第二百六十六話 vs桐中白駒、一
今回は桐中白駒とハク=リアスリオンの戦いです!
では第二百六十六話です!
「オラオラオラオラ!どうした!お前の強さってのはそんなもんかぁ!!!」
「ぐっ!?」
もう一人の俺の剣先が俺の頬に傷を作っていく。
戦闘が開始されてものの数秒と立たないうちに戦況は完全に固まってしまっていた。俺の攻撃は全て奴にはじかれ、奴の攻撃は俺の体力を確実に削っていっている。スピードもそうだが何よりの一撃一撃の攻撃力が段違いだ。
やはりこいつは強い。
それはかつて全力状態のキラを能力なしで叩き伏せたことからも明らかだが、実際に対峙してみるとよりその強さが伝わってくる。
この戦いは俺の体の中で行われているものだ。ゆえにここで瀕死の傷を負っても本当の体にはまったくダメージは入っていない。だが、それでも疑似的ではあるが血も出るし痛みだって存在する。それは確実に俺たちの行動を鈍らせ、本来の戦闘を再現している。
言い換えればそれは俺たちの存在を削っている痛みなのだ。下手をすれば実際の戦闘よりも大きな意味を持つだろう。
俺は頬に走った傷から流れる左手でぬぐいながら右手に握られているエルテナをひたすらに振るっていく。
この空間の中では神妃の力はおろか剣技すら発動することができない。つまり単純な力比べなのである。ゆえに能力による筋力増強や神妃化の恩恵も受けられない。つまり剣だけを用いた駆け引きが全てを左右するのだ。
「はああああああ!!」
「ふん」
俺の攻撃を的確に奴の急所を狙っていくのだが、それは奴の持っている絶離剣に阻まれ火花を散らす。
絶離剣の力は防御不可。
対してエルテナの力は永劫不変。
この両者は魔剣としてのクラスは違えど能力だけは拮抗している。ゆえに俺のエルテナは折られることはなく打ち合えているのだ。
だがそれでも俺はまだ奴に一撃すら与えることが出来ていない。
もう一人の俺は俺の剣をはじき返すとそのまま俺の剣を左足で地面に突き立てるように押さえつけると、がら空きになっている腹に回し蹴りを放ってきた。
「ほらよ」
「がっ!?」
ただの回し蹴りなのだが、それはいつも以上に重たい一撃となっており一瞬俺の意識を揺らす。
くっ………。
今まで能力に頼りすぎていたせいでまったくあいつの動きが読めない……。気配探知すら使えないっていうのはきついな……。
とはいえこのまま手を緩めることは敗北に繋がるので、地面を勢いよく蹴り距離を詰めながら攻撃を再開する。
するともう一人の俺はその動きを見て笑いながら言葉を発してきた。
「言っておくが、お前の動きはもう全て見切っている。俺が何年間お前の動きを見てきたと思ってるんだ?」
「だろうな。だが、それでも俺は引けないんだよ。ここで俺はお前を斬る!」
「いいねえ、そうこなくっちゃ。それが命を懸けた戦闘ってやつだよなあ!!!」
俺は黒の章の動きを再現するようにエルテナを身に染みている動きに合わせて動かしていく。それはおそらく気合の入り方もそうだがオリジナルの黒の章よりも早く鋭いものになっていた。
「これでどうだ!」
しかし奴の笑みは消えることはなく、むしろさらにその笑顔は吊り上がり絶離剣がその意思に応えるように煌いた。
「生憎とその技は嫌というほど知ってるんだよ!」
もう一人の俺はそう呟くと黒の章の動きを完全に予測し絶離剣で防いでくる。
だがそれは俺にもわかっている。だからこそ、俺はその後直ぐに別の方法を取った。
それは本来の片手剣の遣い方ではなく、まるでレイピアを動かすかのような突き技を繰り出していったのだ。
「ッ!?」
さすがにこれは奴も驚いているようで脇腹に一撃を掠めると後ろに飛ぶようにして、俺と距離を取った。
「チッ。黒の章は囮で、その技が本命か」
「そういうことだ。俺の剣技は読めてもこれはわからないだろ?」
「舞踏姫、ルルンの剣技か。また面倒くさいもの引きずり出してくるぜ……」
そう、俺が今使った技はルルンがよく見せてきていた踊りの足さばきを剣技に取り入れた独特の攻撃だ。それは変則的動きゆえ初見ではなかなか対処することができない。
俺は学園王国にいるときにルルンからその動きを伝授してもらっていたのだ。エルヴィニア秘境ではアリエスたちがその対象だったが、せっかくなので俺も教えてもらうことにしたという経緯があった。
つまり、それをこの場に持ち込み再現したということだ。
「まだまだ行くぞ!」
「ふん、そんなくだらねえ剣技なんぞ一瞬で砕いてやる!」
俺は再びルルンの動きを真似するように足を動かしながら剣を放っていく。どうやらそれは奴の体にダメージを与えているようだが、すぐに順応しているらしく早くも俺の動きについてきていた。
そしてついに奴の動きが俺の剣を完全に捉えてエルテナを弾き飛ばす。
「もらったぞ!」
「いや、まだだ」
俺はそう言うと自分の中に確かに流れている力を確認すると、それを一気に放出し六色の色に輝く魔法陣を展開する。
「六魔の全能奔流!」
「な!?」
それはかつて魔武道祭でエリアが俺に放ったオリジナルの魔法であり六属性全ての性質を持ち合わせている魔法史上最強クラスの一撃だった。
「確かにこの空間だと俺は神妃の力はおろか気配探知だって使うことはできない。だが、俺の中にある魔力は自由に使えるんだよ!」
魔力とは体というより魂に宿ってくるものだ。とはいえ体にも少量ではあるが魔力が蓄えられているのだが、それでもその大半は人格を形成している魂に格納されている。神妃や俺の技が出せなくてもこの世界にある魔術、魔法の類なら今の俺は使用できるのだ。
「ちょこちょこちょこちょこ、うぜえんだよ!」
奴は顔に怒りを表しながら俺の攻撃を絶離剣で打ち払っていく。いくらエリアの魔法とは言っても絶離剣の力には勝つことはできない。
だがそれをわかっていて俺はこの技を使ったのだ。
「背中がお留守だぞ?」
「なに!?」
俺はエリアの魔法を砕いた奴の背後に移動し、その背中にエルテナを叩き込む。
「があああああああああああ!?」
しかしそれでももう一人の俺は倒れることはなくカウンターのように自分の体を回転させながら俺の腹に絶離剣を切り込ませてきた。
「ぎゃあああああああああ!?」
お互い大量の血を噴出させながらもう一度距離を取り、その顔を見つめる。
「チッ。魔法まで使ってくるっていうのは想定外だ。はっきり言って反則だぞ」
「何をいまさら、こっちからすればお前の動きと攻撃力、そして絶離剣の方が反則だ」
「へっ!こうでもなきゃフェアじゃねえだろうが。俺にはこの世界の魔力の使い方がわからねえ。ならば自分の動きと武器の力に頼るしかねえんだよ」
奴はそう言うと背中の傷を感じさせないような動きで俺に接近すると魔法も魔術も使わせない速度で剣を放ってきた。
「ぐっ!?」
一方俺は腹に出来た傷のダメージにより若干動きが鈍らされてしまい行動が遅れる。さらに先程のエリアの魔法は予想以上に魔力を使った。それがこのタイミングで響いてきている。本来の俺ならばこの程度で疲れることはないのだが、やはりこの空間での戦闘は特殊なようだ。
「はあああああああ!!!」
奴の剣はそんな俺に対して一切弱まることなく降り注いでくる。できるだけ致命傷にならないようにエルテナを使ってその攻撃をかわしていくが、次の瞬間奴の動きが急に変化した。
「ほら、足元が甘いぞ」
「な、なに!?」
奴は俺の足をすくい上げるように払いのけると、体勢を崩した俺に目掛けて剣を振り下ろしてくる。俺は咄嗟に寝返りを打つように身を翻すと、地面にエルテナを突き刺しバネを使うかのように飛び上がった。
しかしそれでも奴の攻撃はまだ終わらない。
見たことのない剣の動きを俺に見せながら体術と織り交ぜたスタイルを俺に放ってくる。
「俺だったこの十三年間何もやってこなかったわけじゃねえ。気配殺しに縛られている間。気配殺しは俺に色々な戦い方を教えてくれたぜ。まあ、全部殺しに特化してるけどな」
瞬間、またしても奴の姿が消えたかと思うと俺の背中に痛いくらいの悪寒が走った。
こ、これは、マズい!!!
死の予感を感じた俺は咄嗟に身を屈めその攻撃を回避する。そして距離を取るためにエルテナを横一線に振りぬくとその余波を利用しつつ数メートル後ろに飛び下がった。
「ほう、今のを回避するか。伊達に神妃の器を管理してきてねえってことか」
「なんなんだ、今の………?」
「あ?何って、ただの暗殺術だよ。お前の首元にある静脈から心臓にかけて剣を食い込ませる。こうすればどんな人間だってたちまち出血多量とショック死、さらには内臓破壊で死んじまう。絶離剣ほどの切れ味があれば、血だって噴き出る前に終わるし暗殺にはピッタリってわけだ」
「そ、それも気配殺しから教えられたのか………?」
「そうだ。だがまだまだこんなもんじゃねえぞ?」
奴はそう言うと絶離剣を上段に構え何かの一撃を放つ構えを取ってくる。だがそれにしては放たれてくる殺気が薄い。
そう考えていたその時、またしても後ろから声が飛んできた。
「目だけを信用するからそういう反応になるんだよ」
「な!?」
俺はその声に反応しすぐさま後ろを振り返ると既に剣を振りかぶっている奴の姿があった。
馬鹿な!こいつの体は今も目の前に残ってるぞ!
俺の頭の中はその考えでいっぱいになってしまっているが、とりあえずこの状況を何とかしないといけないため、またしても仲間の技を使わせてもらうことにした。
「はああああああ!!!」
俺はそう雄叫びを上げるとその絶離剣に対して黒の章よりも早い攻撃を放っていく。それは音速を超え、全ての動きが効率的に動かされている攻撃でサシリが血剣を用いて俺に使用してきた動きだった。
「ぐっ!?」
俺の攻撃と奴の攻撃はまたしても拮抗し両者の体を衝撃波とともに吹き飛ばす。
「その動作、黒の章よりも速い。そんなことを剣を使って出来るのは…………サシリか」
「ご明察だ。だが俺はお前の攻撃の方が気になる。なんで姿を残したまま俺の背後に忍び寄ることが出来た?」
魔力を使って自分の分身を用意するというならばありえなくもないが、こいつは魔力はおろかこの世界の魔法や魔術は使えない。つまりその考えは根底から否定される。
すると奴は得意げな表情で俺に対して解説を述べてきた。
「ただの残像だ。常識を超えるスピードで動けば空間の中に俺を反射していた光が残り続ける。それをお前に見せていただけだ」
………簡単に言ってくれるなあ。
そんなこと普通考えもしないぞ………。
俺はそう思いながらも剣を構えなおしもう一人の俺に向かい直ると、さらに気合を込めて奴の顔を睨みつけた。
「出し惜しみは終わりだ。今からは全力でいくぞ」
「ぬかせ。今までだって全力だっただろうが」
その言葉を合図に俺たちの戦いは終わりに向けて突き進んでいくのであった。
次回もこの戦いが続きます!
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