第五十一話 本選、五
今回は戦闘パートだらけです!
戦いが好きな方は楽しめると思います!
では第五十一話です!
「さーーーーーて、次の試合は第九試合になります!!!では対戦選手を紹介します!まず右手に見えますのが、Bランク冒険者のギル=バファリ選手です!ギル選手はBランクながら予選をグループ内で誰よりも早く勝ち上がっております!対するは近衛騎士団よりテユ=エリト選手です。テユ選手は十五歳ながら今年近衛騎士団の試験に見事合格し、入団した新米騎士さんです!しかし、その実力は十五歳とは思えないほどのものを持っております!!!」
へー、あの少年は十五歳なのか。確かにそう考えれば優秀っちゃ優秀なのかもしれないが、シーナを見てしまうとなー。一気に霞むというか………。
俺はますます顔を微妙なものに変えると、シーナが徐に話し出した。
「まあ、十五歳であの強さならばむしろ誇れるはずなのだが、あの性格が全てを邪魔しているんだ。そのせいで騎士団の中ではいつも浮いているよ」
半ばあきれ返った表情でシーナテユを見つめている。
「大変なんですね……シーナさんも」
アリエスがその顔色を伺うようにシーナに問いかける。
「まあ、これで何の実力も才能もなければ私も別に目はかけないのだが、あれはその点は秀でているからね。まあしぶしぶという奴さ」
すると、拡声器越しに実況者の息を吸い込む音が聞こえてきた。
「では第九試合開始です!!!」
その声とともに真っ先に動き出したのは、テユのほうであった。
腰の騎士剣を抜き、真っ直ぐギルに突っ込んでいく、さすがに近衛騎士団に入団しているだけあってスピードはなかなかのものだが、動きが単調すぎる。
「やあああああああ!」
大きな声とともに一歩も動いていないギルに上段から切り下ろす。
しかしその剣はギルの不意に出した右手に受けとめられていた。
「まあまあだな。太刀筋はいいが、まるで力が乗っていないぞ?」
「ぐっ!?冒険者風情が粋がるな!」
テユはそう言うとなんとかギルの手から騎士剣を取り返そうとするが、その手はビクともせず、離れる気配がない。
「は、離せ!人の武器を奪うとは卑怯だぞ!」
まったくもってそんな道理はないのだが、あの少年にとって冒険者に馬鹿にされるのは余程屈辱らしい。見る見るうちに顔が真っ赤に染まり、怒りを露にしている。
しかし反対にギルは涼しい顔をしており、その少年騎士を見下ろしながら呟いた。
「ま、それもそうか。………おらよ!」
ギルは掴んでいた騎士剣ごとテユを投げ飛ばし、そのままさらに魔術で追撃する。
「光の波動!」
そのギルの言葉と同時に会場全体を白い光の奔流が押し寄せる。それは光りでありながら実体を持ち、テユの体をさらに吹き飛ばす。
「ぐああああああああ!?」
おそらく、あれでもかなり手を抜いているようだが、それでもテユには十分な効果を発揮した。
なんという低レベルな試合だろうか。
シーナにいたってはもはや俯いてステージすら見ていない。
するとテユは傷ついた体をなんとか奮い立たせ、ギルに立ち向かった。
「なめるなよおおおおお!冒険者あああああ!」
半ば狂気じみているテユはそのまま先程よりもスピードを上げギルに突っ込んだ。今回はさすがに一直線に突っ込まずジグザグと動きをちらつかせながら接近してきた。
その様子にギルはため息を一つつくと、構えていた大剣を両手で持ち直し、テユが切りかかってくるのを待った。
「これでどうだあああああ!」
テユの全力の切り込み。
しかしそれはむなしくもギルの大剣によって阻まれる。
だがテユも引かずに、次々と剣を打ち込んでいく。それは全てギルに防がれているが、戦いの中で成長しているのか、徐々に反応速度が上がってきていた。
とはいえ、そんなものでギルを攻略できるはずがない。
あのテユという少年にはあるものが圧倒的に欠けている。
「はあ………、お前さあ、俺はお前の訓練相手じゃないんだぞ?いい加減気づけよ………?」
「な!?ふざけるな!お前ごとき僕が本気を出せば!」
そしてテユは剣を真上に振りかぶり、フルモーションの一撃を放ってきた。ギルはそこでこの試合で初めて体を動かし、大剣を真横に振りぬいた。
瞬間、バキンっと音を立ててテユの騎士剣が刀身半ばで折れた。それは完全に剣の芯まで叩き折っており、こうなるともう修復はできない。
「な!?なに!?」
ギルはそのままテユの首元に、風を切る音とともに爆風ごと大剣をテユの首元に突きつけた。
「お前は確かに剣の筋もいいし、スピードも申し分ねえ。だがなお前の剣は軽い。人はおろか魔物すら倒したことのないその覚悟で俺に切りかかったところで俺には傷一つ付けられねえよ」
そう、テユには致命的に経験が足りていない。それこそギルが言ったとおり魔物の一匹すら切り殺したことがないのだろう。
ゆえに届かない。
歴戦を潜り抜けてきた戦士には到底届くはずがない。
「ぐ、ふ、ふざけやがて………」
テユはその言葉を聞いてもまだその瞳に闘志を燃やしていた。
刹那、テユの手に魔力が集まりだした。
「お前なんかはこれでも食らってればいいんだよ!風の暴………ガッ!?」
しかしその魔術は発動されることなく、テユの意識はギルの大剣によって刈り取られた。
「だから、そういうのも見え見えなんだよ」
すると観客席から大歓声が巻き起こった。
「試合終了ーーーーーー!第九試合を見事征したのはギル=バファリ選手だーーーーーーー!!!!」
ギルは構えていた大剣を肩に収め直しステージから身を引いたのだった。
しばらくするとギルが観客席に戻ってきた。
「お疲れ、まあおめでとうと言っておくよ」
俺はギルにそう言うと、水が入った水筒を投げ飛ばした。
ギルはそれを右手でキャッチすると、その水をごくごくと一度のみ席についた。
「ああ、あいつは余裕だったな。…………っていうかシーナ、あの新人、ちゃんと教育しとけよ?今のままじゃ目も当てられないぜ?」
その言葉に一瞬ビクリと身を震わせるシーナだったが、やがて引きつった笑いをギルに向け返答した。
「わ、わかっているさ………。そのうちな、そのうち………」
うわ、これ絶対にやらないやつだ。
例えるなら、夏休みの宿題をやるやると言っておいていつまでも手をつけない、あの状況そのものである。
俺はそんな光景を眺めつつ、次の試合に注目していた。
次の試合、俺は一番見る価値があると見ている。
そう、予選のとき俺に話しかけてきたフードの女性が次の試合に出てくるのだ。
あの得体が知れない雰囲気と実力。あれを一度見たときから俺はあの女性が気になって仕方がなかった。
できることならこのまま勝ち上がって戦ってみたいものだ。
『むう、主様がここまで浮き足立つのも珍しいのう。あやつに何か感じることでもあるのか?』
『いや、そういうわけじゃないさ。ただ場合によってはあのラオよりも強い何かを持っている気がするんだ、まあただの勘だけどな』
『主様の勘は、よく当たるからのう………。まあなんにしろ主様の敵ではあるまい』
『まあそれそうなんだけどさ……』
そうしてギルが帰ってきて五分ほど経過すると、各コーナーから選手が入場してきた。
一方は昨日のフードの女性。なにやら青白い布であまれたそのローブは若干ではあるが認識阻害の魔術が編みこまれているようだった。
どれだけ顔を晒したくないんだ?と思ってしまうのだが、個人の事情というものは複雑に絡まっている場合があるし、気にしても仕方がないだろう。
対する、相手方。
そこにはとても大柄な男性が二本の斧を持ち戦闘に備えていた。その肉体は筋肉が膨れ上がり、血管がその上から浮き上がり、いかにもな強者のオーラを纏っている。その両手に持つ斧は、緑色と黄色の二色で構成されており、効果はわからないが何か特殊な能力が宿っていることは確認できた。
「さーーーーーーて!残すところ第一回戦も三試合!少なくなってきました!ではこの第十試合目の対戦選手の紹介をします!まず右手に見えるのは。二つの牙ジーカー=ザイルトス選手!ジーカー選手はAランク冒険者であり、その両手にもつ大きな斧で戦場を駆け回っている実力派冒険者です!対するはフードを被った謎の女性、匿名希望さんです!彼女はわけあって身元を明かせないそうなのですが、予選では朱の神ことハク選手のグループにいながら見事に本選出場を果たしました!」
「あれか、君が気にしているのは」
シーナさんがそのフードの女性を見つめながら、そう呟いた。
「ああ、なにかただならぬものを感じたんだ」
「ふむ、確かにそこらの有象無象とは違うようだ。だが今回の相手もかなりの手練だぞ?二つの牙はこの国でもかなり名が通っている」
聞くとその二つの牙とやらは主に竜狩りを得意としているようで、今まで討伐してきた竜は百体を越えるのだとか。
「まあ、見ものであることには違いないな」
ギルがそう呟くと、俺は軽く頷いた。
「では第十試合開始です!」
ゴングの音が鳴り響くと、フードの女性はローブの中から、予選でも使っていたダガーを左手に、腰から抜いた片手剣を右手に構え腰を低くし戦闘態勢に入った。
瞬間ジーカーがその大きな巨体を動かし、二本の斧でフードの女性に切りかかった。その斧は切り下ろしざまに一瞬加速したかと思うと本来ありえない動きを見せ地面へと激突する。
「ッ!?」
フードの女性は、ギリギリのところでそれをかわすと、すぐさまジーカーの足元に回りその膝に蹴りを入れた。
おそらくは膝を崩して体を倒そうとしたのだろうが、ジーカーの体はビクともしない。
「いい動きだ。だがまだ足りねえ!」
ジーカーは左に持っている斧を逆手に持ち替えると、フードの女性にその刃を切り込んだ。
その攻撃はフードの女性の片手剣が見事に弾き、次の攻撃に繋げる。そのまま女性はジーカーの頭上に飛び上がると、眉間めがけて蹴りを繰り出した。
「ぐっ!?」
そのまま流れるような動作で左手の斧を更なる蹴りで地面に突き立てさせると、がら空きになったジーカーの首元を狙って、左手のダガーを突きつけた。
これは決まったかな、と俺は一瞬思ったのだが、すぐさまその光景は覆る。
ジーカーの右手にある斧が何かに引っ張られカのように、女性のダガーを直前で弾き飛ばしたのだ。
「ッッッ!?」
それにはフードの女性も驚いたらしく、一旦距離をとる。
「ハハハ!おしかったな。俺のこの斧は自ら意思を持っているのさ。その都度、俺の意思にしたがって最適な動きを見せる。つまり俺には死角はないってことだ」
なるほど、そういうことか。
武器が自ら行動するのであれば、使用者の反応速度に関係なく、攻撃も防御もこなすことが出来る。確かにこれは厄介だ。
しかし、フードの女性は一つだけ息をつくと、再びジーカーに接近した。みると右手の片手剣は逆手に構えられている。
その姿を見たジーカーは好機とばかりに、全力で右手の斧を振り下ろした。
それはギリギリのところで女性にかわされるが、今回はそれだけではない。そのまま女性はジーカーの右腕を蹴りで左に吹き飛ばし、地面に押さえつけた。
だがジーカーにはまだ左手が残っている。ジーカーはその左腕を振るい女性を仕留めようとする。
だがまたしてもそれは女性の蹴りによって軌道を外され地面に突き刺さった。
それは端から見ればジーカーは腕をクロスした状態で斧が押さえつけられており、身動きが取れなくなっている。
だがまだジーカーは余裕だった。なにせ武器である斧自身が腕を動かしてくれる。そうしてフードの女性を吹き飛ばす予定だった。
しかし、その予想に反して、両腕が動かない。
「な!?なに!?」
確実に斧は動こうとしている。しかし肝心の腕が動かない。
よく見てみるとその腕がクロスしている場所に女性の片手剣が挟まっていた。それはてこの原理で圧倒的な腕力を誇るジーカーの腕を押さえ込んでいた。
そのスキにフードの女性はジーカーの首に残ったダガーを突きつける。
「私の………勝ち」
ジーカーはしばらくそのダガーを見つめ固まっていたが、やがて腕の力を抜き。
「ああ、俺の負けだ」
敗北を認めた。
「おおおーーーーーーと!これは予想外です!まさかあのジーカー選手がここで敗れてしまうとは!しかし見事な武器捌きでした、匿名希望さん!物凄い戦いになりましたが、勝者は匿名希望さんです!!!!」
会場がただ只管燃え上がる中、俺たちはそのフードの女性をじっと見つめていた。
「なるほど、君が気にかけるだけのことはあるようだ。あの動きはなかなかできるものではない」
「ちょっと待て!そういえば、二回戦であの女性と戦うの俺じゃないか!?あんなのに勝てるきしねえぞ!」
一方俺はその試合を少しだけいぶかしみながら見ていた。戦闘の動きではなく、通常時のあの歩き方。
どこかで見たことがある気がする。
しかし俺が見てきた中であんな動きを出来る奴はいないはずだ。唯一ありえるとすればセルカさんだけだが、セルカさんは本来あんな戦い方はしない。もっと力に任せた戦闘スタイルのはずだ。
だが、まあそれは戦ってみればわかる。
あの女性と当たるとすればトーナメント的に決勝戦だが、おそらくその女性は勝ちあがるだろう。
俺はかすかに口元に笑みを浮かばせながら、その時を待つのだった。
その後、本選第一回戦はつつがなく終了した。
次は第二回戦に突入する。
次回から第二回戦に入ります!ハクの相手はトーナメント的に言ってもちろんあの人です!
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