第二百六十話 ありえない再会、一
今回は新しいエピソードに入ります!
では第二百六十話です!
翌日。
俺の女装騒動から一夜明けた次の日。
俺たちはまたしても獣国の街を歩いていた。というのも今回はシラが自分の直属騎士だったラミオに一度会っておきたいと言い出したのが原因だ。ラミオとは王選が終了した王選六日目以降顔を合わせていない。まあ彼も彼で獣国のエリート騎士なのでそう簡単に会える存在でないというのもあるが、なにやらシラはそのラミオに会いたいらしいのだ。
ちなみにその理由を聞いてみると。
「いえ、大したことではないのですが、彼にはこの王選で一番迷惑をかけてしまいました。ですので一度謝っておきたいと思いまして」
と答えてきた。
確かに俺たちに関しては自分の仲間を助けるためだったのでそれほどの精神的負担はなかったが、ラミオに至っては俺たちの何倍もの苦悩を背負っていたはずだ。
というのもおそらくラミオはシラの本音に気が付いていた。ゆえに自分の責務と意思、それにシラの言葉と本音という四つの側面から押しつぶされていたのだ。ましてそこにシラ自身の婚約が襲い掛かってくればその負担も相当なものになっていただろう。
俺はその言葉でシラの考えに納得したのだが、他のメンバーはそういうわけにもいかずどんどん重ねるように質問をシラに投げ出していく。
「そういえばシラちゃんさあ。その騎士様とは一体どれくらいまでいったの?」
「ど、どれくらいというと………?」
「いやー、仮にも婚約まで決めちゃってたんだから、既成事実の一つや二つくらい作っていてもおかしくなかなーと思っちゃって」
「き、既成事実ぅぅ!?」
ルルンの言葉に大きくシラは仰け反るように声を上げる。
「ほ、本当なんですかシラ!その話、是非詳しくお教えください!ハク様攻略の手掛かりになるかもしれませんので!」
おい、待てエリア。突っ込むところが違うだろうが。
というか既成事実だと!?
いやいやいや、シラの限ってそんなことは………あるのか?
考えてみれば王選の時のシラは手段をまったく択ばない姿勢で臨んでいた。あの状態ならばそのような如何わしいことをしてでも勝利にこだわっていてもおかしくはない。
「ほう。一歩大人の階段を上ったということか、やるではないかシラ」
「な、なんでキラはいつも堂々としていられるのかしら………。普通だったら少しくらい顔を赤らめてもおかしくないはずだと思うのだけれど……」
ちなみに現状はルルンが興味津々といった顔でシラに詰め寄っており、エリアが鼻息を荒くしてメモ帳を取り出し、キラが愉快なものを見るような眼で眺めている。サシリは俺と同じく少しだけ恥ずかしそうな顔をしており、アリエスとシルは何のことかよくわからないといった表情をしていた。
「ねえ、ハクにぃ。シラ姉たちは一体何の話をしてるの?」
アリエスは俺の服を引っ張りながらそう呟いてくる。
「え!?あ、あーそ、それは………」
ま、マズいな……。この質問には俺は口が裂けても答えられない。というか男の俺がアリエスにそんなことを話してしまえば間違いなくセクハラ問題だ。
すると俺の反応に気を利かせたクビロがアリエスの髪の中から姿を現し、少しだけ体を大きくすると頭と尻尾を使ってアリエスの耳を塞ぐ。
「あ!な、なにするの、クビロ!」
『今のうちじゃ。主はシルの耳を塞ぐといい』
グッジョブ、クビロ!
俺はクビロに言われたとおりにシルの頭の上に生えている耳を両手を使って塞ぐ。
「ひゃあ!?は、ハク様……い、一体何を………」
「しばらく我慢してくれ」
というか、さっさとその話終わらせろよ!こちとら心臓バクバクで生きた心地がしないんですけどお!?
しかし俺の意思とは裏腹にシラたちのトークは続いていく。
「で、ほらほら、ルルンお姉さんに教えてみなさい。何も言ったりしないから」
「そうです!私たちはシラの情報を求めているんです!」
「な、な、な!?」
シラは顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。だがそこに俺の毛約精霊でもある一体の悪魔がシラの耳元でささやきかける。
「どうした、そんなやましいことでもないだろう?生きている限りいずれはそのような局面にぶつかることだってある。ましてシラの容姿を考えればむしろ遅いくらいだ。ほれほれ、思いの丈を妾に話してみろ」
「う、うぅぅぅ」
おいおいおい、もう完全に脅しじゃないか。
シラはますます顔を赤らめて目に涙を浮かべている。さすがにこの状況は助け船を出したほうがいいか?と思っていると、ついにシラの堪忍袋が爆発したようでとてつもなく大きな声で怒鳴り散らした。
「ば、馬鹿にしないで!私はまだそんな卑猥なこと一度もしてないわ!!!そもそもラミオとの婚約だって王選の六日目に発表したのよ!?そんな既成事実を作ったところで王選の作戦に組み込めるわけないでしょ!!!」
「「えーーーー」」
その言葉にルルンとエリアが残念そうな表情をしながら声を漏らす。
俺としてはその言葉に内心ほっとしていた。さすがにシラのことだから貞操は守ると信じていたが、もしかするとという可能性もなくはないと思っていたからだ。
まあ、一応シラもしっかり考えていたということか。
しかし俺の悪魔はまだ何か言い足りないようで、笑顔を浮かべながらシラの耳元に囁きを放っていく。
「妾たちは一言も卑猥なことだとは言っていないぞ?」
「ッ!?」
シラはその一言で完全に涙を流し始めてしまい、キラの体を攻撃力の宿っていない拳でポコポコと殴り始めてしまう。
あー、言っちゃたよ、あいつ。
さすがにこれはもう仲裁に入らないとだめだなと思い、その二人に駆け寄ろうとしたところで耳を抑えていたシルがおもむろに口を開けてとある言葉を呟いた。
「ハク様、卑猥なことというのはなんですか?」
「え?………シル、聞こえてたの……?」
するとシルは片手で自分の髪を持ち上げると顔の横から生えている人族と同じ耳を俺に見せつけながらさらに言葉を呟いていく。
「私たちは獣人ではなく獣人族です。あくまで人族の属性も引き継いでいますのでしっかりと顔横の耳もありますよ?」
……………。
そ、それは………、初耳なんですけど……。
俺は先程よりも大きな冷や汗を滲ませながら必死に言い訳を考えていくのだった。
ちなみにシラはその後、五分ほどキラの体を殴り続けていたというのは余談である。
俺たちはそのような賑やかな話に花を咲かせながらひたすら王城へと足を延ばしていく。
この国の王城は前にも説明したように獣国の最深部に設置させれている。つまり国の入り口から最も遠い場所に置かれているのだ。
ゆえに宿から歩き始めているとかなりの時間がかかってしまう。当然転移を使うことも出来たのだが、せっかく特殊な国に来ているので獣国の街並みを見て歩くという選択肢を選ぶことになったのだ。
そして俺たちは今、先日まで大量の人が詰めかけていた中央広場にやってきていた。王城に向かうためには絶対にこの広場を経由しなければいけない造りになっており、俺たちもその場所に足を置いているということだ。
その場所は王選の時とは打って変わって人の気配は少なく閑散としていた。歴代の国王らしき石像が何体か置かれているその空間は、赤茶色のレンガが敷き詰められており太陽の光を反射して熱気を放っている。
とはいえ比較的空気の流れがいい場所のようで吹き抜けていく風がそんな俺たちの体温を冷ましていく。
俺たちはその光景にもう一度目を馳せながら中央を突っ切る形で歩いていく。
「改めて考えると、ここで私たちは戦ったんですね」
シラが何かを思い出すような口調でそう呟いてきた。王選はこの中央広場が戦いのメインステージだった。シラとシルの姉妹が大きな声で演説を行ったのもこの場所だ。ゆえに感慨深くもなるのだろう。
「そうだな。まあ今となっては思い出の一つだな」
俺はとりあえず笑いながらそう呟く。この場所で統制の檻の真っ向勝負が行われたというのも終わってしまえば笑い話となり、記憶に残されるだけだ。それが人生であり人間の歩む道だ。どれだけの困難にぶち当たったとしても過ぎ去ってしまえばそれは過去のことになり、今という瞬間に集中せざるを得なくなる。
だからこうやってその過去を語れるくらいが一番丁度いいのだ。下手に過去に囚われすぎず思い出として振り返れればそれでいい。
俺は自分の考えを自分の心の中で結論付けると、パーティーの最後尾を守るように歩いていく。
しかしその考えはすぐに俺の心に跳ね返ってくることになる。
すると俺たちのパーティーの横をすれ違うようにフードを被った人物が通り過ぎていく。その人物はパーティーの一番後ろにいる俺の隣まで接近すると、俺だけに聞こえる声で言葉を吐きだした。
「私を殺した気分はどうだったの?」
その瞬間、俺の体に今まで感じたことのない寒気と殺気と悪寒が駆け回り命の危険を全身に駆け巡らせた。
俺は咄嗟にエルテナを抜こうと右手を腰に当てようとするのだが。
その瞬間、俺の体は飛んだ。
いや、正確に言えば俺の体の上半身が下半身と別れ吹き飛ばされた。
「が!?ガハアッ!?」
そのまま俺の上半身は地面を転がることもなく弧を描いて地面に落下する。
アリエスたちは一瞬、その光景に呆けていたのだが、すぐさま事態を理解すると武器を取り俺に近寄ろうとする。
「は、ハクにぃ!!!」
「き、貴様!一体何を………ぐっ!?」
しかしメンバーたちは俺に近寄るどころか声を発する前に得体の知れない力に吹き飛ばされてしまう。
そしてその人物はゆっくりと俺の下までやってくると頭にかぶっているフードを外し、その顔を俺に見せてきた。
「な!?お、お、お、お前は………。ま、ま、まさか………」
太陽の光に晒された顔は俺のよく知る顔で、忘れもしない容姿を携えた少女ものだった。
リアにそっくりな金色の綺麗な髪を伸ばし、海と空の色を絶妙なバランスで混ぜたような青の瞳を持ち、誰もが見とれてしまうような美貌。
それは真話大戦のときに何度も目にした人物と同じ容姿をしていたのだ。
その少女は俺の顔を見ながら笑いかけると、俺に絶望を叩きつける言葉を吐きだす。
「久しぶりって言えばいいかな、ハク?」
「あ、あ、ああ、あり、アリス…………か?」
俺の目の前に現れた人物は俺が気配殺しで殺したはずのアリスその人であった。
とある時空の狭間。
つまりは星神の部屋。
そこにいつも通り佇んでいる星神は口に笑みを浮かべながらおもむろに言葉を呟いていた。
「まったく、君の気配殺しという力は厄介だったよ。僕の力をもってしても完全な再生はできなかった。でも思えば簡単なことだったんだよ。体の記憶は世界が保存している。それを漁って、再生ではなく同じものを作ってしまえばいいだけだったんだから」
星神はそう言いながら誓うに置いてあった虹色の液体を喉の奥に流し込んでいく。
「それにわざわざ君という存在を呼び出したこの世界を見逃してあげたんだ。理由は色々あるけれど、とりあえずは君のそのかけがえのない人物との再会を見させてもらおうじゃないか」
星神が今まで隠して用意してきていたものはハクにとって一番心の奥を揺さぶるものであり、その力の根幹にあるものでもあった。
「なんといっても人間は苦しんでいるときが一番美しいからね」
その言葉は空間中に響き渡ると、誰の耳にも届かないまま消えていったのだった。
ようやくアリスが表舞台に出てきました!
次回はアリスとの戦闘になると思います!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




