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第四十五話 予選、四

今回はSSSランク冒険者のお話です!

では第四十五話です!

 俺はそいつをじっと見つめていた。

 明らかに漂う雰囲気は他のものとは違い、纏う空気は完全に強者のそれで腰にさされた赤い片手剣は今にも誰かを切り殺してしまいそうな威圧を放っている。

 あれがSSSランクの冒険者………。

 確かに今まで戦ってきた人間とは一味も二味も違うようだ。

 この世界の最強の五人の一角。それが今目の前にいる。

 いっちゃあ悪いが、あのイケメン騎士よりも遥かに大きな気配を感じた。薄々勘付いていたがSSランクとSSSランクの間には隔絶された大きな差があるようだ。

 天と地とまでは行かないまでも、そう言っても過言ではない隔たりがあることが雰囲気から伝わってくる。


「ハク様。あのものは一体何者なのでしょうか?人外クラスの力を感じますが……」


 シラがいぶかしむような目線を奴に向けながら話しかけてくる。シラも奴の異常さを感じ取ったのだろう。


「おそらく、国王が言っていたSSSランク冒険者だ。これは本当にとんでもないのが出てきたな」


 さすがに、神核ほどの力は持ち合わせてないようだが、クビロとあたりならばいい勝負をするのではないだろうか?まあクビロ本人は全力で否定しそうだが……。


「さあ!魔武道祭の予選も残すところ残り一試合となりましたーーーー!これまで多くの選手たちが死力を尽くして戦ってきましたが、今日の最後はこのグループの選手たちが務めます!中でも目に留まるのは、世界最高峰の強さを誇るSSSランク冒険者、序列第三位、殲滅剣ラオ=ヴァビロン選手です!この魔武道祭においてSSSランクの冒険者が出てくることは本当に稀であり、どのような戦いを見せてくれるのか楽しみです!」


 どうやら、あのSSSランク冒険者は序列三位らしい。

 しかし、実況の女性が言ったようになぜSSSランクの冒険者がこのような大会に参加するのだろうか?

 見たところあの腰にさしている片手剣は、優勝商品の魔剣よりはるかに強力そうだし、出場の狙いがまったくつかめない。

 ただ単純に強者と戦いたい戦闘狂という可能性もあるがそれはそれであまり腑に落ちない。

 まあ今は余計なことは考えず、試合を見ることに集中しよう。


「では第十グループの予選開始です!!!」


 実況者が試合開始の掛け声を発する。

 それと同時にいきなりSSSランクの冒険者、ラオを取りか組むように他の参加者が動き出した。

 これは今までに見られなかった動きである。

 俺のときも、あのイケメン剣士のときも、シーナ団長のときも、全て実力に自信のないものは徒党を組んで有力候補を潰しにかかっていた。それはある意味当然とも言える策で別にそれが悪いわけでもなく、正攻法としてまかり通っていた。

 しかし、今回はどうだろうか。

 明らかに陣形がおかしい。

 ラオを取り囲むようにして大きな輪を形成するように陣形を作り、ある一定の距離内には誰も踏み込もうとしない。

 それはかなり異様という光景だった。

 魔武道祭とは思えないほど静かな時間が流れる。それは観客も同じであり、張り詰めた緊張感に息を呑んでいる。

 すると最初に動き出したのはラオのほうであった。

 そのラオは不意に片手をあげ笑い出した。


「はははははははは!確かに俺の技を予め予習していればそういう行動を取るのもわからなくないが、誰がそんな小規模な範囲内でしか力が使えないと言った?」


 その瞬間、上げていた腕の掌から濃厚な魔力が飛び出してきた。

 あ、あれは………。

 色的に黒魔術か?

 ……………。

 いや……あれは……。


「魔法!?それも闇魔法か!」


 その真っ黒い魔力はステージ全体を覆い尽くすといきなりも凄い音を立てて降り注いだ。瞬間、その魔力は空間への事象に変換され現象が具現化する。

 バギャゴンという音とともにステージが何かに押しつぶされたかのように割れた。

 当然ステージに立ている他の選手もその能力を受けており、全員が全員、地面にめり込んでいる。すでにそのほぼ全てが気絶しており、中には体から血が吹き出しているものもいる。

 ラオが使ったこの魔法、それは。

 重力創造(グラビティー)

 本来、重力とは星から齎される引力であり、星の大きさ、大気の量、地核の材質。ありとあらゆる要因が重なり合って決定するものだ。

 しかしこの重力創造(グラビティー)はそれを完全に無視する。

 この重力創造(グラビティー)は黒魔術の最上位技とされており、使用するのは本来困難を極めるとされている。当然、闇魔術、黒魔法、闇魔法とランクが上がっていくほど強力になって行き、やつが使った闇魔法における重力創造(グラビティー)はその頂点になる。

 その重力創造(グラビティー)とはあくまで重力操作ではない。

 この力は既にある星の重力にさらに魔法で重力を上掛けすることにより発動している。よって既存の重力を倍増させるよりはるかに大きな効果をはじき出すのだ。

 しかもこの能力の厄介なところは、空間だけでなく武器や体にその力を纏わせることが出来る点である。通常の剣戟が何倍の威力で飛んでくるのだ。いかに強力かは言わなくてもわかるだろう。

 それをやつは軽々とこのステージ上に解き放った。

 ただでさえ魔法は消費魔力が大きいというのに、虫を追い払うかのようにその魔法を行使した。そのことからもこのラオという男の強さが窺えるだろう。

 ということであれば、先程の他の選手たちの行動も理解できた。

 おそらくこの男の重力創造(グラビティー)はかなり有名なのだろう。だからそれを知っていたやつらは予め距離を取り様子を伺っていたのだ。

 しかしそれでもSSSランクという壁は大きく、全員倒されてしまったわけだが。

 そして当然、その重力創造(グラビティー)の効果は空中を飛び回っていた光球にも作用する。

 既に地面に貼り付けられている光球は動くこともできず、今の状態ならば戦闘の経験がないものでも壊せてしまうだろう、というまでの状態になっていた。

 ラオはそれを一つずつ、足で踏み砕いていった。


「これはーーーーーーーー!ラオ選手の能力がステージ全体に作用しほぼ全員の参加者がノックアウトーーーーーーーー!さすがSSSランクの冒険者だ!!!これにより本選に出場する選手が全て出揃ったーーーー!………しかし、今のラオ選手の攻撃でステージがメチャクチャになってしまったので、整備の皆さん、頑張ってくださいねー」


 あ、そう言われてみればそうである。

 ラオの重力創造(グラビティー)により、ステージはいたるところにクレーターやひび割れが起きており、もはや地面の原型をとどめていなかった。

 これは整備係の人、ご愁傷様です………。

 というか!

 早く怪我人を運んでやれよ!けっこう危なそうな奴もちらほらいるぞ!

 なんか流血事故の現場みたいですよ!?

 と俺はのんきな気分でその惨劇の後を眺めていた。


「なんか………、メチャクチャだったね………。あれがSSSランクなんだ……。本当に人外だね」


 とアリエスが俺に向かって口を開いた。

 え!?

 ってことは俺も人外って思われているのか!?

 それはショックだーーーーー!


「あ、あのーアリエスさん?それだと俺はもっと人の道を外していそうなんですが……」


 するとアリエスは俺のほうを向き直り、目を丸くして手をブンブン振りながら答えてきた。


「え?は、ハクにぃは違うよ!ハクにぃはあんなに無造作に力を振るわないでしょ!予選の時だって下手に他の選手を攻撃しなかったし……。でもあの人はまるで自分の力を見せ付けるようにその力を振るったから………あれはもう人の領域にいないのかなって」


 なるほど、確かに言われてみればそうだ。

 奴の実力なら重力創造(グラビティー)をもっと軽めに発動して、そのスキに光球を攻撃することも出来たはずだ。

 だが奴はそれをしない。

 自分より弱い相手に興味がないのか、奴は初めから選手たちを瀕死に追い込むこと前提で攻撃を仕掛けた。これはもう倫理観とか性格とかで片付けられる問題ではないのかもしれない。

 とはいえ本人に確認をとってもいなので真意はわからないが。

 そして俺たちは、全ての予選が終了し、明日の本選についての説明されるのを待っているとあることに気がついた。

 いまだにラオがステージに立っているのだ。

 それも腰の片手剣を抜き、真っ直ぐこちらを見つめて。

 俺はその姿に、本能的にヤバイ、と悟った。

 急いでアリエスたちを避難させようとするがもう遅い。

 奴は剣に魔力を込め、既に振りかぶっていた。

 それは先程の重力創造(グラビティー)より遥かに魔力が篭っており間違いなく俺を殺しに来ている。

 しかし、さほどの殺気は放たれておらず、俺の頭の中は益々混乱した。

 俺と奴との間には現在十枚の結界が張り巡らされている。それは試合の攻撃の余波を防ぐものであり、そう簡単には壊せない。

 だからと言って俺は油断することが出来なかった。ここで何もしなければアリエスたちはおろか他の観客たちまで被害が出る。

 どうする?どうすればいい!

 俺がそう必死に頭の中で考えている間に、ラオはその赤い片手剣を振り下ろし斬撃を放ってきた。


「はあああああああああああ!」


 こ、これは、間違いなく結界を突き破る!

 そう判断した俺は、すかさず自分の盾を発動した。


「青天膜!」


 その瞬間観客席を覆うように俺の最強の盾が展開される。

 ラオの斬撃は予想通り十枚の結界を悠々と突き破り、俺の青天膜に衝突した。

 爆音と衝撃波が周囲を襲う。

 俺は出来るだけ観客席を全て覆うように青天膜と展開する。

 青天膜は基本的に形を自由に組み替えることが出来る。よって今は、張られていた結界と同じようにドーム状に発動した。

 力の拮抗。

 しかしそれは、ラオの斬撃が消滅することで、幕を下ろした。さすがにSSSランクの冒険者であっても神妃の力にかなうはずがないのだが、俺は内心かなり動揺していた。

 俺はそのままステージに飛び込みラオと対峙した。


「おい、お前。一体何のつもりだ?」


 するとラオは手に持っていた剣を再び鞘に戻し、なにやら嬉しそうに話し出した。


「なに、噂の朱の神ってやつの実力を測りたくてな。少し強引だがこのような方法を取ることにしたのだ。だがそれは正解だったようだ」


「なんだと?」


「お前は見事に俺の攻撃を防いで見せた。ここに来たかいがあったわけだ。実にいい。最高の気分だ」


「お前、何を言っているのかわかってるのか?今回は俺が止めたからいいが、そうでなければとんでもない被害が出ていたんだぞ!」


 俺はラオに今の率直な意見を述べる。


「それはお前ならば絶対にあの程度の攻撃、止めると確信していたのだ。問題はその止め方だった。しかしそれは杞憂だったな。まったくなんだあのデタラメな力は!本当に心が躍る」


「だったら何故それを明日の試合でしない?別に今日の、こんなタイミングでやらなくてもいいだろう!」


「ああ、それは素直に謝ろう。自分の衝動が抑えられなったのだ。なにぶんお前ほどの強者と会い見舞えるのは久しぶりだったからな。許せ」


 どっちがデタラメだ!

 発想が完全に戦闘狂だ!もしや強い奴は皆こうなのか?


「だったら、もうこんなマネはするな!明日の試合まで大人しくしてろ!そうすればお望み通り蹴散らしてやる!」


「はははは!やっぱりお前は最高だ!いいだろう、そういわれれば俺も我慢するとしよう。では明日、楽しみにしているぞ」


 そういうなり、ラオはどこかに飛び上がり姿を消した。

 俺は、複雑な感情を抱きながら、ラオがいた地面を眺める。

 そして心に刻んだ。


 一瞬でも俺の仲間に危害を加えようとしたんだ、絶対に後悔させてやる!

 

 するとどうやら大会のスタッフたちが何事か!と駆けつけてきたので、俺は殺気を抑えてアリエスたちの下に戻った。

 

 そして明日、様々なことが入り乱れる魔武道祭が、とうとう開幕する。


次回から本選に突入です!一体なにがハクを待っているのか、ご期待ください!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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