第二百七十四話 集結、四
今回で話し合いは最後です!
では第二百七十四話です!
「といっても私から報告することというのは殆どない。どうやら帝国は今回の戦争で獣国のことは眼中にないらしい。動きという動きもまったく見られなかった。まあ途中からハク君も合流したので、そこからは特に言う必要はないだろう」
イロアは担当として獣国の監視をしていた。それこそ俺はイロアと獣国に行く前に何度か念話でやり取りをしていたのである程度の事情は察している。確かに俺が言ったときも特段帝国の動きのようなものは見られなかったし、そもそも攻めてくるにしてはさすがに遠すぎるだろう。
オナミス帝国はこの世界の最北端に位置している。そこからわざわざ南西の端のような場所にある獣国に戦争を前にして攻めるかというと、それは否だ。
するとそんなイロアに対してザッハーがいつもの調子でからかうような台詞を吐き出す。
「ハクと一緒ってことはお前、任務放り出してハクとくっ付いたりしてねえだろうな?さすがに天下のイロア様がそんな醜態晒したらそれこそ………ッ!?」
「おい、今何か言ったか?」
しかしその言葉はテーブルをまたぐように突き出されているイロアの黄金色の長剣と凍えるような殺気によって遮られてしまう。
俺もこれ以上くだらないことを喋るならエルテナを抜こうかと思っていたのだが、どうやらイロアの堪忍袋はそれほど耐久値が高くないようで物凄いスピードで行動に出た。
「わ、悪かった、冗談だ………」
さすがにこれにはザッハーも冷や汗を流しているようで両手を上げて降参のポーズをとる。よく考えれば前回もキラがこのようなシチュエーションを作り出していたが、今回は完全にザッハーに非がある。ゆえに反論することもできないのだろう。
「今度意味の分からないことを言えば、その首はないと思え。お前にはエルヴィニア秘境での一件もある。今の私ならばお前の首くらい簡単に切り落とすぞ」
イロアは冷たい視線をザッハーにぶつけながらそう呟くと構えていた長剣をしまい、雰囲気を元に戻す。
い、いや………。こ、怖いな……。
イロアって怒らせるとこうなるのか……。言い方は悪いが勉強になったぜ……。
「で、だ。私が持っている情報というのは本当に少ない。殆ど伝えてしまってあるというのが原因だが、そもそも我々パーティーは獣国からあまり動いていないからな。しかし私も部下を帝国に何人か送り込んである。そこから得た情報というのもあるのだが、それはジュナスに任せた方がいいだろう」
「ん?どういうことだ?」
俺はそう呟くイロアに対して疑問符をぶつける。
するとイロアは完全に呆れたような表情でジュナスを指さすとそのまま俺に説明を開始する。
「この男が一体どの場所を監視していたか知っているか?」
は?
どこってそりゃ………。
あ。そういえばジュナスは特定の国や町を決められていなかったか。
第一位であるジュナスは前回の集会の際、確か自由に動いて調査を進めるような形で落ち着いていた。ということはどの国にも出現している可能性もあるし、裏を返せばどこにも行っていないということもあり得るのだ。
ジュナスに限ってさすがにそれはないだろうが、とはいえ俺にはジュナスの居場所なんてわかるはずがない。
「い、いや、わからないが………」
そんな俺を見ていたイナアがイロアの言葉にかぶせるようにその答えを呟いていく。
「ジュナスは正直言って私たちの中で一番変わり者なの。だから考えなしに強敵求めて敵の主戦力に立ち向かっちゃうような馬鹿ってこと」
…………。
え、えっとそれはつまり……。
「つまりオナミス帝国ってわけだ」
で、ですよねー…………って何考えてんだよ!?
いきなり敵の本拠地に単身で突っ込む馬鹿がいるか!?
俺は内心ザッハーの言葉にツッコミを入れながら会話に混ざる。
「ってことはなんだ?ジュナスは直接オナミス帝国にいたってことか?」
「ははは、まあそうなるね」
ははは、じゃねえよ!
もっと緊張感持てよ!
しかしそんな俺の考えとは裏腹にジュナスはさらに話し合いを進めていく。
「それじゃあ、次は僕の番だね。ザッハーが言った通り僕は今までずっとオナミス帝国の中にいた。といっても宮殿の内部には入れなかったし、人の動きを観察していたくらいだけどね」
はあ………。なんか黙って話聞いてるだけで着かれる面子だな、こいつらは。
どうやらそれは俺の隣にいるシーナも同じようで個性の強いSSSランク冒険者の空気に圧倒されなかなか言葉を発せずにいる。
「さすがに帝国ともなればその内部の情報っていうのは本当に管理がしっかりしていて、まったくと言っていいほど情報は掴めなかった。だけど、僕独自の見解だけれど帝国の街は完全に戦争モードだったね。人の動き方から生活の術に至るまでが張りつめていた。だから僕は学園王国とシルヴィニクス王国の国王陛下に掛け合ってこの戦争に備えてもらったんだ」
俺が帝国が戦争を始めようとしているという情報を伝える前は、まだこちら側が勝手に戦力を集めているという事態にしかなっていなかった。で、それはどうやらこのジュナスの進言が原因らしい。
確かにSSSランク冒険者の第一位の人間が注意を促せばいくら大国の国王といえど耳を傾けざるを得ないだろう。
「具体的にいうのはないのか?例えば大量の物資が運び込まれているだとか、戦力を拡大しているだとか」
俺はジュナスに対してそう言葉を投げていくがジュナスは大きく首を横に振る。
「そういう類のことはまったく感じ取れなかった。それこそザッハーの情報にあった魔石がいつ運び込まれているのかも見つけ出せなかったくらいだからね。相当警戒しているんだろう」
ジュナスがそう言葉を終わらせるとそれを引き継ぐ形でイロアが言葉を紡いでいく。
「ふむ、ならば現情報告はこの程度か。ならば話を変えてこれからのことを話し合おう。生憎とこのままストレートに戦争をさせてくれそうにはないらしいからな」
「どういうことだ?」
「冒険者たちの統制というのは、まあどうにかなる。奴らは基本的に自分たちの利益で動いている集団だからな。だが隣国の軍隊は違う。奴らは己の国のためになることしかしねえ。それが面倒なんだよ」
ザッハーは再び机に脚を投げ出すとそう語った。
俺とシーナ的には冒険者たちの手綱を引く方が大変だと思っていたが、どうやら現状はそうではないらしい。
シーナも隣国の戦力はまとめづらいと言っていたし、これは相当大きな問題なのかもしれない。
「そこでシーナ、騎士団長である君に意見を求めたいのだが、何かいい案はないか?」
「そうだな。はっきり言って私もあの手の輩はあまり得意ではない。仮に餌を吊り下げたところで用心深い奴らは食いついてこないはずだ。ゆえに先日話した通り一度会合を開いて納得させるしかない。それでも無理ならば諦めるしかないだろう」
おそらくイロアとシーナはこのことについてあらかじめ話をしていたのだろう。ゆえにシーナは俺と話している中でもこの話題を振ってきたし、今も難なく答えることが出来ているようだ。
「でもー、本当にそれで納得するの?大抵小さい国は自分の国を一番に考えてる。そこに協力を促したところで貸してくれる戦力なんて微々たるものじゃない?」
「まあそうなったら俺が使い間を何体か出しておく。下手な軍隊よりは遥かに強いだろう」
フレイヤやパンドラのような神々を召喚すれば間違いなく一騎当千の実力を発揮する。しかしあれは俺にも相当な負担がかかるのであまり使用したくはないのだが、事態が事態なので仕方がないだろう。
「ならばそれに関してはそうしようか。イロア、君が彼らをまとめておいてくれ。日にちの設定も任せる」
「はあ………。本当ならば序列一位であるお前の仕事のはずだがな」
「それを言ったらこの中で一番強いハク君が適任な気がするけど?」
な!?
あのイロアが手を上げるような連中と会合など、絶対にやりたくない!
俺は直感的にそう判断すると出来るだけ感情を表に出さないようにイロアに言葉を投げつける。
「イロア、頼んだ」
「君までそんなことを言うのか………。まあいい、どうせここにいる面子では話し合いにすらならんだろうからな。私が出るのが一番いいだろう」
するとそんなイロアの肩を持つようにシーナが口を動かす。
「一応私はシルヴィニクス王国代表として参加するつもりだ。何かあれば助太刀しよう」
「それは助かる。シルヴィニクス王国が味方についているともなれば影響力は大きいだろう」
俺はそこであることを思い出し追加で言葉を呟く。
「そういえばシラが学園王国の騎士団長も信頼できそうだと言っていた。そいつにも声をかけてみるといいかもしれない」
「あー、あいつか。確かに悪い奴ではないな。よし、それに関しては私が声をかけておこう」
なんでもその騎士団長はシラが帝国兵と戦っているときに一緒に戦ってくれた人物らしく実力もシーナほどではないが期待できるレベルだったそうだ。
シーナは俺の言葉を聞くとその騎士団長を思い出したかのような反応を示し、大きく頷く。
「ならば次にその会合以外の予定についてだ。皆おそらくそれぞれの準備に忙しいのだろう?」
「まあ、俺はパーティーや部下の装備を整えないといけねえし、暇じゃねえな」
「私は暇だよー。というかむしろ今すぐ攻め込んでも大丈夫!」
「僕も比較的に空いているね。手伝えることは少ないかもしれないけど、ある程度は動けるかな」
「ふむ、ではザッハー以外は空いている時間は出来るだけ他の国々の部隊や冒険者を鍛えておいてほしい。まだ開戦までは二週間もある。出来ることはやっておいたほうがいいだろう」
「おい、待て。勝手に俺までそのカウントに含まれてないか?何も答えてないんだが」
俺は何故だか数にカウントされてしまっていることに対して抗議の声を上げるのだが、イロアは目を細めて首を振ってそれを否定する。
「まさか。君にはしっかり他の任務があるだろう?」
「任務?」
するとイロアはスッと立ち上がり俺の顔を両手で挟むとそのまま顔の角度を体ごと百八十度回転させ、目も前にある光景を指さしながら話を続ける。
「君はパーティーメンバーの手綱をしっかり握っておいてくれ。シラ君の件のようなことが今起こると本当に困る。君たちのパーティーはこの戦いにおいて最大戦力なんだ。というわけで君はとりあえずあの事態の収拾に行ってくるんだよ」
イロアはそう言うと俺の背中を力強く押し出し俺を椅子から立たせる。
そしてそんな俺の前に展開されていた光景は、俺の気苦労をさらに増加させるものになっていたのだった。
「モグモグ………。これおいしいね!エリア姉も食べる?」
「あ!いただきます!ギルドのお料理ってあんまり信用していませんでしたけど、意外といけますね」
「うんうん、私は基本的にデザートしか食べないけど舌が蕩けそうだよー」
「おい!激辛料理はまだか!一体何分待たせるんだ!妾は腹が減って仕方がないんだ!」
「もきゅもきゅ………。うん、やっぱり唐揚げはおいしいわ、癖になりそう」
「あ、いただいちゃってますハク様」
「ハク様も一緒にいかがですか?」
…………。
うん。なんだか急にイロアの言葉が腑に落ちたよ。
つまりこのじゃじゃ馬たちから目を離すなということだな。
その景色は今までと同じように大量の料理が積み上げられており冒険者ギルドならではのボリューム満点の品揃えとなっているようだ。
そんな光景を俺は肩を震わせながら見ていたのだが、その後ろではシーナを含めたSSSランク冒険者の面々が口を塞いで笑いをこらえている。ザッハーに至っては飲んでいた酒まで噴き出してしまっているくらいだ。
俺は静かに顔をあげると、その動作とは対照的な大きな声で感情を言葉にしてぶちまけた。
「人が真面目に話してるときに何勝手に食事してんだあああああああああああああああ!!!!」
結局、この後はSSSランク冒険者全員集合という異例の食事会が開催されたというのは言うまでもない。
しかも収拾をつけるという方便により全て俺の奢りという悲しすぎる結末を迎えたのだった。
オナミス帝国との戦争まで二週間を切った今、俺たちは各々準備期間に入っていく。
次回から三話分は戦争前の準備となります。それそのあとは全力全快の戦いとなるのでお楽しみに!
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