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第二百六十七話 vs桐中白駒、二

今回でこの戦いは終了します!

では第二百六十七話です!

 俺ともう一人の俺の戦いはその後も激戦となった。

 一方が隙を見せればすぐさま切りかかり、またその際にできた隙を突くようにカウンターを繰り出す。このようなやり取りが何十回も続きお互いの体力は徐々に削られていった。


「チッ!いい加減その面倒くさい攻撃はやめろ!虫唾が走る!」


「お断りだ。俺のオリジナルの攻撃はどうせお前に通用しない。だったら何を使ってもお前にダメージ与える手段を選ぶしかないんだよ」


 俺はそう呟きながら魔術、魔法を剣撃に組み込むことによって新たな攻撃を奴に放っていた。

 元々俺にもこの世界の魔術、魔法に関する知識はない。だがそれでも仲間たちが使用してきたものは出来るだけ観察して覚えてきたのだ。以前は魔術を自分で作ることもあったが、おそらくそれはこいつに通用しない。

 完全に俺のものではない力が今は効果的なのだ。


「だった、これでどうだ!」


 もう一人の俺はそんな俺にそう叫ぶと、そのまま絶離剣を俺に投擲してくる。それは直線的で避けるには何の問題もない攻撃だった。

 …………一体、何がしたいんだこいつは?

 俺はそう思いながらもその絶離剣をエルテナで弾き飛ばすと、その流れを生かしつつエルテナに魔力を流し込みながら剣を振るっていく。

 するとその瞬間、奴の顔がいきなり不気味な笑みへと変化し悪寒を走らせてくる。

 だが目の前に見えている奴には何かを仕掛けている素振りは見えない。

 ただの威圧だけなら、拍子抜けだな!

 俺はそう考えながら攻撃を続ける。

 しかし。


「馬鹿が、それが命取りなんだよ」


 その言葉がもう一人の俺から発せられた瞬間、俺の胸を突き破るように背後から絶離剣が飛び出してきた。


「な、に………?」


「お前だってこの力を利用したはずだ。神が持っている神宝というのは確実に装備者の下へ戻ってくる。それを利用してお前に一撃を与えただけだ」


「ご、ごふっ!?」


 俺はその声を聴きながら口から大量の血液を吐き出した。かろうじて心臓には刺さっていないがそれでも確実に致命傷だ。全身から急激に力が抜けていく。

 ま、マズいな………。

 出ている血の量を考えると長くはもたない。


「がああああああああ、ああっ!!!」


 俺は体に刺さっている絶離剣を雄叫びを上げながら両手で引き抜くと、それを左手に握り二刀流のポーズをとる。

 しかし依然として俺の傷はふさがっておらず胸に空いた風穴からは大量の血が溢れ出てきていた。


「目が霞んでいる。これなら別に絶離剣がなくても勝負は決まったな」


 もう一人の俺はそう呟くとゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくる。確かに絶離剣を抜いた途端一度は刀身で止血されていた血液が溢れだし俺の体力をどんどん奪っていっている。ゆえに奴の言っていることは正しい。このまま何もしなければ俺は五分と立たずに死んでしまうだろう。

 普段なら神妃の体がすぐに傷を治しにかかるのだが、今はその能力は使えない。つまり普段使っている回復手段は使用できないのだ。

 だがだからといって俺に全ての回復手段が取れないというわけでもない。

 俺はそんな余裕の笑みを浮かべている奴に対して血が滲んだ顔を向けながら笑いかけると傷を治すためにとある力を発動させた。


「生憎と、俺は神妃の力がなくても回復できるんだよ」


 その言葉と同時に俺の全身を魔力でも神妃の力でもない力が巻き上がる。


「ッ!?そ、それはキラの根源か!?ば、馬鹿な、それは精霊の長でなければ使用できないはずだろ!」


「俺は仮にもあいつのマスターだ。あいつと契約している俺にだって多少はその力を使うことが出来るんだよ」


 確かに奴の言う通りキラの根源はキラにしか使えないものだ。根源は魔力とも神格とも神妃の力とも違う別のベクトルを持っているものだ。おいそれと人間が使用できるものではない。

とはいえその中でも俺は例外だった。

 キラはルルンやエリアと同じく学園にいるときに授業の一環として俺にその根源の使用方法を教えてくれたのだ。本来ならば教えられても人間にはそもそも根源を操る術はないのだがキラと契約している俺だけは別らしい。なんでも契約とは力の一部を俺に譲渡することで行っているものらしく俺も鍛錬を積めば根源を使うことが出来るようなのだ。

 結果的にそれが今回、この場で使用されたのだ。

 俺が発動した根源はみるみるうちに俺の傷を癒し再生させていく。とはいえ体力までは戻るものではないので依然として息は上がったままである。


「くそが!何でもありだなお前は!」


「元々の身体スペックだと俺はお前に絶対勝てない。だったら俺は多種多様な力を駆使して戦う道しかないんだよ」


 俺は奴にそう呟くとそのまま右手を奴に差し出し、もう一つだけ俺が使用できる根源を発動する。


根源の明かり(フルエテハイトナレ)


「今度は攻撃かよ!」


 その根源は虹色の光を放出しながらもう一人の俺を飲み込んでいく。この根源はキラが使用できる根源の中でも最低ランクの技だ。威力も神妃化していない俺が受け流せる程度で、お世辞にも強力とは言えない。

 しかしお互い消耗している今ならばこのレベルの一撃でも致命傷に繋がりかねない状況になっているのだ。

 もう一人の俺はその攻撃をなるべく食らわないように回避していく。今までならば絶離剣で切り裂いて終了だったのだが、その絶離剣は俺の手の中にある。つまり今の奴にはこの根源を避けるという選択肢しかとれないのだ。

 とはいってもその絶離剣はどうやら主を奴だと認識しているようで今も俺の手の中から抜け出そうとしていた。

すると奴はここでいきなり逃げる方向を変え、俺に対して一直線に走ってきた。


「悪いがその剣は返してもらうぜ!」


「ッ!?」


 奴はそう言うと足を器用に使いエルテナをはじき返すと、そのまま左手に握られている絶離剣を空中に投げ飛ばすように俺の手首に蹴りを入れる。

 すると俺の手から解放された絶離剣はひとりでに奴の下に戻り、戦闘開始直後の態勢を取り直した。


「まったく神妃の力を封じられた上で回復から攻撃までこなしてくるとは、本当に面倒くさい野郎だ。とはいえ体力まではさすがに戻せないみたいだな、動きが鈍ってきてるぜ?」


「それはお前も同じだろ。全快のお前なら今の攻防で俺に一撃食らわせることが出来たはずだ。それが出来ないってことはお前も疲労が溜まってきてるんだろ?」


「ふん、お互い能力に頼りすぎていたってことか」


 俺ならば神妃の力、奴ならば気配殺しだろう。

 両方とも絶大すぎる力を秘めているがゆえ、ついついその力に頼りがちになってしまうが、いざそれが使えなくなるとその不自由さに苦しんでしまう。


「おそらく俺もそろそろ限界だ。次の攻防で決めさせてもらうぞ!」


「はっ!やれるものならやってみろよ!それが終わったときに俺が立っていれば俺の勝ちだ!」


 俺はそう呟くとエルテナの柄を出来るだけ短く握り力の支点を変えるとそのまま奴に向かって突進していった。

 その動きは今までの戦いの中でもおそらく一番早いもので仮に全力状態のキラやサシリであっても目で捉えることはできないレベルに到達していた。

 神妃化もできないこの状況で何故このような戦いが出来ているのかはわからないが、俺はひたすらに勝利だけを想像し体を動かす。


「なかなかの速さだ。だがそれだけで俺を倒せると思うなよ!」


 奴はそんな俺の速さにさえも追随して剣を振るってくる。

 だがここまでは想定内。

 ここで俺はまたしても仲間の力を借りる。

 その動きはルルンの剣よりも的確で、サシリの剣よりも素早い。片手剣ではなく短剣のような動きを作り出していた。片手剣では絶対に再現不可能な動作を俺は無理矢理発動させ奴の体に叩き込んでいく。


「今度はシラとシルの動きか!だが、それは基本的にリーチが短くないとできない動きだ。隙だらけだぞ!」


 そう、奴が言う通りこの動作はシラとシルのように短剣を使う時に効率が高まるものだ。俺のように片手剣で完璧に再現できるものではない。

 だからこそこれは囮。

 本命は別にある。

 俺は奴が振るってくる剣だけを見つめてそこに照準を合わせて先程奴がやったようにエルテナを投擲する。それは寸分の狂いもなく絶離剣を吹き飛ばして俺と奴の手から武器を排除した。


「なに!?」


 飛ばされた二本の剣はクルクルと回転しながら宙を舞い、奴の背後にある地面に突き刺さった。

 俺はそれが目に映った瞬間、奴の下に駆け出し自分の拳を打ち付けていく。だがそれは無残にも身体スペックの高い奴にとっては反撃の獲物になってしまう。


「血迷ったか?俺に武器も能力も発動しないで迫ってくるなんてどんな馬鹿でもしねえぞ!」


 その言葉と共に奴は俺の体に目に見えないほどのスピードで拳と蹴りを繰り出してくる。それはすべて俺の体に直撃し、残り少ない体力を奪い去っていった。

 そしてその攻撃に対して俺がピクリとも動かなくなると、もう一人の俺は俺を地面に投げ捨てそのまま勝利宣言を俺に投げてくる。


「終わりだ。最後の最後で間違ったな。これでお前は消滅する」


 奴はそう言うと右手にさらなる力を込めて俺を絶命させる準備をし始めた。

 俺はその光景を何とか確認すると、おもむろに口を動かし言葉を紡いでいく。


「お前の失敗は今このタイミングで絶離剣を取りにいかなかったことだ」


「あ?」


「そしてお前は俺の行動をずっと観察してきたはずなのに、とあることを見逃してしまった」


「何を言ってやがる?」


「つまりこういうことだよ!」


 俺は大きな声でそう呟くとあらかじめ設置しておいた魔術を空間の上空に発動させた。

 その魔法陣は青色の輝きを放っており、体を凍らせてしまうほどの冷気を帯びている。またその魔力の波動は俺が一番よく目にし、よく感じてきたものだった。


「まさか、お前!」


「そのまさかだ!最後はアリエスの力で決めてやる!氷の終焉(アイスインフェルノ)!!!」


 瞬間、通常の数倍の規模を誇る魔術が展開され大量の氷と雪が奴の頭上に降り注いだ。俺は残っている体力を総動員させその場から退避する。

 このタイミングで絶離剣を奴が持っていたなら魔術ごと破壊されていただろう。

 だが俺はそうならないように誘導した。

 わざと奴の攻撃を受けるように立ち回り、奴の油断を誘ったのだ。

 そしてその魔術は桐中白駒の体を回避する間もなく飲み込みその体力を全損させ、勝負に決着を下ろしたのだった。


「さっきの言葉、そっくり返してやる。これで終わりだ」


 魔力を使い果たした俺はそう呟くと、意識だけは失わないように息を落ち着かせながらそう呟いたのだった。










「くそ、まさかこの俺が負けるとはな。あの甘ちゃんだったお前が俺を倒すっていうのは正直考えてなかったぜ」


 この体の本当の所有者である桐中白駒は消えかかっている体を見つめながらそう呟いた。それは光の粒子のようなものが飛び散るような光景であり、こいつの消滅を知らしめるかのような空気を醸し出していた。


「本当にこれでよかったのか?」


 俺はその消えていこうとしているもう一人の俺を見ながらそう呟く。


「何がだよ?」


「お前はこの体の本当の持ち主だ。それが勝負とはいえ俺なんかに消されていいのか?」


 するといつものような人をからかうような笑みを浮かべたこいつは、声を明るくして返答する。


「言ったはずだ。俺はお前に非がないことを理解している。勝負に負けた俺は潔く消えるのが筋ってもんだ。そんなくだらねえこと、いまさら気にしてんじゃねえよ」


「…………」


「まあ確かにお前の仲間たちともっと話してみたかったというのはあるけどな。あいつらは本当にいい奴らだ。出来ることならお前みたいに円満な仲を築いてみたかったよ」


 こいつは俺の表層に現れて以来アリエスたちの前で暴れてしかいない。それは当然アリエスたちに嫌悪しか抱かせないし、よく思われることなんてないだろう。

 だがそれでもこいつは根っからの悪じゃない。理不尽な現実を突きつけられて、偽物の俺に居場所を奪われながらも必死に生きてきたんだ。決してその生き方を否定することなんてできない。

 するとそんな俺に奴は思いもよらない言葉を投げかけてきた。


「一つ、お前にいい知らせがある」


「なに?」


「俺を吸収しろ」


「は?」


「吸収といっても俺の人格は完全に消滅する。人格はお前のままだ。だが俺を取り込めば俺の持っていた力は完全にお前のものになる。俺がこのまま消えれば気配殺しのコントロールは一から取り組まないといけないが、その必要がなくなるってわけだ」


「お前はそれでいいのか?」


「ああ、かまわない。むしろそのほうが俺の生きた証が残せるだろう。おそらくお前はこれからもっと苦しい困難にぶつかるはずだ。当然その中にはあのアリスだっている。だから貰えるものは貰っとけ。俺は精々死後の世界とやらでそれを眺めているさ」


「すまない………」


「だから謝るなって言ってるだろ。これは勝負に負けた俺の責務だ。当然俺だってお前に勝つつもりで戦っていたし、勝てばこの体は貰うつもりだった。だが今回勝負に勝ったのはお前で負けたのは俺。それだけの話だ。わかったら早くしろ、そろそろ限界だ」


 俺はそう呟いてくる桐中白駒に向けて右手をかざし、その力を取り込んでいく。まばゆい光が辺りを包み込み膨大な力が体に流れ込んできた。


「そうだ、一つ頼まれごとを聞いてほしい」


「ああ」


 桐中白駒は消滅する寸前で俺に対してこのような言葉を残した。


「お前の仲間たちに、迷惑ばかりかけてすまなかったと言っておいてくれ」


 その声色は今まで聞いたことがないくらい優しいもので、その言葉を脳内で反芻しているうちに桐中白駒の存在は光の粒子となって完全に消えていった。


 俺はその光景を茫然と見つめてしばらくの間、傷だらけになった体のまま立ち続けていたのだった。




 こうして俺の体をめぐる戦いは終わった。

 そして俺は再び自分の人生を歩き始める。


このお話の結末は本当に悩みました。

本来の桐中白駒という人格を消してしまってもいいのか、それとも残すべきなのか。はっきり言って彼はこの作品の中で一番不幸を被っている存在です。そんな彼を消してしまったのは作者でも後悔の念が少し出てきてしまいます。

ですがその意思はハクの中で生き続けていると私は思っています。

これから自分の壁を乗り越えたハクの新たな旅を見守っていただければ幸いです!(もしかするとあのハクはまた登場するかもしれない、というのは内緒話です)


次回は次の目的地についてのお話です!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


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