第三十九話 デート、アリエスの真意
今回は魔武道祭までの二日間の物語です。
かなり甘み成分が多いです!ですが最後は真面目なお話もあります!
では第三十九話です!
「ハクにぃ!今日はデートしよ!」
「え…………。い、いきなりどうした………?」
俺は朝食のホットコーヒーを飲みながら、仁王立ちするアリエスを見上げていた。俺の目は半日開きになり、少々ジト目になっている。
というか何でこんなことになってるんだ?
昨日。
俺たちはワイバーンを屠り、なぜか王城に呼び出された後、しぶしぶ魔武道祭に参加することになった。そこには優勝商品やら、俺の思惑やら色々なものが絡まっているのだが、魔武道祭が終わるまで第二ダンジョンには入れない、といことなので暇つぶしもかねて参加することにしたのだ。
で、そのあと、俺たちは一度王城をでるとまず宿を探した。幸いにもアリエスが取ってきた地図にはたくさんのオススメ宿屋が載っていたのでとりあえず一番人気の高そうな宿に行ってみることにしたのだ。
さすがに魔武道祭の直前ということもあり、既に満室だったのだが、俺の顔を見るなり俺がワイバーンを討伐したハク=リアスリオンであることに気づいたらしく、普段は絶対に使わないスイートルームを受け渡してくれた。
その場合宿代が怖かったのだが、なにやら普通料金でいいというので、その言葉に甘えることとなった。
部屋は五部屋に分かれており、全員分の個室を割り当ててもまだ余るくらい広かったので、変な緊張はしなくてもいいようだった。
その瞬間、アリエスとシラとシルがなにやら残念そうな顔をしたのだが、理由はよくわからなかった。
その後、宿のレストランで夕食を済ませ、俺たちは明日からの予定を確認することになった。俺は明日もしくは明後日には闘技場というところに魔武道祭の参加票を取りにいけなければならないので、明日か明後日のどちらかはそれに当てようと思っていたのだ。
ということで皆にそれを聞いたのだが、どうやら皆この王都で買い物やら買い食いをしたいらしく、それに一日ほしいそうだ。
それに関しては、俺も別に反対する気はないので承諾した。むしろここ最近戦ってばかりだったので、そういう息抜きは必要だろう。
ならば女性陣がその買い物にいっている間に俺は闘技場に向かうと告げるとそれでいい、と返答されたので問題なさそうだ。もちろん、警備にクビロはつけるが。
ちなみに魔武道祭には、俺だけが出場する予定だ。アリエスならば十分に戦えただろうが、今回は国王との約束もかかっているので、俺だけの出場となった。それに魔武道祭というくらいだから、屈強な戦士たちがたくさん出てきそうなので、そんな男臭漂う場所にアリエスを入れたくはない。
で、それが明後日の予定となり、明日の予定の話となった。
結論から言うと、自由、ということになったのだ。
さすがにスケジュールを詰め込みすぎると皆パンクしてしまうのではないかと俺は考えたのだ。ということで各々自由に過ごす方向で、と俺は提案した。
すると、なにやら珍しくアリエスたち三人はこの俺の意見に反対したのだ。理由はせっかく王都に来ているのだから、もっと楽しもうというのだ。
いや、それはどうせ明後日やるだろう、と俺は言ったのだが、どうしても納得が言ってない様子だったのだが、自由なんだから好きにすればいいだろ?と俺が言うと、それもそうか、といった感じで簡単にその騒動は収束した。
で、問題の翌日。
俺は珍しく、今日は長めに寝ていようと思い、リアにも今日は起こさないでくれと頼み眠りついたのだ。これで昼ごろまでは寝ていられるかな、と思ったのだが、いざ朝を迎えると、いきなりアリエスが俺の布団をはがし取ってベッドからたたき起こした。
な、なんだ!?と目をぱちくりさせている俺をアリエスは無理やり引っ張り、洗面まで連れて行くと夏にしては驚くほど冷たい水を顔面にぶつけてきたのだ。
これにはさすがの俺も心臓が止まりそうになり、本当に死んでしまうのでは、と錯覚させられたのだが、当のアリエスはその後もずんずんと進んで行き、今に至る。
「だ、か、ら!デートだよデート!今日は自由な日なんでしょ?だったら私がハクにぃを貸しきっても問題ないよね!」
な、なんだそれ………。俺の自由の権利は一体どこに行ったのだろうか?
俺はそんなことを考えながらコーヒーに視線を落としながら、呟いた。
「そ、それはあまりにも横暴じゃないかな、アリエスさん?」
「返事は!」
「は、はい…………。わかりました………」
俺がそう押し切られると、アリエスは俺の隣に座り、体を寄せてきた。
「ちょ、あ、アリエス!?凄く近いんだけど!?」
「いいでしょ!今日はデートなんだから!これくらい普通普通」
今日は物凄く積極的だな、アリエス………。
でもなんでいきなり俺とデートなんてしたいんだ?俺は自分で言うのもなんだがそんなにルックスがいいほうではない。まあ悪すぎるというわけでもないんだが、いうなれば完全に中の中である。
そんな俺のなにがいいんだか………。
『主様………。朴念仁もいいのじゃが、罪な男じゃのう』
『え?それってどういうこと?』
俺は純粋によくわからなかったのリアに聞き返したのだが、その答えが返ってくる前にアリエスが俺の手を引いて駆け出し始めてしまった。
「ほらいこ!私いっぱい回りたいお店あるんだ!」
「お、おい!ちょ、ちょっと待てって!………というかシラとシルはどうしてるんだ?放っておけないだろう!?」
「ああ、それなら全部話してあるから大丈夫だよ。クビロもつけてあるし」
なんという雑な扱いなんだクビロ!
すまない、今度絶対に埋め合わせはしてやるからな………。
というとアリエスは俺を引っ張って宿を飛び出していった。
その日は真夏日だったのだが、空が海よりも青く輝いていたので、気分的にそんなに暑くはなかった。 その空は、どこまでも澄み渡り、まるでアリエスの瞳ような色だった。
「ねえハクにぃ!これどっちがいいかな?」
ただ今、俺たちは王都の有名洋服店に来ている。
アリエスは俺があげた白いワンピースに合う帽子を選んでいる最中だった。なにやら青色と白色で悩んでいるらしく、それを俺に尋ねてきたのだ。
「うーん。俺は白のほうがいいかな?」
「へー、白か………。うん!じゃあこれに決めた!………にしてもハクにぃって本当に白色好きだよね。来ているローブも白だし、エルテナも白だし」
そういえばそうだな。自分ではあんまり意識していなかったが、なんでだろうか?自分の名前に「白」という漢字が入っているからなのだろうか。
うーん、無意識だったからよくわかんないな……。
「そうか?俺はあんまり意図してないんだけど……。あ、そうしたらアリエスの髪も白いから俺は好きなのかもしれないな」
「ふぇあ!?い、い、い、いきなり何言い出すのハクにぃ!そ、そんなの私だって……ゴニョゴニョ」
「ハハハ、冗談だ。たしかにアリエスの髪は綺麗だし好きだけど、それが俺の色の好みかっていわれると俺もわかんないよ」
するとアリエスは顔を真っ赤に染めて俯いていた。
「ん?どうしたアリエス?まさか気分でも悪いのか?」
「う、ううん!だ、大丈夫!大丈夫だから!あ、これお会計よろしくね!」
そういうとアリエスは俺に先程選んだ帽子を手渡してきた。
その帽子は、真っ白な紐で作られており見た目は完全に女優帽なのだが、暑い夏にはとても適していそうな空気口が所々空いており、帽子の唾の中心部には水色のリボンがまいてある。
俺はその帽子をカウンターに持って行き会計を済ませた。その帽子の値段が三万キラもしたのはアリエスには内緒だ。
俺たちは会計を済ませると、その店を後にし、次の目的地に向かった。
それはアリエスが最初から目をつけていた場所であり、なにやらこのシルヴィニクス王国名物のものらしい。
ということで俺たちはそこの店に移動することとなった。
到着するとそこには、もう既にたくさんの人が並んでおり列を作っていた。だが俺たちもこれを目的に来たので簡単には諦めるわけにはいかず、その最後尾にならんだ。
その最中広場では、なにやらピエロの様な人がバルーンアートのようなものをしていたので俺たちはそれを見ながら時間を潰した。
そして俺たちは店の中に入ると、アリエスがカウンターに突っ込んで行き注文を済ませる。正直俺はメニューを見たところで何がなにかわからないので、今回はアリエスに任せることにしたのだ。その間に俺は外にあるテーブルを確保しておいた。そこは外といえど、屋根がそそり出ていて日は直接当たることはなく比較的涼しい。
しばらくするとアリエスが注文したそれを抱えてやってきた。なにやら重そうにしているので手伝おうとしたのだが、大丈夫、と言われたので俺は大人しく席についた。
で、そのアリエスが持ってきたのがこれだ。
見た目は完全に元の世界でいうところのカキ氷。
しかし上にかかっているシロップがなにやら見たことのない色をしており、例えるならば戦火の花そっくりなのだ。
「はい!じゃあ食べよっか!」
「ああ」
そういうと俺たちはそのカキ氷みたいなものに口をつける。それはとても甘く所々にフルーツの酸味が感じられた。
「うん、上手いなこれ」
「うん!おいしいね!………って頭いたい!」
いわゆるアイスクリーム頭痛ってやつである。正式名称は違うはずだが、なんかその俗称のほうが頭に残っている。
「ハハ、ゆっくり食べればいぞ」
「う、うん。………あ!ハクにぃ!あーん」
「え?俺に!?」
「ハクにぃ以外にだれがいるの。ほら口あけて?」
ま、まじか!これじゃあほんとにカップルみたいじゃないか!
でもこのまま何もしないとアリエスは悲しむだろうし………。
ええい!どうにでもなれ!
「あ、あーん………」
「どうおいしい?」
「あ、ああおいしいぞ……」
「よかった!だったら次はハクにぃの番ね!」
「あ、ああ………。ほら口あけて……」
「あーん…………うん!おいしい!」
するとそのやり取りを見ていた周囲の人達の視線が集まっているが、アリエスはまったく気にしてないようだ。
その後、俺たちはそのカキ氷もどきを食べ終わると、また次の目的地に移動し始める。それからはあっという間だった。アリエスと、遊園地らしきところや観光名所、さらにはデートスポットなど、それは日が暮れるまで続いた。
俺もなんやかんやで楽しんでいたので気分的には悪くなかったように思える。
そしてそろそろ宿に戻らなければいけない時間に差し掛かると、アリエスが急に俺にお願いをしてきた。
「ねえハクにぃ。私をお姫様抱っこして空に飛んでほしいんだけど、いいかな?」
「ん?ああいいぞ」
俺はなんでいきなりそんなことを言い出したのかわからなかったが、言われるままにアリエスをお姫様抱っこすると上空に飛び上がる。
俺はそのまま見晴らしのいい、王城と同じくらいの高さの時計等の屋根の付近まで飛んでいって、夕日を眺めた。
「きれいだね…………」
「そうだな………」
「ねえ、ハクにぃ。私今までハクにぃについてきて思ったことがあるの」
「なんだ?」
「私は、このままハクにぃの旅について行きたい。そして出来るだけハクにぃの側でハクにぃを支えたい。またハクにぃがあんな状態になっても助けてあげられるように……」
あんな状態というのは、俺が神核相手に豹変したときのことだろう。
俺は覚えてないが、やはりアリエスたちにとってはあの出来事は相当ショックだったようだ。
「そうか」
「だからね、ハクにぃももっと私を頼ってほしいの。そりゃ、私はクビロよりも弱いしシラやシルみたいにお世話もできないし、リアみたいにハクにぃのこと凄く知っているわけじゃないけど………でも!私も頑張るから!頑張ってハクにぃに頼られるようになるから!だから、私はずっとハクにぃの側にいたいの!…………だ、だめかな?」
そのアリエスの顔は夕日に照らされ逆光だったが、それでも必死に気持ちを伝えようとしてきていることはわかった。
俺はそんなアリエスに軽く微笑みながら答えた。
「なにをいまさら。アリエスはとっくに俺の大切な仲間だ。側にいたいなんて言わなくても俺からアリエスに会いに行く。だから心配するな。…………それと、これからはアリエスをもっと頼ることにするよ」
俺がそうアリエスに言うと、アリエスは今まで見た顔の中で一番いい笑顔をしながら頷いたのだった。
「うん!」
そうして俺とアリエスのデートは幕を閉じたのだった。
一応言っておくと最後のアリエスの発言は告白ではありません。もちろんアリエス自身好意は持っているはずですが、それはまだもうちょっと先の話です!
次回はハクが闘技場に向かいます!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




