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第二百八十六話 vsオナミス帝国、八

今回はシラとシルがメインです!

では第二百八十六話です!

「あなたの相手は私たちよ」


 シラは目標であった勇者を発見するとキラがいる方向に自分たちの位置を映しながらそう呟いた。

 その隣には妹であるシルの姿もあり二人ともピンク色に輝いているサタラリング・バキを振るいながら勇者を追いつめていく。


「くっ!?き、君たちはエルヴィニアにはいなかったようだけど……」


「いいえ、私と姉さんもしっかりあの場にいましたよ。まああなたの前には姿を出してないですが。たから私たちにもしっかりとあなた達と戦う理由があるんです」


 シラとシルはエルヴィニア秘境においてあまり目立った戦闘は行っていない。というのも二人はあの時第三ダンジョン前に追いつめられていたエルフたちの救護に当たっていたからだ。決して勇者たちを相手にできないからという理由ではなくやるべきことがあったから戦場に姿を現さなかっただけである。

 すると必死にシラとシルの攻撃を受け流しながら勇者は目の前で展開されている光景に驚きながらそれについてシラに問いかけた。


「僕たち勇者を分断したのかい?確かに僕たちは集まっていればいるほど強さを増すからいい方法だけど、それは君が考えたのかな?」


「ええ、そうよ」


「だったらそれは失敗だ。僕たちを二手に分断して戦力を減らそうと考えたのかもしれないけど、僕たちは前のように弱くはない。まして君たちが二人がかりで僕と戦っても負けることはないだろうからね」


 この勇者が言っていることはある程度的を射ている。実際にシラとシルもこの場にいる勇者たちの実力が学園王国で戦ったときよりも強くなっていることは理解しているし、本気で戦わなければいけないのは事実だ。

 だが、だからといってシラとシルが負けるということではない。そしてそれは他のメンバーも同じだ。

 目に入ってくるのはキラとクビロの姿だけだが、どこからどう見ても完全に押している。

 シラそんな二人の活躍に少しだけ微笑むと、サタラリング・バキをもう一度力強く握りしめ攻撃を開始した。


「その言葉、後で後悔するわよ?」


 シラの攻撃はその魔剣の力で時空の一コマを穿つ力を秘めている。ゆえにシラはその勇者を攻撃しながらも同時に空間に対して斬撃を残していく。

 またシルも同時に切りかかっており、二人で大量の攻撃を未来へ刻んでいった。

 そんなことになっているとは思っていない勇者は二人の剣を弾きながら、自らの攻撃を滑り込ませてくる。


「見たところ君たちの動きはそこまで飛びぬけているわけじゃないね。今の僕でも能力を使わなくても対処できそうだよ」


 勇者はそう言うと急に剣の起動を変えて剣を自分の後ろに回っていたシルに対して突きつける。それは完全な不意を突く形で成功し、シルの切りそろえられた髪を何本か吹き飛ばす。


「ッ!?」


「シル!」


「まだまだ行くよ?」


 そんな反応に対して勇者は隙が出来たシラに対して攻撃を放っていく。流れるようなその動作は何度も練習したかのように洗練されており、今のシラでも目で捉えるのが困難なレベルだ。

 その一撃はシラの肌が見えている肩を軽く掠めメイド服を血で汚してしまう。


「ぐっ!?」


 シラはさすがにこのままではマズいと判断して設置しておいた魔剣の攻撃を一斉に放った。


「お返しよ!」


「な、なに!?」


 それは見事全て勇者の体に突き刺さり確かな感触をシラとシルに返してくる。サタラリング・バキの力で作られた攻撃は間違いなくその勇者に致命傷を与えただろうと思われた。

 だが。


「ふう、なかなか興味深い技だね。未来に干渉して攻撃を残しておくとは。でも僕がそれに気が付かないと思ったのかい?」


 そう、この勇者は先程シラたちが魔剣の力を仕掛けていることを気づいていながら、気づいていないふりをしていたのだ。

 ゆえにどの空間にその力が繋ぎ止められているかも把握していたし、対処することも可能だったということなのである。

 しかしそれはシラとシルもある程度理解していた。

 というのもこのサタラリング・バキの力を発動するには、いくら通常の攻撃と同時進行で使用してもやはり少しだけ妙な動きになってしまうのだ。空間に配置して未来を穿つということはその環境全てを把握して攻撃を放たなければいけない。つまりどう頑張っても現在放っている攻撃と未来に対する攻撃のモーションに差が出てしまうのだ。

 そしてそれは勇者ほどの実力を身に着けていれば見破ることも容易になってくる。おそらくハクほどの実力者であればそれさえも作戦に組み込んで戦いを進めることが出来るのだが、今のシラとシルにそれを求めることは出来ない。

 だからこそシラとシルはすぐさま違う作戦を実行する。

 二人はいつものように相手を左右から挟み込むような形で動き始めると、サタラリング・バキに力を流しながら攻撃を続けていく。


「ふっ、とうとう考えることも出来なくなったかい?そんな単調な攻撃じゃ、僕は捉えられないよ?」


「まさか。私たちが何も考えないで戦ってるわけがないでしょ?」


「覚悟してください!」


 シラとシルの攻撃に対して勇者は効率的にその攻撃を防御しようと、まずシラに向き直り剣を振るう。しかしそれはシラの剣には当たらず、まるでこの動きが初めからわかっていたようにすり抜け、勇者の体に初めて傷をつけた。


「な!?がああああああああああ!?」


「まだ終わってません!」


 さらにそんな勇者の後ろからシルがサタラリング・バキを振り下ろし追い打ちをかましていく。


「ぎゃあああああああああ!?」


 さすがにこの攻撃は効いているようで、どれだけ分厚い鎧を着ていようとも赤い鮮血が周囲に飛び散った。

 サタラリング・バキはどんなに扱いにくくてもリアが所有していた神宝の一つだ。生半可な鎧では一瞬で打ち砕かれてしまう。


「い、今のはなんなんだ………?僕の動きをまるで読んでいるかのような……」


 勇者は傷口を抑えながらもそう呟くと、シラとシルを睨みつけて言葉を紡いでいく。

 対するシラとシルはそんな勇者との距離を猛スピードで詰めながら返答を返しながら攻撃を続けていった。


「あなたに説明する必要はないわ。私たちの目的はあなたを無力化すること。ただそれだけよ」


「エルヴィニア秘境でやったことをしっかり反省してください!」


 今この時シラとシルが使用しているのはカリデラ城下町で星神の使徒たちを相手取ったときに使用していた未来予知の力でサタラリング・バキの能力を汎用的に拡張し、別の側面の情報を得ることが出来るようになるものだ。

 未来予知というハクでも干渉することが難しいものを覗き見るためその脳には相当な負担がかかりシラとシルといえど長時間は使用できなかったのだが、今は一時間ほど連続で使用できるくらいに成長している。

 だからこそ二人は惜しみもなくこのタイミングで能力を使用したのだ。


「くそ!どうなっているんだ、君たちは!?」


 この事態はどうやら勇者の頭を相当狂わせているようで、額から冷や汗が滲み出ている。この勇者の得物は長く伸びた長槍でシラの肩を傷つけたのもこの剣よりも長いリーチがあってこそだ。

 だがそれでも今は完全にその動きが読まれているのでそのメリットを失ってしまっている。

 シラとシルはその槍の軌道を全て把握し、その動きを封じる形で攻撃を放っていく。本来ならば短剣を使用している二人にとって槍という武器は非常に相性が悪いのだが、それでもそこに頂上的な能力が加わればその全てが逆転してしまう。

 それこそが今回シラとシルの狙いであり、目指していた戦法でもあるのだ。

 するとここで勇者の表情が焦っているものから覚悟のものに変わり、その体に急激な魔力が流れ始めた。


(…………。そろそろあの力が発動されそうね。準備しておいたほうがいいかもしれないわ)


 シラはそんな勇者の反応を敏感に感じ取ると、同じく勇者に攻撃しているシルに向かって意思の含んだ視線を流した。

 それに気がつたシルは大きく頷くと首から吊り下げられている大きな懐中時計のようなものの存在を確かめると、勇者の攻撃に備える。

 そしてついにシラとシルが一番恐れていたあの力が放たれた。


「もう少しゆっくりと戦おうと思ってたけど、そうも言ってられないようだね。だからこの力で一瞬で決めさせてもらうよ!座標交換!」


 その瞬間、シルの姿が何かに引っ張られるようにして空間から消え去り、勇者がいた場所に移動させられてしまう。その背中はまったくの無防備であり、そのタイミングで攻撃を受けてしまえば確実に致命傷になってしまう可能性がある状況を作り上げられてしまった。

 だが二人にとってこれすらも想定内。

 ゆえに落ち着いて自分たちが持っている奥の手を発動する。


「「統制の檻」」


 それは本来ならば生き物の心理に問いかけて意思を統一させる能力なのだが、二人はその力をこの場で同時に発動した。それは次第に二人を金色の光が包み込んでいき、瞳も同じ色に染まっていく。

 そして勇者が突き出してきた槍に穿たれようとしていたシルが常識を超えた速さで振り返ると、そのままその槍を左手でつかみ取った。


「な!?なんだと!?」


 勇者の力は先程も言っていたようにかなり強くなっている。それなのにその全力の攻撃を七歳の少女がいとも簡単に素手で受け止めてしまったのだ。


「あなたの敗因は二つあります。一つは完全な調査不足。私たちの力の全容を把握してなかったことです」


 その言葉は瞬間的に勇者の背後に回り込んだシラが続けていく。


「そして二つ目はやっぱり」


「「慢心しすぎよ」です」


 二人同時にその結論を勇者に突きつけると、その体に前後からサタラリング・バキの刃が勢いよく突き刺さった。


「ぎゃああああああああああああああああああ!?」


 放たれた攻撃は一瞬にして勇者の体力を奪い取り地面に大量の血液を流れ出させる。一応急所は外しているため、死ぬことはないだろうがもう動くことは出来ないだろう。

 それを確認した二人は発動していた統制の檻を解除し、大きく息をついた。

 顔は二人とも上気しており肩で呼吸を繰り返しており、全身にはとてつもない倦怠感が襲ってきている。


「な、なんとか、成功したわね………」


「う、うん………」


 二人が発動した統制の檻は、二人同時に発動させることによってお互いに統制の檻の効果を散布し強制的に脳に魔力の流れを速める命令を出させているのだ。こうすることによって大量の力を消費するものの通常では考えられない力とスピードを出すことができ、実力を上昇させることが出来る。

 その力は一瞬ではあるがキラやサシリと渡り合うことが出来るレベルまで上げることができるようで、シラとシルにとって本当の奥の手なのだ。

 しかし見ての通りそれを使用するともはや動くことも辛くなってしまい、さらには統制の檻を使うことが出来る獣人族が二人いなければ発動できないという弱点も持っている。ゆえにシラはこの戦いにおいてシルとの共同戦線を申し出たのだ。

 すると息をついていた二人の目の前に倒れている勇者の体がいきなり煌きだし、薄くなっていくとその勇者は完全に姿を消した。


「い、今のは………?」


「さ、さあ?」


 二人はその光景にひどく困惑するのだが、気配もどこにも感じられないためとりあえず胸を撫で下ろし近くで戦っている仲間の状況を確認した。

 するとキラもクビロもそれぞれ戦闘を終えようとしているようで、その終わりが見えてきているようだ。


 するとその瞬間、ハクが戦っている場所からとてつもない力が沸き上がり爆音とともに力と力が衝突した。


「始まったわね……」


「うん………」


 それはハクが勇者を倒し終え、アリスという敵軍最強の存在とぶつかり始めた光景であった。


次回はクビロの戦闘回です!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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