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第六十六話 精霊女王キラ

今回は第二ダンジョンを支配していた存在の正体が明らかになります!

では第六十六話です!

 第二ダンジョンの頂上。

 そこには幾重にも群がる、精霊の姿があった。

 おそらく全ての属性の精霊が集中しているだろう。もはや何体いるかも想像できない。


「は、ハクにぃ………。あれって……」


「ああ、おそらく精霊だろうな。にしてもなんて量だ」


 しかもこの一帯はとてつもない気配が充満している。殺気ではない。圧倒的な存在感。

 かつて十二階神に初めて戦いを挑んだときのような緊張感が、今俺に降り注いでいた。

 俺は咄嗟に蔵の中からエルテナを取り出すと、そのまま腰に装着し翼の布(テンジカ)を第二ダンジョンに向け進ませた。

 それは近づけば近づくほど異様な光景だった。

 本来黒く尖った岩山は、大量の精霊達に覆われその材質を見て取ることはできない。さらに大量の精霊達によって魔力の力場がぐちゃぐちゃにかき回されており、もはやどこに魔力の起点があるのかも感じ取ることは出来なかった。

 俺は翼の布(テンジカ)をダンジョンの周りを旋回するように飛ぶと、その入り口を探す。

 入り口は紫色の牙のような岩が何本もそそり立っており、それはまるでダンジョンに挑む冒険者を威嚇するような造りだった。

 しかしその入り口にはその穴を塞いでしまっている精霊が見て取れた。あの状態ではおそらくダンジョンの中はもっとすさまじいことになっているだろう。


「くそ!あの状態だと、中に入ることもできないぞ!」


 俺はそのまま翼の布(テンジカ)を操作し、どこか侵入できる場所を探す。だがそんな場所はどこにもなく、出入り口と思われる場所は全て精霊達が埋め尽くしていた。

 下手にここで攻撃してしまうと、精霊達を刺激してしまい標的は俺たちに向けられる。今回の目的はこの精霊達をどうにかすることではない。

 よってできるだけ被害は最小限にとどめて動きたいのだ。


「ハク様………!上からなら!」


 シルが珍しく大声を上げて俺に問いかける。

 どうやらこの量になってくるとシルやシラにも精霊の姿が見えているようだ。おそらく今ここには世界中の精霊が集まっている。精霊一体だけでも莫大な力を発揮するというのに、この量になってしまえば大陸一つぐらい簡単に壊せそるほどの力を秘めているだろう。そうなれば普段は見えない精霊達であっても、人間側の神経が刺激されて視認できるようになるらしい。


「よし!」


 俺はシルの言葉に従い、翼の布(テンジカ)を第二ダンジョンの上空まで突き上げる。

 風をきり、雲を抜け、気温が急激に下がりだしたが、その場所は数日前に来たときとは姿が一変していた。

 神核がいたであろう、空間にはなにやら緑色の膜のようなものが張られており、精霊達ですらその中に進入することはできていないようだ。

 だがその中には間違いなくあの気配の主がいる。

 かすかに人の様なものがそこにいることは確認できた。


「無理やりだが、このまま突っ込むぞ!」


 俺はそう言うと、神核を倒したあの能力を発動した。


「気配創造」


 今回の標的はあの大量の精霊達だ。緑色の膜に到達しようにもそれを守るかのように精霊達が群がっている。

 俺はその精霊達から気配を吸い取る。そうすれば直接的なダメージを与えず、精霊達を排除することが出来るからだ。

 そのまま気配創造の火力を上昇させる。それはすぐさま気配を吸出し精霊達の存在を薄くしていく。

 その瞬間、ようやく中央の空間への道が開けた。


「今だ!!!」


 俺はその道を真っ直ぐに走りぬけ翼の布(テンジカ)を操作した。目の前には俺の青天膜と同じくらいの強度と思われる障壁が迫っていた。俺はそれに目掛けて蔵から取り出したリーザグラムを解き放つ。


「ぐらああああああああ!!!」


 リーザグラムはその障壁を紙の用に切り裂くと、その余波で回りに群がっていた精霊達を吹き飛ばした。

 そして俺たちはその巨大な気配が佇む空間に降り立つ。その瞬間俺は精霊達が入って来られないように緑色の膜が張っていた同じ場所に青天膜を張りなおす。


「や、やったね、ハクにぃ!」

 アリエスはそう嬉しそうな声をあげるが、俺は既に警戒態勢に入っていた。どうやらそれはクビロとエリアも同じらしくクビロは全身に魔力をみなぎらせ、エリアは腰の片手剣を既に抜いていた。


「あ、あれが神核が言っていたものですか…………?」


 シラがそう恐る恐る俺に聞いてくる。

 だが俺はその問いに答えることが出来ない。なぜなら全身から出る冷や汗が止まらないのだ。背中を舐める悪寒はもはや冷たいという感覚を通り越して痛みに変わり、肌はその圧倒的な気配によりビリビリと震えていた。


 そこには目を閉じて宙に浮いている身長百六十センチくらいの美しすぎる少女が立っていた。身には体を覆っているのか覆っていないのかわからないほど緩やかで長い布が分かれており、頭から伸びる虹色の髪は足よりも長く、その足は何も穿いていない素足だった。

 この気配は正直言って十二階神の十二位の気配よりも遥かに大きい。

 ここに来てこんな化け物と出会うことになるとは………。

 俺は軽く歯軋りをしながらエルテナとリーザグラムを構えた。もちろん気配創造もいつでも使えるようにしている。

 するとその少女は目をゆっくりとあけ静かにこう呟いた。


「誰だ、妾の眠りを妨げる者は………」


 その少女は俺たちにはまるで興味がなさそうに、だがしっかりと目線を合わせそう呟いたのだった。

その目線は合わせた瞬間背筋を凍らせ、息の吸うタイミングされも忘れさせる。

 俺はその威圧に何とか耐えながら、言葉を紡ぐ。


「お前が神核に変わりこのダンジョンを支配しているやつか?」


 その言葉にピクリと眉毛を動かしたその少女は語りだす。


「神核?そのようなものは知らん。妾は偶々眠るのに都合のいい場所を発見したがゆえにここにいるだけよ。それが神核だろうが魔物の住処だろうが関係ない」


 それが道理、と言うような口調でその少女は言葉を発する。その姿は神々しく、まさに神そのもののように感じられた。

 とはいえこちらも絶対最強の神と同化している身。やすやすと引き下がるわけにはいかない。


「…………悪いが、その場所は空けてもらう。そしてお前は元いた場所に帰ってくれ」


 俺がそう言った瞬間、空気が変質した。

 否、殺気が降りかかった。


「きゃあ!?」


 俺を除く全てのパーティーメンバーが地面に倒れ付す。

 殺気だけで事象に干渉できるのか、こいつは!

 するとその女性は明らかに怒っているような口調で話し出した。


「人間風情が笑わせる。妾にこの場所を譲れだと?誰にものを言っているのかわかっているのか?この精霊女王に向かってそのような戯言、通じるはずがない」


 精霊女王!

 こいつは精霊女王なのか!?

 であれ確かにこの大量の精霊たちの出現も頷ける。

 精霊女王キラ。

 これは現在世界に流通しているお金の単位にもなっているくらい有名で、精霊の歴史はこの精霊から始まったといわれるほどだ。存在、能力、容姿など、まったくの情報が不明でその性別が女であることだけが、蔓延と伝えられてきた。

 普通の精霊は大きくても十五センチ程度なのだが、この女王キラは普通の人間並みに大きく、そのことからも存在の強大さが伺える。

 またこのキラからは魔力の波長をほぼ感じない。おそらく七属性、十三分類のどれにも属さない例外であり、規模は神核のそれを越えているようだ。


「ならばなぜお前はこの場所を好む?他にも住みやすい場所はたくさんあっただろう?」


「ぬかせ。精霊の女王たる妾が快適に住める場所など、もはやこの世界には存在していない。世界は濁ったのだ。人類を初め、魔物や神核が好き勝手に軸を回したことでな」


 軸を回した?

 それはどういう意味だ?

 いや、まずは星神との関わりについて確かめないといけない。


「質問を変えるぞ。お前は星神となにか………」


「黙れ。喋りすぎだ、人間。失せよ」


 その瞬間俺の目の前に力の塊が飛んできた。それは匂いも音も形もなく、気配すらほぼ滲ませることなく俺に向かってきた。


「ッッッ!!!!」


 俺は咄嗟リーザグラムでその攻撃を払いのける。

 無事にその攻撃は消失したが、俺の腕は血行の流れが悪くなり痺れてしまった。


「ほう。妾の攻撃を受けてなおも立つか。久しく叩きがいがありそうだな、人間」


「し、質問の続きだ。お前は星神から何か言われていないか?例えば俺を殺すようにとか」


「星神?ハッ!あのような腑抜け話す気にもならん。妾は自分の意思でお前に攻撃をした。ただそれだけだ。あの様な不純物と一緒にするな」


 おいおい、散々な言われようだな、星神。

 だがこれでようやく疑問は解決した。どうやらこの精霊女王キラは星神に操られているわけではなく、自らの意思でこの場所に訪れたらしい。

 であればまだ説得の余地はあるかもしれない。


「もう一度言うぞ!俺たちの望みはお前がこの場から去ることだ!でなければ力ずくで排除する」


 その言葉に、キラは一度だけ目を見開き、先程よりももっと粘着質でどす黒い殺気を俺に打ち付けてきた。


「調子にのるなよ………。そもそもお前達人間がこの世界を腐らせ精霊達の住処を奪い、地獄を与えたのだ。それなのに、妾の場所を譲れだと?その言動、万死に値する!お前が一体何者なのかは知らんが、その神格もろとも砕いてくれる!」


 その言葉と同時に、キラの両手に強大な魔力が練成される。

 それは地を揺らし、空気を震わせ、空間に亀裂を入れた。

 俺は咄嗟に気配創造を発動し、気配の刃を複数作成する。


根源の明かり(フルエテハイトナレ)


 キラの両手から放たれたそれは、虹色の光の渦を形成し周囲のあらゆる物質を飲み込んでいく。その光景はまるで世界が始めて産声をあげたような生々しさが感じられ、美しい光景のはずなのになぜか絶望が込められた気配を感じた。

 俺はその攻撃目掛け作り出した、水色の刃を掃射する。

 その激突は第二神格と戦ったときよりも激しく、全てを砕くような破壊力を持っており俺はその衝撃に身構え、アリエスたちの前に立ち青天膜を展開した。

 均衡は一瞬のうちに崩れ、爆発とともに両者の攻撃は消え去る。


「根源の神秘を打ち消すか………。なるほどこれは口だけの輩ではないようだな」


「そっちこそ、精霊女王っていう称号は伊達じゃないみたいだな」


 俺はアリエスたちを守るように青天膜をもう一度張りなおし、キラの前に進み出た。

 気配創造の力で体を強化し普段では絶対に使わないくらい力のギアを上げ、対峙する。


「人間風情が、少し甘い言葉をかけると直ぐに頭に乗る。これだから劣悪種は嫌いなのだ…………。その愚かな風船のような頭に妾の力を刻み込んでやる」


「いいから速く来い。俺はお前がそこをどかない以上、お前を切る以外に方法はないんだ」


 するとキラはは何かに気づいたように顎を上げると、なにやらいきなり笑い出した。


「ほう、お前、なかなか深い闇を抱えているな。……………決めたぞ。このまま力でお前を叩き折ってもいいが、それでは芸がない。お前のその心の恐怖を煽り出してやるとしよう」


 心の恐怖?

 何を言っているんだこいつは?


「ぐだぐだうるさいやつだな。とっととかかって来いよ」


「フッ、その気概、いつまで保てるか見ものだな。……………では、行こうか記憶の迷宮へ」


 そうキラが言った瞬間、キラを中心に真っ白な光が辺りを包み込んだ。それは俺の体を飲み込み意識ごと消失させたのだった。







 鈴虫の鳴く声が聞こえる。

 先ほどまでの精霊たちの気配はなく、その声も聞こえない。

 俺はゆっくりと目を開く。

 そこは、夜だった。

 ついているのは道に数メートル間隔で置かれた街灯のみで、それは怪しく夜道を照らし出している。

 その横に置かれている自販機は既に売り切れの文字がずらっと並び、金を持っていてもろくなものが買えない状態となっている。

 俺の後ろにいたはずのアリエスたちの姿はなく、目の前にいたはずのキラさえもいなくなっている。

 頭上には満天の星空、空気は都会の排気ガスでよどんでおり、深呼吸さえもしたくないほど淀んでいた。

 俺はこの光景に見覚えがある。

 何度も何度も通った道は、忘れるはがない。


「ま、まさか…………ここは、元の世界か…………?」


 さらに、俺がそう自分の現状に驚いていると、俺の後ろからいきなり声がした。





「あれ、ハクじゃない。こんなところでどうしたの?」




 それは忘れるはずもない長い金髪に空色の瞳、服の上からでもわかる抜群のスタイル。

 そう、俺とともに真話大戦を戦った二妃、アリスの姿だった。


次回はなかなか語られてこなかった真話対戦の一幕が明らかになります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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