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第七十二話 長い一日の終焉

今回で第二章のほぼ全てのお話が終了します!

では第七十二話です!

「そ、それは一体どういうことですか?」


 俺はアトラス国王が言ったことがいまいち理解できず、もう一度問いかけていた。


「エルフの秘境にあるダンジョンには入れないということだ。まあ、完全にゼロというわけではないが、それでも相当厳しいものになるだろう。詳しくはシーナに聞くといい。私が話すよりも、ずっと詳しく説明してくれるだろう」


 ………なんだその意味深な対応は。

 ここまで順調とまではいかないまでもそれなりに進んできていたが、次はもはやダンジョンにも挑ませてくれないとは………。

 これは対策をたててどうにかなる問題なのか?

 俺はそのアトラス王の言葉に首を捻らせながら、どうすればいいか考えていると、アトラス王がさらに口を開いた。


「それと、もう一つ言伝を預かっている」


「はい?」


 言伝?

 なんだろう?俺なんかに何か伝えることがある奴なんていたっけ?


「ラオ=ヴァビロン君からだ。なんでも君にSSSランク冒険者の地位を譲るらしい」

 ……………。

 な、なんですとおおおおおおお!?


「SSSランク冒険者は完全な序列制だ。本来なら順当にSSランクに昇格し、新しく六番目のSSSランク冒険者になるはずなのだが、君は魔武道祭でラオ君を完膚なきまでに倒した。もちろんたかが一回の戦闘だけでSSSランク冒険者を辞める必要はないのだが、これはラオ君きってのお願いでね。なんでも自分より遥かに強い師匠がSランクなんかにいるのはおかしい、ということらしい。とはいえそう簡単にSランクからSSSランクには昇格できない。よってラオ君は自らの地位を君に明け渡したということだ。つまり君は今日からSSSランク序列三位の冒険者となる」


「は、はあ………」


 ラオの奴、最後の最後にとんでもない爆弾を置いていきやがったな!

 正直って俺は冒険者ランクに関してはまったく興味がない。確かにランクが高ければ高いほど優遇されることもあるだろうが、俺はそれよりも極普通な冒険者ライフを送りたかったのだ。

 だがそれも今日で完全におさらばか…………トホホ。


「やったね!ハクにぃ!SSSランク冒険者だって!凄いよ!」


「さすがですハク様!」


「おめでとうございます…………ハク様………!」


「どこまでも強くなってしまいますのねハク様は!私も負けてられません!ハク様の隣に立つために!」


「むう。そのSSSランク?がどれだけ凄いのかはわからんが、とりあえず当然だな、マスター!」


 アリエス、シラ、シル、エリア、キラがそれぞれ俺に賞賛の声をくれる。それに反して俺の心はブルーであり、そのアンバランスな心理状態からか、俺は喜んでいいのか悲しむべきなのか判断できなかった。


「SSSランク冒険者になると年に一度だけ、各SSSランク冒険者たちの集会が開かれる。今年はまだだからもう少しで連絡が入るはずだ。それに今年は開催地が学園王国だ。もいかすればそなた達が学園王国に着くころに丁度開催されるかもしれん」


 集会。

 それはまたなんとも大変そうな言葉だ。基本的に俺は自称コミュ障であり、人と接するのがあまり得意ではない。よってその集会というやつも出来れば出たくないのだが、これは避けられそうにない。


「わ、わかりました………」


「うむ。これで話は以上だ。改めて礼を言うぞ。ハク君、今回は我が国を救ってくれて感謝する」


 アトラス国王はそう言うと俺たちに向かって頭を下げてきた。普通なら国王が頭を一般人に頭を下げることなどありえないことではあるが、今回は俺も色々動き回った自覚があるし、それは素直に受け取っておいた。

 俺たちはそのまま国王に背を向けると早足で謁見の間を後にした。その直前にアトラス国王が、「シーナは冒険者ギルドにいる。そこで冒険者カードも更新するといい」と口にしたので、次の目的地はとりあえず冒険者ギルドだ。

 俺は部屋を出る直前に、今日の出来事を振り返ってみたのだが、その想像以上に濃密なスケジュールに明日は絶対に休もう、と心に刻み王城を後にしたのだった。







 日は完全に沈み、午後七時。

 俺たちはシーナに会うために冒険者ギルドに訪れていた。そこは魔武道祭が終了したと言うこともあり、普段より多くの冒険者の姿があった。活気と言うか皆の目には明らかな闘志が宿っている。どうやら俺やエリアの戦いに火をつけられたらしい。

 まあ冒険者ギルドとしては願ってもないことだろうし、いい傾向にあるのでないかと思う。

 俺たちはその数多くの冒険者が踏みつけたであろうギルドの扉を潜り、室内に入る。

 その瞬間俺たちに全冒険者の目線が集められた。その様子はどこかの有名芸能人のようで、俺でさえ一瞬だけたじろいでしまった。

 だがそれすぐさま、冒険者の活力となり依頼書に向けられる。

 これは、本当にいい起爆剤になったかな?

 と俺は内心思い、シーナの姿を探した。

 するとシーナはテーブル席の一番端、それも一番目立たないところに佇んでいた。それは特段近寄りがたいオーラを放っているわけではなく、意図的にその空間に溶け込んでいるようだ。

 俺たちは冒険者カードの更新の前にシーナに近づいた。


「よう、シーナ」


「ん?………ああ、君か。どうやら無事に帰ってきたみたいだな。…………人数が見ないうちに増えているようだが、そちらの女性は?」


 そう聞かれたので俺はシーナにもことの顛末をゆっくりと話した。その見知らぬ女性が精霊女王キラであることを知ったときのシーナの顔はなかなか見られないくらい慌てふためいていたのだった。







「なるほど。で、エルヴィニアに行きたいからその情報を教えてほしいと。そういうことだな?」


「ああ」


 俺は力強く頷く。

 するとシーナは半ばため息混じりにエルヴィニア秘境について語りだした。


「エルヴィニアは森の奥深くに位置しているエルフの里だ。エルフは今は人族と友好的になったが、昔はかなり好戦的でな。出会ったら最後命はない、とまで言われたのだ。そしてその名残かはわからないが、そのエルヴィニアに続く森の中には数多くの罠というか魔術が仕掛けられている。大概の冒険者はこの魔術によってエルヴィニアに行くのを諦めてしまうのだ。とは言うもののエルヴィニア自体は別に鎖国をしているわけではないから、到着さえしてしまえば問題なく里には入れるはずだ」


 シーナの罠という言葉に、アリエスとシラ、シルが一瞬ビクッと体を震わせ顔を青く染めている。おそらく第一ダンジョンの大量の罠がいまだにトラウマになっているのだろう。

 確かにあれは俺でも堪えたからな………。できればあれと同じようなものは勘弁してほしいものだ。


「なるほどな。それじゃあ国王が言っていたダンジョンに入れないって言うのは?」


 俺がその言葉を発した瞬間、シーナの顔が憎しみと言うよりは羞恥を隠すようなくらい表情へと変わった。


「そ、それはな………。まあなんというか、実は私の剣の師匠がエルヴィニアにはいるのだが、その人に認めてもらわなければダンジョンに入れないのだ」


「へ?」


 なんか今もの凄い情報が飛び出た気がするんですけど!?

 キラを除くメンバーが一瞬呆けた表情になる。


「あ、あの、シーナ?あなたはもしかしてエルヴィニア秘境出身なのですか?」


 とおそるおそるエリアがシーナに質問する。剣の師匠と言ってもシーナはまだ十九歳だ。近衛騎士団の団中になったのが三年前であることから考えてみると、シーナの故郷がエルヴィニアでなければ年齢的におかしなこととなる。


「ま、まあそういうことになります。私は幼いころに両親に捨てられ、路頭に迷っていたところを私の師匠であるエルフに拾われたのだ。ゆえに私はこの国に来るまではエルヴィニアにいたことになる」


 こ、これはまた、暗い過去をお持ちですね………。


「今となっては捨てられたことなど、どうでもいいが、今の私があるのはそのエルフの師匠のおかげと言うことだ。で、私もエルヴィニアにいるときは何度もダンジョンに入ろうとしたのだが、全て駄目だった」


「そんなにその師匠は強いのか?」


「まあそれもあるが、今の君ならまったく問題なく倒せるだろう。私はおそらくまだ無理だが………。しかしそれよりも問題なのが、その後だ」


「その後?」


「まあこれは自分で行って確かめるといい。なにせ受けるたびに違う注文が来る。それは私の口から言っても無駄だろう。………だが強いていうなら、あまり戦闘には直結しないということぐらいだろうか」


「戦闘に直結しないだと?ダンジョンと言うのは魔物が蔓延る場所なのだろう?であれば強さ以外のものを測って何になる?」


 キラが眉間に皺を寄せながらそう呟いた。

 確かにその通りである。ダンジョンは俺たちのような馬鹿げた戦闘力を持っていなければ常に命を賭けながら戦う場所である。そのダンジョンに強さ以外の何を求めると言うのだろうか?


「さあ、それは私にもわからない。私だってその試験を突破したことはないのだから。…………それともし無事にエルヴィニアにたどり着いたら、ルルンという人を探すといい。その人が私の師匠だ。まあ私から言えるのはこれくらいだな」


 シーナは、ふう、と息を吐き出すと予め机に置かれていた水を半分ほど喉に流し込む。

 ルルン。

 俺たちはエルヴィニアに着くとその人物を探さないといけないらしい。しかも単純な強さだけを示すのではなく、また違ったものを見せなければいけないようだ。

 これは問題が山積みだな………。そもそもエルヴィニアまで無事にたどり着けるかもわからないのだ。前途多難である。


「それそうと、冒険者カードの更新をしなくてもいいのか?SSSランクになるのだろう?」


「ああ、そうだった」


 俺は冒険者カードを蔵から取り出すとそれを持ち受付のカウンターに向かった。そこではいつも通りの水色の宝玉が埋めこまれた魔具が置かれており、その魔具に俺は冒険者カードを翳す。

 それは一瞬にして俺の冒険者カードを更新していき、再び俺の手に戻ってきたときにはランクの欄にはSSSと同じ文字が三つ連続して並んでいた。

 俺はその冒険者カードを持ちシーナたちの元に戻ると、そこではなにやら先程の話とは違う話題が飛び交っていた。


「今日は絶対にウルフの焼肉がいいです!」


「いいえ、アリエス。今日はゴブリン肉のシチューのほうがいいわ!」


「姉さん………今、夏ですよ……」


「だめです!ここは高級レストランのディナーフルコースです!私美味しいお店知っているんですから!」


「私は、この前の居酒屋でいいぞ」


『わしは、チーズフォンデュがいいのう。あれは格別じゃ!』


「むう…………。人間の食べ物と言うのは良くわからんな」


「ハクにぃは!」


「何が!」


「いい………!」


『「「ですか!」と思う?」かのう』


 …………。

 何かと思えば今日の夕食の話か………。本当に飯の話になると、みんな人が変わるな………。

 俺は両手を上に上げ、降参のポーズをとると、


「おまかせします」


 と答えたのだった。


 実はこのあと結局シーナの案が採用され以前ギルたちと食べに行った居酒屋まがいの飲食店に行くことになるのだが、そこで意外にも一番食べていたのはエリアであったり、宿に戻ってからは、何食わぬ顔でキラが俺の寝室に侵入してきたりと、本当に色々なことがあった一日だった。

 俺はその疲れに身を任せ、睡魔の誘惑の元、眠りについた。

 また明日になれば考えないといけないことがたくさんある。だから今くらいは少しだけ休もう、と俺はそう思いつつ枕に顔を埋めた。

 



 しかし。



『久しぶりに主様を襲ってみるかのう!』




 という悪魔の囁きが轟き、俺の一日は最後の最後まで気が抜けないものとなったのだった。






 次の目的地はエルヴィニア秘境。

 そこにいたるまでの数日間、俺たちは全力で羽を休めることとなる。

 だが、まだ俺たちはエルヴィニア秘境で待つものの正体を知らない。それが結果的に俺はおろか、パーティーメンバー全員を困らせる事態になるとは知る由もなかった。

 

次回は少しだけ日常パートを書きたいと思います!

この第二章は戦闘が多かったですからね、その分少しだけ羽休めです!

その後からはいよいよ第三章に入ります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


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