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第三話 誰かを傷つけるということ

今回はとても残酷でシリアスな要素を多分に含みます。苦手な方はご遠慮ください。

 拉致犯は全員で十一人。見たところ武器は片手剣、ナイフ、弓のようだ。遠距離、近接、超近接、一見すれば悪くない編成だが、いくらバランスが取れていようとそれを扱う人間がボンクラでは焼け石に水もいいとこだ。

 しかし戦闘経験なく武器にも触ったことのない者は、その刀身を見ただけで恐怖を覚えてしまう。それがガラの悪い連中に無理やり連れて来られてきたともなれば精神的なダメージは相当なものだろう。

 出来るだけ早く救出せねば。

 とはいえ、いきなり暗殺まがいのことをやってしまえば、逆に人質を怖がらせてしまうかもしれない。というわけで俺が取れる手段は正面突破だ。


「リア、行くぞ」


『うむ、いつでも準備オーケーなのじゃ!』


 と一言リアに声をかけて足を前に出す。そうだ、下手な芝居でもやってみるか。一応正当防衛ってことにしておきたいし。

 俺はあえて大きな音を立てながら、拉致犯たちの前に躍り出た。すると案の定縄で縛り付けられた少女を中心に十一人の男たちが


「あーなんか知らない間に迷っちゃったなー。誰か助けてくれる人いないかなー。……あー!おじさんたちこの森の出口知らない?」


「あ?なんだてめぇ?いったいどこから入ってきやがった?」


「うん?だから迷ったんだよ、迷子。それにしてもどうしたのその装備?まるで狩にでも行くみたいだよ?」


「ああ!?だからてめぇには関係ないだろう!サッサと失せやがれ!」


「えーでも、おじさんたちの後ろにいる女の子、すごく苦しそうだから放してあげたら?」

 

 一番触れてほしくないところに触れたからだろう。拉致犯たちの表情が苛立ちから殺意に摩り替わった。まったく本当にわかりやすいやつらだな。だがこっちには好都合だ。これでお前らは俺の手のひらの上だぜ?


「ガキが。調子に乗りあがって、黙っていれば見逃してやったものを。悪く思うなよ、知られた以上お前にはここで死んでもらう」


「またまた。見逃すなんて言ってどうせ人気のないところまで尾行して後ろからサクッと殺すつもりだったんだろう?嘘をつくならもっと上手くなったほうがいいぜ拉致犯さんたち?」


「てめぇ死ぬ準備はできてるんだろうな?ガキだからって容赦しねぇぞ!」


「俺はかまわないけど。一応聞いておこう、ここで下がるなら見逃してやる。んじゃ返答は?」


「んなもんお断りだ!やっちまうぞお前ら!」


「「「おおー!!」


 気迫だけはいいやつらだ。だがそれが命取りだ。お前らは最後の選択を誤ったんだよ。

 目の前には先程から俺と話していたリーダー格の男とナイフ陣二人、そして後ろからは片手剣陣の四人、そしてナイフ陣の背後からは弓陣が矢を構えていた。

 俺はそれと相対するように軽く口をあけて軽い反撃をした。


「失せよ、下郎」


 その瞬間俺の周りから爆風が巻き上がる。それは拉致犯たちを全員吹き飛ばし、半径十メートルほどのクレーター作り上げていた。もちろん捕まっている少女には無害だ。助けると決めた以上、そんな無様な醜態は晒さない。

 しかしそれは拉致犯たちも一緒だ。別に殺すつもりでやったわけではないし、ここで降伏してくれればいいな、なんて考えながら放った攻撃だった。

 しかし俺は、それは甘い考えだったことに気づくことになる。


「ガハッ、て、てめぇ一体何しやがった?」


「うん?何って、言霊だよ、言霊。聞いたことないか?人の口にする言葉には意志が宿ってる、それは時として現実にさえ干渉してしまうってな」


「なんだそりゃ……。お前本当に人間か?ついてないぜまったく……」


「最終通告だ。降伏しろ。そうすれば命までは取りはしな……」


「馬鹿かお前は?」


「な!?」


 目の前に起きた事を理解するのに俺は少々時間を要した。

 それは縄で縛られていた少女の首下にナイフが突きつけられていた。


「お前は確かに強い。それこそ俺たちなんて指一本で弾き飛ばされてしまうくらいにな。だが俺たちもこれは仕事なんだ。引き下がるわけにはいかねぇ。だから俺たちにこいつを殺させないでくれ。そうすればお前を楽に殺してやるからよう!!!ハハハハハ!」


 少女の首にはもう既にナイフが食い込んでおりうっすら血が滲みだしてきている。少女は口が塞がれていてしゃべることは出来ないが、その目からは大粒の涙が溢れ出し顔をぬらしていた。

 油断した。自分の強さを見せ付ければこいつらは引き下がると思っていた。それが甘かった。ここは異世界だ。ナイフや剣がいとも簡単に手に入る世界。当然そんな世界では命の価値は必然的に低くなる。それと同時に自分の命の価値が格段に跳ね上がる。だから大切な人質にも手をかけることができる。

 こんな当たり前の法則を俺は何故理解していなかった!

でなければ、


 死人を作らずにすんだのに。


「……」


「ああ?だんまりか?そりゃそうだろうな、お前はもう何もすることは出来ないんだ、この少女をたすけたいのならな!ハハハハハハハ!


「なら、死ね」


「は?何言って……」


 グシャという音が響き渡った。それはまるで内臓を外側から突き破る様な音で、


「ッ!?」


 少女は悲鳴混じりに驚き、顔に血しぶきが付着する。


「ば、ばかな、こんなことが……」


そこには胸の中心辺りに大きな風穴を開けた拉致犯たちが蹲っていた。


「ご、ごふっ。あ、あ、あ、ありえねぇ、な、な、何をした……」


「言ったはずだ。最終通告だと。それを破りあまつさえ無抵抗な少女に牙を向けた。それは万死に値する」


「ぐ、ぐあ。お、俺が、わ、悪かった。だからたすけ、てく、れ」


「お、俺もだ、だからい、命だけは、ごほっ」


「た、たのむおねがだから、たすけて、くれ」


 その後も拉致犯たちは口々に助けてほしいと懇願した。

 しかしいまさら何を言うのか。お前たちはそうやってわずかな希望にすがった少女を今も縛り付けているではないか。

 すると俺の頭の中に凛とした声が響きわたった。


『主様、少し冷静になるのじゃ。お前はまた無駄に人を傷つける気か?』


「っっっ!?」


 その瞬間俺の頭の中にもう一つの声が鳴り響いた。




『ねえハク、あなたは一体なんのために戦うの?』




 そうだ俺はあの時……。


「くそ!」


 俺はそう言うと拉致犯全員に治癒を施した。仮にも神妃の力だ。胸の大穴から血を垂れ流していた拉致犯の傷はたちまち回復し、直ぐに完治した。


「お、お前……」


 信じられないといった様な顔で拉致犯は俺を見上げていた。それもそうだろうつい数秒前まで自分を殺そうとしていたやつが、いきなり治癒術をかけたのだ。驚くのも当然だろう。

 俺は迸っていた殺気を収め、ため息を一つついた後、拉致犯にこう告げた。


「いいか、もう二度と悪さはするな。今度善からぬことをしていたら今度こそ殺す。だから今すぐ近場の役所に自首して来い。それで今回は見逃してやる」


「わ、わかった。お、おいお前ら行くぞ、準備しろ!」


「「「うす!」」」


それから程なくして拉致犯は荷物をまとめこの場から去っていった。そしてそこには縄に縛られた少女と膝を突いて荒い呼吸を繰り返している俺だけが残されていた。


『主様』


「なんだ?リア…」


『主様は確かに強くなった。真話大戦の前と後では見違えるほどに。しかし、その力は使いどころを間違ってはならんのじゃ。力に飲まれることも然り。であれば……』


「周りを頼れ、だろ?わかってる。次からは気をつけるよ」


『うむ、わかっておればよいのじゃ。ならばほれ、あの少女を助けてやらんか』


「ああ、そうだな」


 俺はそう言うと立ち上がり、縛られている少女の元に向かう。

 ここは異世界、だけれども俺がやっていいことはあちらの世界と同じだということを改めて悟らされた。


実は作者自身この話を入れるか本当に悩みました。このまま楽しい気分で物語を進めてしまうことも考えたのですが、いずれ白駒の過去を語る際に必ず必要になると考え今回の話を書かせていただきました。

ですがやはり作者自身も暗いテンションは好きではないので、多話分割にせず一話という短い文章の中に詰め込みました。ですので次回からはただ単純に白駒が異世界無双する様子をお楽しみください!

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