第七十八話 秘境の中
今回はエルヴィニア秘境の里の中についてです!
では第七十八話です!
エルヴィニア秘境。
それは世界に数ある秘境の中でも比較的に有名になっている場所だ。
ではなぜ秘境と呼ばれるか。
それはその到達難易度にある。俺たちが経験したように膨大な量の罠が設置されており、侵入者の足を止める。それは秘境のなかでもかなり珍しい部類であり、普通秘境とは目つけること自体が難しいだけで侵入すること事態は簡単なことが多い。
よってこのエルヴィニア秘境というのはそういった点でも有名なのだ。
で、このエルヴィニア秘境はエルフの生まれの地であるのと同時に精霊信仰が他の場所より厚いところでもある。なんでも精霊と契約できたものはその里の中でもかなり優遇されるらしい。よくエルフが精霊に近寄って契約を求めてくる、とキラがぼやくほどだ。とはいえしっかりと尊敬の念を向けているようで無下に出来なくて困っているのだとか。
という色々と普通の村や国からは隔絶された秘境に俺たちは着いたわけなのだが、俺たちは今その関所らしきところに来ていた。
どうやらこの秘境もルモス村のように入国審査的なものがいるらしく、俺たちはその審査を受けに来ていた。
「すみません、エルヴィニアに入れていただきたいのですが、大丈夫でしょうか?」
俺はその関所に立つエルフの男性にできるだけ優しく問いかけた。
するとその男性は俺たち全員を見渡すと、眉間に深々と皺を刻むと、声を低くして答えた。
「お前達、人族だろう?だったらだめだ。このエルヴィニアには入れることはできん!」
わお………。まさかの門前払いですか………。
なんか俺ってこの関所とか門とか入り口という場所で色々と問題を起こしてるな、とこれからどうするか考えていると、アリエスがその男性に声を荒げた。
「なんでですか!シーナは問題なく入れるって言ってましたよ!」
「ん?シーナ?お前達シーナの知り合いなのか?なら余計にダメだ!あいつも人族だから簡単にこの里を見捨てたんだ!」
おいおい、滅茶苦茶嫌われているぞシーナ!?
「それはどういう意味ですか?」
俺はできるだけ優しく問いかけた。これ以上反感を買う自体はできれば避けたい。本当にこのエルヴィニアに入れなくなってしまったらそれこそ大問題だ。
「よそ者に話す義理はない。わかったら帰れ!」
うーん、このままでは埒が明かないな。いっそのことキラに脅してもらうか?
いやいや、それは逆効果だ。
とはいえこのままではな…………。
すると俺の後ろでその光景を見ていたシラが俺の横から口を挿んだ。
「私達ハルカさんというエルフの方と知り合いなんです。ですから一度合わせていただけませんか?」
おお!ナイスアシスト!
そういえば俺たちにはハルカという超強力な助っ人がいるじゃないか!俺は下げている左手でシラにグッドサインを送る。
それに対しシラは右目を軽くウインクして答えた。
「なに?ハルカだと?あのハルカお嬢様とか?」
「お嬢様?」
俺は聞き捨てならない言葉に俺は思わず問い返してしまう。どうやら驚いているのは俺だけでなく後ろのパーティーメンバー全員のようだ。
「す、少し待て!か、確認する!」
なぜかかなり慌てながら関所の男性はエルヴィニアの中に駆けていった。
俺たちは揃いも揃って呆けた表情をしており、とりあえずその場に待つことになり、軽い意見交換をし始める。
「な、なあ。お嬢様っていうのはどういうことだと思う?」
「さ、さあ?私はよくわかんないな………」
「随分と地位の高い方だったのかもしれませんねハルカさんは」
しばらくすると先程の男性が息を切らして戻ってきた。
「か、確認がとれた。では身分証の確認をする。全員の証明書を提示してくれ……」
といわれたので各々自分の身分証を示しだす。
俺とアリエスは冒険者カードを、シラとシルはセルカさんが書いた証明書を、エリアは王家の紋章を、それぞれ見せた。
「SSSランク冒険者!?そ、それにシルヴィニクス王国第二王女!?こ、これは失礼しました!!………あ、あのそちらの女性は?」
と唯一身分の証明をしていないキラをその男性は指差して質問してきた。
「俺の冒険者カードを見ていただければわかりますよ?」
冒険者カードには契約精霊が記入されている欄がある。以前確認したときにはバッチリと精霊女王キラと書かれていたはずだ。
「せ、精霊女王キラ!?ま、ま、ま、ま、まさかこの方がそうなのですか?」
するとキラはなかなかウザそうに答える。
「だからそうだと言っているだろう。マスターに無礼な前をしたら容赦なく消し飛ばすから、早く妾たちを通せ」
その言葉には特段威圧は混じっていなかったが、そのエルフの男性には十分すぎるほどの効果を与え、すぐさまエルヴィニアの門をあけた。
「も、申し訳ございません!ささ、こちらになります!お嬢様はこの里の一番奥の屋敷におりますので、一度顔を見せてほしいとのことです」
俺は里の中に足を踏み入れる前に、先程の話を聞いておくことにした。
「あの、なぜ人族だとこのエルヴィニアに入れないのでしょうか?シーナのこともそうですが、ここには多くの人族も住んでいるはずです。何故でしょう?」
そう俺が問いかけると、その男性は物凄く申し訳なさそうに声を小さくしながら答えた。
「は、はい。実は数日前に人族の冒険者と名乗る集団がこのエルヴィニアに無理やり押し入り、暴れるだけ暴れて帰って行ったのです。なんでもダンジョンに入りたかったらしいのですが、案の定ルルンさんに返り討ちにあったらしく………」
でたよ、ルルンさん。俺たちが会おうとしているその人。
どうやら俺たちの前にやってきた冒険者がこのエルヴィニアに無礼を働いたらしい。
であればその冒険者と同じ種族の俺たちを警戒するのも当たり前か……。
「ではシーナを嫌っているのは何故です?俺たちが会ったときはそのようないたって普通の女性でしたが?」
「そ、それは………。半分八つ当たりみたいなものです……。シーナはこの里で幼少期を過ごし、そのまま王国に出て行ってしまった。ですのでまだ色々と腑に落ちていないんですよ、恥ずかしい話ですが………」
その言葉からは単なる八つ当たりだけでなく、しっかりとシーナを慮る感情が感じられた。どうやら俺たちが少しだけ考えすぎていたようだ。
「ご丁寧にどうもありがとうございました。では俺たちはこれで」
俺は確認したいことを全て聞き終わるとおのままエルヴィニアの中に足を向けた。その後ろからアリエスたちも追随してくる。
「冒険者の方が暴れたと言っておりましたが何かあったんでしょうか?」
エリアが心配そうな顔で俺に問いかけてくる。
「まあ何かはあったんだろうな。とはいえ俺たちもいずれそのルルンさんに会いに行くんだ。覚悟はしておいたほうがいいだろう」
俺はそうエリアに返答すると、あらためてこのエルヴィニア内を観察してみた。
一番初めに目に留まるのはやはり、中央に聳え立つ大きな白い大樹であろう。その幹や葉からはどういう仕組みかはわからないが、光が漏れ出しており、幻想的な雰囲気を醸し出している。またなにやら木の実のようなものも生っているようで。カラフルな色も俺の目には映っていた。
そして住宅街。
王国ではレンガや石造りが多かったがこの里ではほぼ全て木造住宅であり、温かみのある外装になっていた。
道を照らし出す街灯は火ではなく、光る輝石を使用しているようで、全体的に柔らかな明かりとなっているようだ。
またさすがに秘境ということだけあってさほど人の姿は見受けられない。
時刻は午後四時。
まだ日は沈んでいないが、それでもそろそろ急いだほうがいいだろうと思い、俺たちは以前から決めていた目的地を目指す。
「よし、とりあえずは冒険者ギルドでエリアの冒険者登録をしよう。その後にハルカの家に行こう」
「「「「「了解!」です!」です……!」しました!」だ」
ということで俺たちは冒険者ギルドを目指す。なんでも関所前に置かれていた里の案内図によれば、このエルヴィニアの東側にギルドはあるらしく、徒歩十分くらいでついてしまうようだ。
エルヴィニアはどうやら完全な正円上の形をしており、その中央にはあの巨大な大樹が立っている。
間違いなくあの大樹にはなにかあるな、と俺は考えながら足をギルドに進ませた。敷地面積的にはルモス村よりも遥かに大きいのだが、人口はさほどでもないらしく、通り過ぎる人の数は意外と少ない。
そしてとうとう俺たちは冒険者ギルドに到着する。
その外装は今まで見てきたどの冒険者ギルドよりも綺麗で、手入れが行き渡っていた。このギルドも木造のようで、敷き詰められている木材は全て白塗りであり清潔感を感じさせる。
俺たちはその外見に目を奪われながらもそのギルドに入った。そこには冒険者らしき人達は殆どおらず、依頼板にもまったくと言っていいほど依頼が張られていなかった。
おいおい、これでギルドは運営できるのか?
赤字でつぶれました、なんてことになったら洒落にならないぞ。
と思いながらも三つしかない受付に俺は向かう。そこには銀髪のエルフのお姉さんが立っており今か今かと冒険者を待ち構えていた。
「あの、すみません。冒険者登録したいんですけどいいですか・」
「はい、構いませんよ。どなたでしょうか?」
と言われたので、エリアが前に出る。ここからは完全にエリアの仕事なので俺たちはその場から離れスカスカになっている依頼板を眺めていた。
「とても少ないですね………」
「ああ、それにどれも低ランクの依頼ばかりだ」
「まあキラからすればどれも低ランクなのかもしれないけど、確かにあんまり高ランクの依頼はないね」
シル、キラ、アリエスの順に率直な感想をぶつけていく。まあ確かに俺の目から見ても低ランクのものが多かった。
秘境であるがゆえにあまり魔物も事件も起きないのかもしれないが、本当に目を疑うほどその数が少ない。あのシルヴィニクス王国のギルドが異常だったのかもしれないが、それにしても平和すぎるな……。
いや平和なのはいいことなんだよ?
一番いいのはこの世界から困ることが消えるのがことだし、めでたいことなんだけど、このままではギルドも冒険者も破産しそうな勢いである。
俺たちはそのまま依頼板をまじまじと見ながらエリアの登録が終わるのを待った。すると十分ぐらい後にエリアが顔に満面の笑みを浮かべながらこちらにやってきた。
「エリア姉、登録終わった?」
「ええ終わりました!見てくださいこの冒険者カード!ついに私も冒険者です!」
と俺の目の前にその真新しいカードを見せ付けてくるエリア。
「あ、ああ。よかったな」
俺はそう返事をするとそのまま冒険者ギルドを後にした。なにか依頼があれば受けようかとも思っていたのだが、あまりにもその依頼が少なすぎるので今回は止めることにしたのだ。
本当に依頼を受けたい人の邪魔をするのも悪いしね。
というわけで俺たちはギルドを出て次の目的地であるハルカの家を目指す。
その道中、エリアが何か思い出したかのように話し出した。
「あ、そういえばなんですけど、先程のギルド、やけに依頼が少なかったじゃないですか?あれには原因があるらしいですよ?」
「「「「「原因?」」」」」
俺たちは一斉にハテナマークを浮かべる。
あのどうしようもなく無残な状況に原因があるのか。
「なんでも一週間ほど前まで滞在していたSSSランク冒険者がほぼ全ての依頼を達成していったようなんです。そのせいで今ギルドにはほとんど依頼が来ないらしくて……」
なんとも迷惑なSSSランク冒険者だ。SSSランクであるならもう少しだけ自重しろよ…………。
俺たちはそのエリアの話を聞き終わると、なにやらまったく関係ない雑談をしながらハルカの家を目指した。それは好きな食べ物は?とか、自分の趣味は?とか、自分の武勇伝とか、まあ緊張感のない話だがこれも悪くないと思う。
なかでもキラの趣味が物書きだったことに関しては皆で笑い合い賑やかなムードになった。キラ自身は何がおかしいのかわかっていなかったようだが………。
いやだって精霊女王が物書きだぜ?
ちなみに特段物書きを馬鹿にするわけではない。断じて。
だが精霊女王と物書きというギャップがおかしかっただけである。
そんなこんなで俺たちはようやくハルカの家らしき場所にたどり着いた。
だがそこで俺たちはまたもや呆けることとなる。
「いや、いくらなんでもこれは大きすぎやしないか?」
そう俺たちの目の前に立つ屋敷は、アリエスの実家である貴族の屋敷の約三倍ほどあったのだ。
とんでもないお姫様じゃないかよ、と俺は心の中で呟いたのだった。
なかなか物語が進みません!
ですがもう少しであのシーナの師匠が出てきますの少々お待ちください!
誤字、脱字がありましたらお教えください!