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第四十七話 本選、一

ようやく本選です!

しかし前半は少し違う話が入ります!

では第四十七話です!

 時は少し遡り、魔武道祭本選の朝。

 アリエスはハクが起きるよりも早く目を覚ましていた。

 いくら夏と言ってもまだ太陽は昇っておらず、青白い光が部屋を包み込んでいる。床は冬の放射冷却のようにひんやりと冷たく、アリエスの足の裏を熱を急激に奪い寒気を与える。

 時刻は午前四時。

 シラとシルはメイドということもありもう既に起きている時間なのだが、さすがというべきか、足音はおろか気配すら感じることができない。

 自分の枕の横ではクビロが小さく丸まって寝息を立てている。

 アリエスはそのクビロを軽く撫でると、そのまま床を歩き、窓のカーテンを開けた。そこには真っ暗な町並みと、人の気配が感じられない静かな道がどこまでも続いていた。

 その光景を見ながら、昨日の出来事を思い出す。

 予選が全て終了し、そろそろ闘技場から帰ろうとしていたとき、いきなりSSSランクの冒険者がハクに向かって攻撃を仕掛けてきたのだ。

 それはアリエスの気持ちをたやすくへし折り、命の危険を心の深くに刻み込んでいた。それはアリエスがかなり力をつけてきている証拠でもあるのだが、相手との実力差というのは時に知らないほうがいい場合もある。

 アリエスはあの攻撃を放とうとしているSSSランクの冒険者を見たとき、殺される、自分もハクも、皆も!と直感的に感じ取っていた。

 その瞬間、アリエスが真っ先に考えたのはハクのことだった。

 この人だけは絶対に死なせたくない、その思いだけが頭を埋め尽くした。

 だが思うように足は動かない。

 なんで!なんで!と自分を罵倒するが、一向にその足は地面から離れようとしない。

 そうしている間に、その冒険者は攻撃を放つ。

 しかしその攻撃はアリエスたちに当たる前にハクの青天膜に阻まれた。

 その瞬間、アリエスはその青年の背中だけを見つめていた。それは誰よりも頼もしく折れることのない最強の存在。

 でもどこか寂しそうで、寄り添っていたくなるような雰囲気が漂っている。

 その青年がまたしても自分を助けてくれた。

 しかしそれは青年の存在が物凄く遠く感じられ、いつ自分を置いていくか不安になって仕方がなかった。

 そう、いつあの冒険者にハクが殺されてしまうかという不安。

 ハクの強さを知っているし信じてもいる。

 だがあの男の力をみた瞬間、アリエスの心には迷いが生まれていたのだ。

 アリエスはそれを何とか押しとどめようとしたが、それは目元から涙となって零れ落ちる。


「グス…………ハクにぃ………死なないよね?…………私、怖い、怖いよぅ……」


 すると徐にアリエスの部屋のドアが開かれた。

 そこにはピンク色の耳を頭の上に立てたメイド服の少女が立ってた。


「今日は、朝が早いのね、アリエス」


「し、シラ姉ぇ………」


 シラはそう言うとアリエスの元にゆっくりと歩み寄り、その暖かい胸にそっとアリエスを抱き寄せた。

 そしてそのまま、よくハクがやるようにアリエスの白い髪を撫でながらこう呟く。


「アリエス、あなたの考えていることはわかるわ。私だってハク様が殺されてしまうかもと考えるといても立ってもいられなくなるもの。でも、私たちは誰よりもハク様を信じないとダメなのよ。それがパーティーメンバーであり、ハク様の仲間なんだから」


 シラのメイド服からは太陽の匂いが感じられ、アリエスの気持ちを少し和らげた。


「う、うん………。でも、でも!もしあの冒険者の人に殺されちゃったら、私!」


 シラはその言葉が言い終わる前にさらに強くアリエスを抱きしめ、強く語りかけた。


「大丈夫よ。アリエス、あなたがハク様を信じている限りハク様は負けないわ。それにあなたも見ていたでしょ?ハク様はあの冒険者の攻撃を涼しい顔で受け止めていたわ。…………だから大丈夫。信じましょう、ハク様を」


「うん………」


 そう言うとアリエスはそのまま目を瞑った。

 なんといってもまだ午前四時である。さすがにまだ眠気も残っていたのだろう。

 シラはそのままアリエスをベッドに寝かせると、その部屋を出て行った。

 そして、部屋を出る直前、誰にも聞こえない声でこう呟いたのだった。


「大丈夫、ハク様は最強なんだから………」








 俺はスタッフの合図とともにステージに姿を現した。

 そこは昨日よりも観客がびっしり埋め尽くされた、観客席と完全に整備されたステージが目の前にあった。

 俺はそのステージの中央まで歩いていくと、俺の対戦者と初めて対峙する。

 見た目は完全に魔法使い。

 手には赤い宝玉が埋め込まれている長めの杖と、なにやら魔力の流れが見受けられる腕輪が装着されており、身に着けているローブもそこそこの品物だということがわかる。

 たしかギルの予選グループで勝ち残った女性選手だったはずだ。

 俺はそいつの前に立ち、終始無言だったのだが、やがて向こうから口を開いてきた。


「あなたの噂は聞いているわ!でも私は負けられない!だから全力で行くわよ!」


 ふむ、どうやら意外と根は真面目のようで、正々堂々戦うタイプのようだ。

 そういうやつは嫌いじゃない。大会なのでそれが普通なのかもしれないが、殺し合いではなく、試合というのは気分が楽でいい。

 もちろんこれは試合なのでこの戦いで命を奪えば即失格となる。

 まあ俺はそんなへまをするわけがないし、俺を本当の意味で殺せるやつはいないだろうから心配はしてないが。


「ああ、望むところだ」


 そうして俺たちは一定の距離を保ち、試合が始まるのを戦闘態勢で待つ。


「さーーーーーーて!!!いよいよ始まります、魔武道祭第一回戦、ファーストバトル!対戦者は左から、ルタヤ=イグニス選手!!!ルタヤ選手は冒険者ランクAの冒険者で、今までも数多くの功績を打ち立てている歴戦の冒険者です!対するは朱の神、ことハク=リアスリオン選手だーーーー!ハク選手は、冒険者登録から二週間でSランクまで上りつめ、地の土地神(ミラルタ)や第一神核を倒すという世界級の偉業を成し遂げております!さてこの試合、一体どちらが勝つのか!!!!!」


 俺はそのアナウンスとともに腰の二本の愛剣を引き抜く。

 正直言えば剣を使わなくとも勝てるのだが、それでは本気で向かってくる相手に失礼だろうと思い、剣を構える。

 見ると、向こうも杖に魔力を込め始めていた。

 その杖は次第に赤く光り始め、いつでも魔術を打てるような態勢だ。


「それでは、魔武道祭第一回戦ファーストバトル開始です!」


 その掛け声とともに大きな音で試合開始のゴングが鳴り響く。

 その瞬間、ルタヤとかいう女性は俺に向かって予め溜めておいた魔力を魔術に変換し、その術式を発動した。


火の不死鳥(フェニックス)!」


 それはステージに大きな魔方陣を描き出し、その中から巨大な二つの翼を持つ鳥を生み出した。服が焼け焦げそうな熱気と火の粉を撒き散らしながら、その鳥は上空を旋回する。


「なるほど、初めから大技か」


 間違いなく、炎魔術の術だろうが、本来ならこれほどまでの規模の魔術を初めから使うというのはあまり賢い方法ではない。

 しかし、おそらくこれも作戦なのだろう、と俺は思った。

 あのルタヤとかいうやつは俺の力を確実に警戒しており、それを理解したうえで短期決戦に持ち込もうとしているのだ。

 確かに実力に圧倒的な差がある場合、時間をかければかけるほど不利になるのは明白だ。それを踏まえての火の不死鳥(フェニックス)なのだろう。

 その不死鳥は何度か空を飛び回ると、標的を俺に定め急降下してきた。

 俺はそいつに剣を構え、間合いに入るのをただ只管待つ。

 そして俺の間合いにその不死鳥が入った瞬間、俺はエルテナを左から右に振りぬき不死鳥の頭を吹き飛ばした。

 そのまま左手の絶離剣レプリカで残っている体を盾に引き裂くと、そのままルタヤに突っ込んだ。

 いくら魔術といえども、エルテナと絶離剣レプリカの威力は受けすことが出来ず、不死鳥はものの見事に切り裂かれる。

 俺は一気に間合いをつめると、両手の剣を同時に振り下ろした。


「はああああああ!」


 しかしそれを目の前で目撃していたルタヤは一瞬、怪しい笑みを浮かべると、再び魔力を解き放った。


「かかったわね!これで終わりよ!炎の煌剣(ブレイズソード)!」


 その瞬間剣を振りかぶっていた俺の真下に、先程の不死鳥よりも遥かに強力な魔法陣展開される。


「しまった!」


 俺は咄嗟に身を翻そうとするが、もう遅い。

 俺の頭上から赤いクリスタルのような巨大な剣が降り注ぐ。その圧倒的な熱量にステージが融解し始めている。

 刹那、その煌剣が地面を穿ち、大爆発を引き起こした。


「おおーーーーーと、これはルタヤ選手の炎の煌剣(ブレイズソード)が炸裂したーーー!その威力は圧倒的だーーー!これは果たしてハク選手は大丈夫かーーーー!?」


「はあ、はあ、こ、これならどうよ………。さすがにSランクって言ってもこの攻撃をまともに受ければただじゃすまないでしょ…………」


 しばらくすると舞い上がった砂煙が、落ち着きだしその光景が明らかになる。

 やはりステージはあの熱気ですでにボロボロであり、見るも無残な姿になっていた。

 そして、その中心に立っていた俺はというと。


「なるほど、なかなかにいい攻撃だ。悪くなかったぞ?」


「な!?なんで!?」


 そこには服すら焼け爛れていない、無傷の俺が立っていた。


「なんとーーーーー!?ハク選手!あの炎の煌剣(ブレイズソード)をくらって無傷だーーーー!これは一体どういうことなんだーーーーー!」


 俺は舞い上がっている土ぼこりをエルテナを振るい吹き飛ばすと、もう一度二本の剣を構えて戦闘態勢を整えた。


「それじゃあ、次はこちらから行くぜ?」


「く、くそ!」


 俺はそう一言だけ呟くと、身を低くしてルタヤに突っ込んだ。

 今度は明らかに先程よりもスピードを上げ、肉薄する。

 ルタヤは、残りの魔力が少ないのか、息を上げながら魔術の詠唱をする。


火の槍(ファイヤーランス)!」


「遅い」


 俺はその形成され始めていた槍をエルテナで叩き伏せ、ルタヤの目の前に姿を現した。

 そのまま俺は二本の愛剣を高速で振るう。

 回数にして二十二回。

 それは全てルタヤの体に当たる寸前で止まり、爆風だけを叩き込んでいく。

 俺たちの周囲は、その剣撃によりいくつもの地割れが起きており、会場を振るわせた。

 そして最後の一撃をルタヤの首元に風と一緒に突きつけると、俺はこう宣言した。


「俺の勝ちだな」


 するとルタヤは両手を上げ、肩の力を抜いた。


「そうね、私の負け」


 瞬間、会場を大歓声が包み込んだ。


「試合終了―――――!第一回戦ファーストバトルはハク=リアスリオン選手の勝利だーーーーー!」


 俺はその言葉とともに二本の剣をルタヤの首元から下げ、自分の体の前で振り払い、鞘に収めた。

 そのまま俺は、ルタヤに手を差し伸べ立たせ会場を後にしようとしたのだが、その前にルタヤに呼び止められてしまった。


「ちょっと待って!あなた私の炎の煌剣(ブレイズソード)をどうやって防いだの!あのタイミングは避けられるタイミングじゃなかったでしょ!?」


 あー、そのことか。

 まあ別に特段変わったことはしていない。


「あーあれは単純にこの剣で叩き切っただけだ。どんなものでも速度と切れ味さえあれば切ることは出来るからな。あのタイミングといったがあれはまだまだ俺にとってはどうにでもできるタイミングだったぞ?」


「…………。ってことはどうやっても私はあなたに勝てなかったのね………」


「ただ、あの攻撃自体はよかった。一瞬本気でヤバイと思ったからな。まあこれからも鍛錬すれば伸びるんじゃないか?」


 俺はそれだけ言うと軽く手を振ってその場を後にした。


 こうして俺の初戦は恙無く終了した。

 トーナメント的に言えば次の試合はシーナの番である。


次はシーナ団長の試合です!

誤字、脱字がありましたらお教えください!



うーん、やっぱり何故か段落がおかしくなる。なんでなんでしょうか?

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