第七十七話 スライム退治、そして到着
今回はスライムを退治します!
では第七十七話です!
アリエスが偶然作動させた罠は巨大な魔方陣を描き、森の奥底から大量のスライムたちを出現させた。
それは大小色々なサイズ、色々なカラーで見た目だけならわりと綺麗だった。
だがスライムとはいえこの量、何が起きるかわからない。
俺はそう思うと咄嗟に蔵からリーザグラムを出す。今回は二刀流で行かなければ手数が追いつかないだろう。それにリーザグラムであればどんな能力だろうと叩ききることが出来る。これは大きなアドバンテージだ。
「来るぞ!」
俺は全員にそう声をかけ戦闘態勢に入る。リーザグラムを中段、エルテナを上段に構えスライムを迎え撃つ。
アリエスは魔本を開き、エリアは魔力を練成し、シラとシルは短剣を構え、クビロはアリエスの頭の上でずっとそのスライムたちの行動を観察する。
で、キラはというと空中に浮きながら、明らかに嫌そうな表情しながら根源の証を発動いていた。
「あ、あれ?き、キラ?そ、そこまでやらなくても……」
すると音が鳴りそうなほどキラは目を見開くと、怒鳴るような口調で俺に語りかけた。
「ぬるい、ぬるいぞマスター!!やつらは執着に人の体に纏わりついてくるのだ!被害が広がる前に殲滅する!」
あ、はい。
そ、そうなんですか……。
その瞬間キラの魔力が爆発する。
「根源の起爆!」
それは目の前に迫るスライムたちをいとも簡単に焼き尽くし、蒸発させた。それはもう圧倒的な火力で、何百体といたスライムを吹き飛ばす。
しかし。
「チィ!これだからスライムは!!」
キラの言葉にはまだ警戒の色が残っていた。
それは蒸発したはずのスライムが徐々に形を整え再生しているのだ。まさかあのキラの攻撃を受けてなおも絶命していないことには驚いたが、それよりもこのスライムたちの特性と言うか弱点に俺はその瞬間気づいた。
「なるほど、体内の核ごと吹き飛ばさないといけないのか」
「そういうことだ。ゆえに戦闘能力は低くても厄介な魔物なのだ。それにあの体にくっついてくる感覚、気持ち悪いどころの話ではない!吐き気がする!」
あー、だからずっと空中に浮いてるんですね………。
よほど嫌な思い出でもあるのか?
と俺は考えていたのだが、どうやら先程のキラの攻撃から大分復活してきているようで、俺はまだキラの攻撃の余韻が残っているうちに攻撃することにした。
「はああああ!」
スライムの核の位置は気配探知を発動していれば直ぐに掴むことができたので、俺は二本の長剣を流れるように振るい殲滅していく。そのスライムの残骸の様なものが体に付着しそうになるが、全て気配創造でエネルギーに変えてしまっているので跡形もなく消え去った。
キラはその後ずっと空中に浮かびながら根源の証を俺たちに当たらないように打ち続けている。
アリエスたちも出来るだけスライムの核を狙うように攻撃しているようだ。特にエリアは美しいほどの剣捌きでスライムたちを圧倒しており、力の差を見せ付けており、スライムたちは無残にも吹き飛ばされている。
俺は二本の剣をさらに加速させながら振るい次々とスライムたちの命を消していく。
思えば元の世界のゲームで戦ったスライムはここまで強くというか厄介ではなかったな、と思考を巡らせつつ動き回る。
だって、スライムだぜ?
全魔物中、最弱の地位にいるやつらだ。そんな奴らに苦戦するのはゲームの序盤の序盤なわけで、今の俺たちのようにある程度仲間を集めた状態で苦労するはずはないのだが、現実は甘くはないようだ。
とはいえ軽い運動になるかな?と安易な考えのまま斬り続ける。
しかし、その瞬間思いもよらない悲鳴が俺の背後から聞こえてきた。
「な、なにこれ!?体にくっ付いてくる!?」
見ればアリエスの体に青色のスライムが数匹纏わりついていた。これがどこかの漫画のちょっと卑猥なシーンであれば何もせず見ているのだが、アリエスは俺たちの大切な仲間である。であればそのアリエスに手を出すやつなど許すはずがない。
「吹き飛べ下郎」
俺は先程からためてあった気配創造の力を解放し無数の刃でアリエスの体についているスライムを吹き飛ばす。
「あ、ありがとうハクにぃ!」
俺はそのアリエスに軽く手をあげて反応すると、すぐさまスライムの群れに飛び掛る。
だがまたしても悲鳴が上がる。
「きゃあああ!ちょ、なにするのよ!」
「…………き、気持ち悪い」
「ぐう、このぉ!どこ触ってるんですか!」
振り返ればシラやシル、エリアもそのスライムたちに纏わり疲れていた。
いや、これはある意味眼福………じゃない!
そんなわけのわからない思考をゴミ箱の奥底に沈めシュレッダーで粉砕した後、俺はすかさずシラたちの助けに入る。
「くたばりやがれ!」
俺の剣はものの見事にスライムの核を叩き、次々とスライムを打ち滅ぼす。正直言ってスライムを切る感覚というのは好ましいものではなく、どちらかといえば弾力に富んであり、斬りにくい事この上なかった。
「ありがとうございますハク様」
「ありがとうございますハク様………」
「助かりました!」
三人をほぼ同時に解放すると、俺は今度こそスライムの群れを殲滅させる。
だがここでもまたもや邪魔が入る。
ドゴオオオっという轟音と共に地面が割れなにやら透明の触手みたいなものが出現した。
それはすぐさまアリエスたちの体に巻きつき拘束する。
「「「「「きゃああああああ!!!」」」」」
その中にはばっちりキラも含まれており、空中に浮いているところを巨大な触手に掴まれたようだ。しかもどうやらこの触手はスライムらしく、本体がどこにいるのかわからない以上攻撃できない。
「く、くそ!」
俺はどうすればいいかわからなくなっていた。
気配創造で全ての気配を吸い尽くすか?
それとも十二階神の力でごり押すか?
いやいや、それではアリエスたちにも被害が出る。
それじゃあ神妃化か?
いやだめだ。あれこそ冗談じゃないくらいの被害と言うか惨劇が生まれてしまう。
ならどうする?
「は、ハクにぃ!早くたすけてええええ!」
アリエスが必死にそう泣き叫ぶ。
くそ!こうなったらある程度の糾弾は覚悟で地面にいる本体を全力でたたくか!
俺がそう早まった考えをしていたそのとき。
アリエスの頭上から莫大な気配が現れた。
それは黒く長い体を持つもので、気配だけならば神核にも匹敵する強さを秘めていた。
『いい加減にするのじゃああああ!』
その気配の正体である地の土地神、つまりクビロは一気に元の姿に戻り樹界の木々を張り倒して雄たけびを上げた。
その圧倒的な存在感に、俺やキラさえも一瞬たじろぎ、見とれてしまう。
『貴様らスライム如きが、わしらに何を無粋な真似をしよるか!!!万死に値するぞ!』
それはかつて地上生物の頂点に君臨した、大蛇が発する言葉であり、こと魔物に限って言えばキラよりも影響力があるようだ。
その言葉を聞いたスライムたちは一瞬で体を震わせ、森の奥に戻っていく。またアリエスたちを拘束していた巨大なスライムの触手であろうものもすぐさまアリエスたちを解放し地面の中に戻っていった。
俺はその光景をただ呆然と眺めていたのだが、俺はよくわからない苦笑を浮かべるとクビロの顔の前まで移動し、その頭を撫でながら素直に感謝を述べた。
「助かったよクビロ。さすが地の土地神だな。恐れ入ったぜ」
するとクビロは珍しく照れたような表情を見せ、俺に返答してきた。
『まあ当然じゃ。アリエスたちがあんな目にあっているのに黙っておれるわけがなかろう』
するとクビロはその瞬間、いつもの二頭身の体に戻り、俺の頭の上に着地した。
で、無事にスライムの触手から解放されたアリエスたちが俺の元に戻ってきた。
「クビロ!ありがとう!すっごい格好よかったよ!」
アリエスはそう言うと俺の頭からクビロを取り上げ自分の胸に抱きしめた。どうやらそれはクビロも満更ではないようで嬉しそうにしている。
「クビロが地の土地神であることは知ってはいましたけれど、まさかこれほどの存在だったのですね。わたし、感激いたしました!」
「うむ、妾ほどではないが、かなりの存在だな。今回は助かったぞ」
とエリアとキラが賞賛の声をあげる。
「さすがはクビロですね。助かりました」
「ありがとう………。クビロ」
シラとシルもどこかホッとしたような表情を浮かべている。
俺はその光景に満足しつつ、クビロに心の中でもう一度礼を言うとリーザグラムを蔵の中にしまった。
今回のMVPはクビロに決定だな、と俺は考えながら樹界に足を進めたのだった。
それから三時間ほど経過した。
そこはようやく日の光が入り始め、道も大分開け始めていた。
そろそろエルヴィニア秘境に着くのだろう。俺は半ばその確信を持ちながら道を歩く。
ここに至るまでにあのスライム事件の後も数々の罠が仕掛けられていた。だがまあそれは全て発動してしまっても、俺とキラ、クビロがそれぞれ殲滅していったので特段障害にはならなかった。
とはいえ精神的負担はかなりのものになったが。
常にどこからか狙われている、というのは人間にとってかなりの負担になるようで、俺はまだいいにしてもアリエスやシルには明らかに疲労の色が浮かんでいる。
さらにここは樹界の中。
道は舗装されているわけではなく、足場も悪い。それは少しずつだがパーティーメンバー全員の体力を奪っていった。
とはいえ、既に日の光が見え始めている。
もう一キロもないぐらいの距離でつくだろうと俺は考え、気配探知を発動させた。
するとやはりここから一キロ付近に大量の反応が確認できた。それは魔物ではなく確実に人の気配。
俺はその反応に心底安心すると歩くスピードを少しだけ速めた。
しばらくするとそこは完全にいつものような山道に姿を変え、神聖な空気感と共に俺たちを癒してくる。
「や、やっとつく………の?」
とアリエスが息切れ切れになりながら俺のローブを引っ張ってくる。
「ああ、どうやらそのようだ」
するとそこには森を大きく切り取ったような城壁が出現し俺たちの目にその光景を焼き付ける。
「あれがエルヴィニア秘境か……」
その様子は、中央に大きな白い大木がそそり立っており、その周りを取り囲むようにして住宅街が広がっていた。その場所は太陽からの恩恵を一番受けているような場所で、降り注ぐ日の光が生い茂る木々に反射して光輝いている。
規模的には、ルモス村とシルヴィニクス王国の間くらいだろうか。それでも十分に大きく相当な人数の人が住んでいることが伺えた。
俺はその秘境の入り口である門の様なところを見つけそこに足を向かわせる。
「それじゃあ、いくか!」
と俺はパーティーメンバーに声をかけその場所に駆け寄るのだった。
そして俺たちの到着をかわきりに、ここエルヴィニア秘境で起きる事件が幕を開ける。
次回はようやくエルヴィニア秘境に入ります!
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