第五十六話 準決勝、二
今回でハクとラオの戦いは決着します!
では第五十六話です!
光魔法。
それもラオが使ったのはその最上位技「閃光の裁天」。
それは神の光とも言われる、万物を焼き尽くす灼熱の光線。
光魔法は、本来あまり攻撃魔法はないのだが、それゆえ最上位技には他の魔法を凌駕する強さを持つ術式が隠されている。
実状、その領域に辿り着けるものは殆どおらず、極められないことから光魔法は敬遠されがちなのだが、その魔法をこのラオは軽々と使ってきやがった。
見るとステージはものの見事に削り取られ、一瞬でも遅かったら俺の体は半分に分かれていたことだろう。
「ずいぶん派手な技を使うじゃねえか………」
「やはりお前は俺が全力で相手するのに申し分ないようだからな。ここからは本気で行かせてもらうぞ!」
そう言うとラオは、そのまま閃光の裁天を放ちながら突撃してきた。
「チッ!」
俺はそれをエルテナで弾き返しながら、ラオの攻撃も受ける。こちらはいまだに重力創造の影響を受けている。
魔力を体に通すことで何とか動けてはいるが、徐々にラオの攻撃に押され始めていた。
閃光の裁天が頭上から降ってくる。ギリギリのところでその光線を避けるが、そのスキをラオが見逃すはずもない。
瞬間俺の左わき腹に衝撃が走った。
「がああああああああっっっ!?」
俺はラオが放った回し蹴りを喰らい吹き飛ばされた。しかもどうやらその蹴りは閃光の裁天がわずかに含まれていたらしく、わき腹からは大量の血が吹き出している。
俺はそのままなんとか立ち上がると、ラオ方向を睨み返した。
しかしそこにラオの姿はない。
咄嗟に気配探知の反応を探す。
うるとその気配は遥か上空から感じられた。みればラオの両手にとてつもない量の魔力が集められている。
あれは、まずい!
俺は血が吹き出すわき腹を押さえつつ、もう一枚青天膜を発動した。
「ハハハハ!これならどうだ!」
ラオはそう言うと、その両手から白と黒の魔力波を放ってきた。それはうねうねと絡み合い相殺されることなく青天膜に激突する。
俺は青天膜に多量の魔力を込める。
ここでこれが破られると、本気でヤバイ。
完治の言霊でも回復しきれないダメージを受けてしまう。
そう俺は思いながら、わき腹に魔力を通し回復も同時進行で進ませた。
どうやらこの勝負は俺に分があるようで、ラオの魔力波の威力が次第に弱まってきた。
そして俺はこれからどう戦うかを、只管考えていた。
ここで戦火の花などの殺しの技を使うわけにもいかないし、かといって剣技はもっと危なくて使うことが出来ない。
もうあれを抜くしかないのか?
いや、あれはまだ早い。
俺はそう結論付けると、青天膜にさらに魔力をこめ、ラオの攻撃を弾き返した。
「な、なに!?」
ここでラオの表情に初めて驚きの色が走る。
俺はそのまま飛び上がり、空中戦に打って出た。いくら重力が強かろうと、魔力総量は圧倒的に俺のほうが上だ。
ならば持久力で勝負だ。
「はあああああ!」
エルテナの剣が太陽の光を反射し、ラオに襲い掛かる。
「ぐう!?」
それはラオの剣に当たるがわずかに体勢を崩させた。俺はさらに追撃する。右肩、左足、右わき腹、左腕、鳩尾、左胸、いたるところに攻撃を仕掛ける。
俺の剣は先程より冴えが増しており、徐々にラオの剣を押し返した。
「ちょ、調子にのるなーーーーー!」
瞬間、またもや頭上から複数の閃光の裁天が降り注ぐ。
俺はそれをなんとか回避しつつ、地上に戻り立つ。
「くそ」
まったくもって厄介だな、あの攻撃。
何かあるたびにあの閃光の裁天で間合いを外されてしまう。
あの技はおそらく常に俺の死角から攻撃するように設定されているのだろう。そのせいで気配探知を使っていても、その反応に気づくのが直前になってしまって、対処が遅れる。
するとラオが隕石のように俺目掛けて降ってきた。
「まだだあああああああ!まだ終わらせねええええ!」
その顔はどこか戦いを楽しんでいるようだった。シーナからその生い立ちを軽く聞いていたので、別に不思議に思ったりはしないが、なにやら今まで見てきたラオの表情より柔らかく見えた。
俺は咄嗟にエルテナを構え、その攻撃を受ける。それと同時に周囲の地面が隆起し空中に石や岩を巻き上げた。
「ぐっ!」
「やっぱりお前は最高だ!俺はお前と戦えて本当によかった!………さあ、もっと俺にその力を見せてくれ!」
俺はその言葉に少しだけ違和感を覚えた。
いや、今までずっと何か不自然なものを感じていたがそれが確信になったというところか。
そのままエルテナでラオの剣を弾き返すと、さらに踏み込んで攻撃を続ける。
何度も何度も剣と剣がぶつかり合い、金属音を鳴り響かせる。火花が散り、お互いの汗が滴り、地面を濡らす。
するとラオは昨日俺に放ってきた重力創造を纏わせた、斬撃とさらい威力を上げて俺に放ってきた。
しかしそれは殺意がこめられたものではなく、どちらかといえば俺を挑発してくるような攻撃だった。
その攻撃は俺がエルテナで切り払うと無残に消失し、余波だけがステージを抉る。
ここで俺は一つの結論をラオにぶつけた。
「お前、もしかして負けたいのか?」
その言葉にラオは一瞬ピクっと眉毛を吊り上げ答えた。
「どうだろうな。それは俺にもわからねえ。ただ俺を倒せるような強者を求めているのは確かだ!俺の新たな目標になってくれるような奴をな!」
……………。
俺はもしかすると物凄い勘違いをしていたのかもしれない。
ラオは強者であれば見境なく全力で叩きのめす狂人と俺は認識していた。それが感じられたからこそ、アリエスはあんなにも怯えたのだ。
しかし、そうでなかったとしたら?
SSSランクという最強の地位にいるがゆえに目指すものがなくなり、孤独だったとしたら?
であれば今までの行動はラオなりの必死の抵抗なのではないか?
そう思った瞬間、全てが腑に落ちた。
確かに俺やハルカにやったことは許されることではない。しかし本当に狂人ならば、予選でも本選でも人を殺すぐらいのことをやっているのではないだろうか。
しかしラオはそうはしなかった。
それは強者ゆえの行動なのかもしれない。だがだからといってそれだけでラオの一体何が測れるというのだろうか。
甚だしい思い違いだ………!
俺は一度目を瞑ると、音がするほど勢いよく両目をあけラオにこう呟いた。
「いいだろう。俺がお前の新しい目標になってやる。だから今は圧倒的な力の差を見せ付けてやる!」
俺はそう言うと、大会モードの力からリミッターを外し、戦闘モードに昇華させると、高速で右手のエルテナをラオに投擲した。
それはラオでさえ避けることが出来ず、ラオの頬を掠める。
「ッッッ!?」
ラオは俺の明らかに変わった雰囲気に驚いているようだ。
俺はそのまま、ある武器を蔵から呼び出す。
「こい、理を穿つ天球の証!」
それは元の世界の地球の色をそのまま落とし込んだ様な青色をしており、金属でもなければ木でもない、まるで長年蓄積されて出来上がった鉱石の様な刀身をしていた。
理を穿つ天球の証。
この剣は俺がリアと初めて戦ったときに使用した神宝である。
その力はフルスペックの絶離剣の同等かそれ以上の力を持ち、まさしく神宝にふさわしい力を秘めている。
しかしこれは強力ではあるが空間を壊すということはなく、むしろ空間の次元境界に協和している。
実はこの剣は、真話大戦時に十二階神に対抗すべく、世界そのものが俺に託してくれた剣なのだ。よってこの剣が空間自他に干渉することはなく、世界が認めている唯一の剣ということになる。
正直なところ、異世界なのでその属性が維持されるか心配だったのだが、どうやら無事に機能しているようだ。
俺はその理を穿つ天球の証をラオに構え、一瞬で間合いをつめた。
「行くぞ殲滅剣。その目でしっかりと見定めるんだな。これからのお前の道を」
そして俺は理を穿つ天球の証を解き放った。
その剣はなんら普通の剣と変わらない。しかし俺の動きが大会モードから戦闘モードに変わっているので、たとえ重力創造を受けていようと、まったく関係ないように動き回る。
「面白い!面白いぞ!ハク=リアスリオン!それでこそ強者というものだ!」
ラオもまた攻撃を開始する。
今度は重力創造と閃光の裁天と同時に発動し、それを剣にこめ振るってきた。
「はああああああああああ!」
その攻撃は間違いなく、今日一番のものであったし、何より気合の入り方が違った。
しかし、それは俺の理を穿つ天球の証に当たった瞬間霧散する。
「な!?」
理を穿つ天球の証の能力は同調。
万物全てのものに波長を合わせ、無力化する。
それがどれだけ強力な一撃だろうと、全てこの剣に当たれば無にかえる。
ただし、それだけの能力しか持たない。絶離剣の様に防御不可とかエルテナのように永劫不変とか、直接攻撃に関わる能力は持ち合わせていない。
しかし、この理を穿つ天球の証はその能力ゆえ、誰に対しても平等な一撃を繰り出すことが出来る。
それゆえある意味では絶離剣よりも強力な神宝なのだ。
俺はゆっくりとラオに近づいていく。
その間にもラオは俺に様々な攻撃を仕掛けてきた。重力の塊、光線の連撃、魔力が宿った斬撃。しかしその全ては俺の理を穿つ天球の証によって無力化される。
「どうした、その程度か。SSSランク冒険者というのは?」
「ハッ!よく言うぜ。俺の攻撃を全て弾き返しておいて。…………ようやく思い出したぜ。これが何かに挑戦するってことだったんだな!」
瞬間、ラオの全身から魔力が迸った。
「これで最後だ!受けて見やがれえええええええ!」
それは漆黒のオーラ。光魔法ではなく、闇魔法の攻撃。
しかしそれは今までの闇魔法ではなかった。
紫ではなく、暗黒。
もはや光すら反射しない漆黒の一刀。
それが今ラオの手から放たれた。
剣から迸る魔力は、巨大な魔力波を形成し俺に向かってくる。
肌がビリビリする。それだけラオの魔力は強大なのだろう。
俺は息を吸い込んで、全力で理を穿つ天球の証を振り下ろした。
「はああああああ!!!」
その瞬間、ラオの剣戟は完全に消え去った。
残っているのは、いつまでも光り続ける理を穿つ天球の証の青い光だけ。
すると、ラオは満足そうな顔でこう呟いた。
「は、ははは………。ようやく見つけたぜ………。お前は俺の師匠だ………」
そうラオは言うと、そのまま地面に倒れた。
「こ、こ、こ、こ、こ、これはーーーーーーーーーーー!!!!ラオ選手が気を失ったーーーー!ということはこの準決勝のファーストバトルの勝者はハク=リアスリオン選手だーーーーーーー!」
そう実況の女性が言葉を発すると、会場は歓声と拍手が鳴り響いた。
それはたっぷり十分間鳴り止まず、この大会一番の盛り上がりを見せた。
俺は理を穿つ天球の証を蔵に戻すと、壁に突き刺さったエルテナを回収しステージから姿を消した。
ラオが、新しい目標を得たことに安心して。
こうして俺は決勝に駒を進めるのだった。
準決勝、ファーストバトル後。
俺は観客席に戻ろうとしていた。
俺は只管、薄暗い控え室前の廊下を歩いていく。
すると目の前から、何者かが歩いてきた。
それは良く見ると、あのフードの女性だった。おそらく次の試合のために控え室にきたのだろう。
俺は無言でその女性の隣を通り過ぎようとした。
しかしその瞬間、ステージから少しだけ強い風が舞い込んだのだ。
それは女性のフードをめくらせるほどのものではなかったが、一つの驚くべき情報を俺に齎した。
あ、あれ?
今の匂いって?
俺は少しだけ振り返り、その女性の姿を見つめた。
あいつ………まさか………。
その匂いが原因で俺の中で一つの推論が出来上がろうとしていた。
次回は正体がわかりだしたフードの女性とカリスの戦いです!
ちなみに第二章はここでようやく半分といったところでしょうか?
まだ第二神核にすらたどり着いてないのに、この調子では物凄く長くなってしまいそうです……。
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の投稿は明日になります!