第二百八十三話 vsオナミス帝国、五
今回はアリエスたちパーティーメンバーにスポットを当てます!
では第二百八十三話です!
時は少し遡り、開戦直前。
シラはハクに言われた通りメンバーを二つに分け勇者討伐に向けての作戦を考えていた。今回の戦いではハクと拓馬、結衣の三人から離れた場所で戦うことが前提だ。勇者たちがどのような配置を取っているかわからない以上、勇者たちをいかに二つに分断するかということが大きな鍵となってくる。
前回はキラとサシリの二人だけで勇者たちを追い返したが、今から行われる戦いではメンバー全員がその戦闘に参加する。それはつまりいつも以上に入念な作戦が必要だということだ。
するとそんな中キラがシラに向かって話を進めるように促してきた。
「して、どうするのだ?妾たちの人数は八人で勇者たちは九人。一人につき一人の勇者を相手にするにしても残った一人が溢れてしまう。まして二手に分かれるとなると、さらに戦況はややこしくなるぞ?」
「そうね。まずはその前に勇者たちの能力を確認しないとどうしようもないわ。おそらく自分の持っている力によって向き不向きもあるでしょうし、そこは絶対に考えないと」
シラはそう呟くと隣に座っているエリアに視線を流す。その意図は自分が知っている勇者の情報を伝えろという合図だ。
「私たちが戦った勇者は全部で五人です。それも能力が判明しているのは二人だけ。ヘルさんが戦った情報と照らし合わせてもその二人の詳細しかわかっていないんです。一人は自分と相手の座標を入れ替える座標交換という能力。そしてもう一つが消滅結界という自分に不利な影響をもたらす力を完全に消してしまう能力です。どれも強力で特に消滅結界というのはハク様の気配創造も破壊したという話でした」
その話を聞き終わったシラが次に視線を流した先はアリエスの方の上に乗っているクビロだ。
『わしが戦ったのは三人の勇者じゃ。そのうち力を発動したのは一人で、天界壁とか言っておったかの。消費魔力が大きいようじゃがそれなりの防御力を誇っている。あとの二人については不明じゃ』
そして最後に語り始めたのはパーティーメンバー内で最強の力を持っているキラだ。
「妾は大剣使いの勇者と戦ったが、屈折境界とかいう力を使っていた。なんでも光の屈折を利用し自分の攻撃を複数視認させるという技らしい。あとは何やら相手を拘束してくる力を持った奴もいたな。まあ、妾にとっては問題でもなんでもないがな」
シラたちが知っている勇者たちの情報が全て出揃ったところでシラは一度目を
閉じてゆっくりと思考を整えていく。そんな時間が三分ほど続くと勢いよくシラは目を見開き自分の作戦を話し始めた。
「能力がわかっているのは全部で九人中五人。だけどキラとサシリは一応勇者全員と戦闘経験がある。それを踏まえて考えると、できればキラとサシリには各自二人ずつ勇者を倒してほしいわ」
「どういうことだ?」
キラはそのシラの言葉に首を傾けながら問いかけてくる。
「配分的に言えばキラのチームは四人の勇者を、サシリのグループは五人の勇者を相手取ってもらうことになるわね。説明すると勇者との戦闘経験がなく、さらにパーティー内で一番非力なのは私とシルよ。それに私たちは二人で戦わないと力が発揮できない。だから申し訳ない話なのだけれど私とシルは二人でワンセットという風にしたいの。そうなるとキラとサシリが二人ずつ、私とシルのペアで勇者を一人。そして後のみんなは各自一人ずつ相手にする。これでどうかしら?」
シラが言ったようにシラとシルはこのパーティーの中でも非力な部類に入ってしまう。統制の檻という力を鑑みればそれも変わってくるのだが、今回の戦いでその力はあまり意味をなさない。よってシラは自分とシルを二人で一つとして考え、戦力的にバランスを整えたのだ。
するとそこにルルンが手を上げながら声を上げてくる。
「それは別にいいんだけど、私たちは一体誰を相手にすればいいのかな?」
今シラが呟いたのはあくまでも人数配分の話だ。作戦の根幹である誰を相手取るのかという部分が抜けている。
シラは人差し指を立てながらそれについても説明を開始した。
「まず第一にキラとサシリはこのパーティーの中でも最強の二人だわ。だからこそ能力が判明していない勇者たちと戦ってほしいの。一度戦ったことがあるということもそうだけど、やっぱり実力的に考えてもキラとサシリには不確定要素の強い相手と戦ってもらいたいわ」
つまり勇者の数から考えても能力が判明していないのは四人。その全てをキラとサシリで相手にするということだろう。
確かにキラとサシリならば全力全快で戦うと神妃化したハクさえも苦戦させるほどの力を持つことが出来るため、基本的に不意を突かれたり攻撃をくらってしまっても最悪力で押し通すことができる。それを考えての人選だ。
「いいだろう。誰であろうと妾は瞬殺してやる」
「私も問題ないわ。また血を吸っちゃおうかしら?」
シラはそんな二人の声に大きく頷くと、残されている五人の勇者についての人選を発表していく。
「で、次は消滅結界を使える勇者だけど、これはエリアに戦ってもらうわ。消滅結界は確かにハク様の気配創造を消してしまえるけどそれほど連発は出来ないはず。であればエリアのような魔法も剣も使いこなせる人間が戦ったほうがよりその消耗を加速させられるはずよ」
「了解です!」
「ルルンは屈折結界を使用する勇者をお願い。いくら自分の攻撃の虚像を見せられると言ってもルルンの攻撃速度があれば問題なく対処できるはずよ。舞踏姫の力を見せてあげて」
「オッケー!彼とは一度エルヴィニア秘境で顔を合わせてるけど、その力の種さえわかっちゃえば問題ないよ!だってシーナに虚像剣を教えたのは私だからね、攻撃の虚像に関しては任せて!」
「そしてアリエスは拘束系の力を使ってくる勇者の相手をしてほしいわ。何かあればあなたの持っている絶離剣レプリカで振り払えるし、隙を突いて魔術で押しつぶせるでしょ?」
「うん!もちろんだよ!私も今回は全力でいっちゃうよ!」
「最後はクビロね。クビロは前回と同じく障壁勇者を倒して。一度戦ったことのある相手なら問題ないはず。だから持ち前の影の力をお見舞いしてやってほしいわ」
『任せておくのじゃ。あやつらにはお灸を据えてやろう。全力でな』
「残った私とシルは位置をすり替えてくる勇者を相手にするわ。魔剣の力を使えばある程度未来を予測できるし、二人で相手をすれば仮に位置をずらされてももう片方が勇者に攻撃できる。一応個々の力を考えて決めたつもりだけど異議はない?」
シラは全員の担当を発表し終わると大きく息を吐き出して皆に同意を求めた。
すると全員がその言葉に頷き瞳に闘志を宿していく。そんな姿を見たシラは胸を撫で下ろしながらさらに具体的な動きについて説明していった。
「で、戦闘が始まったら私たちは全員で担当の勇者に目掛けて先制攻撃をしかけるわ。これによって勇者は絶対に私たちの相手をしなければいけなくなる。その後はハク様の戦いの邪魔にならないようにキラとサシリを中心に二手に分かれるように誘導して各々戦い始めるの。これなら勇者を分断しながら狙った相手と戦えるわ」
そもそも勇者を二手に分断する理由は、下手に徒党を組まれて戦力を増強させないためだ。おそらく九人も勇者という特殊な力を持った人間が集まってしまえば、何かしらのコンビネーションが生み出されてしまう。ハクはそれを避けるため、シラにメンバーを分けるように言ったのだ。
どうやらその作戦も否定されることはなくメンバー全員が同意の反応を示す。
そして一通り戦い方が固まったことを確認したシラは翼の布の操作をしているハクに今の話し合いの報告をしに行ったのだった。
そして時間は進み、ハクたちが翼の布から地上に降り立った直後。
キラとサシリを筆頭にしているメンバーたちはハクの戦いを横目に見ながら、目的としている勇者たちを探していた。なにやら勇者たちは帝国兵の目の前に待機するように位置取っているようでその群がりを崩そうとはしない。
むしろキラたちの接近を待ち構えているようだ。
「ほう、奴らもお待ちかねみたいだな」
「まあ私とキラは一度学園王国で顔を合わせているから、何か思われていても不思議じゃないわね」
キラとサシリはアリエスたちを後ろに連れながらその光景に対する感想を述べていく。キラとサシリはその場で適当に能力が判明していない勇者の配分を決めると、その四人に対して接近していった。
それに続く形でアリエスたちも自分が担当する勇者を相手取るため移動を開始する。
その後ろにはイロアたち冒険者の集団も近づいてきており、残り数分もあればお互いの戦力は真正面からぶつかることだろう。
キラとサシリはその両軍の戦いから身を引くように左右に分かれて移動する必要がある。でなければキラたちの高レベルな戦闘で仲間である自分たちの軍隊まで傷つけてしまう恐れがあるからだ。アリエスの魔術にしろキラの根源にしろ、その火力は既に人間の域を超えている。そんなものを大量の人間が群がっている空間で使用してしまえば敵味方関係なく大きな被害を出してしまう。これだけは避けなければいけないのだ。
太陽が水平線の奥からゆっくりと上がってきているようで、うっすらとキラたちが駆けている戦場を照らしていく。
それは次々とその場に立っている人間の顔の色を変えていき、朝の到来を静かに告げていった。
その瞬間、キラとサシリは目をつけていた勇者に対して攻撃を仕掛けた。
「悪いな。妾の相手はお前たちに決まった」
「私の相手はあなた達よ。精々美しくもがきなさい?」
二人は同時に勇者に接近すると根源や血の力を使って勇者をそれぞれ左右に分けるように移動させる。
「があああああああ!!!」
「きゃああああ!?」
「ぎゃあああああああ!!!」
「ぐはああああああ!?」
その四人は目にもとまらぬスピードで接近し攻撃を仕掛けてきたキラとサシリに抵抗することが出来ず、そのまま悲鳴を上げ体を何度もバウンドさせながら吹き飛ばされた。
そしてそのタイミングと同時に残っているアリエスたちも攻撃を開始し、各々の武器を振り上げて勇者たちの行動を誘導していく。
この瞬間、シラが立てた作戦が動き出し、常識を超えた戦闘の合図となる鐘を鳴らしていくのだった。
こうしてオナミス帝国との戦争における全ての戦場で戦いが開始された。
各々が死力を尽くす戦闘はまだ始まったばかり。
勝利の女神は一体どちらに微笑むのか、それはまだわからない。
そして、あえて言うならば戦力を壊滅させることだけが勝利とは限らないのだ。
次回は再びハクと拓馬の戦いに戻ります!
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