第四十一話 開会式
今回は魔武道祭の開会式です!
では第四十一話です!
そして、魔武道祭当日。
俺たちはいつもより一時間早く目覚め、朝食を食べていた。
昨日は結局俺は午後五時くらいに帰還し、無事、宿に到着した。俺は第二ダンジョンの神核を一体どうすればいいかを只管に考えながら自分たちの部屋に戻ったのだ。
しかしその中で待っていたものは俺の想像を遥かに超えるものだった。
「な、なんじゃこりゃーーーーーー!」
そこにはスイートルームの部屋を埋め尽くさんばかりの、箱がたくさん置かれており、どれもこれも綺麗なラッピングがされていた。
おそらくアリエスたちが今日、王都で買ってきたものなのだろうが、いくらなんでもこれは多すぎるだろ!
一体何個あるんだ!?というか全部一度開封してあるし!
「あ、おかえりーハクにぃ」
するとその箱の後ろからなにやら新しい服と睨めっこしているアリエスが顔を出した。
俺はその瞬間アリエスの背後に回り、眉間に拳をあてぐりぐりとねじ回した。
「な、に、が!おかえりだ!どれだけ大量に買っているんだ!」
「あ、ああ!いたい!いたいよ!ハクにぃ!離してーー!」
とアリエスはそんな風に抗議するが、もちろん聞いてやる気はない。仲間に手を上げるのは少々心苦しいが、これはお仕置きが必要だ。
「お帰りなさいませハク様」
「お帰りなさいませハク様…………」
そのアリエスの悲鳴を聞きつけシラとシルも姿を現す。二人ともアリエスと同じくいつもとは違う服装に身を包んでいた。
「おい!シラ!お前一体どれだけの金額を使ったんだ!?」
「えーと、おそらく全部ですね」
「全部!?」
俺はもしなにかがあってもいいように一応三十万キラを渡しておいたのだが、それを一日で使い切るとは………。どうりで箱の量が多いわけだ。
「おい!お前ら!そこに全員正座!」
俺は三人にそう言うと、三人を正座させ、みっちりと二時間説教をした。これでよくなるとは思えないのだが、できるだけ金銭感覚を身に着けてほしい。
でないと、本当に家計が火の車になるんですよ!死活問題です!
その説教をしている間、三人は申し訳なさそうに、俺の話を聞いていた。その間、一回も正座を崩さなかったのは誠意の表れだろうか。俺的には別にそれくらい崩してもいいのに、と思っていたのだが、思った以上に真剣に聞いてくれていたようだ。
そんなこんなで、翌日。
疲れを取るはずだったのだが、それが見事に空回りして、逆に疲労を蓄積させてしまったわけで。
朝。
俺たちはいつもどうりの朝食を進めていた。
俺は魔武道祭の予選の内容を頭の中で反芻していた。
宮廷魔道師の連中が放つ魔術を打ち落とすこと。これが予選突破の条件だ。
正直言っておそらく余裕だろうが、これが突破条件になっている時点で、周りからすれば相当難しいのだろう。そうでなければこのような条件を出すわけがないし。
だが、この予選は同じ参加者を攻撃することも出来るのだ。これが意外にもキーポイントになると俺は見ている。
というか、間違いなく俺を攻撃してくるような気がする。本選に入ってしまえば基本的に一対一のトーナメント方式になる。こうなっては弱者が強者に打ち勝つのはかなり無理な話だろう。
よってこの予選で大人数で叩けるときに有力候補を叩いてくるはずだ。
まあそれでも負ける気はさらさらないんだけど。
というのも、囲まれる前にその宮廷魔道師が放つ魔術を打ち落としてしまえばいいのだ。一体何人のやつが本選に進めるのかはわからないが、一番早くその魔術を打ち落としてしまえば誰もなにも言えなくなるはずだ。
俺はそんな感じで自分の思考をまとめていると、なにやらアリエスがそわそわしながら俺に問いかけてきた。
「ねえねえ!ハクにぃ!早く行こうよ!そうしないといい席取れないよ!」
「ああ、わかったわかった。もう少しでいくよ」
今回の魔武道祭、おそらくかなりの観客が訪れるはずだ。なにせ昨日チラッと見てきた限りでは一万人は軽く入りそうな観客席だったのだ。であれば間違いなくそれ以上の集客が見込めるだろう。
ということはアリエスが言っていることもわかるにはわかるのだが、それに関しては既に手は打ってある。
だから、別にゆっくり食べていけばいいのだが、俺がそう言ってもアリエスは一向に落ち着かず、体をワナワナさせていた。
「ですが、ハク様。そろそろ行かないと本格的に座れなくなってしまいますよ?おそらくもう会場は開いているでしょうし………」
と顔に不安そうな表情を浮かべるシラが俺に聞いてきた。それに俺が大丈夫だ、と答えようとしたときシルが口を挿んだ。
「大丈夫………姉さん。多分ハク様にはなにか考えがあるはず………」
やはりシルがいち早く俺の言いたいことを汲み取ったようだ。正直シルが年下なのに、ここまでしっかりしていると、シラに面目が立ちそうにないのが心配だが………。
「まあ、そういうことだ。気にしなくていいから、落ち着いて食べろよ」
そう言いながら俺も最後のパンを口の中に放り込む。コーヒーが切れてしまったので口がパサパサになるが、それでも何とかのどの奥に通し飲み込む。
それから俺はナプキンで口周りを拭うと、蔵から絶離剣レプリカと三本の水筒を取り出した。
絶離剣レプリカは俺の右腰にさし、水筒は目の前の三人に渡した。
「おそらく、今日も夏日になるだろうから、水分補給はこまめに取れよ?一応日差しと暑さはある程度能力で防いでおくが、それでも気分が悪くなったらすぐに言うんだぞ、いいな?」
「うん!」
「はい!」
「はい………!」
そう言うと俺は三人の朝食が終わるのを待つ。
そして全員の準備が整うと、俺は全員をあの闘技場の観客席まで転移させた。
そこは既に目を疑うかのようなたくさんの人が集まっていた。
どこを見ても人、人、人だらけで正直人の動きだけで酔ってしまいそうである。なにやらよく見ると夏の甲子園よろしく飲み物や食べ物を販売しているお姉さんや、貴族らしき人達も見受けられた。
これは完全にお祭りだな………。まあ魔武道祭というくらいだから想像してなかったわけでもないが。
で、俺たちはあらかじめ俺が確保して歩いた、一番いい席に腰を下ろす。それは国王たちが座る中央の座席の反対側の席であり、国王とは向き合う形になる席だ。しかも俺はそこの最前列を取っているため試合内容も見やすい。
「うわーーー!ハクにぃよくこんな席取れたね!特等席だよ!」
とアリエスが喜んでいる。
まあ確かに開場と同時に席を確保しに行けば同じ発想を持つ奴と鉢合わせになるだろうが、俺はそんな愚かな真似はしない。
というのも昨日俺がこの闘技場に来た際に俺は結界が張ってあろうとお構いなく今のこの席に隠蔽の能力を使ったのだ。こうしておけば俺が能力を解除しない限り、そこには誰も近寄れなくなる。というか誰の目にも留まらなくなるので、俺から見ればそこだけぽっかり穴が開いたように席が確立されるのだ。
まあ、こうやってアリエスたちも喜んでくれたので問題はないだろう。ここまでやってあっちの席がよかった、とか言われたらどうしようと思っていたのだ。
それから俺たちは魔武道祭の開会式が始まるまで、座って待つことにした。
おそらく王族や貴族やらの挨拶があるんだろうし、気長に待とう。
そして俺たちはそのあと武器やら新しい魔術の話で盛り上がった。
なんでもシラが風魔術を習得しだしたらしく、急激に力をつけているらしい。俺自身初耳だったのだが、やはり仲間が成長してくれると嬉しいものだ。
で、それから十五分後とうとう開会式が開かれた。
いきなりトランペットのファンファーレが鳴り響き、国王が開場に入場してくる。その後に王妃、第一王女、エリアの順で入ってくる。
俺たちの席は、その向かい側なのでエリアは直ぐに俺たちに気づくと、片目でウインクをしてきた。
ああ、あいつはいつも通りだ、と内心思いながら俺も軽く手を振り返す。
すると拡声器かなにかでいきなり女性の声がな鳴り響いた。
「えー、ただ今より第五十回魔武道祭を開催しまーーーーーーーーーーーす!みんな盛り上がってるかーーーーーーい!」
「「「「「「「「「「「「「「うおーーーーーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」」」」
とその実況者らしき女性が声を上げると、開場全体が雄たけびを上げた。それはこの闘技場を壊すのではないかというぐらい鳴り響き、軽い振動を起こす。
「それじゃあ!さっそく国王陛下からの開会の挨拶だ!みんなしっかり聞いて置けよーーーーー!」
そういってなにやら拡声器が国王の口元に移された。
どうやら、あの拡声器は風魔術を応用したものらしく、空気の振動をコントロールすることで声量を調節しているようだ。
そして国王は立ち上がり、堂々と声高らかに宣言した。
「ただ今より、第五十回魔武道祭の開催を、シルヴィニクス王国国王アトラス=シルヴィニクスがここに宣言する!」
「「「「「「「「「「「「「「うおーーーーーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」」」」
再び観客が雄たけびを上げ、その言葉に答える。
「今回の参加者は、合計千五百三十二人だ。例年よりも遥かに多く、私も嬉しく思う!そして今回は近衛騎士団の団長やSSランク、SSSランクの冒険者も参加している。此度の魔武道祭は例年以上の盛り上がりを見せるだろう!皆頑張ってほしい!」
あ、あの国王、アトラスって言う名前なのね。初耳だわー。
というか!
おいおい、マジかよ。
SSランクやSSSランクの冒険者が出るだと?
そりゃ聞いてないぜ………。
なんたってSSSランクの冒険者なんて世界に五人しかいないんだろう?
そんなやつがでてきたら、さすがに俺でもやばいかもしれんな………。
俺がそう考えていると、アリエスの頭の上に乗ってるクビロが不意に話し出した。
『心配せんでも大丈夫じゃ主。所詮SSSランクといってもわしにすら敵わんやつらじゃ。そう焦るでない』
あ、さいで。
ただまあ、普通の冒険者より強いことは確かだ。警戒しておいて損はないだろう。
「では最後に、今回の優勝商品を発表するぞ!今回の商品はこれだ!」
そう言って国王は一振りの長剣と取り出した。
「この剣は魔剣イグニクス。この魔剣には魔力を込めることで相手の武器を腐食する力がある!優勝者にはこの剣を授けよう!」
するとその瞬間、またしても大歓声が巻き起こった。
さらには、このような声も聞こえてきた。
「魔剣イグニクスだと!?あれ伝説の武器じゃないか!」
「ああ、今回の商品はやばいな。前回の聖剣もそうだったが今回の魔剣はさらに上のクラスだぞ」
「うわー、いいなあー俺もあれほしいぜ」
へ、へえー…………。
あ、あれが魔剣ですか………。
たしかに魔力の流れを見てみると、どうやら本当に腐食の効果はついているらしく、言っていることは間違いではなさそうだ。
だ、が!
なんだあの弱い魔剣は………。
出力にしても剣の高度にしても貧弱すぎる。
伝説の武器?もしあれがそうなのだとすればこの世界の伝説は貧弱すぎないか?
確実にエルテナで切れば真っ二つになるだろう。
だがまあ、この世界の剣の標準がわからないので口は閉ざしておく。
そしてその言葉を最後に国王の挨拶は終了した。
その後も貴族や、スポンサーからの話があったのだが、基本的に退屈だったので全て聞き流した。
隣にいるアリエスたちも同じらしく、俺が渡した水筒に口をつけ水分補給している。
するとまたあの実況者の声が拡声器から流れだした。
「では!ただいまより、予選第一グループ目の試合を開始いたします!選手の皆様は舞台にお集まりください!!」
どうやらようやく始まるらしい。
俺は第五グループなので、まだまだ自分の番は回ってこないだろう。
そうして続々と参加者たちがフィールドに集まりだした。それを見るとやはり近接の武器を持ったものだけでなく、弓や杖といった遠距離タイプの選手も出場しているようだ。
だがそこに明らかに雰囲気の違う男が一人混ざっていた。
いうならば完全なイケメン。金髪碧眼で腰にはいかにも聖剣っという様な長剣がぶら下がっている。
その選手が舞台に上がった瞬間、開場は黄色い声につつまれた。
「キャーーーーーーーーカリス様よーーー!」
「今日も物凄く格好いいわーーーー!」
「あ!私今目が合っちゃった!!!」
反対に、観客の男性人はものすごーく嫌そうな目をしている。
いや、わかるぜその気持ち。イケメンって罪だよな……。
そしてまた実況の声が流れる。
「さて、この第一グループにはなんと、聖剣士カリス=マリアカ選手が出場している!彼は前回の魔武道祭優勝者でありSSランクの冒険者で、実力も折り紙つきだ!これはカリス選手の圧勝になってしまうか!」
なるほど、どうりで有名なわけだ。
おそらくあの腰に下げている剣は前回の優勝商品なのだろう。
「では第一グループの予選開始です!」
そう実況の女性が声をあげ魔武道祭の予選が始まったのだった。
前回は予選に入るといったのですが、一話伸びてしまいました。すみません!
ですが次回は間違いなく予選が開始されます!ハクに出番はまだですが………
誤字、脱字がありましたらお教えください!