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第二百五十九話 取り戻した風景、二

今回は完全にギャク回です!最近はシリアスな展開ばかりだったのでたまには最初期のような雰囲気もいいのではないでしょうか?

では第二百五十九話です!

 というわけでイロアたちパーティーを見送った俺たちはすぐに獣国ジェレラートの街に駆け出すとその町並みに心躍らせ目を輝かせていた。

 王選の最中はシラ陣営の動きばかり注目していたためその町並みに目を移すことはほとんどなかったのだ。見てみれば黄色や橙色の壁づくりの建物が多く比較的明るい町並みになっている。このシラたちが統制の檻を使用するまでもなくその街は賑わいを見せており見る人全ての顔に笑顔が浮かんでいた。

 おそらく国王はこの環境にシラを投入しさらなる栄華を呼び込もうとしたのだろうが、さすがにそれは望みすぎである。

 ましてシラという一人の人生を代償に成り立っている幸せなど、何かの拍子に崩れ去ってしまってもおかしくないものだ。

 まあすでに決着がついたことなのでいまさら気にする必要はない。

 俺はそう考えるとひたすらアリエスたちの背中を追いかける。

 にしても、これで何件目だ………?一体どれだけ回れば気が済むんだろう………。

 本来ならシラの奪還に喜ぶべきなのだろうが、今目の前で繰り広げられている現状がそれを跡形もなく崩している。

 というのも。


「ねえねえ!これどっちが私に似合うかな?」


「うーん、そうですねー。アリエスの髪は白いですから水色の方が似合うと思いますよ」


「えー、私は赤色の方が似合うと思うけどなー。やっぱりアクセントっていうのは大事なんだよー」


「キラ、あなたどれだけ激辛料理を食べれば気が済むの………?ほら、口の周りが真っ赤よ」


「む、すまんな。とはいっても妾はまだまだ食べるぞ。最近はこのような料理にありつけていなかったからな。ストレス発散というやつだ」


「姉さんは何か買わないんですか?」


「え?私は別にいいわよ、シルこそ何か買ったら?」


 大変賑やかで結構!

 とは思うもののそれと同時にどんどん俺の蔵の中に入っているものが増え、代わりに懐が寂しくなっていく。

 何という金使いの荒いパーティーだろうか。今までの報奨金やシルヴィニクス王国からの支援があるからいいものの、なければ完全に破産してる金額だぞ、これ。

 何かのライン工場に入っているかのようにポンポン俺に投げ込まれてくる包装された箱を蔵に収納しながら俺はそんなことを考えていた。

 まあこれはいつものことなので別に今さら何かを言うわけではないが、そこで一つ気にかかったことがあったので俺はその人物に声をかける。


「お前は何か買わなくていいのか、シラ?」


「ハク様まで何を言い出すんですか。私はシルの姉でハク様のメイドです。シルはある程度我儘を許しても私にそんな贅沢は出来ません」


 はあ………。

 まーた、よくわからない思考の渦に浸かってるな、こいつは。

 俺はそう思うといつもキラを起こすときに使用しているデコピンをシラの頭にめがけて叩き込んだ。


「イタッ!?」


「お前が俺のメイドなのもわかってるし、シルの姉だっていうことも理解してる。だけどこういうときは存分に遊んでいいんだよ。それに今回はシラ奪還を祝福する意味も込められてる。その主役が浮かない顔をしてるなんてさすがにいただけないぞ?」


「ですが………」


「はい、シル。後よろしく」


「了解です、ハク様!」


「ちょ、ちょっとシル!?」


 俺はシルにシラを全力で楽しませるよう無言の命令を下すと、さっそくそれを理解してシラの手を引きアリエスたちの中に混ざっていった。

 シラは正直言って俺よりも一人で抱え込んでしまう体質の持ち主だ。それが今回の騒動を引き起こし事態を拡大させた。ゆえに俺はパーティーのリーダーとして常にその心を気にかけてやらなければいけない。今だってシラの瞳はアリエスたちを羨ましそうな色で見ていたのだ。それを叶えてやるのも主の仕事だろう。

 てなわけで俺たちは多額の金をまき散らしながら獣国の街を歩いていく。

 イロアと再会した冒険者ギルドや街の万事屋といった俺好みの場所も順番に回っていき、それなりに楽しい時間が展開された。

 また昼食は案の定、厨房をパンクさせる勢いで大量の料理を注文し見事それを全て胃袋の中に詰め込むという偉業を成し遂げて周囲をざわつかせた。しかも今回はメンバー全員の気分がシラが返ってきたことによって上がっていたため、通常の二倍ほどの料理と金額が飛んでいき、俺は半分意識を失っていたというのは余談である。

 獣国は基本的に国の最深部に王城を構え、それを守るような扇形のような形状の都市が組み立てられている国だ。ゆえにシルヴィニクス王国のように王城を一周するようなコースではなく、円弧を描くような形で俺たちは歩いて行った。

 途中、王選が行われた中央広場に寄ったり出店などに並んでいる古典的なゲームやお菓子を買ったりしてその時間を有意義に楽しんでいったのだ。

 だが、ここで俺たちはとある店の前で足を止めることとなる。


「おい、何でこの店の前で立ち止まってるんだ?」


 その店には大きな文字で「コスプレ衣装専門店!」とカラフルな色で書かれており、俺たちと同じサイズの人形がいわゆる中二病風の衣装に身を包んでいたのだ。

 というかなんだよ、コスプレ衣装専門店て!!!

 そういう文化は元の世界特有のものじゃないのかよ!星神ってやつも世界づくりの時に狂ったのか!?

 と、俺は思っていたのだが案外仲間たちの反応はいいようで。


「ここ、面白そうだね!」


「少し気になりますわ!」


「あ!私の衣装みたいなのもある!」


「猫耳?なんだ、それは?」


「ちょっと、気になるかも」


「姉さん!ここ、何やら楽しそうな雰囲気がします!」


「奇遇ね、私もよ!」


 ああ!なんでこういうことになるかな………。

 アリエスたちは俺のそんな気持ちなどつゆ知らず、ずんずんとその店内に足を踏み入れていく。

 お!このままだと俺はバレずに入店しなくて済むのでは?

 という発想が思い浮かび気配を出来るだけ消しながら静かにその場所から離れていく。

 いや、だって!こんなところに入ったら絶対に何か面倒なことが起きるんだもん!出来るなら回避したい未来なんです!

 などと考えながらそろそろ走ろうかなと思っていると、その後ろからとある気配が接近するとローブを持ち上げた。


「悪いな、マスター。ここはしばらく付き合ってもらうぞ」


「な!?ちょ、おま、キラ!?なんで俺の行動が分かった!?」


「妾との契約があるのを忘れたのか?」


 ジーザス!

 俺としたことがそんな単純なことを忘れているなんて……。確かに俺とキラは精霊の契約を結んでいるので俺が意図的に隠そうとしない限りキラにある程度の感情は伝わってしまうのだ。

 よりにもよってその性質がこんなところで仇になるとは………迂闊だったぜ。


「というわけでさっさと行くぞ、マスター」


「わかった!わかったから俺を引きずるな!」


 結局俺の抵抗はむなしく終わり、その店の中に引きずり込まれてしまうのだった。







「じゃーん!これどうかな?シラとシルみたいな耳だよ!」


「「「「「「「おー!」」」」」」」


 俺がその店に入店してから数分後。

 そこではメンバーによる試着タイムが繰り広げられていた。今はアリエスがシラやシルの頭から生えているようなふさふさの白い猫耳のようなものをかぶっており、その姿をみんなに見せている。

 うおーーー!まじか、まじ可愛いぜ!

 普段のアリエスも可愛いが、これはこれでまたたまらん!


『変態が。しばらく大人しくかったと思えば、すぐにこれかのう。少しは自重したらどうじゃ』


 この光景を見て黙っていられたらそれはもう男じゃない!

 俺はリアの言葉をそう言って一蹴すると、目をさらに開きながらその貴重な光景を目に焼き付けていく。

 その後もエリアとルルンがおそろいのメイド服に身を包んだり、キラがミニスカサンタという元の世界文化まる出しの服に袖を通したりという非常に眼福な空間が出来上がったのだった。

 うんうん、これは日ごろ頑張ってるご褒美なのかもしれない。

 俺はそう思いながらその光景を見ていたのだが、急にシラとサシリが俺の両脇を持ち上げるように抱え込み体の自由を封じる。


「あれ?こ、これは一体どういうことでしょうか………?」


 俺は何故だか嫌な予感とともに冷や汗を流しながらそう呟く。

 すると目の前にいたアリエスとシルが何やら明らかに男ものではなく女性が着そうな服を持ちながらこちらに迫ってきた。


「いやー、私たちだけ楽しんでたらハクにぃに申し訳ないなと思って」


「そうです!ハク様もたまにはこういう服に身を包んでみたらどうですか?」


「いやいやいやいや!それだって女性が着る服じゃん!?そんなものを俺に着せてどうする気だ!」


「鑑賞するだけだが」


「その通りです!」


「うんうん!」


 何普通に答えちゃってんのー!?

 キラとエリア、ルルンが俺の問いに平然とした顔で返答してくる。

 俺は真性が変態であっても間違った変態にはなりたくないですが!

 しかしそんな気持ちは届くはずもなく俺の脇を抱えているサシリとシラがずんずんと俺を試着室へと運んでいく。


「観念するといいわ」


「観念してください、ハク様!」


「いや、ちょ、ちょっとまって………。いやだから、ちょっとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 俺の絶叫はその店内中に響き渡り少しだけその地面を揺らすとそのまま無情にも俺のドレスアップが開始されてしまうのだった。








「なんか、意外と様になってるね……」


「そうですね。多分元のハク様が少し女顔というところが原因になっているのでしょうが……」


「意外だ」


「意外だね」


「意外ね」


「意外です」


「意外ですね」


「人を勝手に着替えさせておいてその反応は酷いと思うんですが!?」


 俺は半分涙目になりながらそう答えると改めて変わり果ててしまった自分の姿を鏡で確認する。

 黒かった髪は何故か重たい金髪のウィックを被らされカールを巻いており、着ている服はまさに昨日シラが着ていたようなどこぞの王女様が着るような露出度の高いドレス。しかも顔には化粧がなされており、唇には口紅も塗られている。つまり完全な女装だ。はっきり言って羞恥以外の何物でもない。


『プークスクスクスクス!まったく滑稽じゃな、主様!異世界とはいえ神がこのような格好をしておるなど、面白いにもほどがある!』


「うるさい!黙れ!俺だって好きでこんなことになってるんじゃねえ!」


 俺はリアの発言に対して叫び声をあげながら、変わってしまった俺を見つめているメンバーたちに目を合わせた。


「にしてもなんだか少し腹が立っちゃう。ハクにぃがこんなにもしっくり女装しちゃうと、さすがに女の私の立つ瀬がないというか」


「それは絶対に褒めてないよね!?というか貶してるよね!?」


「だな。妾たちがマスターに服を着せている時点から薄々感じていたが、実際に目撃すると少々戸惑ってしまう」


「よし、一旦そのセクハラ問題の議論から始めようか」


「というわけでハク様。私たちはこれにて失礼しますので、後片付けのほうよろしくお願いします」

 シラは俺に向かってそう言うとみんなを引き連れて外に出て言ってしまう。


「え?ちょ、ちょっと待って!こ、この服どうやって脱げばいいんだ!?だ、誰か、助けてくれよ!?パーティーのリーダーを置いていくんじゃねえええええええええええ!」


 結局神妃化して事象の生成で来た時よりも美しい状態まで戻して、その店を出たのだがかつてないほどの精神的ダメージを負った一日となってしまった。




 こうしてその後も日が暮れるまで獣国を堪能した俺たちは明日からの生活に胸を馳せながら宿に戻り眠りについた。

 しかし明日、とんでもないことが俺の身に降りかかることを知る者はいない。


今回はハクが無性に可哀想になってしまいました(笑)

戦闘では最強のハクも仲間には敵いませんね。

次回はついに第六章の最後のエピソードに突入します!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


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