第四話 アリエス=フィルファ
では第四話です、どうぞ!
というわけで現在。
俺は半殺しにした(でも結局治癒した)盗賊まがいたちに捕まっていた少女の縄を解いている最中である。もちろん能力で解いてもいいのだが、あれだけ悲惨な現場を見せた後に追い討ちをかけるように能力を使うのは、よりストレスになるだろうと考え自分の手で解くことにした。
む、これはかなりきつく縛ってあるな。下手をすると腕に痣ができていてもおかしくない。慎重に解かねば。
一方当の少女はというと、一言も喋らずに在るがままに縄の解除をゆだねている。うーんこれはもしや嫌われたかもしれない。あんな血生臭い光景を見れば誰だってそうなってしまうかもしれないが、なかなかにショックだ。
「ふう、よし、解けた。もう動いても大丈夫だぞ」
そう俺は呟いて両手に垂れ下がっているだだ長い縄をどうしようかと考えていると、いきなり胸に大きなものが飛び込んできた。
「うわーーーーーーーーん!怖かった!怖かったよーーーーー!うわーん!!」
なるほど、今まで必死に抑えていたんだな。
それもそうだろう。見たところ少女の年齢は十歳か十一歳そこそこ。いくら涙だけで気丈に振舞っていても、まだ子供だ。子供からすれば自分に害をなす存在は悪以外の何者でもない。むしろよく耐えた方だ。捕まった環境で泣き叫ぶと自分の命が危ないと判断し、気丈にしていたのだろう。実際俺が駆けつけたときも涙一つ見せずにこらえていた。きっとこの子はとても賢いのだろう。
そして俺は少女の少し汚れてはいるがしっかりと手入れされた髪を撫で、少女が落ち着くまで胸を貸していることにした。
少女はその後十五分ほど泣き続けた。そのせいで俺の服が涙と鼻水だらけになりはしたが、そんなもの些細なことだろう。
「落ち着いたか?」
「ぐす、ぐす。は、はい落ち着きました……」
「無理はしなくていいんだぞ、泣きたければもっと泣いたっていいんだ」
「い、いえ、大丈夫です。あ、あの、助けていただいて本当にありがとうございました!」
「あ、ああ。別に気にしなくていい。俺がしたくてやっただけだからな。それと……」
「はい?」
「き、君は俺のことが怖くはないのか?」
これが正直一番聞きたかった。あれだけの惨劇を見せた後だ。血とは無意識に恐怖心を煽る。いくら自分に酷い事をしてきたものたちであっても、それが一瞬で血だるまになったともあれば恐怖ぐらい芽生えていても不思議ではない。
思い切って聞いてみたのだが。
「怖い?私を助けてくれた人に対して怖いなんて思いませんよ。むしろ格好よかったです!」
「あ、ああ。そうか」
少女はフンス、と鼻息が聞こえそうなほど胸を張って堂々と答えた。
いやー正直怖かったんだよ。もしこんな小さい子に嫌われたら本当に立ち直れなくなりそうで。まあ半分自業自得なんだけどね。
「それで、あれはいったいどうやったんですか!」
「ん?あれって?」
「誘拐犯の奴らをまとめて倒したときですよ!私何が起きたかわからなかったので!」
純白の髪がふさふさと揺れ、海のように青い双眸が俺を覗き込んできた。顔には書かれてなくてもわかるくらいの好奇心がにじみ出ている。
うわ、なんだよ!このかわいい生き物は!
無性に撫で回したくなってしまうじゃないか!
「そ、そんなことより!君の名前はなんていうんだ?」
「え?私の名前ですか?私の名前はアリエス=フィルファと言います。十一歳、人族です!」
ああ、これはどうもご丁寧に。
というか人族?
その言い方からすると間違いなく人族以外の種族も存在しているようだな。かく言うアリエスも相当人間離れした容姿なのだが。
銀髪ではなく白髪でもない、まっさらな白い髪。太陽の光さえも通してしまいそうな純白の肌。見るものを全て虜にしてしまいそうな青い瞳。元の世界だったら幻になりそうなほど綺麗な見た目だった。
そういえば先程の盗賊かぶれも赤い髪や青い髪の奴がいたから、案外この世界では髪の色や瞳の色はバリエーションが豊富なのかもしれない。
するとまたアリエスがグイっと顔を寄せて話しかけてきた。
「それじゃあ次はお兄さんの番です。お兄さんの名前はなんていうんですか?」
ん?名前、名前かぁ。
そういえば異世界に来てから名前を名乗る機会もなかったし真面目に考えたこともなかったなぁ。
うーん、さてどうするか。さすがに桐谷白駒は、一体どこから来たのってなりそうだし却下として。アリエスみたく名前と苗字の間に=でも挟んでみるか?ハク=キリナカみたいな?いやーないないない。明らかにおかしいでしょ。
ぐぬぬ、悩むな。下手に考えると後々恥ずかしいことになりそうだし……。
『主様!私の名前を使ってみるのはどうかの!』
『ぎゃー!う、うるさい!頭の中で思いっきり叫ぶな!……で、一体どういうことだよ、お前の名前を使うっていうのは?』
『つまりじゃな。主様の苗字を私の名前に変えるのじゃ。ハク=リアスリオン。どうじゃピッタリじゃろう!』
『いやどこがだよ!めちゃくちゃ語呂が悪いじゃないか!』
『ほほん。よいのかよいのか?いい加減答えんとアリエスとかいう少女が痺れを切らしてしまうぞ?』
『ぐぬぬ』
ぐがー、時間がない!
まさかこんなところでこんな重大な決断を迫られるとは、どうする、どうする!
「ちょっと、お兄さん大丈夫?人の話聞いてる?お兄さんの名前聞いてるんだけど?」
「あ、ああ。そうだな、名前だよな。俺の名前はハク=リアスリオンだ。よろしくな」
『勝ったのじゃ!』
『くそ、おぼえてろよ!コンチクショウ!』
「へーハクさんっていうのね。それじゃハクにぃって呼んでもいい?」
「へ?あ、ああ、うん。別にいいけど」
え、なにそれ、なんという甘美な響き!
美少女に「にぃ」なんて呼ばれるのは、全男子諸君の夢だろう!なあ皆!
もうその名前で呼ばれるだけで昇天してしまいそうだ。
『まーた、下らんことを考えておるわい、この主様は』
『ほっとけ!』
にしても家の妹はいつも俺をいびるだけだったからこの感覚はとても新鮮だ。この感覚は大切にしよう。うん、あの世まで大切に持っていこう。
「ねぇ、ハクにぃ。お互い自己紹介も終わったことだし、一つお願いがあるんだけどいいかな?」
「うん?なんだ?」
「できれば私の住んでいた村まで送ってほしいんだけどだめかな?一人だと魔物とかまたさっきの人たちみたいな人に襲われるかもしれないから。どうかな?」
わーお、その上目遣いは反則ですよアリエスさん。
それで落ちない男はいませんとも、ええ。
にしてもやっぱり魔物っているんだな。今後何度もお目にかかるだろうけれど、やっぱり男としては戦ってみたいものだ。だってRPGの醍醐味と言ったら魔物退治でしょ!それがリアルで出来るとなれば、そりゃあテンションもあがりますよ。
「そのことに関しては大丈夫だ。元々そのつもりだからな。それとその前に………」
「え?」
俺は立ち上がると、アリエスの頭の上に手を置いて力を込めた。
「吹き荒れろ」
次の瞬間、アリエスの体を空気が包み込み、ものの数秒後その空気の渦は跡形もなく消え去った。
「え、ハクにぃ何したの?」
「体を洗ったんだよ。なにせ全身に土と返り血がついていたからな」
アリエスの両親も土埃と返り血がついた娘を好んで見たいとは思わないだろう。どうせならきれいな状態で送り届けてあげたい。
「それと………、回帰せよ」
今度はアリエスの体を緑色の光が包み込む。
「す、すごい。傷が一瞬で塞がっちゃった!」
これは先程盗賊もどきたちに使ったものと同じものだ。正確には傷を癒しているのではなく、時間を巻き戻しているだけなのだが。
「すごい、すごい!ハクにぃって魔法も使えるんだね!」
「え、これは魔法なのか?正直魔法っていうものがよくわからないんだけど」
「本当に?自覚ないの?うーん、これは本当に凄い人に出会っちゃったかも……」
この世界における魔法がどんなものかわからない限り自分の力を魔法と断定することは出来ない。まあ変に怪しまれるくらいなら、いっその事魔法って言っちゃってもいいんだけれど、念には念をってやつだ。しかも俺の中ではこれは魔法などではなく神妃の力だし。
それに俺も一つ気になっていたことがある。
「なあアリエス。お前のその肩の上にいるやつも魔法なのか?」
するとアリエスは目を丸くして驚きながら俺の問いに答えた。
「え!オカリナが見えるの、ハクにぃ!」
「あー、そのお前の肩に乗ってる水色の妖精みたいなのは一応見えてるぞ」
「これはオカリナっていって、一般的には氷の精霊って呼ばれてるの。でも皆は何度言っても見えないって言うから、私以外見えないと思ってた」
精霊か、これはとうとう異世界らしくなってきたぞ。しかも氷か。ってことは火とか風とかの精霊もいそうだな。
「よし、んじゃまあ詳しい話は後で聞くとして、そろそろ移動しますかね。アリエス、自分の村の位置はわかるか?」
「もちろんだよ!まかせて!」
「そうか、んじゃいくぞ」
「え、いくぞって、どうするの?あの誘拐犯だって私を運ぶのに馬車を使ったのに。今ここには馬車はないんだよ?」
「うーん、それはこうやって………」
「って、きゃあ!」
そういって俺はアリエスを、いわばお姫様抱っこ状態で抱き上げた。そして地面を強く踏み込むともう既にそこは。
「まあこうやって空を飛んでいくわけだ。こっちのほうがたのしいだろう?」
眩しくも輝く青空の中だった。
アリエス、ついに名前を明かすことができました。とりあえず一安心です。
誤字、脱字がありましたらお教えいただけると幸いです。