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第五十二話 本選、六

少し早いですが投稿しちゃいます!

今回はハクとシーナの試合です!

では第五十二話です!

「さて、そろそろか」


 俺は徐にそう呟くと、観客席を立ち上がって、剣を腰にさした。


「そうだな。私も行くとしよう」


 俺と同時に赤い髪を流した、十九歳の騎士も立ち上がる。

 第一回戦はフードの女性の試合のあと、残り二試合の取り組みが行われたが、それは何も問題なく行われた。

 というわけで、ただ今より第二回戦が幕をあける。

 トーナメント的に俺はファーストバトルを担うことになりもちろんその相手は第一回戦でセカンドバトルを勝ち抜いたシーナである。

 この戦いは俺もかなりわくわくしている。

 なにせ気兼ねなくぶつかれる戦いなのだ。もちろん十二階神の能力や、神妃の力を行使するわけではないが、それでも今まで戦ってきた相手とはかなり次元の違った戦いになるだろう。

 それに今回は試合なので命のやり取りがない。

 これは身の保身が出来た上で剣を振るうので、言うならば楽しんで戦うことが出来る。これが神核のときのような死闘ならばそんな気持ちは微塵も持つことは出来なかっただろうが、今は純粋に剣で語り合うことのできる場だ。

 これでわくわくしないわけがない。

 すると隣にいたアリエスが少しだけ複雑な表情で俺たちに応援の声をかけてきた。


「二人とも頑張ってね!………あんまりどっちが負けるとか考えたくないけど………。でもお互いに正々堂々戦ってきてね!」


 俺はそう言うアリエスの頭を軽くなで、そのまま観客席を後にした。シーナは俺とは別のコーナーから入場するので、ここで別れる。

 そのまま観客席の階段を下り、待合室に向かう。予選では溢れかえるほどの選手たちがいたのだが今は、俺しかいないため物凄く閑散としている。自分の足音だけが鳴り響き、服の擦れあう音でさえ耳に響いてくる。


『主様にしては珍しく、心が躍っておるのう。そんなにあの団長と戦えることが嬉しいか?』


『まあな。………なんていうか、自分の剣を振るうのが楽しみで仕方がないんだ。例えるなら小学校の運動会みたいな感じかな。あのいつもとは違う、高揚感が押し寄せてくる雰囲気。今はそんな感じがするんだ』


『まあ、わからんでもないが。それでも加減は間違えるでないぞ?仮にもその腰にさしておるのは絶離剣のレプリカじゃ。いくら意識的に剣の能力を切っていても、十分強力なのは変わらんのじゃ。一歩間違えばあのレイピアも粉砕してしまうぞ?』


 魔剣というのはある程度、使用者の意思によってその能力をコントロールすることが出来る。もちろんリアが直々に保管している神宝のようなクラスになれば、制御したところで最小値が大きすぎるため、まったく意味を成さないが、絶離剣のレプリカくらいであれば、その防御不可属性を、限りなくゼロにすることも出来るのだ。

 俺は当然シーナのレイピアを折って勝利を収める気もないし、純粋に剣の勝負がしたいので絶離剣の能力は完全に切って挑むつもりである。


『それはちゃんと加減するさ。でも確かに興奮してつい力んでしまうこともあるかもな』


 そうリアと試合前の会話をしていると、闘技場のスタッフが俺を呼びに来た。


「ハク選手、準備が出来ました。ステージのほうへどうぞ」


 俺はその声に続くように、控え室を後にし、ステージに向かった。

 一回戦のときはかなり緊張していたが、今回はわくわくが止まらない。そのまま腰の剣を一度引き抜き、全力で鞘に入れなおすと俺は歓声が鳴り響くステージに足を踏み出した。






 同時刻、観客席。

 そこにはアリエスを初めとする、ハクのパーティーメンバーとギル、ハルカがステージをじっと見つめていた。

 すると右側のコーナーからはハクが、左側のコーナーからはシーナが入場してくる。

 アリエスはその姿を見ながら、頭の上に乗っているクビロに一つ質問をした。


「ねえ、クビロ。ハクにぃとシーナさん、どっちが勝つと思う?」


『そうじゃのう……。なんでもありというならば間違いなく主の勝利じゃが、これはあくまで試合。主がどの程度の力を出すかによって変わってくるはずじゃ』


 その言葉に今まで押しだまっていた、ハルカが声を上げた。


「え!?わ、私はてっきりシーンさんが勝つものだと予想していたんですが……」


 まあ、それも一理あるだろう。なにせシーナは近衛騎士団の団長なのだ。世間一般からすればシーナが勝つと予想するのが当たり前である。

 そのハルカの隣にいたギルがその問いに半ば呆れながら返答を返した。


「まあ、確かに相手が普通のSランク冒険者ならそうだろうよ。でも今回は違う。むしろシーナが勝つほうが勝率は確実に低い。シーナが勝つには上手く不意でも突かない限り不可能だろうな」


「そ、そんなにハクさんは強いんですか…………」


 ギルの言葉に、ハルカはさらに驚きの色を滲ませた。

 しかしそれはアリエスもわかっていることだ。だがだからこそクビロに聞いてみたのだ。実際にハクと戦ったとこのある地の土地神(ミラルタ)に。


『まあ、主も戦火の花(カマラチャクラ)ほどの大技は使わんじゃろうし、おそらく剣だけで戦おうとするはずじゃ。アリエスはそれが心配なのじゃろう?』


「う、うん。まあ、そうかな……」


 シーナの剣術は言ってしまえば人の領域を超越している。残像を残しながら剣を振るうなんて常識はずれもいいとこだ。

 当然ハクの剣はその上をいくのだが、手加減した上でどこまでシーナについていけるか、それがアリエスの不安要素だった。


「心配ないわよ、アリエス。ハク様は勝つわ。見てみなさいハク様のあの表情」


 シラにそう言われアリエスはステージにいるハクの顔を見てみる。

 その顔は明らかに笑っており高揚感が抑えられないといった様な感じだった。


「あれなら………大丈夫。ハク様は負けない………」


 アリエスはシルの言葉にそのまま頷くと、肩の力を抜いて腰を落ち着かせた。

 あの表情ならハクは大丈夫だろう、そう心のなかで気持ちの決着をつけるとアリエスは頭の上のクビロを軽くなでながら膝の上に移動させた。


(あれ、でも待って……。それじゃシーナさん、ボロボロになっちゃうかも!)


 とアリエスは別の危機感を持ったのだが、それと同時に第二回戦のファーストバトルが開幕した。





 俺はステージに入ると、真っ直ぐそのまま中央に歩き、シーナと向き合った。


「ようやく、君と戦えるな。王城での借りはかえさせてもらうぞ」


「いいぜ。やれるならやってみろよ。まあ俺は負ける気はさらさらないけどな」


「ではお互い、正々堂々と戦おう」


 そうシーナは言うと右手の拳を俺に突き出してきた。

 俺も合わせてその拳に自分の拳をつき合わせる。

 そうして俺たちはお互い距離を取った。

 俺は二本の愛剣を軽く撫でたあと、勢いよく抜き放ち中段に構え足を屈める。対するシーナは腰のレイピアを抜き、目と同じ高さに構え俺に焦点を定めた。


「さーーーーーーて!今大会一番の目玉となるであろう試合がやってきました。正直言ってこの戦いの結末はまったく予想できません!まずは右コーナー!朱の神としても名の通っているハク=リアスリオン選手です!第一回戦では強力な魔術をいとも簡単に跳ね除け、その圧倒的な実力で勝ち進んでいます!対する左コーナー!我らが近衛騎士団長、シーナ=ガイル団長!!!シーナ団長は第一回戦で見事Sランク冒険者のダフ選手を破り、この第二回戦に駒を進めています!」


 実況者が俺たちの紹介をしているが、俺の耳には何も入ってこない。

 俺が見ているのは、シーナの剣と姿、ただそれだけ。

 周囲の音は完全に消え失せ、試合開始の合図を待っている。

 どうやらシーナもそれは同じであり、その目にはレイピアが反射する太陽の光しか映っていない。


「それでは第二回戦ファーストバトル開始です!!!」


 瞬間、俺とシーナは同時に地面を蹴っていた。

 俺は両腕の剣を同時に振り下ろし、シーナはそのレイピアで俺の攻撃を受け止める。剣と剣がぶつかると、それは周囲に衝撃波を撒き散らし砂煙を巻き上げた。


「………さすがだな」


「それはこっちの台詞だぜ」


 そのまま俺は右手のエルテナをシーナのレイピアから外すと、そのままシーナの胴を狙うように左になぎ払った。

 しかしそれはシーナも予想していたらしく、すぐさま後ろに跳び下がる。

 俺はそのエルテナの遠心力を残しつつ一回転すると、右足で地面を蹴り、さらにシーナに接近する。

 だがシーナはその間に空中に空魔法で無数の風の剣を作り出していた。

 俺はギリギリのところで踏みとどまり、降り注ぐ風の剣を弾き飛ばす。


「チッ!」


 その時間をシーナが見逃すはずもなくすぐさま俺の背後に回りこみレイピアを突き出してくる。その攻撃は俺の頬をかすめわずかに血を垂らした。

 だが俺も左手の絶離剣レプリカをシーナの胴に滑り込ませ殴り飛ばす。


「がはっ!?」


 俺は頬の傷を手で拭うと、吹き飛ばされたシーナにエルテナと絶離剣レプリカで斬撃を打ち込む。今シーナは態勢を崩しているので、間違いなく当たるはずだ。

 俺はその確信を持ちながら、次の攻撃に移動する。あの角度で斬撃が当たれば、間違いなくさらに後方に吹き飛ぶ。俺はそのポイントに先回りするように移動した。

 しかしシーナにその斬撃が当たる瞬間、シーナの姿がぶれる。

 しまった!

 そう思ったときには既に遅く、シーナが俺の背後に回りこみ俺のわき腹にレイピアを突き刺していた。

 虚像剣。

 シーナの必殺技であり、ダフに勝利した技。

 この虚像剣は、相手に自分の残像をちらつかせ、そのスキに攻撃を仕掛けるというものだ。この技は厄介なことに、残像にも気配を残しており、気配探知にも反応してしまう。よって俺は避けることが難しいのだ。

 しかも虚像剣は自分の姿だけでなく、剣や斬撃までも残像として残すことができ、フェイクとしてもかなり優秀な技なのだ。

 俺はわき腹に刺さったレイピアをエルテナで弾き飛ばすと、一度距離を取った。

 その瞬間、神妃の力で自動的に傷が塞がる。


「今のは効いたぜ?…………やるな、シーナ」


「ほざけ、直ぐに回復しているじゃないか」


 そう言いながらもシーナの顔にはまだ余裕が見えた。

 これは、俺もギアをあげるしかないな………。

 俺はそう思うと、さらに攻撃スピードをあげ、シーナに肉薄した。観客からすれば瞬間移動に見えているだろうが、俺からすればまだ遅い。

 そのままシーナのレイピアの動きをよく観察してエルテナを振るう。それは見事にシーナのレイピアを弾き飛ばした。すぐさま俺は絶離剣でそのシーナを切り払うと、次の気配がする方向に飛んだ。

 おそらくこの虚像剣は複数使用できるのだろう。今切り払ったのも残像ということだろう。気配探知から感じられるシーナの気配は残り三つ。

 俺はまず一つ目の気配がするところに、絶離剣レプリカを投擲し、残像を消滅させる。その絶離剣はそのままステージの壁に突き刺さり、とてつもない轟音とともに会場を揺らした。

 残り二つ。

 俺は地を飛ぶように、その気配に近づくと足元の地面を斬撃で切り払い土煙を巻き上げる。瞬間俺はその気配の後ろに転移で移動し、その残像も消失させる。

 瞬間、シーナの空魔法が降り注いだ。俺はそれを避け払いながらシーナに近づいていく。

 残っている気配が、本物のシーナだ。

 俺はそう確信しながらそのシーナにエルテナを構え、切りかかった。

 だがここで俺は間違いに気づく。

 こんなわかりやすい気配をあのシーナが残すのか?

 俺の頭にその考えが浮かんだ瞬間、俺の左横から、ヌッと新たな影が現れた。

 その瞬間横から現れた本物のシーナの手にもつ、二本目の剣、空魔法で作り出した風の剣がエルテナを弾き上げた。


「な!?」


「悪いね、駆け引きは私の勝ちのようだ」


 シーナは元から持っていたレイピアを俺の首元に突き出してきた。

 このままでは間違いなく俺は負けるだろう。

 しかし、俺はそのまま顔に笑みを浮かべていた。


「俺のもう一つの剣を忘れてないか?」


 そのとき俺の左手には先程投擲したはずの絶離剣レプリカが握られていた。


「ば、馬鹿な!?それは壁に突き刺さっていたはず……!?」


「俺の武器は絶対に俺の元からはなれない!それが鉄則なんだよ」


 古来より、最強の武器というのはある一つの属性が必ずと言っていいほど付与されていた。

 それは、持ち主の下に自動的に戻るという力。

 かの有名な槍も、金槌も、その属性こそが武器を最強の地位に押し上げている。

 であれば、仮にも神妃の力を持っている俺がそれを付与していないわけがない。

 よって絶離剣は俺の手元に自動的に戻ってきた。

 俺はそのままシーナの両手の剣を絶離剣で弾き飛ばすと、反撃を開始する。


「お返しだ、黒の章(インフィニティー)


 その二本の剣から放たれる無限の剣戟はシーナの体を猛スピードで叩いていく。もちろん本当に当てているわけではないので、寸止めにはなるのだが速度が速度なだけに、空気の塊が巻き上がる。

 それは時間にして、二秒もなかったのだが、俺はその間に計百回剣を振るった。

 そして最後の一撃は、決まっているように、シーナの首元に突きつけ勝利宣言を述べる。


「いい戦いだった。だが俺の勝ちだ」


 するとシーナは手に持っていた、レイピアを地面に落とし目を瞑ると、軽く笑いながら敗北を認めた。


「戦う前からわかっていたが、さすがだな。私では手も足も出ないか………。認めよう、私の負けだ」


 その瞬間、とてつもない歓声が観客席からあふれ出した。それは今までの中でも一番大きく、観客たちが皆スタンディングオベーション状態だった。


「なんということでしょうか!!!!あのシーナ団長の強力な技の数々を破りこの戦いに勝利したのはハク選手だーーーーー!この戦いは凄すぎます!!私もこのような戦いは見たことがありません!!!皆さん盛大な拍手をお願いします!!!」


 俺は膝を折っているシーナを引き上げると、その目を見ながら率直な言葉を呟いた。


「楽しかったよ。またいつか手合わせお願いするぜ」


 そう言うと俺はシーナに手を差し出した。

 するとシーナも俺の攻撃でボロボロになりながらも手握り返してこう言ったのだった。


「ああ、もちろんだ。もっと強くなって君を越えてみせる。それまで誰にも負けるなよ?」


そうして第二回戦のファーストバトルは終了した。





 しかし、このとき会場にいる人達はおろか、俺でさえ予測できないとてつもないことが遠くの場所で起きていることに気づいてはいなかった。


次回はラオの二回戦になります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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