第五十八話 フードの正体、そして弟子?
今回はフードの女性の正体に迫ります!
そしてあの人物が意外な行動に?
では第五十八話です!
アリエスはそのシルの爆弾発言に口をあんぐりと空け固まっている。
俺とシーナ、ギルは必死に視線をそらし、うろたえていたのだった。
「え!?あ、そ、それは、ちょっと、わかんないなー…………。な、なあ、シーナ?」
「ふぇえ!?………あ、ああああ、そうだ、そうだぞ………。断じて私は何も知らない!そうだなギル!」
「そ、その通りだ!俺達は何も………」
ギルが俺とシーナに続いて醜い言い訳をしようと口を開いたとき、ため息を吐きながらシラが割り込んできた。
「はあ………。もう誤魔化さなくていいですよ。というか私とシルはもう随分前に気づいていましたので」
その言葉にシルがうんうん、と頷く。
それは一体どういうことだ?
「あれは一回戦のときでしょうか。私とシルが席を立ったときに偶々あのフードの女性とすれ違ったのです。そのときに凄く甘い薔薇のような香りがしました。それはエリア王女を助けたときに嗅いだことのある匂いでした。私達はよく鼻の利くほうなので直ぐにその正体に気づいたんです」
確かに獣人族は耳と鼻は人族より遥かにいい。それは種族の特性として生まれ持ったものであるが、まさかそれがこんなところで発揮されるとは………。
俺はもう隠すことは出来ないと悟り、下手な誤魔化しを止めた。
「なるほどな。ならもう隠す必要もないだろう。シーナ、ギル。もうあきらめたほうがいいぞ?」
「ああ、どうやらそうらしいな」
「………そうだな。………俺エリア様に殺されちゃうかもしれないけど」
なにをいまさら………。
いずればれることはわかっていただろうに。
俺がエリアの存在に気づいたのは、概ねシラとシルの要因と一緒だ。
準決勝、ファーストバトル後、俺はあのフードの女性とすれ違った。そのとき吹いた風によって俺の鼻に薔薇のような匂いが漂ったのだ。それはエリアが俺に抱きついてきたときに感じた匂いで、頭がボーとするような甘い匂いだった。
さらに先程のセカンドバトル。
戦闘中は、戦士の動きそのものだったが、終了後に見せたその足取りはまるでハイヒールを履いたような貴族風の身動きをしていた。
まあそれでも殆どわからないほど、意識的に隠されていたが、長年染み付いた動きはそう簡単に消せるものではない。
「あの足運びは、エリス様そのもの。よく夜会などで踊られる姿そのものだ。だが…………、エリア様は魔術が専門だったはずだ。あのように武術も嗜んでおられるなんて聞いたことがないぞ」
それは俺も思っていた。王女である以上、華やかにみせる流派の剣術ぐらいはやっていてもおかしくはないはずだが、エリアの使うそれはどの型にも囚われない我流そのもの。それにエリアは俺が助けたときも魔術の練習で城外に出ていたはずだ。
剣を使えるなんて耳にしたこともない。
すると、ギルが一歩前に出てそのことについて話し出した。
「それは俺が説明するよ。エリア様は幼いころから、天才レベルの剣のセンスがあったんだ。しかし王宮の宮廷魔道師はそれを無視してエリア様に、魔術を叩き込んだ。そのせいでエリア様は剣を握る機会を失い、魔術に没頭することになった。でも実際は……」
「隠れて鍛えていたのか?」
「いや、それはない。エリア様が外出できたのは俺と一緒にいるときだけだ。だからおそらく………」
「才能だけであの実力なのか!?」
シーナがギルの言葉に驚愕の色を示す。
それにしても生まれ持った才能だけであの実力か……。これはさぞカリスが悔やまれるな……。
ドンマイ、カリス!
「え、本当に、あの人はエリアさんなの?」
アリエスが俺にそう尋ねてくる。
ハルカはどうやら確信までとはいかないまでも薄々勘ずいていたらしく、素直に俺達の言葉を受け止めていた。
アリエスの問いもわからなくもない。
一国の王女が身分を隠して、むさ苦しい戦闘大会に出場するなど国家の信頼に関わる問題だ。おいそれと信じられるわけがない。
しかし、ここまでくればあのフードの女性の正体はまず間違いなくエリアだ。ギルにも確認が取れたし、疑いようがない。
であれば、あの王族の席に座っているエリアの顔をしたやつは一体誰なんだ?
気配探知だけでは判別することができない。
仕方ないが、もうあれを使うしかないだろう。正直言って俺はこの力を好いていない。この能力は現象の巻き起こる規模がでかすぎる。
つまりは完全なチート。
神妃の力を持っておいて何を今さらと思うかもしれないが、これは俺の身には余る力なのだ。だから仮に死闘になる戦いにおいてもまず間違いなく使うことはない。
しかし今回はそれを使うしかないようだ。
俺は他にあのエリアもどきの正体を無傷で手を触れることなく看破する方法を持ち合わせていない。それこそ万象狂いなんかを使えば一瞬かもしれないが、さすがにあの神宝とこの力を天秤にかければ、俺はこちらを選ぶ。
瞬間、俺の両目が青く輝いた。
魔眼。それも朝使った遠視レベルのものではなく、より高次な。
魔眼とはその込められる魔力量によってランク付けされる。
俺のように体内の全ての魔力をつぎ込めるような奴は最高峰の魔眼とされ、使用できる能力も多種多様に分かれる。しかし低レベルなものになれば、観察眼や魅了といった各一の能力しか使うことが出来ず、使用魔力も小さい。
俺の魔眼、というか元の世界の能力なので魔眼っぽいものは、やろうと思えば睨んだだけで死を叩き込むことも出来る。もちろん神核のような高レベルのものには通用しないが、それ以下の存在であれば命を目を合わせただけで奪い取ることができるのだ。
ゆえに俺はあまり好きじゃない。あまりにも強力すぎるのだ、こいつは。
俺は魔眼を発動させると、エリアの格好をしている奴を見つめた。
それは多重に幻術がかけられており、魔力の流れさえも断ってあった。よほどばれると困るのだろう。もはや国家秘密レベルである。
「なるほど、空魔術で空気を纏わせ光の屈折を変え、闇魔術で幻術を使っているのか。どうりでわからないはずだ」
「ハク君、それは魔眼か?」
シーナが俺に珍しいものでも見るかのように尋ねてきた。
「まあ、そんなところだ。で、やっぱりあれは偽者だ。何をそこまでしてエリアはこの大会に出たかったんだろうな」
「…………それは俺にもわからない。でも俺が試合後エリス様に聞いた限りでは、なんでもハクにしか話せないとかなんとか………」
ギルはそう徐に呟くと、俺のほうを真っ直ぐと見つめてきた。
どうやら俺に真意を確かめろ、ということなのだろう。
「はあ………。わかってるよ。どうせ明日決勝戦で戦うんだ。そのときに聞いてやるよ。まあ言えるかはわからないがな」
エリアが王国騎士団長のシーナや、毎日魔術の特訓に付き合っているギルを差し置いて俺にしか話せないといっているのだ。
あまり簡単な話ではあるまい。
すると、その話を俺の隣で聞いていたアリエスが口をはさんだ。
「で、でもそれなら、なんでエリアさんは盗賊に襲われているときに戦わなかったのかな?エリアさんさえ戦えばあんな奴ら楽勝だったはずだよね?」
その言葉にギルはにこやかに答えた。
「それが普通なんだよ。いくら強いといっても王女様を戦わせるわけにはいかないだろ?」
「そ、それもそうなのかな……」
俺はその言葉を聞いた瞬間、両手を上げパンっと手を打ち、空気をまとめた。
「まあこれ以上は今考えてもわからないだろう。試合も終わったところだし、そろそろ帰らないか?」
場内アナウンスによれば、決勝は明日の正午から行われるという。であれば早めに帰って体を休めておきたい。
なにせ今日はいつも以上に疲れた。試合だから当たり前なのだが、全力をセーブしながら戦い続けるというのは案外ストレスになる。
俺にも見えない疲れがたまっているようだった。
その後、俺達は今日はどこの店に夕食を食べに行こうか、と雑談しながら闘技場をあとにした。
既に観客席からは人が引き始め、客席の地面が見え始めている。
俺は一度だけ、王族の観客席に目をやった。
そこにはエリアに変装した誰かが我が物顔でその席に居座っていた。その姿に周りの人間はなんら不自然な対応を見せることなく、行動している。
おそらくこれは王族すべてが事情を知っている、俺はそう結論付けた。でなければ何の問題なくエリアが身分を隠したまま出場できるはずがない。
いくら匿名希望で出場したところで、王都内で行われるこの大会は間違いなく国のお膝元なのだ。普通なら一発で気づかれて出場停止になっているだろう。
だが実際はそうならず、見事エリアはこの魔武道祭に参加している。
これは国王の息がかかっているとみて間違いないはずだ。
そう一瞬の間に情報を整理した俺は皆の後を追って、観客席を立ち去った。
闘技場の外に出て、これから夕飯にでも行くかなと思っていた直後、物凄い轟音を立てて一人の男が走ってきた。
「師匠ーーーーーーーー!」
それは青黒い鎧と、赤茶色の片手剣を下げたあのSSSランク冒険者だった。
そう、つまりラオである。
ラオはそのまま土煙を上げながら、俺に近寄るとそのまま膝から地面に滑り込み、頭を地面につけた。
「ようやく見つけたぜ師匠!」
「うおわ!いきなりなんなんだお前は!」
見ればアリエスは俺の後ろに隠れ、シーナとギルは剣に手をかけていた。シラとシル、さらにハルカも警戒の色を示していた。
「俺は師匠の強さに惚れたぜ!だから俺は師匠を目標に強くなろうと思う!だから俺を師匠の弟子にしてくれ!」
はあああああああ!?
いやいやいや!意味わからんから!
というかお前キャラ変わりすぎでしょ!
三十越えたいいおっさんが何いってんの!?
俺は即座に、声を上げて否定を示した。
「断る!というか師匠ってなんだ!俺はお前の目標になるとは言ったが、師匠になるなんていった覚えはないぞ!」
すると俺の後ろに隠れていたアリエスも声を上げた。
「そ、そうよ!ハクにぃに攻撃をしかける人なんて、嫌いなんだから!」
おおう………。アリエスの愛が身にしみるねー。これはなかなかいいかも。
「そ、それは悪かった!だがもう金輪際俺はあんなことはしない!だ、だから!頼む師匠!俺を弟子にしてくれ!俺は強くなりたいんだ!」
「だから師匠止めろって言ってるだろうが!!」
俺はそう怒鳴りつけると、ラオを一蹴した。
アリエスや他の皆がこうも嫌がっている以上、仲間になど入れられるわけがない。
「しかし、案外悪くないかもしれませんよハク様?」
すると思いがけない言葉を発したのはシラだった。
「どういうことだ?」
「ですから彼をアリエスや私たちの護衛にするのです。ハク様にボコボコに負けようと、SSSランク冒険者。その強さは揺らぎません。であればこれを利用しない手はないでしょう?」
…………。まあそういう考え方もできるのか。
確かにSSSランク冒険者というのは、世間的な地位を含めてもかなり優遇される。利用しようと思えばいくらでも出来るわけか………。
「シラ姉!?い、嫌だよ!私こんな人と一緒にいたくない!私にはクビロがいるもん!」
そういいながらアリエスは頭の上のクビロをつつく。
『そのとおりじゃ、わしがついとる以上アリエスには指一本触れさせんぞ!』
ああ、お前もまんざらでもないんですね…………。
うーん、だがこれはこまったな。
シラとアリエスの意見が対立している。
『まあ私は悪くないと思うぞ。強い奴はいつ見ていても楽しいからのう』
お前は無責任だな、リア。
それじゃあこうしよう。
「ということだ。俺達の仲間に入りたかったらどうにかしてアリエスを説得しろ。でなければ俺の弟子になることもついてくることも許さん」
「了解だ師匠!それじゃあ、俺はそこの白い髪の嬢ちゃんに認めてもらえばいいんだな?だったら今すぐにでも………」
そう粋がるラオを俺は背後からどついた。
「今日はもう禁止だ。みんな疲れているんだ。それとアリエスや俺の仲間に変なことしたら肉片も残らないと思え」
「お、おう………。わかったぜ師匠!」
「だから師匠って言うんじゃねえ!!!」
そのやり取りを見ていたシーナとギルはお互いに、やれやれといった表情で手を上げていた。
こうして俺達はラオを含めた面子で夕食を済ませ宿に戻った。
ちなみに、その夕食の場でラオは必死にアリエスに話しかけたのだが、全て無視されるのだった。
明日はいよいよ決勝戦である。
ラオのキャラが突然崩壊しましたね(笑)
ですがそれほど彼は強くなりたいということなんです。それを察してくれると作者として嬉しいばかりです!
次回はついに決勝戦!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




