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第二百二十九話 争奪・シスタークイーン、十四

今回はアリエスたちに焦点を当てます!

では第二百二十九話です!

「はあ、はあ、はあ………」


 走る、走る、ただ走る。

 たったそれだけのことで息が上がる。床を蹴る足が重い。体が寒い。心臓が締め付けられるような鈍い痛みがある。目の前が霞む。頭が痛い。

 これは本来ありえない状態だ。

 というより、先ほどまでの私であれば多少走ったぐらいでこのようなことにはならなかっただろう。絶離剣の恩恵を受けている私は全力は出せないものの、ただ走るくらいであれば何の問題もなくこなせる程度の力を保有しているはずなのだ。

 だが、先ほど、このお城に入る直前、明確に何かが私の中で変わった。変わってはいけない何かが変わってしまったのだ。

 と、次の瞬間、不意に足がもつれてしまう。それによって床の段差に足を引っ掛け体が前に倒れ出してしまった。


「あっ!?ま、まず………」


 だがそれは隣を走っていたミルリアさんが私の手を掴むことによって何とか踏みとどまることができた。


「よっと………。大丈夫か、アリエス?」


「はい、すみません、ミルリアさん。少し前を見過ぎていたみたいで………」


「隠す必要はない。大方体の調子が悪いのだろう?」


「ッ!な、なぜそれを………」


「わからないとでも思ったか?何年の付き合いだと思っている。隣を走るお前の横顔がかつてみたことがないほど真っ白になっているのに、その原因がわからない私だと思うか?」


「………そんなに顔色悪いですか、私?」


「悪いとも。それこそお前の真っ白な髪とその肌が同化して見えてしまうくらいにはな。だが、言ったはずだ。私はもうお前を止めはしないと。お前の覚悟は知っている。その上で私はお前の隣に立っているのだ。今の私にできるのはお前の手助けをすることだけ。無事にアナの下に辿り着かせることだけだ」


「………ふふっ。すみません、気を遣わせてしまいましたね。でも、ありがとうございます。すごく助かります」


「久々にお前の笑った顔を見たな。これは気分がいい。まあ、その気遣いは今更というやつだ。気にする必要はない。………さて、ならば進むか。かなりの距離を走ってきたつもりだが、まだアナには追いつけないか。本当に駄々広い城を作ってくれたものだ」


 ミルリアさんはそう吐き出すと、私の手を引きながら再び走り始めた。その背中を追いかけるようにして私も足に力を入れる。

 ………ミルリアさんは私を信頼して背中を押してくれてるんだ。だったら私だけはここで倒れちゃいけない。アナを取り戻すまで死んじゃいけないんだ。

 そうもう一度心に決意を刻んだ私は絶離剣に手を当てながらお城のさらに奥に向かって走っていった。

 このお城は縦にも横にも長い作りになっていて、さらには高さまである建物になっている。アナの気配は現在、お城の中腹付近をうろついており、おそらくは玉座の間にいるであろうことが予測できた。

 だが体調が悪いせいかそこまでの道のりが本当に長く感じる。進めば進むほどアナの力に汚染された兵士や衛士が出てきて私たちに剣を振るってくるため、その戦いも私たちの進行を妨げている原因の一つとなっているだろう。

 と、ここで、またしても私たちの道を阻むように五人ほどの兵士たちが目の前に立ちふさがった。今度の彼らはどうやら本当にアナに付き従っているようで目の色が明らかに違う。ただ彼らのように罪悪感なしでアナの命令を受けている人たちのほうが相手にしやすいというのは一種の事実だ。

 ゆえに私とミルリアさんは剣を引き抜いて彼らを追い払おうとする。さすがに今の状態の私でも彼らを一蹴することは造作もない。予想外の能力を持っている場合はそれなりに苦戦するだろうが、その場合はミルリアさんが剣主の力で圧倒してくれるだろう。

 などと思っていたのだが、そんな彼らを私たちとは別の力がなぎ倒していった。それは押しの壁を粉砕するような形で出現し、その現象を目の前で見せつけられた私たちは言葉を失ってしまう。


「ッ!?え、えっと、これは一体………」


「わ、私にもわからんな………。この場において私たちに味方する存在などほとんどいないはずなのだが………」


 実際問題、このお城に入り込んでいる私たちの味方は昨晩私の家に集まっていたメンバーしかいない。その他の勢力は全て国民を避難させる目的で使用してしまったのだ。ゆえにこの状況でまるで私たちを助けるような動きを取る人たちなどいないはずなのだが………。

 と、一瞬考えたところで私とミルリアさんはまったく同じ結論にたどり着いた。いるではないか、三人ほど。この国の中でもトップクラスの力を持つ剣士たちが。


「ははっ!ようやくご登場か。合流する手はずだったが、まさか城の壁をぶち破って侵入してくるとは思わなかったぞ」


「ですね。まあ多分彼女の指示なんでしょうけど」


 そしてその言葉が交わされた直後、破壊された壁の中から巨大な生き物が姿を現した。それはお城に入るなりとてつもない雄叫びをあげて周囲にいる存在を威嚇していく。それによってこの場にいた兵士達は皆、気絶してしまった。


「だはははははっ!久々に血がさわぐのう!ハザルメイアよ、もっともっと破壊してしまうのじゃ!」


「さすがにこれはやりすぎなのでは………?ミスター、アリフ、止めなくてもいいのですか?」


「………この悪魔のような方を僕に止めろと?無茶な話ですね………」


「だははははっ!悪魔じゃなくて大魔王じゃ、そこ間違えるでないぞ?」


「「はあ………」」


 このやり取りで誰もが察するだろう。サタリバース王国において五英雄に匹敵する力を持つといわれている四人の剣士。その一人は言うまでもなくミルリアだ。

 では残りの三人は………。

 言うまでもない、それこそが今この場に突如として現れたアリフさん、ハルスさん、ペイさんの三人なのだ。

 私とミルリアさんはその登場の仕方に目を合わせて苦笑と浮かべると、アリフさんたちに手を振りながら近づいていく。すると向こうも私たちに気がついたようで顔を明るくして話しかけてきた。


「その様子だと二人とも無事のようですね」


「当たり前だ。この程度の連中にやられる私たちだと思うか?」


「まさか。ですが僕たちは先ほどから暴走するペイの背中を追いかけていただけでしたので、そちらの様子がまったく掴めなかったのです。しかしその心配も杞憂。安心しました」


「まったく少しは落ち着きというものがないのか、お前は。アリフが手をあげるというのは相当なものだぞ?」


「ふん、わしは楽しければそれでいいのじゃ!それを小娘や小童にとやかく言われる筋合いはないわい」


「でもペイさんたちが無事で安心しました。このお城の中では誰がいつ敵に回っていてもおかしくありませんから」


「おおっ!アリエスではないか!お前も無事じゃったか。よしよし、ではその豊満な胸でわしを抱きしめてくれ!ほれほれ、頼む、頼む!」


「え、ええっ!?ちょ、ちょっと、ペイさん!?い、いきなりこんなところで………」


「片方がロリババアという点が少々否めませんが女性同士が絡み合う姿はなかなかに花がありますね。目の保養になります」


「しれっと気持ちの悪いことを言わないでください、ハルス」


 とまあ、どこにでもあるようなやり取りを繰り広げてしまった私たちだったが、そんな柔らかな空気を破るようにミルリアさんは一つ咳き込むと、目を鋭く光らせてこう呟いていった。


「一応私とお前たちでばらけてミュルとイリスを探す手はずだったが、その様子だとまだ見つけられていないらしいな」


「はい。こちらも色々と探し回ってみたのですが、彼女たちの姿は一向に発見できませんでした。もしかするとアナのそばに控えているのかもしれません」


「ふむ………。それはまた厄介だな。できればアナとアリエスの戦いに横槍は入れさせたくない。そもそも今のアリエスでは集団戦を勝ち抜く体力は残っていないだろう」


「す、すみません………」


「ああ、別に責めているわけじゃない。それよりもアリエス。私では二人の気配を探ることができないのだが、お前ならどこにいるかわかるか?」


 それは正直言ってかなり難しい質問だった。アナの気配は明確にわかる。あれほど大きな力を撒き散らしておいて今更その気配が掴めないなんてことはない。

 だがミュルちゃんとイリスちゃんにいたっては私であってもその場所がうまくつかめずにいたのだ。言い切れるのは間違いなくこのお城の中にいるだろうということだけで、詳細な場所は把握できていない。

 こんな時、ハクにぃの気配探知レベルで索敵ができればいうことはないのだが、あの力はハクにぃの専売特許だ。いくら鍛錬をつんだところであのレベルの索敵能力が私に身につくことはない。神の力を使えればその万能性で無理矢理割り出すこともできるが、わかっているようにその力は使えない。

 となるとやはり私であっても二人の場所はわからないというのが結論だろう。


「すみません、それは私にもわかりません。気配があることはわかるんですけど詳しい場所は………」


 と、次の瞬間。

 私は自分たちに向けられている圧倒的な殺気に気がついた。それは気配ではない。もっと抽象的な感じることすら難しい概念の話。だがそれは私の体力とは関係なく体そのものが感じ取っていく。

 ゆえに私は咄嗟にミルリアさんたちを押し倒すように両手を広げて体を倒していった。


「伏せてください!!!」


『ッ!?』


 その直後、私たちが立っていた場所が大爆発を引き起こす。床が陥没し下層にある部屋の姿が私たちの目に飛び込んでくる。

 そして私たちは五人全員同時にその現象を引き起こした元凶に目を向けていった。

 そこに立っていたのはミュルちゃんとイリスちゃんだ。

 だが何かがおかしい。目に光は宿っておらず、体ににじませているのは痛いと感じてしまうほどの殺気。加えて手に持っている命剣はまっすぐ私たちに向けられており、隙を見せればすぐにでも戦闘が始まってしまうような危なさが感じられた。


「あれは、ミュルにイリス!?こ、こんな近くにいたのか………!」


「なるほどのう、あの二人はイリスの大悪魔の力で気配を遮断しておったようじゃのう。まったく器用な真似をしよるわい」


「加えて誰よりも深い洗脳状態ですか。いや、洗脳というよりは心を失ってしまったと言うほうが近いのかもしれませんね。アナを救いたいという感情を無理矢理アナの力が捻じ曲げた。その結果、感情の激突に心が耐えられなくなってしまった。そんなところですかね」


「ですが、そんな彼女たちの相手をするのが私たちの仕事。そうですよね、ミス、ミルリア?」


「その通りだ。あの二人は私が不甲斐なかったばかりにああなってしまった。であればその責任は私が背負う必要がある。何がなんでもこの呪縛から解放してみせるさ」


 ミルリアさんはそう口にするとその場からゆっくりと立ち上がって剣を構えていった。それに続くようにアリフさんたちも戦闘態勢を整えていく。

 かくいう私も同じように絶離剣を手に持って構えていったのだが、それはなぜかミルリアさんに止められてしまった。


「ミルリアさん………?」


「………」


 その理由はまったくわからなかった私は思わず頭の上に疑問符を浮かばせてしまったのだが、次の瞬間いきなりミルリアさんは私の体を左手で抱えるように持ち上げてミュルちゃんたちの下に走り出していった。


「え、ちょ、ちょ、な、なにやってるんですか、ミルリアさん!?」


 しかしミルリアさんは私の言葉には返事を返さない。ただただ走るのみ。

 だがここでミルリアさんは大きく地面を蹴ってミュルちゃんたちの頭上を飛び越えて言った。そんな姿を見せられてはミュルちゃんやイリスちゃんも黙ってはいない。無言のまま己の能力を発動して私たちを迎撃しようとしてくる。

 だがそれはミルリアさんの意図を察したアリフさんたちが妨害していった。


「生憎ですが彼女の邪魔はさせませんよ?」


「だはははっ!学生の中にこんな意気のいい奴がおったとはな。そそられるわい」


「というわけで、頼みましたよ、ミス、アリエス」


 え?そ、それってどういうこと?

 私は今だにその状況が理解できていなかったのだが、空に飛び上がったミルリアさんが喉の奥から怒鳴り声に意識を逸らされてしまう。


「………でりゃああああああああああああ!!!ぶっとべええええええええええ!!!」


「え、え、え、きゃあああああああああああああああああ!?」


 その直後、私の体はミュルちゃんたちのいるさらに奥の空間に向かって投げ飛ばされてた。つかの間の浮遊感と直後に伝わる打撲感に顔をしかめること数秒。そこでようやく私は全ての意図を悟った。


「ぷぎゅ!?………い、いたたた。こ、この状況ってまさか………!」


「ここはお前の戦う場所じゃない!お前はさっさと先にいけ!!!」


 ミルリアさんはそう叫ぶと投げ飛ばした私の前に立ち、ミュルちゃんとイリスちゃんにこう言い放っていった。


「さて、形勢が逆転したな。今度は私がアリエスを守る番だ。お前たちをこの先に進ませはしないぞ?」


 ミルリアさん………。

 私はその姿をただ見つめることしかできなかった。だがその直後、ミルリアさんたちとミュルちゃんたちの剣が勢いよく激突する。その最中、私を見つめているミルリアさんの顔が少しだけ笑っているのを見て、私は踏ん切りがついた。

 これはミルリアさんが必死に作ってくれた時間と機会だ。それをみすみす潰すわけにはいかない。

 そのためには当然………。


「ありがとうございます、ミルリアさん、アリフさん、ペイさん、ハルスさん。アナのことは任せてください。必ず連れて帰ってきます」


 そう呟いた私は今度は一人でアナの下に走っていく。

 こうして私とアナの再会は徐々に近づいていくのだった。


次回はミルリアたちの戦いです!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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