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第二百二十三話 争奪・シスタークイーン、八

今回はインフの過去が語られます!

では第二百二十三話です!

 インフという女性、いや少女はフィアが言ったように英雄バング、イーフの血を引いている。この二人に氏族はいないと言われていたが実はたった一人だけこの世に自分たちの子供を設けていたのだ。

 バングとイーフという名前からそれぞれ文字を抜き取って「インフ」。バングとイーフが自分たちの氏を悟った直後、唯一この世界に残していった生きた証。それがインフという少女だ。

 バングとイーフは戦いが終わってから数年間、自分たちの子供のインフを心の底から愛し、育てていた。二人は世界を救った英雄として半ば王族のような形でとある城で生活していたのだが、そのおかげかインフは何不自由なく幼少期の前半を生きることができたのだ。

 だがそれも数年間が限界。命隷という代償が持つ負の側面によって二人の命はどんどん奪われ、インフに物心がつく頃には二人は息を引きとってしまった。いくらイクサガなくなった世界とはいえ小さな少女が一人でこの世界を生き抜くには少々厳しい。ましてやインフは英雄の娘。その身柄を狙う者たちは数え切れないほどいた。

 しかし。

 そんな中、インフにとって最悪なことが起きてしまう。

 それこそが命剣開発の人体実験の被験体に選ばれてしまったことだ。インフはバングとイーフの娘。つまり伝説の命剣に選ばれた存在の子供。であればその子供であるインフももしかすると命剣が使えるのではないか、そんな考えが大人たちの頭に浮かんでしまったのだ。

 これは命剣の開発を推し進めている集団が無理矢理決めたことで、世界の誰もが命剣の力を知っているだけあって誰もその決定に反論できなかった。

 無論、そこまで周知されていた事実ではないが、この事態は精霊すら知らない場所で進んでおり、サラマンダーやアイテールがインフの所在を知ったのはすでに実験の終盤だった。ゆえに助けることもできず、手を差し伸べることすらできなかったという事実がある。

 言わばインフという少女は時代の波に飲まれ、家族すら奪われた最も不幸な少女と言えるのだ。彼女が悪いわけではない。全ては世界が、大人が悪い。純粋だった少女がそれらに抗えるはずもなく飲み込まれてしまった。

 そんな過去がインフにはある。

 だがそれを今の今まで誰かに話したことはなかった。フィアを除けば、誰にも。

 あの遺跡の中で唯一生き残ってしまった二人は親しいとは言えないものの、それなりに信頼できる仲になっていた。毎日繰り返される実験と囚人のような生活の中、気を紛らわせるためにインフはフィアに自分の過去を語っていたのである。

 インフを除く被験者たちもインフまでとは言わないが理不尽な境遇にあったものたちが多く、自分と重ね合わせることができたため耳をそむけることはなかった。だからフィアもその話はしっかりと覚えている。まだ世界の醜さを彼女が理解する前のお話。ゆえに記憶が残っている。

 そしてその話をあろうことか、この場で、このアナを奪い合う争奪戦の中で開陳してしまったのだ。それもインフが止めているにも関わらず。


「つまりその第二剣主のインフという少女は英雄の娘で、それが原因で哀れにも私たちがいた遺跡に放り込まれたのです。そんな事実を今まで彼らに隠していたとは、正直驚きました。やはりあなたは今になっても誰一人として信用してないんですね」


「………」


「………おい、今の話、そいつは本当なのか?」


「………」


 インフは答えない。力なく命剣を地面に下げ、虚ろな目を携えたまま停止してしまっている。ルガリクの言葉にも反応を示さず、ただただ静かな時間だけが流れていく。


「第五剣主。彼女がどうしてその事実を今まで誰にも語ってこなかったのか、わかりますか?」


「あん?」


「理由は簡単です。彼女は今だに恐れているのです。自分が英雄の娘だと知れれば、また何かひどいことをされてしまうのではないか。またあの遺跡に送り返されてしまうのではないか。五百年経った今でも彼女は怯えているんです。だから真に心を許そうとしない。もし仮にその事実が広まれば、それを聞いたものを皆殺しにする。そのレベルの憎悪と恐怖を心に抱えているのですよ」


「………ちっ」


 実際インフは自分の過去をアリエスやラサにさえ語ったことはなかった。この五百年間、親友とさえ呼べる仲になったものもいたが、それでもこの話は口に出さなかった。

 理由はフィアが言った通り。

 また裏切られるのではないか、また利用されるのではないか。また痛く、苦しい生活に戻ってしまうのではないか。そんな予感が常に彼女の頭にちらついていたからだ。

 するとフィアはそこまで語ると剣を抜いてゆっくりとルガリクに向かって歩いてくる。そしてその口は再びインフに向かって開かれた。


「さあ、インフ。あなたはどうしますか?幸いこの場には私と第五剣主の二人しかいません。つまりあなたの秘密を知っているものはたった一人しかいないのです。その一人を殺してしまえばあなたはまた元の生活に戻ることができます。怯える必要もありません。違いますか?」


「お、お前、この期に及んで何を言い出しやがる!?」


「事実ですよ、第五剣主。あなたは彼女の秘密を知ってしまったのです。となればそれをどうしても知られたくないと思っている彼女にとってあなたは邪魔者以外の何ものでもありません」


「まさかこれだけのために人の過去を明かしたっていうのか?」


「私もここで負けるわけにはいかないのです。いくら頑張っても私一人の力ではあなた方に勝てる見込みはない。ですが、インフがこちらに願えるならば話は変わって来ます。特殊な剣主であるあなたであっても剣主二人を相手取るのは厳しいはずですから」


 それこそがフィアの狙いだった。この場でどう足掻こうが自分に勝利はない、そうおもた彼女はインフの過去を利用してインフを自分サイドに引き込もうとしたのだ。それが成功すれば一気に勝ち筋は見えてくる。

 その事実を理解したルガリクはフィアを睨みつけながらから体に力を流してこう呟いた。


「………お前、最低だな」


「なんとでも。今の私はアナ様さえお守りできればそれでいいのです。私の全てはアナ様にお渡ししました。今さから旧友との仲を舐め合う主義は持ち合わせていません。利用できるものはなんでも利用する。………その選択を迫られてしまう状況なのですよ、今は」


 フィアとて好きでこのような行動を取っているわけではない。だがそうしなければ敗北してしまう。その事実が彼女を追い詰めていた。

 かつての仲間であるインフを裏切るくらいに。

 するとここでうつむいたままのインフが剣を持ってルガリクの下に歩き出した。その瞳は地面に向けられているため見えないが明らかに先ほどとは違う殺気をにじませている。フラフラと体を揺らしながら、それでいてしっかりと地面を踏みしめているその足取りはこの場に冷たい空気を流していった。


「ロリババア、お前………」


「………」


「ようやく決心したのですね。では共に第五剣主を討ち取りましょう。私たちには時間がありませんから」


 そう呟いたフィアは勢いよく地面を蹴ると、自分の能力を体の周りに展開しながらルガリクに近づいていく。そしてそれと同時にインフも走りながら剣を持ち上げていった。


「さあ、これで終わりです、第五剣主。インフの能力は知っているでしょう?いくらあなたでも剣主レベルの力を二つ同時に消滅させることは難しいはずです」


「………」


 それはルガリクもわかっていた。こうなった以上、この二人を倒さなければ前に進むことはできない。それはいくらルガリクであってもかなり難しいことだ。それを理解している以上、ルガリクの頭には撤退の二文字が思わず浮かんでしまう。

 だが。

 それを振り払うようにルガリクは剣を構えたまま無言でフィアを睨みつけていた。そしてそんなフィアが自分の間合いに入った瞬間、その口は奇妙すぎるほどつり上がる。

 その瞬間、フィアは自分に迫っている殺気をようやく感じ取った。だがそれはもう遅い。


「ッ!?」


「………さあ、いい加減、その下手な演技はやめたらどうだ、クソロリババア!」


「………じゃから、ロリババアは余計じゃと言っておるじゃろうが、ルガリク!」


 インフはそう吐き出した瞬間、体の向きを一気に傾け、右足を軸にするように剣を振り回していった。それはルガリクに接近していたフィアの体を断ち切るような軌道を描き、その体に吸い込まれていく。

 フィアはその攻撃を自分の剣を盾に使うことによってなんとか受けしのぐも、威力を殺しきれずに後ろに吹き飛ばされてしまった。


「きゃああっ!?」


 だがその痛みを感じている場合ではない。そう彼女の頭は告げていた。剣を切り払うような音が耳に届いたかと思うと、何もなかったかのようにフィアを睨みつけているインフの声が続けざまに響いてくる。


「まったく本当につまらん女になってしまったようなじゃな、フィア?」


「けほ、けほ、けほ…………。な、なに、を、言って………」


「確かに昔の妾であればルガリクをこの場で切り飛ばしていたかもしれん。それは否定せん。じゃが、今は違うのじゃよ。妾はお前と違ってこの世界に住む人間の温かさをこの目で見てきた。そこにあったのは仮に妾の秘密が知られても笑顔を振り向けてくれる優しい世界じゃった。ゆえにそんな弱点はもう克服しておる。単に妾が自分の過去を語ってこなかったのは、それが広まってしまうことによって皆に迷惑がかかると思ったからじゃ。現に、アナが伝説の命剣を抜いた今でも我が両親を崇拝し、命剣の研究を進めておるものは少なからずいるじゃろう。そんな連中の目を集めさせないために黙っておったのじゃよ」


「そ、そんな、馬鹿なことが………。だ、だって五百年前のあなたは辛そうに自分の過去を………」


「じゃから言っておるじゃろう、それは五百年前の話じゃと。五百年も生きておれば考え方など変質する。むしろ変わらずその憎悪を溜め込んでおるほうが無理な話じゃ。まあ、そういうことじゃから、妾はお主に加担することはない。むしろ旧友の恥をルガリクに見せてしまったことをお主を斬ることによって晴らさせてもらうつもりじゃ」


「くっ………」


「残念だったな、第三剣主?そもそもそんな秘密が漏れたところで今更大ごとにはならねえと思うぞ?このちんちくりんが言ったようにどこぞの研究者たちは騒ぎ立てるだろうが、今のこいつを一介の研究者が相手にするのは無理がるってもんだ。一蹴されるのが目に見えてる。なにせ剣主の力を覚醒させちまってるんだからな。だから今更そんな過去話を持ち出したところでこいつには何のダメージにもならねえんだよ」


 人は変わるものだ。

 それがエルフのように長命になってしまったインフならば当然だろう。体は変わらずともその心は変質し、育っていく。心の中に刺さった大きな棘も、ゆっくり受け入れてしまうくらい造作もないのだ。

 当然、そこに至るまでに彼女はとても苦労した。だが乗り越えるにもこの五百年という時間は十分過ぎたのだ。

 対してフィアの知っているインフは五百年前で止まっている。それを今のインフと重ね合わせてしまったことがフィアの間違いだった。

 そしてそれは完全にインフの心に火をつけてしまう。


「お主が妾の過去を武器にしようとしたこともわからなくもない。妾もお主の立場ならそうしていたかもしれんじゃろう。じゃが人としてやっていいことと、やってはいけないことの分別がお主にはついておらんようじゃ。全てを捨てて誰かのために戦うというのは実に気高く誇り高いこともしれんが、それは博打に近いものじゃ。成功すれば望んでいたものが手に入るが、失敗すれば皆の反感を買ってしまう。自分を窮地に追い込んでしまう自爆装置みたいなものなのじゃよ」


「………あ、あなたに、私の何がわかるっていうんですか!?」


「わからんよ、何も。妾ではお主の五百年は測ることはできん。じゃからお主も妾の五百年をそう簡単に見極められると思わないことじゃ。………まあ、つまり何がいいたいかと言うと」


 そこで一度インフは言葉を切った。そして今度は他の誰でもないフィアの友人としてこう吐き出していく。




「妾は怒った。心のそこからお主に怒りを覚えたのじゃ!ゆえに覚悟するのじゃ、フィア。今からお主を徹底的に鍛え直してやるのじゃ!!!」





 五百年前の関係に引導を渡す戦いが今、終盤にさしかかろうとしていた。剣主同士の田高はさらに苛烈になっていく。

 その勝者だけが前に進むことを許されるのだ。


次回でフィア戦は決着します!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日の午後九時になります!

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