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第六話 誤解

第六話です!

 アリエスが指を指した場所は村の門がある五百メートルほど離れたところにある草原だった。そこには三メートルは軽く超えるであろう大きな岩がごろごろ転がっていた。

 なるほど、これなら身を隠すには十分だ。

 して何故こんなところにこれほどの岩が転がっているのだろうか。岩の表面を見てみたところびっしりとコケらしきものが生えている。相当長い年月放置されていたのだろう。

 しかもこの岩。転がっているのではなく地面に突き刺さっている。さながら異世界のストーンヘンジだな、これは。

 と元の世界の超常的遺構に思いをはせていると、そんな俺を不思議に思ったのかアリエスが声をかけてきた。

 

「何見てるの?ハクにぃ?」


「いやなんでもないよ。それより早く村に行こう」


「うん!」


 そう言って俺とアリエスは並んで歩き出した。

 にしてもやっぱりでかいな、この村。上空から見ていたときも思ったが巨大すぎやしませんかね?

 これはあれですか、固定観念ですか?

 元の世界ならば、住居の集まりの規模的に村という単位は最小だったはず。

 俺はそれに縛られてるんですか?いかがです?

 それに目の前に迫っている村の入り口、つまり門だが、なんというかとても豪華だ。見たところ軸はレンガ造りなのだろうが、その周りにはなにやら金らしき金属によって加工が施されている。しかも現在進行形でたくさんの人が出入りしてるし。

 なんか俺、凄い場違いなところに来ちゃったのでは?

 着替えておいて正解だったぜ。あんな貧相な格好で入ろうものなら、住民の訝しげに見つめる視線が俺を貫いていただろう。

 まあそんなこんなで一応門の前に到着。なにやら村に入るには門番の許可を得ないといけないらしい。ますます王国じみてるぜ。

 俺たちは既に入村の許可を得るために並んでいた人たちの後ろに並んだ。見たところ、全体的に商人が多いようだ。馬車の積荷の中には野菜や果物が詰まっている。

 まあどれも見たことないけどね。なんとなくだよ、なんとなく。

 また微弱だが魔力を感じる積荷もあった。おそらくだが魔石か何かだろう。ここまできたらそういうものもあってもおかしくはないはずだ。

 しかもなんか明らかに普通の人じゃない種族が混じってるんだけど!?これがエルフとかドワーフってやつですかね!

 そんなことを思っていると、とうとう俺たちの入村手続きの番がやってきた。仏頂面の門番さんに出来るだけ柔和に話しかける。


「えーっと、観光目的でこの村に来たんですけど入れていただけますか?」


 あえてアリエスの名前を出さずに、無難な理由で問いかけた。アリエスはこの村の出身ということもあって、誘拐されたことは既に話題に上がっているだろう。であればここでアリエスの名前を出せば確実に混乱を招く。俺はそういった面倒ごとはあまり好きではないのだ。

 ということで出来るだけ当たり障り無く入村したかったのだが、


「ふむ、では何か身分を証明出来る物を提示せよ」


「え?」


 な、なにーーーー!?

 身分証だと!?そんなもの持っているはずもない。なにせこちとら異世界に来て二時間なんですよ!そんなやつに身分証を出せというほうが無茶じゃありませんかね?

 と、とにかく、どうするか。もういっそのこと能力使っちまうか?ちょーと幻惑を使ってそれらしいものでも見せるか?うーんでもそれだと後々大変なことになりそうだしな。うーん、どうする、どうする俺!

 するとその様子に痺れを切らしたのか俺の後ろに張り付いていたアリエスが門番さんに向かって話しかけた。


「ねえ門番さん、ハクにぃは悪い人じゃないよ。だから入れてあげて?」


 うわー!マジですか!このタイミングで出てきちゃいますか、アリエスさん!

 くそー。こうなったらまた下手な芝居でもうつか?今度は相手に不快な感情を抱かせないようにしないと………。


「えーと、実はですね、この子を森の中で…」


「アリエス様!」


 え?な、なんだ?

 見れば門番の顔が歓喜に塗れている。

 ん?これはどういうことだ?


「よくぞご無事で!いったいどこに行っておられたのですか!アリエス様が失踪してから三日、領主様も大変心を痛めておりました!」


「えーっとねぇ、実は屋敷から抜け出したときに盗賊に誘拐されて……」


「誘拐!?ま、まさか、その後ろにいるその青年が?おい!至急この者を取り押さえろ!アリエス様を誘拐した張本人だ!」


「ちょっ!そうじゃないよ!ハクにぃは私を助けて……」


「捕らえろー!」


 おいおいおいちょっとまてちょっとまて!いろいろと話が飛躍しすぎてないか、これ!異世界イベントとしてはお決まりだが、冤罪にも程があるぞ!

 するとどこからかものすごいスピードで登場したごっつい体格をした男二人が俺の脇を抱えてどこかに連れて行こうとする。


「待って!ハクにぃは誘拐犯じゃないの!勘違いしないで!」


「なりません、アリエス様!この者はそう言ってアリエス様を騙しているのです。さあ牢獄に連れて行け!」


「御意」


 うーん、どうしよう。この程度のやつらなら、能力を使わずとも返り討ちに出来るが、それではまたアリエスに心配をかけてしまうだろう。

 ならばおとなしくここは従っておくか。いざとなれば牢獄でもなんでもぶち壊して出てくればいいし。

 俺は連れていかれる直前、アリエスのほうに首を傾け、声は出さずに口の形だけで言葉を紡いだ。


 大丈夫、心配するな、と。


 それを伝え終わると同時に俺の体は巨漢二人に引きずられていった。

 最後に見たアリエスの表情はいつ泣き出してもおかしくないくらい悲しみに満ちていた。







「ここでおとなしくしてろ!」


「っ!」


 そう言われ俺は牢獄の一室に突き飛ばされた。そこには得体の知れない植物を集めて設置されている寝床らしきものと、トイレだけが置いてあるじめじめとした部屋だった。幸い俺は武器を装備していなかったので何も剥ぎ取られはしなかったが、ここでしばらく生活することを考えるとさすがに憂鬱だ。


『まったく、災難なことになったのう主様』


『だな。俺自身も驚きを隠せないよ』


 気配探知で一応ここには誰もいないことは察知済みだが念のためリアとの会話は念話で行う。もしかして俺の知らない盗聴器でも仕掛けられているかもしれないからな。まあないと思うけど。


『してどうするのじゃ主様。このまま囚われたままでいいのか?』


『うーん。今はおとなしくしてようと思う。多分アリエスが誤解を解消してくれると思うし』


『にしても、たかが村娘一人にあれほど必死になるかのう?狂気じみておったぞ、あの衛兵』


『ああ。だがそれは多分説明がつく』


『んどうしてじゃ?』


『あの門番、領主様がどうとか言ってなかったか?これは俺の推測だが、アリエスはこの村においてそこそこ地位の高い家の娘ないし関係者なのだろう。そう考えればあの反応は納得がいく』


『ふむ、なるほどのう。しかし主様を貶める罠という可能性も捨てきれんじゃろう?』


『それだったらこんな回りくどい方法はとらないだろう。大衆の前に犯罪者というレッテルを貼り付けて晒し、社会的地位を潰してしまえばいい』


『むう、もし、の可能性の話じゃが惨い発想をしとるの主様は。さすがの私でも引いてしまうぞ』


『一歩間違えばそういうことをしてきてもおかしくない、俺はこの世界の人間をそう見ている。確かに正義感や倫理観は俺たちよりも強いかもしれない。でもそれは裏を返せばその意志のベクトルが違う方向を向いたときに何をしでかすかわからないということだ。この世界で生きていくうえで、不測の事態につて考えておくことは大切だろう。』


 そう、あの盗賊たちがいい例だ。金がほしいのならアリエスを誘拐した後身代金を要求すれば済む話だ。しかし実際そうはしなかった。より確実に、より安全に、より貪欲にやつらは行動し奴隷商という答えにたどり着いたのだ。

 ゆえにこの世界では自分の常識を捨てなければいけない。真話大戦のときもそうだったが命の価値がもとの世界に比べ著しく低い。そのことを念頭においておかねばもしものときに的確な判断が出来なくなるだろう。


『であれば間違いなく主様は「人殺し」という問題にぶつかるぞ?先程は私が止めたがこれからもしそういう場面に出くわしたらどうするつもりじゃ?』


『それは時と場合によるけど、その「人殺し」が必要な場合ならそれは実行する。でも話し合いで解決できるのなら俺は間違いなくそちらを選ぶ。伊達に神々を屠っちゃいない』


『そうじゃったな。許せ主様、下らぬことを聞いた。にしてもあの衛兵の態度は気に食わんのじゃ!主様になんという無粋な真似を………』


『まあまあ。ただそれでも一つわかったことがある』


『うん?なんじゃそれは?』


『アリエスは愛されていた』


『ッ!』


 俺が牢獄に連れて行かれる直前、門番の奴が叫んだ途端周りにいた商人や住民たちが俺からアリエスを守ろうと立ち上がった。それは単純な正義感ではなく、純粋な愛情からくるものだと俺は感じたのだ。


『はあ……。主様は冷徹なのか、甘いのかよくわからんのじゃ……』


『どっちでもないんだよ、きっと。俺はきっとどっちにもなりきれない半端者だ』


 そしてリアとの会話は途切れた。俺も少し思考をまとめたかったのでちょうどよかった。もしかしたらリアは俺のそんな考えを汲み取ってくれたのかもしれない。




 それから五時間がたった。あれから誰かが来るわけでもなく、リアと喋るわけでもなくただ無音な時間を過ごしていた。

 この異世界に来て思ったこと、これからやることをあらかた頭にまとめたのが約三時間前。

 そしてそれから三時間、ものすごい暇だった。元の世界ならばスマートフォンでゲームなりネットサーフィンなりをいそしんでいるところなのだが、仮に神妃の能力でスマートフォンを作っても電波がない!電波がなければあれはただの光る板でしかないのだ。

 よって暇に暇を重ね、そろそろ居眠りでもしようかなと思っていたところで、なにやら騒がしい音が響いてきた。


「ええい!どけ!はやくここを通せ!」


「し、しかし領主様!やつは誘拐犯ですぞ!」


「そもそもそれが間違っておるのだ!はやくどけ!」


 ん?いきなりどうした?

 もう数秒で眠りに落ちるところだったのだが、その慌しい声で完全に目が覚めた。起き上がり何が起きているのかを確かめようと外に意識を向けると、俺の目の前、もちろん牢屋の柵ごしだが、ものすごいスピードで何かが転がってきた。

 否、転がってきたのではない。ズザザー、という音をたてて地面に頭を付けている。

 そう、いわゆるスライディング土下座というやつだ。

 俺は半ば呆然としていると、


「家の娘を助けていただいて本当にありがとうございました!このような無礼お許しください!!!」


 と、いかにも高そうな服を着ている三十歳そこそこの男性が俺に謝罪していた。


ようやくアリエスの村に着きました!この村ではいろいろなことが起こるので作者自身も楽しみです!

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