第八十話 ルルンと出会い
今回はルルンがようやく出てきます!
では第八十話です!
翌日。
俺たちはハルカの家でいつもとは違った朝食をとっていた。
そこにはカラフルなフルーツが並び、香ばしい匂いがするスープ、焼きたてのパンがズラッと並んでいた。それはどれも朝になり空っぽになった胃を刺激し、寝起きだった俺たちの意識を覚醒させた。
とはいえ俺はさほど朝食に重きを置くほうではないので、正直なところ食べきれるか心配だったのだがその味に舌は虜にされてしまったようでいくら食べても満腹感は上がっていかなかった。
その味には当然アリエスたちも感激し、朝から信じられない量のパンとフルーツを口の中に詰め込んでいたのだが、そこで突然、アリエスがフルーツを片手に持ちながら、俺に問いかけてきた。
「ねえハクにぃ!今日は一体どうするの?」
今日か………。
一応少しは休もうと考えていたのだが、やはり神核が目覚めてしまっている以上、悠長なことは言ってられないだろう。だがだからといってアリエスたちもこの里を見て回りたいだろうし…………。
ならばとりあえず。
「うーん、まあ特に考えてはいないけど、とりあえずはルルンさんにあってその選定とかいうやつをクリアしてみようかなと思ってるよ。それからは少しだけ時間を空けるから、みんな好きにこの里の中を見て回るといい」
「本当!やったー!ねえねえシラ、シル!私昨日可愛いお店見つけたんだ!今度行こうよ!」
「はあ………。アリエスはそういうものに目がないわねえ……。わかったわ。ハク様がそう言うのでしたら、私も参加するわ」
「私も姉さんと一緒………」
その表情はやはり歳相応の少女が見せるもので俺はその姿に少しだけ安心し、綺麗にカットされたフルーツを租借する。
「いい光景ですね」
すると俺の目の前の席に座っていたエリアが急に話しかけてきた。その目はどこか優しい親の様な目であり、アリエスたちを大切にしているのが見て取れた。
「お前も行ってきていいんだぞ?」
「ええ、もちろんいきますわ。でもなんというかああやって同性のお友達と一緒に戯れるというのは憧れでしたので、少しソワソワしてしまっているんです」
すみません、となぜか俺に軽く謝ったエリアはまた朝食に手を付け出した。
まあ、その気持ちもわからなくはない。
やはり気の置けない仲間というものは大切であり、自分を自分らしくするためにも大切なものなのだ。それがエリアは王女ということもあって若干不足している。であれば今このエルヴィニアでそれを少しでも補えればと、俺は考えてしまう。
「で、マスター。そのルルンとかいう奴の攻略法は考えているのか?」
キラが畳み掛けるように俺に質問をぶつける。その手にはパンの粉が大量についており、お前は一体どれだけ食べれば気が済むんだ、と突っ込みたくなってしまう。
「いや、特段考えていないけど、まあそれはその場の流れってやつで」
「むう、やけに緊張感がないのう。アリエスたちの雰囲気に毒されたか?」
「そうかもな……」
その言葉は決して悪気が篭ったものではなく、俺を心配しての言葉だったのだが、それに俺は自分でも良くわかっていないような台詞を吐いた。
すると、そのやり取りにとても上品に朝食を進めていたハルカが口を挿んだ。
「ルルンさんに会いに行くのでしたら、おそらく中央広場にいると思いますよ?今日はあれの日ですから」
「あれの日?」
「行ってみればわかります。それに多分皆さんその姿を見ると驚くはずです。あれを始めてみたときは私も衝撃でしたので」
なんなんだそれは?
ドッキリのようなトーンで話すハルカの態度に少々不安になりながらも、俺はまた別の話を切り出してみた。
「なあ、ハルカってシーナとは知り合いじゃないのか?やけに王国であったときはよそよそしかったが」
「ああ、そのことですか。まあお互い顔は知っているという程度ですね。シーナさんはこの里に来てからルルンさんにずっと剣の指導をされていましたから、滅多に会う機会がなかったんですよ。それにいざ会ってみたら騎士団長になっていたものですから、緊張していたんです。ですが里のものはそんなシーナさんをよく思っていない人もいるようで困っているのですけどね………」
それは触りだけ昨日の門番の男性に聞いていたので特段突っ込むことはない。大方、ろくに顔も見せず剣ばかり振るっていた人族の女がいきなり王国の騎士団長になったのだ。気に入らない奴もいるだろう。
「それじゃあ質問を変えるが、ハルカの両親はどうしてるんだ?今のところ姿を見ていないけど」
「それでしたら、父はおそらくルルンさんのところです。昨日からなにやら張り切っていましたから。それと母ですがこちらは完全に仕事ですね。意外かもしれませんが母がこの里の里長なんです」
へー、そうなのか。そこまで仕事に打ち込めるということは、もしかするとよほど優秀な人なのかもしれない。
「私達エルフ族は代々、女性が長に就くことになっているんです。ですから母もその慣わしに沿ったということなんですよ」
俺の思考を先読みするようにハルカが言葉を重ねる。
まあ、これで大体聞きたいことは聞き終わっただろうか。俺は負う思うとアリエスたちの様子を確認して、席を立った。
「よし、そろそろ行くぞ。目的地は中央広場だ。みんな準備できたら門の前に集合しておいてくれ」
俺はそう言うと、早々と玄関に足を向ける。実際、それについてきたのはキラだけであり、残りのメンバーはまだなにやら話に夢中になっていて俺の声は聞こえていないようだった。
で、いざやってきました中央広場。
そこはあの大樹の目の前に広がっている場所であり、その広さは元の世界で言えば少し大きめの公園くらいの大きさだった。
地面に広がるのは白い硬そうな岩であり、そこには薄っすらと苔が生えていた。その緑色は奥に聳え立つ白い大樹の養分を吸い取るかのように光り輝いており、普通の苔にしてはやけに幻想的な雰囲気を携えている。
だが。
俺たちの目の前に繰り広げられているその光景はその全てをぶち壊していた。
いや、これでも調和は取れているのかもしれないが、俺たちにはあまり馴染みのないことだとだけ言っておく。
そう、それは。
「はあーーーーーーーい!!!みんな、元気ーーーーー!それじゃあルルンちゃんのはハッピーライブ始めるよーーーーーーーー!!!!」
「「「「「「「「「「うおーーーーーーーーーー!!!」」」」」」」」」
そこには元の世界のアイドルとなんら変わらないような衣装に身を包んだルルンと名乗る少女とそれに群がる野郎達が大声を上げていた。
「……………。うん。もう帰ろうか」
「あ、ま、まってハクにぃ!もうちょっとだけ!もうちょっとだけ待ってあげようよ、ね?」
「いや、さすがに妾もあれはきついな。女子があのようなことを羞恥もなくできるのか、逆に感心してしまう」
「ですけど、なかなか面白いですよ、あれ。かかっている音楽も聴いたことのないものばかりですし」
まあ確かにこんなギターやドラムまがいの曲はこの世界じゃ耳にすることは珍しいですけど………。
それでも、それでも!!!
こういう展開は予想できませんよ!俺のわくわくを返してください!
というかハルカの父親がここに来てるっていうのはこういうことだったのか。これでは完全に熱烈なアイドルファンだな……。
というわけで俺はできるだけ冷静になって思考を進める。
「今なら力づくでダンジョンに入れるのでは?いや、それよりもダンジョンの上からいっそ隕石でも降らして爆撃でもしてみるか?」
「どっちもだめーーーーーーーーーー!」
どうやら目の前の光景のせいで俺の思考回路は故障寸前らしい。
結局俺たちはそのライブもどきが終わるまで一時間その場に留まることになったのだった。
「あ、ハクにぃ!終わった、終わったよ!しっかりして!」
「う、うん?よ、ようやくか………」
そのアリエスの言葉に意識をたたき起こされた俺は目の前の惨劇をもう一度確認する。
そこにはルルンを中心に人だかりが出来ていて、なにやらサインや握手を求めている人たちが集まっていた。大体二百人くらいだろうか、そこに集まっているのは。意外だったのがその中に少数ではあるが女性の姿もあったことだ。
これじゃあ、本当にアイドルだな、と俺は心の中で愚痴ると、もうしばらくその人達が掃けるのをまった。
それから十分後。
ようやく人ごみが少なくなり話しかけられそうな雰囲気が出てきた。
俺たちはそのタイミングを見計らって、ルルンに接近する。
「あの、すみません。あなたがルルンさんですか?」
「うん?なになに、君も私の魅力に酔いしれた一人なのかな?サインならいくらでもしてあげるよ?」
ブチッ!
俺の中で何かが切れる音がして、思わずエルテナに手が伸びる。
『ま、まってハクにぃ!ここは冷静に………ね?』
アリエスがそう小声で言いながら、俺の右手を押さえる。
『あ、ああ。わかってる』
「いえ、そうではなくて、俺たちダンジョンに入りたいんです。そのためにはルルンさんの許可が要るということだったので、伺ったんです」
すると、なにやらルルンは目を丸くすると何かに納得したように口を開いた。
「なーんだ、そういうことか。だったら着いてきて!その場所まで案内するから」
そう言うとルルンは早々と歩き出してしまう。
俺たちはとりあえずその後ろについていき、中央広場を後にする。
「で、なんのためにあなた達はダンジョンに入りたいのかな?」
徐にルルンがそう俺たちに問いかける。
「神核を倒すためです!」
と大きな声でアリエスが答える。いや、間違ってないのだが少々ストレート過ぎないだろうか?
と思っていると案の定ルルンは声をあげて笑い出した。
「神核?あははははは!ま、まさか、そ、そんなおかしなこと言う人達が来るなんて考えてもみなかったよ。まさかとは思うけど本気じゃないよね?」
「くどいぞ人間。アリエスが言ったことは紛れもなく本当のことだ」
「え、本当に?…………それじゃあこのルルン様がその考えを叩きなおしてあげないとね!あ、丁度その場所に着いたよ」
そこはこの里に来たときから目に入っていた大樹の根元であり、その白い根っこは地面に深々と突き刺さり、どんな突風が吹いても壊れないような風格を感じる。
見るとその中央には人が三人ほど通れそうな穴が開いており、その前には五枚ほどの結界が張られていた。
「さあ、ここであなた達の実力を測らせてもらうわ。この選定はとりあえず一人ずつだからね。準備はいい?」
え?まじ?
それは聞いてないぜ……。
これではアリエスはまだしもシラとシルにはかなりきつい状況になりそうだ。最悪留守番というのも考えないといけないかもしれない。
とりあえず俺は腰のエルテナを抜きルルンの前に立つ。
「へえ、初めは君から戦うのね。見たところ筋肉質じゃないみたいだし大丈夫?」
なにが大丈夫なのかはわからないが、とりあえず俺も返答する。
「あなただってそれほど肉付きがいいようには思えませんけど?」
「ははは、それもそうか!それじゃあ、はじめるよ?」
と俺もルルンと同時に戦闘態勢に入った直後、俺たちの後ろからドスの聞いた声が複数飛んできた。
「おい!そこのガキ!さっさとどけ!そのエルフの相手は俺がするんだよ!」
見るとそこには明らかに冒険者のような格好をした六人の野郎パーティーが剣を構えてそこに立っていた。
そいつらをルルンは見た瞬間、なにやら盛大にため息をついて、少しだけ怒ったように呟いた。
「悪いけど、先客は彼らなの。それが終わってからでもいいかな?」
「うるせえ!そもそもお前があの結界を解かねえのが悪いんだ!こっちは辛い思いしてこんな秘境に来てるっていうのによう!!!」
すると他のメンバーもそうだ!そうだ!と同調するように声をあげる。
「はあ………。ごめんね。どうやらあの人達を先に相手にしないとだめみたい。それからでもいいかな?」
とルルンは不本意だ、といわんばかりの顔で俺に問いかけてくる。
だが俺はそう言いながら前に出るルルンをエルテナで制し、口をあける」
「いや大丈夫だ。俺がやる」
「え?」
俺はそう言うとそのままその冒険者らしき奴らの目の前に立つとこう言い放った。
「悪いが俺は今機嫌がいいほうじゃない。手加減できるかわからないぞ?」
その瞬間、俺のエルテナが牙をむいたのだった。
次回は久しぶりの無双回!
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