第七話 解放、そして食事会
あらすじを見ていただければ各章の題目が見れますので、興味のある方はぜひ見てみてください!
では第七話です!
「んで、これは一体どういう状況だ?」
現在俺が異世界に連れてこられてから約七時間が経過している。そして今、俺の目の前には、やたら高そうな服を着た年齢三十歳くらいの男が土下座をしている。
「娘を助けて頂いたのに、村に着くなり牢獄送り。このような仕打ちをどうかお許しください!」
「いや、それはわかったから。とりあえず状況説明を頼む」
人がいい気分でウトウトしていたときに、いきなり大きな音を立ててスライディング土下座をしてきたのだ。少しはこちらの言い分を聞いてほしいと思うのも当然だろう。
ん?牢屋に捕まっているくせに偉そうだって?
知らん!こいつが勝手に頭を下げているのだ、慈悲はない!
「は、はい。それはですね……」
そしてその男は語りだした、事の顛末を。
まず俺が巨漢二人に連れ去られたあと、アリエスは真っ先に自宅に突進していった。なんでもアリエスはこの村、「ルモス村」を統治する公爵家の一人なのだという。そこで俺を助け出すべく自分の父親つまり、俺の目の前にいる男に俺を解放してほしいと頼み込んだのだ。しかしアリエスを追いかけてきた先程の衛兵がさらに話をややこしくした。実の娘は自分を助けた命の恩人だと言い、村の門番は間違いなくアリエスを誘拐した犯人だと言う。どちらなのかと判断を決めかねている間約四時間。とうとう我慢の限界だったのかアリエスが泣き出したのだ。さすがにこれにはアリエスの屋敷にいた全ての人間が困り、収拾がつかなくなった。
しかしアリエスの証言の中にあった「誘拐犯はどこか近場の役所に自首している」という証言の事実確認がとれた。なんでもここら一帯を取り仕切る「シルヴィニクス王国」にて誘拐犯たちが自首していたのだという。
こうなった以上、アリエスの証言が百パーセント確かなものになった。であれば今頃無実で牢屋に入っているアリエスの恩人はどうしているか。アリエス曰く、盗賊十人に囲まれても指一本触れずに倒してしまう存在なのだとか。
というわけで血相を変えてアリエスの父親にして、ルモス村公爵家当主カラキ=フィルファ直々に出向いたということらしい。
なんというか、ものすごい濃い五時間ですね。お疲れ様です。
にしてもアリエスって公爵令嬢だったのか。どうりで衛兵が血相を変えるわけだ。しかも俺を助けるために必死に頑張ってくれるとは。
お兄さん嬉しくて泣きそうです………グス。
というかさっきの盗賊が従順にも俺の言葉に従ってくれたとは、失礼かもしれないがかなり意外だ。確かに一度殺しかけたし、圧倒的な実力差を見せつけたわけだが、ここまで素直に従うと思わなかった。まあそれによって俺の誤解が解けたわけであるから感謝といえば感謝なんだが。
人間生きてるうちは一体誰に救われるかわかったもんじゃないですね。
さてこうなった以上次のことを考えねば。このまま大人しく解放してくれればいいが……。
「んじゃ、俺はここを出られるんだな?」
「も、もちろんです!ささやかな罪滅ぼしですが私に出来ることなら何なりとおっしゃってください!私に可能な範囲ならば全力で処理しますので!」
おいおい公爵家の当主にしては腰が低すぎないか?これで当主なんてやっていけるのだろうか、眉唾物だ。
それにしてもどうしよう。ここまで大きなことになるとは思わなかった。いったい何をお願いしようか。正直お礼など微塵もいらないのだが、ここは受け取っておかないと示しがつかないだろう。
うーんでも何にしよう……。
娘さんをください!とか?
『却下じゃ!』
おおう……。聞いていたのか。
ま、冗談だから気にしなくてもいいんだけどね。さすがにリアル犯罪者の称号はほしくないしね!
『どうだか……』
というわけで真面目に考えなくてはいけない。
するとなにやら申し訳なさそうにフィルファさんが呟いた。
「い、一応ハクさんの、村に広まる誘拐犯という悪評は取り消すように部下に申し付けましたのでご安心ください………」
「ああ、すまないな」
ま、当然といえば当然なのだが、とりあえず今後この村を歩いていても肩身の狭い思いはしなくてよさそうだ。
「い、いえ……。しかし娘を助けた救世主としてさらに知名度が上がっていますが……」
「ブッッッ!!!!」
前言撤回。大いに目立っておりました。まあ冤罪における誘拐犯といわれるよりは遥かにマシなんだけれど。
すると突然頭にいい案が浮かんだ。
よしこれにしよう!
「あー、んじゃフィルファさんに頼みたいことは……」
「は、はい……」
おいそんな怯えた目で見ないでくれよ、こっちも悲しくなってくるだろう!
「今俺は一文無しなんだ。ってことで冒険者ギルドで稼ぎを得るまで、一応一週間ほど安いところでもいいから宿を取ってほしい。出来るか?」
「え?そんなことでいいんですか?」
何をそんな意外そうに……。
「かまわない。むしろ今回の件に関しては俺の身分が証明出来なかったというこちらの落ち度もあるし、そもそも本来お礼なんて必要ないのだが。まあ一応筋を通すということで言ってみたんだがどうだ?」
「も、もちろんです!直ぐに用意させます!」
「それと、何をそんなに怯えているかは知らんが敬語は外してかまわない。堅苦しいのは嫌いなんだ。ましてフィルファさんは公爵なんだろう?だったらもっと超然としているべきだ」
「………………」
ん?どうして固まっているんだ?俺なんかおかしいこといったか?
「お、おい。どうしたんだ?」
「い、いえ。こちらに完全に非があるのにそれを水に流し、あまつさえ諭されてしまうとは。すみません、少々あなたのことを誤解していました。盗賊を血だるまにしたと娘から聞きましたのでどんなに恐ろしい方かと……」
お前かアリエス!
お前が拡大説明をしたせいでお前のお父さん飛んだ勘違いとしているじゃないか!
『どこにも拡大された痕跡はないがな……』
「ではあらためて。ハク=リアスリオン君。今回は娘を助けてもらってこと本当に感謝する。望みの宿は直ぐにでも手配しよう、こんな感じでどうかな?」
「ああ、問題ない」
まさか異世界に来て一日とたたずに公爵家当主とタメで話すことになるとは。本当に何が起こるかわからないな……。
「それとここからは提案なんだけど、宿の準備が出来るまで家に来ないか?もう日も沈みかけている。ディナーにはちょうどいいだろう。君が来てくれるときっとアリエスも喜ぶはずだ。どうだろう?」
おお!これは嬉しい相談だ。言ってはなかったが、かなり腹が空いてきている。しかも公爵家の料理…。さぞおいしいに違いない!なんともありがたい話だ。
「是非とも!………………と、言いたいところなんだが、そろそろこの牢屋から出しくれませんかね?」
そう。何気なく打ち解けていたが、いまだにお互いの間には黒々とした牢屋の柵がそそり立っているのだ。
「ああ!!すまない!今すぐに!」
本当にこんな状態で大丈夫なのだろうか、この村。
そんなことを思いながら俺は牢屋の鍵が開くのを待った。
目の前には豪華絢爛という言葉がしっくりきそうな数々の料理が並んでいた。どれも見たことはないが腹をえぐるようないい香りが辺りに充満している。
そしてそれを取り囲むように俺とアリエス一家が座っていた。俺はアリエスの隣に、アリエスの父親、カラキは奥さんを隣に。それぞれ向かい合うような配置だ。
先程は暗くてよく見ることができなかったが、カラキは貴族とは思えないほどいい体をしている。髪は金髪で短く後ろを刈り上げているおり、服の上からでも引き締まった体格が見て取れる。
反対にカラキの奥さん、つまりアリエスの母親なわけだが、フェーネ=フィルファさんはアリエスの美の要素を全て凝縮したような容姿をしている。髪はアリエスと同じ純白のごとき白色でその長さは腰辺りまで伸びている。とっても美人さんだ。
実はこのフェーネさん、アリエスが戻ってくるまで、いなくなったことがショックでずっと寝込んでいたらしい。高熱や頭痛、食もまともに通らない状況が続き、それは本当に酷かったのだという。
それがアリエスが帰ってきた途端回復したというのだから、驚異的な生命力である。
というか単純に親バカなのかもしれないが。
「あ、ハクにぃ!これおいしいんだよ!食べてみて!」
「あ、ああ……モグモグ……。お、確かにうまいな、これはやみつきになる」
「でしょ!遠慮しなくていいから、どんどん食べてね!まだまだたくさんあるから」
というやり取りが実は数十回続いている。実際どれも食べたことも見たこともない料理なのだが、さすが公爵家。絶妙な味付けと盛り付けで食欲を刺激してくる。一応いったいどんな素材で作っているのかを聞いたのだが、
「えーと、イアカエルの肝臓とチュワトカゲの喉仏、でそっちの料理は……」
というえげつない回答がフェーネさんから返ってきたので、考えることは放棄した。
料理がまずくなっても困るしね!せっかくの食事なのだから美味しければ万事問題なし!
そしてその後も賑やかな食事が続き、テーブルに山のように盛られていた料理も底が見えてきた。
するとカラキさんの下に執事らしき人がやってきてそっと何かを耳打ちした。
「ふむ、そうかご苦労。下がっていいぞ」
「はっ」
してカラキさんは俺のほうに向き直ると、
「ハク君、宿の準備が出来たようだ。宿の場所はこの紙に書いてあるので、それを見て行けば問題なくたどり着けるだろう」
そう言ってカラキさんは胸のポケットから小さな紙を取り出し、俺の前に差し出した。
「すまないな」
「いやいいんだ。これは僕の落し前だ。それに僕は君には感謝しても仕切れない恩がある。これぐらいは当然さ」
「私からもお礼を申し上げます、ハクさん。娘を救っていただいて本当にありがとうございます。娘は私たちの生きる希望ですから」
この言葉は冗談ではないのだろう。なにせ娘のことを気にしすぎて体調を崩すくらいだ。
というか若干威圧感を感じるんですが!
親っていうのは子供のことになると目の色が変わるな……。
俺もいつかはそうなるのかねぇ……。
『安心するのじゃ、その気になれば私がいつでも主様の童貞を奪ってやるぞ!それ、宿も取れたことだし、今夜どうか、ぎゃ!』
『あほか、ムードをぶち壊すな!お前のそれは下心が見え見えなんだよ』
一応、俺の中に意識体で存在するリアにだって攻撃は出来る。まあ俺限定なんだけど。
というわけで意味のわからないことを言っている変態駄女神に拳骨を振り下ろした。
『むう痛いのじゃ……。主様はもうちょっと私を優しく扱ってもいいと思うのじゃが……』
『優しくしてほしかったら、まずその性根をどうにかしろ!』
「んじゃ、俺はそろそろ行く。一応冒険者ギルドにも行くつもりだし、しばらくはこの村にいるだろ。なにかあればまた声をかけてくれ」
そう言って俺は椅子から立ち上がると、俺のローブの袖をアリエスがぎゅっとつかんできた。
「行っちゃうの、ハクにぃ?」
「ああ、まあこれでお別れってわけじゃないから心配するな。また会える」
「本当………?」
アリエスの目が若干潤んでいる。出会い方は最悪だったはずだか随分と好かれたものだ。
というか可愛い!小動物的な愛くるしさが全身からにじみ出ている。
これは俺も少しためらってしまう……。静まれ、静まれ、俺の感情!ここは押し殺すんだ!
「ああ、だからアリエスも俺を見かけたらまた声をかけてくれ」
「もちろんだよ!またいっぱいお喋りしようね!」
そして俺は屋敷の出口に足を向ける。後ろからはアリエス一家がついてきて見送っている。
「それじゃ」
「ああ、なにか困ったことがあればまた来るといい。君ならば大歓迎だ」
「ハクにぃ、バイバイ!」
そんな家族に軽く手をふって屋敷の門をくぐる。
そのあとアリエスは数分間手を振り続けていたらしい。
「えーっと。指定された宿屋は……おっとここか……」
そこはいかにも商店街の一番人通りが多いであろう交差点の角に立地していた。見た目は高級でもなく、かといって貧相でもない、はっきりいて雰囲気のいい宿屋だった。
話は既に伝わっているはずだし、気兼ねなく扉をくぐる。
そこは一見すれば酒場のような形をしており、実際に何人かが既に酒を口に付けていた。
ふむ、おそらく酒場とエントランスが合体しているのだろう。
とうわけで受付らしい人が立っている場所へと向かう。
「カラキ=フィルファ公爵から話がいっていると思うが、この宿に一週間ほど滞在するハク=リアスリオンだ。部屋の準備はできてるか?」
「ああ、あんたがハク=リアスリオンかい。部屋なら準備は出来てるよ。二階の一番奥の部屋だ。……ほら、これが鍵だよ。それと他に何かあったら遠慮なく言ってくれ?アリエスちゃんの救世主さん?」
「ブッッッ!?……ああ、よろしく頼む」
おい!いくらなんでも話が通り過ぎだろう!確かにカラキさんは俺の知名度が上がってると言っていたが、そんなに広まっているのか!?
これが異世界の情報社会ってやつですか……。
用意された部屋は、随分と整っていた。一人ならむしろ広いといってもいい。
俺はボフッと全身の体重をベッドに預け倒れこむ。
はあー。今日一日いろいろなことがあった。さすがに精神的に疲れたな。
盗賊退治からはじまり、アリエスを送り届け、冤罪をかけられ、貴族の家で食事会。濃密過ぎる一日だと思う。
あれ……なんだか急に睡魔が……。
『しかーし!夜はこれからじゃぞ主様!今日という今日は襲わせてもらうのじゃ!』
『は!?何言って……』
『主様は疲れておるようじゃし、今がチャンス!隙ありじゃ!』
『え、ちょ、ま、あーーーーーーーーーーーーー!』
その夜俺の聞こえない絶叫が木霊した。
一応怪しまれないように言っておくと、これは俺の頭の中で起きている出来事なので実際の体はなんともなっていないよ……。
そうして俺の長い異世界一日目が終了した。
次回はようやく冒険者ギルドに行きます!
ここから物語は動き出します。ハクの無双成分も多量にに入ることになると思います!
誤字、脱字がありましたらお教えください!