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第五十三話 本選、七

今回はラオの性格というか戦闘志向が垣間見えます!

では第五十三話です!

「かっこよかったよハクにぃ!」


 俺とシーナが観客背に戻ると、真っ先に飛んできたのは、アリエスの称賛だった。

 アリエスは膝にクビロを抱えながら、俺の顔の間近に自分の顔をよせ、フンスと鼻息を立ててそう言ってきた。

 目はキラキラと輝いており、そこには反射した俺の姿が映っている。


「あ、ああ。ありがとう……」


 今さらだけどアリエスってパーソナルスペース近いよね!

 いや、俺はむしろウェルカムなんだけど、周りからすればあらぬ誤解を受けてもおかしくないほどに近い。

 するとアリエスは勢いよくシーナのほうに振り向くとシーナにも言葉をかけた。


「シーナさんも、凄い剣技でした!負けちゃったのは残念ですけど、本当に見とれちゃいました!」


 そうアリエスが言うと隣にいるシラとシルも、うんうん、と頷き肯定を示した。


「はは、ありがとう。確かにハク君に負けたのは悔しいが、私が敵わないのは初めからわかっていたことだ。私は別に気にしてないよ」


 そうシーナは言うと自分の席に腰を下ろした。見るとその表情はなにやら満足そうだ。聞けば、シーナはその強さと団長という地位から騎士団の中でもあまり模擬線をする機会がないのだという。だからこのような大会で自分より強者のものと戦うのはとても楽しかったそうだ。

 俺もシーナに続いて席につく。目の前では既にセカンドバトルが始まっているようだ。太陽は丁度俺たちの真上に来ており、一日の中で最も暑い時間に差し掛かってきている。

 それなのに気配探知を使ってみれば、あの戦闘狂ラオは、またしても太陽の目下である空の中に漂ってきた。

 鎧を着ているラオにとってそれは蒸し風呂も同然なはずなのだが、何故か決まってその場所に佇んでいる。

 内心俺は、アホなのか?と思いながらステージに目を移す。

 このセカンドバトルは珍しく魔術戦のようで二人の女性が魔方陣をいたるところに発動させ、術式を連発していた。

 見れば一方はどうやら風魔術が得意らしく、ステージに多くの竜巻を出現させている。対するもう片方の女性は、火魔法の領域に達しているらしく、魔術の合間に魔法を挿みながら戦っているようだ。

 物理的に考えて、火に風をぶつけるなど、余計に火の火力を上げてしまうのでは、と考えてしまいがちだが、現状はそう上手くはいかない。

 火魔法を使っている女性は序盤に魔法を使いすぎて、魔力切れを起こしてきているようだ。そうなってしまえばいくら相性が悪くとも、火力の絶対値がものをいう戦いとなり、今は風魔術使いの女性が押している。

 するとギルが徐にこんなことを呟いた。


「あの戦いの勝者がハクの次の対戦相手だな」


 そういえばそうなるのか。まったく気にしてなかった。

 まあ、あの様子ならばシーナほどの戦闘になることもないだろうし、問題はないだろう。


「ハク君なら、余裕だろう」


 シーナが自身に満ち溢れた表情でそう答える。

 その瞬間、どうやら勝負が完全に傾き始めた。

 風魔術が、完璧に火魔法を打ち破った。それはさらに魔力が注がれ、膨張し始める。その大きさはステージの半分を埋め尽くすほどのサイズになり、火魔法使いの女性を吹き飛ばした。

 その竜巻が消滅すると、気絶した女性が姿を現す。どうやら俺の次の相手はあの風魔術使いのようだ。

 俺はそれを確認すると、不意に視線が向けられていることに気づいた。

 それは俺の目の前の観客席、つまり王族の座っている場所から放たれていた。そしてそれを放ってきているのは、言うまでもなくエリアだった。

 先程のアリエスよりも、かなりヤバイ表情をしており、口元からは涎が滴っている。

 なんというか、こういう一方的な好意は若干引いてしまうな………。

 そう思いながらも軽く手を振ってやると、さらに状況が悪化したので、完全に他人のふりをすることにした。

 しかし、俺はここで一つおかしなことに気づいた。

 なんで、今までエリスの存在に気づかなかった?

 座っている席は目の前だし、あんな気持ち悪い表情を向けられていれば、直ぐに気づくはずなのに………。

 これはどういうことなのか……と考えていると隣にいるアリエスがいきなり声をかけてきた。


「ねえ、ハクにぃ。………あれ、食べたい」


 と、言われたのでその方向を見てみると、なにやらそこには売店のお姉さんらしき人がクーラーボックスのような木の箱を持ちながらアイスを売っていた。

 まあ確かにこの暑さだし冷たいものを食べたくなるのはわからなくもないな……。

 俺はそう思うと、一応みんなにも聞いてみた。


「アリエスのほかにあのアイスを食べたい奴はいるか?」


 すると見事に全員の手が上がった。シーナやクビロまで手を上げているのはかなり以外だったが、まあそれだけ今日が暑いということだろう。

 ということで俺は七人分のアイスを購入すべく、アイスのお姉さんを呼び止める。


「あ、すみません。アイス七つほしいんですけど………」


「はい、七つですね。全部で七百キラになります」


 そう言われたので俺はローブの中からお金を取り出す。それと交換するように俺は七個のアイスを受け取り、アリエスたちに一人ずつ手渡した。


「ありがとうハクにぃ!いただきまーす!」


 アリエスが真っ先にアイスにかぶりつく。その表情は十一歳の少女の笑顔そのもので俺はホッとした。

 というのもアリエスは今日なにやらあまり元気がなかったのだ。なにが原因かはわからないが、とにかく今はよく笑っているので俺はひとまず安心した。

 それに続き、他の面々もアイスを口に付けていく。

 どうやら味は元の世界で言うところのソーダ味のようで、夏にはぴったりの爽快感だった。

 俺たちはそのアイスの味を楽しみつつ、次の試合を待つ。

 次の試合、あのラオが出てくるのだ。

 前回の試合はハルカの風、雷魔法を見事に打ち砕き勝利したが、正直言ってこのラオに同等に戦えるやつはおそらく残っていないだろう。

 であれば、見えてくる結果は確実に蹂躙である。

 しかし、奴は俺や全力状態のハルカに興味を示している。これは裏を返せばラオが認めない弱い選手は眼中にないということだ。

 そうなれば下手な危害を加えないかもしれない、と俺は考えていた。

 いや、そうであってほしいという願望とも言える。

 するとようやくステージの整備が終わったらしく、整備のスタッフがステージから捌けていった。


「いよいよか」


 シーナが顔に明らかな不安を滲ませながら呟いた。


「ああ」


 俺はそう返すと上空に目を向けた。

 そしてそれは降臨する。

 またしても隕石のようなスピードでステージに舞い降り爆風を呼び起こした。

 あーあ、せっかく整備の人が綺麗にしたのに。と俺は心のなかでラオに毒づきながら半ば呆れながらその姿を見つめる。

 対するように左側のコーナーから、一人の青年剣士が現れた。

 だがその表情は明らかに引きつっており、足も震えている。

 あ、これは終わったわ…………。

 俺はそう結論づけるといつでもその青年を助けに行けるようにエルテナと絶離剣レプリカを帯刀した。

 実力がないのは仕方がないが、気迫まで消失してしまうと余計に命の危険性が上がる。その青年は実力はおろかその気持ちさえも完全に折れてしまっていた。

 いや、まあわかるんだけどね。俺だって神妃の力がなけりゃ、あんな化け物みたいな力の塊と戦いたいとは思いませんよ!

 だから半分同情の気持ちもあったりするのだが、それでもこれは試合なので部外者が簡単に立ち入るわけにはいかない。

 よって俺はますますあの青年の無事を祈るのだった。


「さーーーーーーて、続きまして第二回戦のサードバトルを開始したいと思います!対戦選手は右コーナー殲滅剣ラオ=ヴァビロン選手です!!!ラオ選手は一回戦でハルカ選手に対し圧倒的な力の差を見せつけ勝利したSSSランク冒険者です。一応言っておくと、できるだけ手加減をお願いしますね?聞けばハルカ選手は物凄い重症だったそうなので……」


 そう実況者の女性が言うと、ラオは面白くなさそうに顔をそらした。

 ほら、みたことか!

 SSSランク冒険者だからって何でもしていいわけじゃないんだぞ!少しは自重するんだな!


「続きまして、左コーナーからはパスチェ=ポルカ選手です。パスチュ選手は一ヶ月ほど前に見事Bランク冒険者に昇格したらしく、期待の星だそうです!!!」


 あー、Bランクか………。

 こりゃ、頑張っても勝てないな……。

 冒険者ランクは必ずしも実力に比例するわけではない。俺やアリエスのように本来の実力が明るみになっていない場合や、登録してからまだ間もない場合はランクと実力に差が生じることもある。

 しかし見たところあの青年はそういうわけではないようだ。しかもようやくBランクになったということはギルドの特例にもかからず順当に成長しているタイプなのだろう。

 であれば今はまだラオには到底届かない。


「それでは第二回戦サードバトル開始です!」


 すると、ラオはゴングがなったにも関わらずまたもや仁王立ちで動こうとしない。反対にパスチェのほうは、なんとか抜刀して片手剣を中段に構える。そしてそのままその剣に魔力を込めだす。

 その光は薄いオレンジ色をしており、すぐにそれが何かは判断がついた。

 土魔術、物質強化。

 効果は名前の通りなのだが、物に自分の魔力を通すことで瞬間的に物質の構造を強化する魔術だ。この魔術はかなり初級の魔術に分類されるだが、地魔法クラスまで上り詰めると武器の強度次第だが、ただの鉄剣で山を叩き割れるほどの威力をたたき出すことが出来たりするのだ。

 まあ見たところ、地魔法どころか土魔術の段階なのでさほどの威力は期待できないので、ラオには傷一つ付けられないだろう。

 しかしパスチェは勇敢にもそのままラオに立ち向かった。腰が引けているのであまり見られたものではないが。

 それでもラオは動かず、その剣を真っ直ぐ見つめていた。

 パスチェの剣がラオに当ろうという瞬間、微弱だがラオの体に魔力が宿った。

 瞬間、パスチェの体は物凄い勢いで吹き飛び、ステージを転がった。その際持っていた片手剣は粉々に砕け使い物にならなくなっている。

 当のパスチェは目をグルグルと回し仰向けになって気絶していた。


「こ、これは………。い、一瞬!一瞬です!パスチェ選手の剣を弾き飛ばし、その余波だけで勝利を掴み取りました!さすがSSSランク冒険者です!というか、やればできるじゃないですか手加減!今後もそれでお願いしますよ!」


 …………まあなんというか、わかってたけどね、こうなることは。

 隣を見れば、ホッとしているアリエスと、物凄く微妙な顔をしている他の面々の顔が目に映った。

 まあ、なにはともあれ実況の人が言ったように、手加減できるじゃねえか!

 前の試合から、やっとけよ、それ!

 おそらく俺の見立てどおり、ある一定の実力を持っていないものはラオの視界には入らないらしい。すると今のように軽く重力創造(グラビティー)を使い、弾き飛ばすだけで終わるようだ。

 しかし、一度ラオに実力を認められてしまうと、ハルカのように全力で叩き潰されてしまうということだろう。

 性格が極端なんだよ!と心の中で一人愚痴をついていると、パスチェがタンカで運ばれている様子が、目に入った。

 

 そうして、第二回戦は半分まで終了した。

 今現在時間は午後一時。どうやら滞りなくスケジュールは進んでいるようで、特に遅延もないようだ。

 

 すると左コーナーの入場口からステージで仁王立ちしているラオを物凄い形相で睨んでいる聖剣士カリス=マリアカの姿が、ちらりと見えたのだった。


次回は、聖剣士とラオの関係とギルVSフードのあの人の戦いがかければいいなと思っております!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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