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第七十五話 樹界の中で

今回はなかなか変な面子が色々と登場します!

それとほんの少しだけ十二階神にも触れますよ!

では第七十五話です!

 シルヴィニクス王国を旅立ってから三日が立った今日。

 俺たちはついにエルヴィニア秘境の入り口である「樹界」の目の前に到着していた。

 そこは圧倒的な存在感を放っており、うじゃうじゃと樹木が生い茂っている。さらにその中からは膨大な数の魔力が感じられ、入る前から明らかに罠の匂いが充満していた。

 とはいえここまで来てしまった以上引き返すこともできない。

 俺たちはできるだけ慎重にその中に足を踏み入れた。


「ね、ねえ………ハクにぃ?な、なんだか、不気味な感じがするよ?」


 アリエスがそう怯えながら俺に問いかけてきた。俺はとりあえず震えるアリエスの手を握り、アリエスを落ち着かせる。確かにそう思うのも当然でこの樹界という場所はほとんど日が入ってこず、さらに湿気も多い。

 もはや人間が長い間住める環境ではないのではないかと思うほどだ。そのためかどうやら強力な魔物が蔓延っているようで、俺の気配探知にすでに多くの反応が捉えられていた。


「キラ、周囲の魔物や危険物の処理は頼んだぞ」


 俺はこの中では一番力を持っているであろう契約精霊に声をかける。


「任せておけ。………だが妙だな、魔力の流れはあるのだが、その力場が安定していない。精霊もいるわけではないし、何がここまでこの空間を歪ませている?」


 それは俺も感じていたことだ。

 明らかにこの力の乱れはおかしい。それはまるで強力な存在によって無理やり捻じ曲げられているかのように安定していなかった。

 俺はできるだけ周囲に警戒しながら足を進めた。

 だがその瞬間、先頭を進んでいたキラの足元が、いきなりバカリと音を立てて割れ、なくなった。


「うおわあ!?」


 キラにしては珍しく慌てておりすぐさま空中に浮かび上がる。するとその落とし穴もどきは跡形もなく修復されており、もとの地面に戻っている。


「こ、これは………なんとも古典的な……」


 落とし穴なんて、ダンジョンのような、いわゆるテンプレというようなところに設置されているのがセオリーであり、こんなジャングルのど真ん中のようなところに置くようなものではない。

 だが設置者は何を思ったかその典型を崩し、罠としてこの落とし穴を設置してきたようだ。

 しかし昔から落とし穴というのはタネが割れてしまえばいくらでも対策できるものであり、よーく目を凝らしてみると、ここから約五メートル間隔で多くの落とし穴が設置されていることが見て取れた。


「ぐっ!妾ともあろうものが、こんな陳腐な愚策に嵌ってしまうとは!………もういい、ここら一体の罠を全て消し飛ばしてやる、いいなマスター!」


「あ、はい………。ど、どうぞ……」


 どうやらキラは自分のプライドが傷つけられたと思っているらしく、ひどく激昂していた。

 まあ仮にも精霊女王ともあろう存在が、たかが落とし穴に嵌りかけた、なんて事実はどうしても認めたくないようだ。


「くだばるがいい、人の業!!!」


 瞬間、キラを中心に莫大な魔力が集結する。それは世界の原初の因子をかき集め、根源を呼び起こす。

 キラの右手にはなにやら白い光が集まっており、それはすぐさま樹界に放たれた。

 その光は触れるものを跡形もなく吹き飛ばし、灰に返す。

 と、思ったのだが、さすがは精霊女王。きれいに罠だけを消失させ、力を収める。どうやらキラは世界の恩恵そのものである自然には無闇に攻撃しないようだ。


「ちょっ!キラさすがにそれはやりすぎです!」


 後ろからエリアの声があがる。

 そう、確かにキラは自然には傷つけてないのだが罠が設置されていた場所は自然どころか地面すらも跡形もなく吹き飛び、もはや自然のしの字も感じられなくなってしまっている。


「むう、しかしだな………。これは妾の摂理であって……」


「言い訳無用!」


「は、はい……」


 これまた珍しくキラがエリアに諭されている。これは写真かなにかに収めておいて後でからかってやれたらどんなに楽しいだろう、と俺は無意味な妄想を広げるのだったが、そこで俺はあることに気づいた。


「チッ!どうやら色々とお出ましのようだぜ」


「「え?」」


 キラとエリアは何のことかわからない様子で声を上げるが、俺はもとよりアリエスとシラ、シルの三人も戦闘態勢に入っていた。クビロに至っては全身に魔力を通しており、いつもより真剣になっているようだ。

 すると俺たちを囲むように大量の魔物が姿を現した。それはどれもルモス村にいたような陳腐な雑魚ではなく、どれもBランク以上の魔物でありこの樹界の異様さを体現していた。


「くるぞ!」


 俺はすぐさまエルテナを抜くと、その魔物たちに切りかかった。どうやらキラの魔力に触発された奴らは合計で三百体ほどいるようで、この狭い木々の中戦うのはなかなか骨が折れる作業になった。

 俺はそのままエルテナで交戦し、アリエスは魔本と魔術、エリアは持ち前の片手剣、シラ、シルは俺が前にあげた短剣で、クビロは自慢の影を操る能力で、キラはその威圧だけで各々戦闘を進めた。

 それは一人で狩れば数十分はかかったであろう作業だったが、さすがに七人で同時に戦えば、ほんの数分で片がつき、残っているのは血だらけの死体のみだ。

 だがここで戦闘は終わらない。

 先程から懸念していた、圧倒的存在感を放つ魔物が姿を現した。

 それは鈍いオレンジ色の毛と天に突き刺さるような二本の角、眼光は鋭く牙もとがっている。その魔物は元の世界いうところの鹿に似ており、それをさらに五倍ほど大きくした魔物であった。


「ディスカノトス!?」


 するとなにやらシラが驚きの声を上げる。


「なんなんだそのディスなんとかっていうのは!」


 俺はシラに事の真相を確かめるべく大声を上げた。


「ディスカノトスというのは、古代より生きているかなり強力な魔物だ。だがそれゆえ有名ではあるのだが、まったく人前に姿を現さないことでも名が通っており、本来エルフの森とはいえ、このようなところに現れることのほうがおかしいのだ」


 と、シラの言葉を受け継ぐようにキラが俺に説明してくる。

 ディスカノトス。

 なるほど、確かに強力そうな気配を感じる。だがそれでも今の俺たちの相手ではない。

 俺はそう思い、エルテナを上段に構える。

 しかしそれを阻むようにキラが俺の前に手を差し出す。


「まあ待て。言っただろう、ディスカノトスは本来このような場所にはいるはずがないのだ。であればそれなりの理由があるはずだ」


 キラはそういうと無防備にも単身でディスカノトスに近づいた。だがそのキラの目は完全に精霊の長としての目に切り替わっている。

 するとキラは何やらアイコンタクトでディスカノトスと会話しているようであり、時折表情を激しく変化させた。

 だがその瞬間キラが勢いよく後ろに飛びのいた。


「ッッッ!!!」


「どうした?」


「チッ。どうやら完全に洗脳されているようだ。こちらの話を聞く気配がない。というか会話が繋がらない。これはどうやら戦うしかないようだ」


 キラはそう悔しそうに唇をかむと、そのまま全身に魔力をにじませた。それに呼応するようにアリエスたちも次々に戦闘態勢に入る。

 で、俺はというとひっそりと気配創造を使用していた。それはディスカノトスに悟らせないまま、気配だけを吸い出す。


「咲け」


 俺は小さな声でそうつぶやくと、ディスカノトス含め周囲の色々なものから集めた気配と形にする。それは見る見るうちに形を成していき最終的には。


「こ、これは………ま、魔族か?」


 キラが驚きの声を上げる。

 だがそのキラの答えは不正解だ。俺の記憶の中には魔族なんてものは詳細に記憶されていないし、そもそも見かけたことはあれど触れたことも喋ったこともないのだ。そんなものを作り出せるはずがない。

 その見た目は一見すれば魔族のようにも見えなくもないが、それは俺たちの世界でいうところの悪魔であり、同時に守護天使としての役割を担っているものでもあった。


『ほう、また珍しいものを作り出したのう主様?そんな文献の奥底に埋もれておるような悪魔を生成するとは、なにか策でもあるのかのう?』


「いやまったく。なんとなく巨大なものには巨大なものをぶつけてみたくなっただけだよ!」


 俺はそう言うと、その悪魔をディスカノトスに突撃させた。


「ギュガアアアアアアアアアアアア!!」


 その悪魔は一直線にディスカノトスに向かっていき、尖った角を両手でつかみ背負い投げた。

 完全な肉体戦。たまにはこういう戦いも悪くないだろうと思い創造したのだが、思いがけないほど迫力があるな、これは。

 というのもこの元ネタである悪魔は、あの十二階神の一角、序列第三位、大悪魔サタンの手下のようなものであり、本来このような脳筋スタイルで戦うようなやつではないのだが、俺はその容姿だけを少しだけ拝借して性能を多少改造したのだ。

 いや、こういうのって男子心をくすぐるよね。

 もともと弱かったやつを超強力にするのって。

 RPGとかで弱いモンスターを出来るだけ強く育てようと、無理な縛りをいれてみたり。そういうの好きでしょ?男子諸君?

 まあ俺もそういう男子なので少し遊んで見たのだ。

 というわけで、オリジナルより大分戦闘スタイルが変わり強化された悪魔は、そのままディスカノトスの足をたたき折り地面にたたきつけた。


「ギュウウウウウ………」


 ディスカノトスが苦悶の表情を表す。


「おい、キラ。そろそろ洗脳は解けてないか?」


 俺は作り出した悪魔を、一瞬で消滅させるとキラにそう問いかけた。


「まったくマスターはどれだけ人間の道から外れれば気が済むのやら………。そうだな、話しかけてみる」


 キラが再びディスカノトスに会話を試みる。

 その間に、悪魔とディスカノトスの戦闘を見守っていたアリエスたちが近寄ってくる。


「ね、ねえハクにぃ?あ、あの気持ち悪い魔族みたいなのなに………?」


 すると皆アリエスの言葉に頷くように、賛同の意を示した。


「うん?あれは俺が適当に作り出した悪魔だ。そんなに気持ち悪かったか?」


「「「「気持ち悪いよ!!!」です!」です………」です!」


 俺がそう問いかけると全員の言葉が一致して帰ってきた。

 うーんどうやら、アリエスたちにはあの悪魔は合わなかったようだ。今後は作り出すにしても違うものにしよう。

 俺はそう心に固く誓い、自分が生み出した悪魔に別れを告げた。その瞬間悪魔が悲しそうな表情していそうに感じてしまった。

 すまない、悪魔よ。

 するとキラが俺たちの元に戻ってきた。


「ふーむ………」


「どうした?」


「いや、ディスカノトスとは無事に話をすることができたのだが、なんというか微妙な回答しか返ってこなかった」


「微妙な回答?」


「うむ、どうやら人型のなにかに操られたらしいのだ。意識が失われる直前、その景色だけが脳裏に焼き付いていたらしい」


 人型の何か?

「は?どういうことだ?」


 なんだそれ?

 俺たちは一斉に首をかしげ、頭に疑問符を浮かべた。






「それと、どうやらその者は、なにやら血の匂いがしたらしい」


 キラがそう言葉にした瞬間、どこかで何かが動く音がした。

 それはディスカノトスではなく魔物でもない。

 

 俺は無意識のうちにその存在を追いかけていた。

 



 そしてその者の正体を知ったことで俺の旅は再び動き出す。

 だがそれはまだもう少し先の話であった。 


次回はディスカノトスを操っていた人物との邂逅です!

さらっと十二階神の一人を解禁しましたが、またあの十二階神はいずれ本格的に触れますのでご心配なく!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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