勝利し、どちらが生きているのかもわからないほどの大爆発が、私たちを飲み込んでいったのだった。
次回でこの戦いは決着します!そして………。
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の更新は明日の午後九時になります!




