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第五十話 本選、四

今回はギルの本選に入れると思ったんですが、まだは入れませんでしたすみません!

では第五十話です!

 俺たちは、その観客席を全員で後にし、ハルカが運び込まれたであろう救護室に向かった。気配探知によれば、それはどうやら選手の入場口のすぐ近くにあるようだ。

 その部屋には既にハルカの気配と、医師であろう数人の気配が感じられた。

 俺たちは確かに魔武道祭の参加者だが、かといって怪我人の病室に勝手に入る権限など持ち合わせていない。

 よってここはシーナの地位を借りて突入することとなった。

 その救護室までの道にはやはり何人かのスタッフがおり、毎度のことながら部外者である俺たちを止めてきた。


「なんだ君たち!ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」


「悪いが、急いでいる。通させてもらうぞ」


「え?き、騎士団長!?は、はい!どうぞ!」


 シーナがそう一蹴するとそのスタッフはおずおずと頭を下げ、道を空けた。

 うーん、なんというか騎士団長って偉大なんだね………。

 そして俺たちはようやくハルカがいる病室にたどり着いた。シーナはその扉を勢いよく開け放つ。


「なにごとだ!」


 すると部屋の中にいた、医師らしき男がハルカ治癒術をかけながら顔だけこちらに向け怒鳴り散らしてきた。


「すまない、近衛騎士団長シーナだ。先程の試合を見ていて、そのエルフの女性の身を案じ、腕のいい治癒術者を連れてきた次第だ」


 そうシーナは言うと後ろにいる俺に、軽くウインクをして、これでいいのだろう?と目で問いかけてくる。

 一応シーナには俺が完治を使っているところを見せたことはないのだが、どうやら俺を信頼してくれているようで、俺はそのシーナの視線に力強く頷いた。


「騎士団長殿!?そ、それはかたじけない!正直私では手に負えなかったのです」


 俺はその言葉を聞くなり、その医師の隣に立ち、容体を確認する。

 それは観客席で見ていたときよりも遥かに酷いものだった。

 左腕は肘の辺りから逆方向に折れ曲がっており、右足からは骨が皮膚を突きやっぶって出てきてしまっている。本来美しいはずの顔も赤黒い痣で染まってしまっていた。

 おそらくあのラオの攻撃は一撃に見えて瞬時に大量の攻撃を叩き込んでいたのだろう。でなければこの様な酷い怪我にはならないはずだ。

 俺はラオへの憎悪を必死にかみ殺すと、完治の言霊を唱えた。


「回帰せよ」


 その瞬間、ハルカの傷はものの数秒で消え去り、元の美しい体へと戻った。今回は神核の時のように死の呪いが着いているわけでもないので、言霊のみで事足りたのだ。

 その光景を見ていた、シーナやギルが口々に驚きの言葉を上げる。


「本当に直せるのだな………。本当に何者なんだ君は?」


「おいおいマジかよ………。お前冒険者じゃなくて医者に転向してもいいんじゃないか?」


 すると今まで気を失っていた、ハルカが目を覚ました。

 ゆっくりと瞼を開け、部屋の明かりを目に集めていく。


「あ、あれ………私はいったい何を………」


 俺は一度その場から一歩下がり、シーナに説明してやるよう頼んだ。


「君は、先程の試合でラオの攻撃をまともにくらって気を失っていたんだ。心配しなくても顔や体には傷は残っていない。全て治癒済みだ」


 そうシーナが言った瞬間、ハルカの顔色が変化した。

 それは先程の惨劇を思い出しながら、なおも悔しそうな表情を浮かばせていた。


「そう、ですか………。やっぱり私負けたんですね………。あ、私を治療していただいて本当にありがとうございました!」


 と、ハルカは近くにいた白衣を着た医者の男性に頭を下げた。


「いや、君を治癒したのは私じゃないよ。あの青年だ。君の状態は、本当に死の瀬戸際だったんだ。それを彼は一瞬で直して見せた。礼なら彼に言うといい」


 そうその医者は言い、俺を指差し指差してきた。


「え!?そうなんですか!あ、あの本当にありがとうございました」


「いや、俺は単なる善意でやっただけだ。気にしなくていい」


「それでも命を救っていただいたのです。お礼くらい言わせてください。ありがとうございました」


 俺はその言葉にはあえて反応せず、救護室の壁に体重を預けた。

 なんとか間に合った………。あと数分でも遅かったら、本格的にやばかっただろう。

 俺はとりあえず肩の力を抜き、息をつく。

 外からは武器のぶつかり合う音が聞こえてきた。どうやら試合が始まっているようだ。今日はスケジュール的に準決勝まで試合を進めてしまうらしいので、おそらく急ぎ足で進めているのだろう。

 するとアリエスたちが俺の元に寄ってきた。


「よかったねハクにぃ。あの人が無事で」


「ああ、まあな。一時はどうなるかと思ったぜ………」


「ですけど、そう言ってなんだかんだでどうにかしてしまうのがハク様なんですよね」


「はい………アリエスのときもそうでしたし……」


 俺はパーティーメンバーのその言葉を聞いて本気で、肩の荷を降ろした。

 見るとハルカはシーナとなにやら話しているようで、もしかするとラオとの試合のことを聞いているのかもしれない。

 俺はそのまま、ギルに向き直り、気になっていたことを聞いた。


「おい、ギル。お前の初戦はいつだっけ?」


「ん?ああ、俺は第九試合目だ。おそらくこの調子だと昼を跨ぎそうだな」


 第九試合目か……。ならまだ時間はあるか。


「だな。だったら少し早いが昼飯にしよう。ギルの試合の場合は、ギリギリで午前になったり午後になったり前後しそうだしな。早めに腹に入れておくのも悪くないだろ。……………シラ、今日の昼飯は少し多くなりそうだが、足りるか?」


「はい!こんなこともあろうかと十人分は用意してきてあります!」


 そうシラは言うと、ズイっと俺の目の前に顔を近付けてきた。

 というか十人分って………。また物凄い量作ったな………。まあ今日はそのおかげで助かったわけだが。


「なんならハルカさんも一緒にどうだ?一応味の保障は出来るし、悪い話ではないと思うんだが?」


 すると、ハルカはこちらに勢いよく振り向き、目を輝かせながら答えた。


「いいんですか!では是非、是非!お願いします!」


「あ、ああわかったよ………」


 その話を聞いていた、ギルやシーナもなにやら羨ましそうな顔をして聞いてくる。


「な、なあハク。俺たちも食べていいんだろ?」


「当たり前だ。なんでお前らだけを仲間はずれにしないといけない。俺はそんな非道なやつじゃないぞ」


 俺はため息を吐きながらそう答えると、観客席の方向に足を向け歩き出した。それに続くようにアリエスたちもついてくる。

 とりあえずはひと段落だが、まだまだ油断できない。やはりあのラオは危険だ。このまま順当にいっても、ラオは俺と当たるまであと二人の選手と戦うことになる。その全てが今回の様なことになるようなら、俺は試合に割り込んでも止めなければいけない。

 俺はそうならないことを願いながら、救護室を後にした。

 とにかく今は飯だ!

 ちょうど腹も減ってきているので、一息つこう。

 考えるのはそれからでもいいはずだ。







 その後、俺たちはハルカを交えて楽し昼食を取っていた。今回は普通の弁当で、三段重ねの御重がなにやら五つも並べられている。

 俺たちはその中から自分の食べたいものを各々つまみ、腹を満たした。途中、アリエスがシーナの好物を横取りしたり、ギルがシルに近づきすぎて、平手をくらったり、それはとても賑やかなものになった。

 そしてその中ではハルカのことについても聞くことが出来た。

 なんでもハルカはエルフの村、エルヴィニア秘境より一人でこのシルヴィニクス王国にやってきたのだという。聞けば自分の今の実力を測りたかったのだとか。

 本来エルフは人族とも友好的で、世界各地にエルフは一つの種族として生活している。

 しかし、それでもエルフの原点と呼ばれる場所は存在しているらしく、それがエルヴィニア秘境なのだ。

 俺たちはその話を飯のつまみにしながら箸を進めた。

 やはりシラとシルの料理は絶品で、どれもこれも口の中を味の楽園に作り変えていく。それはシーナやハルカの舌をも虜にし、食欲を沸き立てていった。

 すると、どうやら目の前のステージで行われていた試合が終わったようで、会場が歓声で包まれる。


「おい、ギル。もしかしたらお前の番、次じゃないか?」


 俺はふとそんなことを口にしてみる。なにやら先程、第八試合とか言っていたような気がするのだが……。


「な!?まじか!んじゃ行ってくるぜ!応援よろしくな!」


 とギルは食後だというのに、勢いよく立ち上がり、控え室に向かっていった。


「慌しいな………」


「まあ、それもあいつのいいところなのだろう。で、ハク君、君はギルの試合、どう見る?」


 そうシーナに言われて俺は少し考える。

 ギルは肩書きこそBランク冒険者に留まっているが実力はおそらくAランク以上だ。魔力の扱い方や、身のこなし、大剣の扱い、全てから弛まぬ努力が見て取れた。


「そうだな………。まあ負けることはないんじゃないのか?あいつも何か力を隠しているようだし」


 そう、あいつは予選の際に明らかに何か力を使っていた。それが表に出てくれば勝機はあるだろう。


「というかシーナはギルが誰と戦うか知ってるのか?」


 するとシーナは口元に困ったような笑いを浮かべこう呟いた。


「ああ、まあね。言えばうちの新米騎士さ。それも今年入ったばかりの。だから私もギルが勝つと思うよ」


 あいつは少々高飛車だからな、と小声でそう付け足すとシーナはステージに目を向けた。

 そこには既に、騎士風の格好をした、顔に幼さを残す一人の少年が立っていた。腰には真新しい騎士剣をさし、腕を組みながらギルを待っている。

 騎士剣とは、騎士が主に国王や貴族に使える際に忠誠を誓う際に用いられる剣で、あまり質のいいものではない。

 刀身は通常の片手剣とレイピアの間くらいの太さをしており、殺傷能力がないこともないが戦闘向けとはお世辞にもいえないだろう。

 その騎士剣は近衛騎士団の入団と同時に貰えるものらしく、あの少年はその騎士剣を腰にさしていた。


「あ、ああ………。なるほど、なんとなくわかったよ……」


 俺は苦笑しながら、シーナにそう答えた。


「まああいつは私が近づけば急に畏まるし、私がいないところでは威張り散らしているらしい。それに普通騎士はこのような大会には出ないものなのだが、自ら出場すると決めたらしい。………だから、まあ、なんだ。ギルにお灸をすえてもらえれば、いいかな?」


 とシーナは半分疑問系で俺に言葉を紡いだ。

 その顔からはただならぬ苦労の色がひしひしと感じられた。そういえばシーナは国王に推薦されてこの大会に出場しているらしい。どうりで他の騎士団の面々がいないはずである。

 そんなことをシーナと話していると、ようやくギルがステージに姿を現した。

 よほど急いだのだろう、ギルの額からは大粒の汗が滲んでいる。しかしギルは一つだけ息をつき、呼吸を整えると、すぐさま肩から吊るしている。大剣を引き抜いた。


「待たせて悪かった。それじゃ始めようぜ」


 そうギルが呟くと、騎士の少年は明らかに顔をゆがめこう答えた。


「まったくです。あなたのような雑魚が僕を待たせるなんて、何様ですか?たかが冒険者が騎士の顔に泥を塗るつもりですか?」


 ……………。

 うん。なんというか。


『物凄く痛い奴じゃな』


 とリアガ俺の言葉を代弁してくれた。さらにリアは言葉を発射する。


『というか、あのラオとかいう冒険者もそうじゃが、少々自信過剰な奴が多いのう。あれでは主様に一瞬にして消されるぞ』


 まあラオはともかく、俺はあの少年をそんなに恨んではないからね?

 確かに言葉は人を愚弄しているけれど、あれも若気のいたりってことで許してあげよう。いずれ自分の過ちに気づくさ、きっと。


「まあ見ての通り、ああいうやつなんだ………」


 シーナが片手で顔を抑えながら、そう呟いた。

 ご苦労様です、団長殿!

 しかし、当のギルはとうと、そんな言葉まるで聞いていないかのように返答した。


「ははは、そいつはすまない。まあ何はともあれ間に合ったんだ許してくれよ」


「ふん、いいでしょう。ですが一瞬でその笑いを消してあげますよ。なんといっても僕は騎士ですから」


 そうその少年が言った瞬間、拡声器にザザっとノイズが走った。

 どうやらようやく、第九試合が始まるらしい。

 

 まあこの試合はギルの無双を眺めていることにしよう、と俺は心の中で思い、足を組みステージを見つめるのだった。


次回は今度こそギルの試合です!

また書ければ、あのフードの人も出したりするかも?

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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