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第二百三十三話 女王vs神姫、三

今回はアリエスの視点でお送りします!

クライマックスなので今週のラジオはお休みです、すみません。

では第二百三十三話です!

 多分、今の私を見たらハクにぃは笑うだろう。

 教わった剣術も体術も戦いの運び方もろくに使えていないこの状況は、はっきり言って戦闘初心者よりもわけが悪いものだった。

 ただただ腕力に任せて振るうその剣は本来どんなものでも切り裂けるはずの防御不可属性が付与されているのだが、その能力すらまともに発動させることができていない。

 加えて魔術はからっきし。魔力なんて残っているはずもなく、自分をこの場に存続させるためだけの力しか残っていない。

 こんな状況で勝ち筋を見出せというほうが無茶な話だ。現に十六年前の私ならすぐに諦めていただろう。両手を上げてこの場から立ち去っていたかもしれない。

 だが、そんな十六年前の私ではない私がここにいる。

 力は失ったかもしれない。

 神の力は使えなくなったかもしれない。

 でも、心は強くなった。アナと一緒に生活して、アナを愛して、一度アナを失って。それでもまた立ち上がって。

 そうして私は今ここにいる。

 だから力では負けるとわかっていても、心では負ける気がしなかった。今この場で私を立ち上がらせているのは紛れもなく心の力だ。心が折れていないからこそ剣を震える。枯れた小枝のようなか弱い腕になっていても、重たい剣を持ち上げられるその力が私を突き動かしていく。

 一合、一合、また一合。

 アナと剣を合わせる度に気のせいかもしれないが私の剣は鋭さを増していった。一撃一撃が重くなっていく。火花が散るたびに体重が乗る感覚が走る。

 正直言ってこの戦いは、星神との一戦と同等以上の気合が入っていた。ゆえに体は動かそうと思わなくても勝手に動く。こいう率的な動きではないかもしれない。でも、一瞬一瞬次につなげる動きを重ねていく。その場凌ぎの行動はつながれば無敵の時間を作り出すのだ。

 そんな中。私はとあることに気がついた。

 私の剣を受けているアナがなにやら苦しそうなのだ。眉間にしわを寄せてただ攻撃を受け流すことしかしてない。

 その気になればアナは私をいつでも吹き飛ばせるはずだ。抑止力から聞いたアナの能力は剣一本しか持たない私など到底敵わない力を秘めている。

 操作、掌握、幻想、消失。そのどれを取っても最強の力だ。人の身にあまる、神に近づいた力。

 かつて神の力を振るっていた私にしてみればとんだ皮肉だが、そんな私の目から見ても今のアナは神々しく、絶対的だった。

 だというのに、その力が一向に振るわれない。それどころか私の攻撃を受け続けている剣の動きすら鈍くなっていく。ペインアウェイクンの刀身に反射した光が私を照らしてくるが、その光すら濁って見えた。

 だが私はなんとなくその理由に見当がついている。

 簡単な話まだアナは迷っているのだ。私に対して剣を向けることを。

 それは本当に、本当に、心の底から優しいことだと思う。

 かたや邪念を振り払うために神の名を持ち出した私に対してアナはまだ私を姉と認識し、守ろうとしてくれているのだ。

 だから思った。

 ………ああ、アナは本当にいい子に育ってくれた、と。

 それだけでこの十六年間全ての時間が報われたような気がする。

 しかし。

 いや、ゆえにと言うべきか。

 最後の最後。

 アナが唯一道を間違えたこの瞬間を許容するわけにはいかない。姉としても一人の人間としても、一人の神としても見過ごすわけにはいかないのだ。


 だから戦った。己の出せる全力を剣に乗せて。終始雄叫びをあげながらずっと。


「はあああああああああっ!!!」


「くっ………!」


 思考が加速する。かつての私からすれば足元にも及ばない早さだが、それでも頭の回転だけは加速させる。

 まだだ、まだ上がる。先に進まなくちゃいけない。だから加速させる。もっと、もと研ぎ澄ませて、最後の一撃だけアナに届かせればいい。

 その一心で私は剣を振り続けた。

 すると次の瞬間、アナの動きに致命的とも言える隙ができた。それを見逃さなかった私は一気に地面を踏み込んで手に握られている絶離剣を突き出していった。


「だあああああああああああああああああっ!!!」


「ッ!?」


 その一撃はアナの頬を掠め、白い髪を何本か切断した。

 しかし、躱された。避けられたのだ。

 抜けると思った。今の私が出せる全力を叩き込んだはずだった。

 だがそれだけではアナに届かなかった。さすがは第一剣主というべきか。反応速度も、反射神経も、危機管理能力も群を抜いている。

 しかし明確な手応えはあった。今の攻撃で決まらなくとも次に繋げることのできるきっかけを私は見つけたのだ。この流れを利用すれば少しでも勝機は見えてくるのではないか、そう錯覚してしまうくらい。


 と、ここで。

 またしてもアナの雰囲気が変化した。

 先ほどまでは私に剣を向けることをためらっているような感じだった。しかし今は、痛いほどの殺気が感じられる。それはいうならばアナの力に操られていたミュルちゃんやイリスちゃんたちと同じタイプの殺意だった。

 ………な、何かがおかしい。ま、まさか、アナの力はアナ自信すら飲み込んで………。

 それは避けなければいけない事態だ。最強の座にいるアナがここで自身の力に飲まれればそれはもうこの世界の終わりを意味してしまう。自我があるから止められる。しかしそれがなくなれば誰にも止めることはできない。

 ゆえにそれを察した私は急いでアナに声をかけようとした。

 しかし今のアナはそんな私の予想すら超越してくる。


「………ぐっ!」


「ッ!」


 アナは奥歯に力を入れながら頭を何度も振り、何かを振り払うような仕草を見せた。するとその瞬間、アナの体にまとわりついていた殺気と殺意が同時に消し飛んでいく。負のオーラをアナ自身が己の力だけで吹き飛ばしたのだ。

 ………す、すごい。

 心の中から漏れたのは素直な称賛。ミュルちゃんやイリスちゃんですら振り払えなかったその怨念をアナは戦いの中で消しとばしてしまった。その精神力は尋常ではないだろう。己に飲み込まれず明確な意志を持ってアナは再びここに戻ってきた。

 呆気にとられるしかない。

 正直なところそれが率直な感想だった。

 だが同時に悟ってしまう。

 今自分が戦っているのは私の知っているアナではないのだと。いや、違う。わかったのだ。どんなに偽っていても、アナはアナだった。私が見間違えていただけ。冷たく女王様のように振舞っていたアナも私の知っているアナだったのだと。

 ゆえに根本的に間違えていた。

 私の知っているアナがいなかったのではなく、私がアナを自分の知らないアナだと錯覚していたのだ。

 だからだろう、ここでようやく気づいた。

 今、この瞬間、アナはアナに戻った。

 真に私の知っているアナに。

 するとアナは不意にこんなことを呟いてきた。


「………弱い、弱いよ、姉さん。私の知ってる姉さんはもっと強くて、誰にも負けない力を持ってた。でも今は普通の学生にすら勝てやしない。そう思えてしまうくらい弱くなった。………なのに、それなのに、姉さんは『強くなった』。私を前にしてもひるまない強さを手に入れた。対する私は姉さんを守るために強くなったはずなのに『弱くなった』。………どうしてなのかな?」


「アナ………」


 私はそうは思わない。

 確かに私は弱くなって、でも心は強くなった。そしてアナも前よりもずっとずっと強くなった。

 だから弱くなったなんて思わない。アナはアナのままだった。ずっと戦い続けていた。一人で、たった一人で、寂しくて死んでしまいそうな闇の中で懸命に戦い続けていた。

 それをどうして弱いなんて言えるだろうか。

 むしろそんなアナに気付いてやれなかった私のほうが情けない。自分を責めたくなる。あの頃に戻れるなら戻りたいと切実に思ってしまう。やり直すすべがほしいと心の底から願ってしまうのだ。

 情けない。

 情けない。

 情けなさすぎる。

 そう何度も思ってきた。

 だがそんな私がいたからこそ今の私はこうして生きている。人生は決して幸せだけで満たされているわけじゃない。苦しいことも悲しいことも全て含めて人生なのだ。

 だからそんな情けない私を今度は踏み台にして私は進む。

 剣を体の前で振り払い、金属が震えるその音だけが鳴り響いていく。たったそれだけのことで、私の戦意はアナに伝わっていった。

 だが返ってきたのはいつもと同じ問答。その繰り返し。


「………姉さん。もう一度だけ言うね。姉さんは第一剣主アナって人についていっちゃだめなの。そんなことしたら姉さんは本当に死んじゃう。だからここで引いて欲しいの。ミルリアさんたちを連れてこの城から出てって」


 ゆえに私はこう返す。

 アナの真意を聞くために


「………。もし、もしだよ。私が本当にここで帰ったら、アナはどうなるの?」


「私は………。そうだね、多分もう姉さんとは会えなくなる。辛いけど、これが運命だから」


 ここで初めてアナは自分の気持ちを言葉にした。

 初めて辛いと口に出した。

 それが嬉しかった。やっと、やっと我儘と言ってくれた。こんなにも嬉しいことがあるはずがない。

 だってそれを私は望んでいたのだ。アナ自身が幸せに生きたいいとその口で言ってくれるその瞬間を。

 だから決まって私はこう返す。


「………そんな運命、絶対に認めない。もしアナがその道を歩くっていうなら私がそれを斬り捨てる。苦しんでるアナをこれ以上見たくないから」


「………そう、なんだ。ううん、そうだよね。姉さんはいつだって強くて、芯が通ってて、それでいて誰よりも綺麗。身も心も透き通ってる。………でもね、私約束したんだよ?いつか絶対姉さんを守ってみせるって。その約束、今果たしちゃだめかな?」


 次の瞬間、アナの気配が変わった。部屋の空気が変わった。アナの持つ最強たる力がこの空間を支配していく。

 ………ついにきた。

 そう思ってしまった。覚悟はしていたが、やはりアナの本気は凄まじい。絶離剣一本しか持たない私にどうこうできる相手じゃない。

 だがその事実を改めて認識した瞬間、私の体はいきなり動かなくなった。数多の能力が私をがんじ伽藍めにし、息をすることすらできなくなってしまう。

 その時、私は悟った。自らの敗北を。

 最悪、立てなくなっても絶離剣の力を解放してペインアウェイクンを叩き折ればなんとかなると思っていた。戦いの中でアナを取り戻せるかもという甘い幻想を持っていた。

 しかしそれは甘すぎたのだ。

 やはり戦いは強者だけが生き残るもの。

 弱者は地面に這いつくばることしか許されない。

 だからここでようやく私は敗亡という二文字を突きつけられる。


「じゃあね、姉さん。最後は意識だけ消してあげるから。これでお別れだよ」


 その声が私の背後から飛んでくる。そして気がついた時には私の頭にアナの手が乗せられていた。

 負ける。

 負けてしまう。負けることなんて許されないのに、負けてしまう。

 そんな感情が一気に心に渦巻いていく。

 頭に浮かぶのはここまで私を送り出してくれたみんなの顔だ。


 インフさん。

 いつだって私を助けてくれたグラミリ村の村長さん。頼り甲斐のあるとってもいい人。


 ラサさん。

 アナが小さい時、よくアナと遊んでくれた人。尊敬できる恩人の一人。


 ミルリアさん。

 私の親友で、お姉さん的な存在。とってもとっても綺麗で優しい人。


 ミュルちゃん。

 いつもアナのそばにいてくれたアナの親友。何度も何度もアナを救ってくれた可愛い女の子。


 イリスちゃん。

 クールで綺麗なアナの先輩。アナがよく慕ってた尊敬できる女の子。


 それから、それから………。


 フィアちゃん、テール、戦士王、サラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノーム、ルガリク、アリフさん、ハルスさん、ペイさん、抑止力、記憶庫。

 みんな、みんな私を笑顔で見てくれている。




 そして………。

 脳裏に見えたのは金色の髪を持った「あの人」だった。


 暖かな光を宿したその瞳で私を見てくる。

 そして不意にその人の手が私に伸びてきた。そのまま私は体の向きを変えられ、視線をそらされてしまう。

 だがわかっていた。


 その人は、「ハクにぃ」は私をどんな時でも応援してくれると。


 聞こえた。

 鮮明に聞こえた。







『いけ、アリエス!』







 背中が押される。

 前に体が進んでいく。


 力が湧いてきた。

 何かがはまる音がする。

 カチリと歯車が噛み合った。

 前にもこんなことがあったはずだ。力を失って、でも何かがきっかけで力を取り戻して覚醒する。


 そうそれは確か………。

 隻腕の救団と戦ったあのとき………。


 だからこの力が何かわからないということはなかった。

 私はまた目覚めるのだ。

 新たな力に。

 ゆえに抑止力の力が消えても一向に体力が戻らなかった。


 だが。


 今。


 その枷が。


 外れた。







 目を開く。

 体から迸る力がアナを吹き飛ばす。




 そして降臨した。

 髪は長く伸び、目の色も変わった私。


 人ではなく、神の資格を得た真の私。




 それは「神妃に愛された姫」という神格。


 すなわち「神姫」だ。

 ゆえにこの状態は「神姫化」と言えるだろう。


 それが新しい私の力だった。






 そして全ての力を取り戻した私の戦いはここから始まっていく。

 白き神は今ここに舞い降りたのだった。


次回はフィアたちに視点を戻します!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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