第二百九十二話 vsオナミス帝国、十四
今回はイロアたちの戦況を描きます!
では第二百九十二話です!
「チッ!まったく厄介な鎧だな!攻撃そのものの威力をそぎ落としてくるとか、反則だぜ!」
場所はオナミス帝国、帝都内。
一番初めに攻め込んでいたいイロアたちSSSランク冒険者は既に大量の帝国兵を突破し、皇帝と魔導師団がいるであろう帝都内に侵入していた。
そこには大量の一般臣民も紛れており、イロアたちに民衆なりの攻撃を仕掛けている。イロアたちは絶対に住民には手を上げず、一直線に帝国の宮殿を目指していた。
「だが、これで大体の騎士団は無力化できたはずだ」
イロアはザッハーが愚痴のように溢した言葉に対して返答を返す。その体には黄金の鎧が変色してしまうほどの血液がへばり付いており、今までの戦闘の激しさが窺える。しかしそれはイロアだけでなくザッハーやイナア、ジュナスらSSSランク冒険者だけでなくその後ろについてきている黄金の閃光のメンバーやザッハーのパーティーとて同じであった。
イロアたちは騎士団との初めての戦闘を終えた後、そのまま湧き出てくるように出現してくる騎士団の連中を相手にし続けたのだ。
さすがに前評判からSSランク冒険者レベルの実力はあると言われていただけあって、その戦いは熾烈を極めた。というのも今しがたザッハーが言ったように、騎士団が身に着けていた鎧というのはとてつもなく厄介な代物だったのだ。
衝撃という衝撃を鎧に付与されている力によって分散させ、その威力を激減させてしまうという戦闘に特化させたような鎧で、イロアたちの攻撃は全てその鎧に受け止められてしまうという事態が発生した。
一応その鎧のつなぎ目を破壊しながら戦うことで活路は見いだせたが、全力で戦えない状況が続くというのもなかなか厳しいもので、次第にイロアたちの体に傷を走らせ体力を奪っていったのだ。
とはいえなんとかその修羅場を切り抜けたイロアたちは無事に帝都内に到着した。
するとここでジュナスがその鎧についての考察を述べてくる。
「魔眼で確認したかぎりだと、あの鎧にはどうやら強力な魔石が散布されているみたいだね。多分、その力によってダメージを減らしているんだと思うよ」
「まあ、今は撃破したからいいけど、まさか魔導師団もこの鎧着てないよね?」
イナアがジュナスの言葉に耳を傾けつつそう呟いてきた。確かに魔導師団までこの鎧を身に纏っているとより戦いは困難を極めるのだが、イロアはその言葉に首を振りながら否定を示す。
「おそらくそれはないだろう。そもそもこのレベルの鎧を量産している時点で驚きだが、その能力を考えると大量生産は出来ないはずだ。今まで戦ってきた騎士団だけでも三十人はいたのだ。それ以上の数を作り出せるとは思えない。まして残っているのは魔導師団だ。魔導師が自ら動きにくい鎧のような防具を身に着けるとは考えられないからな」
通常、武器にしても防具にしてもその性能に魔力的な属性を付与させることはかなり難しいとされている。鍛冶が得意な職人でも天然ものではなく自らそれを行おうとすると、大量の金銭を請求してくることもあるほどなのだ。それに金銭や技術的な面以外にも生産には膨大な時間がかかる。
ゆえにイロアはこの戦いにおいてこの鎧が出てくることはもうないだろうと判断したのだ。
帝都内はイロアたち軍隊が攻め込んだことによってパニック状態になっており、火はまだ上がっていないが、流れている空気は戦慄したものになっている。
その外側では今も人外としか考えられないような戦闘が繰り広げられているようで、ハクの圧倒的な気配とそれに対抗している存在の気配の二つがイロアたちにも伝わってきた。
(どうやら、ハク君もお目当ての相手と戦っているようだな。あの戦闘の結果がどのように転がるかは私もわからない。ゆえに私たちは一刻も早く皇帝を下し、戦争を終わらせないといけないのだ)
イロアは心の中でそう呟くと剣を構えながら帝都内の道を駆け抜けながら隣を同じように走っているジュナスに向けて言葉を投げかけた。
「おい、ジュナス!魔導師団の居場所はわからないのか?」
「うーん、おそらくは宮殿近くの見晴らしの近いところにいると思うけど、僕の魔眼でもなかなか放出されている魔力を感じ取ることができない。もしかすると魔力遮断系の力を使っているのかもしれないね」
ジュナスは普段の余裕そうな顔ではなく、眉間に皺をよせながらそう呟くと再び魔眼を使用して周囲の景色を確認している。
するとここでイナアが目の前にある少しだけ高く積みあがった丘のような場所を指さしながら声を上げた。
「多分あれだね、魔力の流れはわかんないけど私が魔導師だったらあそこから魔術を使うから」
イロアはその指が刺された場所を自らの目を使って確認する。そこは茶色のレンガが積み上げられた建物のようで、高さは丁度宮殿の二階部分くらいのようで魔力の流れはかんじないものの、人の気配は感じられる。
その場所を確認したイロアは後ろについてきているメンバーたちに向かってこれからの目標を伝えるために言葉を投げかけていった。
「魔導師団はおそらくあの建物の中にいる!皆、気を引き締めて進め!!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「おーーーーーーー!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」
するとその瞬間、まるでそんなイロアたちの動きを遮るかのように頭上に巨大な魔法陣が出現した。それは闇魔法を現している紫色に輝いておりすぐさまその現象を呼び起こしてきた。
「がっ!?」
それはかつてSSSランク冒険者序列第三位に入っていた男が好んで使用していた魔法とそっくりで、イロアたち軍隊を地面に叩きつけた。
「じ、重力創造か!!!」
その威力は第三位だったラオの魔法よりも威力が高いようで、ラオの魔法ならばなんとか耐えることが出来たイロアやジュナスでさえも抗うことが出来ない。
「もう!めんどくさい!」
同じくその魔法に縛り付けられていたイナアは苛立ちを表すような言葉を呟くと、なんとか右手に握られてる剣を動かしその力を発動した。
その瞬間、ガラス玉が壊れるような音が鳴り響いたかと思うとイロアたちの体に圧し掛かっていた魔法が消滅する。
「よっしゃ、でかしたぞちんちくりん!」
「あー!!!ザッハー!今、私のことちんちくりんって言ったね?今は見逃してあげるけど、この戦争が終わったら後悔させてあげるんだから!!!」
イナアはザッハーが吐き出した言葉に対して文句を述べるが、それでも今は戦いに集中しているようで、一気に魔導師団がいるであろう建物に接近していく。
魔導師団というくらいなので、その戦闘スタイルはあまり近接向けではない。むしろ攻めよられてしまうと反撃の余地はない。
ゆえに自分たちの位置が知られた魔導師団は苦し紛れの闇魔法を放ってきたのだ。
イロアはそのままその建物に狙いを定めると、自分の剣に対して小さく口付けをして魔力を流し始める。それは次第に黄金色に輝いていき、風すら纏わせていくような力を放出させると、それを勢いよくその建物に向かって打ち放った。
「はあああああああああああああああ!!!」
その攻撃は見事、魔導師団が潜んでいた建物に直撃し轟音とともに瓦解させる。
イロアの持っている力は普通の冒険者とは少しだけ違うものだ。イロアは生まれながらにして他人とは違う特殊な力を持っていた。それは意思のない物体と自分の力をリンクさせる「同期」という力だ。
その力は同期させた物体をまるで自分の体の一部のように扱うことができる能力で、例えば同期させてしまえば仮に身体能力的に持てない武器や鎧があっても難なく使いこなせるようになるのだ。発動条件は口付けというシンプルな方法で、使いようによっては今のように魔力を直接流し込むことも可能になる。
「相変わらず、えげつねえ攻撃だな。世界に愛された冒険者は怖くて仕方がねえ」
「ふん、それは貴様もだろうザッハー?いい加減その力を使ったらどうだ?」
「生憎と俺の力は燃費が悪い。そう簡単に使えるものじゃねえんだよ」
ザッハーもイロアと同じく魔術でも根源でもない別の力を使うことができるようだが、今は称する気はないらしい。
イロアたちSSSランク冒険者の集団はそのままその建物内に入り込むと、案の定潜伏していた、魔導師団を発見した。
「やあ、魔導師団の諸君。今から僕たちがやろうとしていることわかるね?」
ジュナスは表情こそ笑いかけているが、痛いほどの殺気を叩きつけつつそう呟いた。
「く、くそ!お前ら、魔法だ!魔法の準備をしろ!!!」
するとそんな言葉に応えるように建物に隠れていた魔導師団全員が高速で詠唱を開始する。その魔力はやはり強大でイナアがいなければ今以上に苦戦させられていたかもと想像させられてしまう。
しかしいくら高速で詠唱しようと、ここにいるのは世界でも最強と呼ばれているSSSランク冒険者だ。そんなわかりやすい隙を見逃すはずがない。
先頭に立っていたイロア、ザッハー、ジュナス、イナアは各々の持っている武器を振るいながら魔導師団を一瞬で気絶させていく。
その一撃が例えパーティーを壊滅させるほどの威力を持っていたとしても、展開されなければ意味はない。ここに騎士団が数人紛れ込んでいれば戦況はかなり違ったものになっただろうが、どうやらその気配はなくこの場にいるのは完全に魔術や魔法を得意としている者たちらしい。
その殲滅はものの数十秒で終了し、イロアたちはすぐにその建物から姿を出してきた。
「これで、騎士団と魔導師団は壊滅させた。あとは………」
「あの宮殿を落とすだけだね」
イロアの言葉に対してイナアが声を被せてくる。いかに強力な戦力を無力化しようと、結局はその頭を落とさなければ意味がない。
「なら俺とこのちんちくりんはここで後ろに残っている敵兵をぶっ潰す。イロアとジュナスは宮殿に向かえ」
「あ!またちんちくりんって………むぎゅ!?」
ザッハーは騒ぎ立てているイナアの口にカバンからはみ出ていたイナアの果物を突っ込むとその口を黙らせる。
「どうした急に?いつものお前なら手柄を持っていきたいと叫んでいるだろう?」
「別に叫びはしねえよ!………いや、エルヴィニアでの一件を考えれば俺がこのまま皇帝の下に行くのは少々まずいだろうが。いつ俺がお前らを裏切るかわからねえんだぜ?」
確かにザッハーはエルヴィニアに帝国兵を差し向けた容疑がかかっている。そんな者と一緒に宮殿内に入ってしまえばいつ背中を狙われるかわかったものではない。
おそらくザッハー自身にその意思はないが、それを理解しての発言だろう。
「ほう、少しは殊勝になったみたいだな。いいだろう。ではイナアとザッハーは後ろにいる兵を頼む」
「ああ、それでいい。さっさと行け」
ザッハーはそう言うとイナアの体を押すようにイロアとは反対側に歩き出すとそのまま振り返ることなく帝都内に消えていってしまった。
すでに戦況が大きく傾きつつある中、この帝都内に残っている戦力というのは限りなく少ないだろう。ゆえにザッハーはより確実な勝利を掴むためにSSSランク冒険者を分断したのだ。
「ザッハーも少しは成長したというところかな?」
ジュナスがそんな背中を見つめながらそう呟いてくる。
「さあな。だが悪いことではないだろう」
イナアとジュナスはそう言うとお互いに笑みを浮かべながら目前に迫った宮殿内に攻め込んでいくのだった。
次回は一人だけ残っているアリエスの戦いです!
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