第六十話 決勝、二 そして………
今回でエリアとの戦いは終わります!
そして物語は架橋に差し掛かります!
では第六十話です!
「エリア王女のあの考えはおそらく、亡くなった王太后様から来るものだ」
観客席の一角、その先頭でシーナはそう呟いた。
「王太后様?」
アリエスは膝にクビロを抱いたままそう問い返した。
目の前ではフードを外したエリアとエルテナを構えたハクが睨み合っていた。二人とも試合開始の合図を待っているのだ。
「ああ。王太后様はその昔、今のエリア王女のように十八歳になったとき国から決められた相手と結婚させられた。初め乗り気ではなかったらしいが、少しずつ心を開いていき二十歳を越えるころには夫婦円満の家庭を築いたらしい。……………だが、そんなときに事件が起きた」
するとアリエスにどうにかして話しかけようとしていたラオが首をシーナのほうにむけ怪訝な声を上げた。
「事件だと?」
「簡単に言ってしまえば、王太后様の夫、つまり前国王が暗殺されたのだ。これには色々な理由があるが、一番の理由が王妃は強すぎて暗殺が出来なかった、というものだった。当時、王太后様は名の馳せた王国屈指の剣の達人だったのだ。一方前国王は王太后様が引き抜いた貴族の息子。当然戦闘経験はなく暗殺するにはこれほど丁度いい相手はいなかったのだろう。結果的に前国王を殺した暗殺集団は捕らえられたが、肝心の前国王自身は命を落とした。……………それからだ、王太后様がそれを口にするようになったのは」
「それといいますと?」
シラが首をかしげながら尋ねる。
「自分の旦那は最低でも自分より強くなくてはならない。でなければもしものときに自分が身代わりになれないから、と。こう口にするようになったのだ。それは現王妃や二年前結婚した第一王女のオリリア王女、そして特にエリア王女にはしつこく口にしていた。エリア王女は王太后様の血を誰よりも濃く受け継いでいる。私もまさかあれほど剣が使えるとは知らなかったが、あの実力ならば王太后様が口を挿みたくのもわからなくない。私でさえ三年前の団長就任式のときに、そう言われたのだからな」
その話を聞き終わると、アリエスたちは一体どう反応していのかわからず、黙ってしまった。
王太后様の話をずっと聞き続けて成長したエリアがそういう考えの下行動しているのは理解できた。
でもそれは悲しすぎるのではないか?
自分の好きな人を守るために自分が弱くなくてはいけない。そしてもしものときに自分が身代わりになる。そんな未来を想像しながらエリアはあの舞台に立っているのか。
そう考えるとアリエスたちは何も言えなくなってしまった。
ただ唯一、シーナだけは真っ直ぐステージを見つめ、こう呟いたのだ。
「しかし、私はハク君を信じている。きっとエリア王女をその呪縛から解き放ってくれることを。………実際に彼の剣と打ち合ってみてわかったんだ。彼の中にも私達が想像もできないような闇がある。でも彼はそれを受け止め進んでいる。そのハク君ならば、剣を通してエリア王女に語りかけられるはずだ。私はそれに賭けたい」
その言葉を発するシーナの口はわずかに笑っていた。
それを聞いていたアリエスたちは、シーナに同意を示すように軽く頷くとステージに目を向けた。
(ハクにぃ、頑張ってね………)
アリエスはそう心の中で呟くとクビロを胸に抱きかかえるのだった。
「な、なな、な、なんとーーーーーーーーーーー!?フードの女性はこのシルヴィニクス王国第二王女エリルミア=シルヴィニクス様だーーーーーー!?これはさすがにまずいのでは!?……………ん?なになに。これを読めって?…………えーと、なにやら伝達が届きました。このまま試合を続けよ、国王よりぃぃぃぃ!?な、なんですとーーー!ど、どうやら、国王陛下より試合続行のお許しが出たようです!で、では選手紹介に移ります!右コーナーは言わずも知れたSランク冒険者、朱の神ことハク=リアスリオン選手です!準決勝では圧倒的な力量差を見せ付けて、SSSランク冒険者のラオ選手を打ち破っております!!!対する左コーナーは我が王国、第二王女エリルミア=シルヴィニクス様だ!!!エリルミア選手は準決勝ではカリス選手を一方的に叩きのめした、ダークホースです!さてこの戦いはどちらが勝つのか、非常に気になります!!!」
俺はそのアナウンスが流れている間、エリアにどうやって戦おうか考えていた。
エルテナだけの戦闘になれば戦闘モードでない俺がエリアにどこまで着いていけるかわからない。かといって他の力を使うのは気が引ける。
であれば………。
今回はこれに頼るとしよう。
俺はそう思うと自分の目を軽く撫でる。それは青く輝くを放ち、幻想的な雰囲気を醸し出している。本当は使いたくなかったが、他に丁度いい能力がなかったのであきらめるしかない。
向かい合うエリアはいつも所持しているダガーを仕舞い、片手剣一本のスタイルに切り替えていた。本気ということだろう。
そのステージは偉大に音を消し、やがて俺達の息音も聞こえなくなった。
無音の時間が辺りを包む。
「それでは決勝戦開始です!」
瞬間俺とエリアは同時に距離をつめた。それは風と同化し、思考もスパークしたような感覚だった。
エリアは手に持つ片手剣を俺の胴目掛けて切り払ってきた。俺はそれをエルテナで払い避けると、次の攻撃に繋げる。
しかしその攻撃は後一歩のところで阻まれる。
エリアは弾かれた剣を、通常ではありえない速度で引き戻し一撃目と真逆の方向に剣を薙いできた。
それは剣線の最短ルート。
まさに無駄のない一撃。
「ぐっ!?」
俺はそれを体を後ろに倒すことで回避すると、そんまま二回バク宙し、距離を取る。そのまま俺はノータイムで地を蹴りエリアに接近する。
このままではダメだ、と判断した俺は軽い剣技を使うことを決意する。
「はああああああ!」
エルテナは俺の魔力を吸い、赤く光りだす。それはエリスの剣を目掛けて飛び出し、連続十回の攻撃を叩き込む。
これに技名はないが、魔力を剣に通すことで普段より高速の攻撃を可能にするとういうものだ。タイムラグも特段なく、直ぐに攻撃に繋げることもできる。
その攻撃は見事にエリアの剣に命中したが、すぐさま残りの九回の太刀が弾かれる。
な、なんというスピードだ!?
この攻撃に反応してくるなんて……。
速さだけならラオとの戦闘よりも速いぞ!?
俺はそのまま手を緩めず、攻撃を繰り返す。
だがそれは見事にエリアの剣によって阻まれてしまう。俺は一度大きく剣を振り上げ全力で振り下ろした。
エリアはそれを剣を横にして受け止める。瞬間、爆風とともに地面が激しく盛り上がる。
だが俺の攻撃はまだ終わっていない。そのまま体重を後ろに倒し、倒れざまに離れたエリアの剣を右足で蹴り上げた。
さすがにこれにはエリアも予想外だったようで、一瞬だが顔が強張る。
「はあああああ!」
それはエリアの体ごと吹き飛ばし、一度お互い間合いを取り直す。
「さすがです、ハク様。今まで戦ってきたどんな方よりもお強いです」
「俺も驚きだ。こんなにかわいい女の子がこんなにも強いなんて」
「幻滅しましたか?」
「まさか、わくわくするさ!」
俺はそう言葉を投げかけると、再びエリアに向かい走り出した。
瞬間俺は魔眼を発動する。
標的は目の前の地面、そこに爆風を叩き込む。それは会場を包み込むほどの砂煙を巻き上げた。
「ッッッ!?」
エリアが驚いたような声を上げる。
俺はその瞬間、エリアの後ろに回りこみ剣を抜き放つ。これは間違いなく背後をとった。
そう確信しながら俺は切りかかろうとする。
しかしその瞬間、足元の地面がいきなり光りだした。
「氷の地獄」
俺に背を向けたエリアがそう呟くと、その魔法陣は起動する。
「時限式魔術か!?」
俺は急いでその場から離れる。もちろん転移を使ってだ。でなければまともにくらってしまう。
エリアから五十メートルほど離れたところに俺は転移すると、エルテナをもう一度構えなおして、一歩踏み出そうとした。
だが、それはできない。
「な、なに!?」
見るとステージ全てが氷の刃に覆われ、俺の足も凍り付いていた。
「どうです?私の武器は剣だけではないんですよ?」
「…………まじかよ」
エリアが魔術を使えることは知っていたが、まさかここまでとは。
威力だけなら、アリエスの氷の終焉よりも遥かに上だ。というかまだ魔術の領域なのに魔法並みの力とは………。
本当に恵まれた体質らしいな。
そのスキにエリアは俺に肉薄してくる。右手に片手剣、左手に氷剣、さらにエリアが進むにつれ、巨大な氷の刃がいたるところから出現する。
「チッ!」
俺は咄嗟に魔眼で自分の足に纏わりついている氷を破壊し、エリアの攻撃に備える。
まず初めは氷の刃。
これは魔眼とエルテナで何とか凌ぎきる。その間にもエリアの氷柱が俺の肌を切り裂くが気にしてなれない。
そしてそれを越えると、エリアが氷剣を振り下ろしてくる。
「はあああああああああ!」
その剣はそこらに売っている剣よりも遥かに丈夫そうで、エルテナの刃を受けても壊れる気配さえしない。
それをエルテナでなんとか受け流すと、さらに追撃として元の片手剣が俺の喉下に迫る。その瞬間俺は魔眼を強めに放ちエリアの体を吹き飛ばした。
「かっ!?」
俺はその氷で歩きにくいステージの上でなんとか立ち上がるとエルテナを中段に構え、エリアの攻撃を待った。
「ま、魔眼ですか。随分と強力ですね」
「そういうお前こそ、その魔眼を使わないのか?それ、前に言ってたよりも遥かに強力だろう?」
そう、エリアが持つ魔眼は、俺がエリアたちを助けたときに言っていたような、好感を持たせる程度の威力には収まらないのだ。
おそらく、全力でやれば心酔させ操ることも可能だろう。
「この手の精神に干渉する魔眼は、同じ魔眼持ちには効かないんです。………そういうことで私の護衛にはギルがよくつくことになるんですよ」
なるほど、そういうことだったのか。
どうりでBランク冒険者のギルが王女の護衛なんて出来たわけである。
「まだ続けるか?」
「そうですね………。このまま打ち合っていても正直言ってこの均衡はなかなか崩れないでしょうね。…………ですので、次の攻撃に全てをぶつけます!」
「こい、その全てを受け止めてやる!」
すると、エリアの全身に魔力が宿りだす。
それは星の力を吸い上げ、凝縮させる。淡い虹色の光が蛍の光のように点から線へ、戦から波に。そして最終的に、大きな球体を作り上げた。
それは銀河系を縮小したような、見た目でこの会場全体はおろか、この国中の国土を振るわせた。
おそらくこの魔法は………。
「これは私のオリジナル魔法です。これを受け止められますか!」
やはりそうか。
魔法のオリジナルを作り出すのは至難の技と聞いていたが、それを難なくやってのけるか。
まったく、困った王女様だ!
「これで終わりです!六魔の全能奔流!」
それはついに俺に目掛けて放たれた。
瞬間、その球体は会場全体を光で包み込み、視界を奪う。
さらに六魔の全能奔流の余波で、会場の結界がはじけ飛んだ。しかしそれは俺が予め設置しておいた青天膜によって難を逃れるが、俺はそうはいかない。
しかし俺はその場から動かなかった。
否、動く必要がなかった。
なにせ俺はこのようなときのためにこの魔眼を持ち出している。
であれば、どうなるか………。
そしてとうとう六魔の全能奔流が俺に直撃した。それはステージを木っ端微塵に引き飛ばし、地面に大穴を明けた。
爆風は、轟音を呼び、衝撃は、大気を揺らす。
間違いなく、この大会において最大の一撃だった。これをくらえばさすがのラオも無傷ですまないだろう。
その六魔の全能奔流の威力は簡単に俺を飲み込みかき消した。
「はあ、はあ、はあ、はあ……………。この攻撃を喰らえばハク様でも…………」
エリアはそう言うと片手剣を手から離し、膝を突いた。
「こ、これはーーーーーーー!エリルミア様の攻撃がハク選手に直撃―――――!これはさすがに決まったか???」
だがその言葉は、爆心地から聞こえた破壊音がかき消す。
「さすがだな、エリア。今のは少し肝が冷えたぜ」
そこには無傷で空中に浮いている俺の姿があった。
「な、なんでですか……!私の魔法は当たったはずです!」
「残念だが当たってない。当たる前に死を与えた」
「ま、まさか、その魔眼で………!?」
そう、俺は六魔の全能奔流が当たる直前、魔法自体に魔眼で死を叩き込んだ。魔法といえども魔力もあれば気配もある。俺はその力の根源を魔眼で殺した。
ゆえに余波だけは防ぎきれなかったが、それでも直撃は免れたことになる。
俺はそのままエルテナで煙を振り払うと、転移でエリアの前に移動した。
そしてエルテナをエリアの首に突きつけ、俺はこう呟いた。
「いい試合だった。またやろう」
するとエリアは一瞬だけ、顔を俯かせたが、すぐさま笑顔に戻ると俺の言葉に返事をした。
「ええ、機会があれば是非!」
「うおおおおおおおおーーーーー!!!これはなんという結末でしょう!!!エリルミア様の魔法を断ち切ってハク選手がこの戦いに勝利したーーーーーー!よってこの魔武道祭の勝者はハクせん…………?あ、あれこんな大きな影あったけ………?」
瞬間俺の全身から嫌な汗が沸きあがった。
その刹那、俺の青天膜を突き破って、何かが俺に向かって飛んできた。
「避けろ!エリア!」
「きゃあ!?」
俺は咄嗟にエリアを抱きかかえて横に転がる。
俺たちが元いた場所は、なにやら物凄い熱量で焼け焦げ地面をどろどろに溶かしていた。
俺はこの殺気を知っている。
あのダンジョン内で何度も味わったものだ。
「このタイミングで来るのかよ、第二神核!!!」
闘技場に現れたのは、真っ黒な鱗に身を包みルモス村で戦った赤竜の十倍はあろうかという巨大な竜だった。
ようやくきましたね、奴が!
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