表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
259/1020

第二百五十八話 取り戻した風景、一

今回は比較的のんびりとした話になります!

ですが第七章に向けての話も少しありますよ!

では第二百五十八話です!

 その後。

 結局獣国ジェレラート王城にてその話は現実のものとなり、開催されていた王選は中止となった。獣国の国王は今まで通り現国王が担うこととなり本当の王選は来年に持ち越しになるらしい。

 当然国民からはいきなりの中止に反発の声が上がったのだが、それも数時間で収まり今はいつもと何ら変わらない生活が戻ってきていた。なんでも今の国王はそれなりに支持が厚いらしく王位を返還することに反対していた人たちもいたようで、すんなりとその騒動は冷めていったようだ。

 で、シラはというと再びシルと名同じメイド服に身を包み俺たちの下に戻ってきていた。さすがにお咎めなしというわけにはいかずメンバー全員からお叱りの言葉を半日ほど受けたようだ。というのも俺に関しては王城で既に思いの丈は伝えているのでその場に同席していない。ゆえにアリエスたちが何をシラに言ったのかもわからないし、それに対してシラがどう思ったのかも知らない。

 ただ全てが終わった後のみんなの表情は笑顔に包まれていたので問題なく和解したのだろう。

 というわけで本来王選七日目が行われるはずだった翌日。

 久しぶりのメンバー全員集合の朝食が宿の食堂で行われていた。当然そこにはイロアたちパーティーの姿もあり、今回の王選に関わった人間全員が集まっていた。

 するとシラがおもむろに立ち上がり俺たち全員が見渡せる一に移動するとほぼ九十度と思わせるような完璧な仕草で頭を下げた。


「この度は本当にご迷惑をおかけしました。謝って済む問題ではありませんがそれでも謝罪させてください。申し訳ありませんでした」


 その姿を俺たちは黙ってみていたのだが、次第に周りから大きな拍手が沸き上がりシラの帰還を祝福していく。当然俺たちもそれに同調し両手を合わせるように拍手を鳴らし、シラの方を見つめた。

 シラはその光景に半ば茫然となっていたのだが、すぐに嬉しそうな顔に変えるともう一度綺麗なお辞儀をし、自分の席に戻っていった。


『まあ色々あったがとりあえず無事解決というところかのう』


『そうだな。今回は特段戦闘をしていないのにかなり疲れたぜ……』


 このシラの一件はまったくと言っていいほど戦いというものがなかった。代わりに展開されたのが頭に痛みを走らせるほど濃密な心理戦だったのだ。

 シラという少女の本音をいかに引き出し王選に勝利するかという目標を掲げ、より確実にシルをサポートするかというところが鍵となった事案だった。

 こればかりは俺だけの力で成し遂げたことではないし、そもそも誰一人として欠けていては成功しなかっただろう。

 ということもあって普段より気を張り巡らせ常に緊張状態にあったというわけである。


『身体的というより精神的な疲れじゃな。しばらくはこの国に滞在して休んでおればよいのではないか?』


 リアは珍しく俺の体調を気遣うかのような言葉をかけてくる。基本的にリアは元々原初の神であるがゆえに自由奔放であまり人の気持ちというものを考えるタイプではない。俺の中に入ってからはその性格も丸くなったからこそこのような言葉が出てくるのだが、そんなリアも少しずつ成長しているのだな、と改めて思ってしまったのだ。

 だが、そんなリアの優しい言葉は呆気なく破壊されることとなる。

 いうなれば絶離剣で魔物を両断するかのように。


『そうしたいのはやまやまなんだが、多分そうは問屋が卸さないはずだ………』


『というと?』


 俺はそんなリアの言葉に朝食のスープを持っていた左腕を一度空け、その腕をくいくいと動かしてアリエスたちの方を指し示す。

 そこには既にいつものペースを取り戻しているメンバーたちの姿があった。


「せっかくシラ姉も帰って来たんだし、獣国の中を観光しようよ!」


「いいですね!私も一王女としてこの国を見てみたいと思っていたんです!」


「うんうん、最近結構激しい活動ばかりだったから息抜きには丁度いいよねー!」


「むう、妾は激辛料理が食べれればなんでもいいぞ」


「私はちょっと服とかアクセサリーとか、見てみたいかも……」


「確かに私たちも王選でかなり色々なところを歩きましたけど、詳しくは見て回ってないわね」


「姉さんと一緒ならどこでもいいです!」


 とまあ、このような会話が繰り広げられているのだ。


『なるほどのう。確かにこれは困ったことになりそうじゃ』


『女性陣にとって休むってことが観光とイコールで結びついているところが問題なんだよ。俺としてはしばらく昼寝にいそしみたいところだ』


『異世界版ニートか?』


『誰がニートだ。働いた分の休息は誰だって必要だろ?それくらいあってもいいと思うんだ』


 とはいえ、その話をしているメンバーの顔はいつも以上に明るいものでシラが失踪していたときに比べかなり雰囲気が明るくなっている。シルも前のように感情の起伏が小さいということもなく、今では目をキラキラさせながら話に食いついている。

 まあ、この光景を取り戻すために戦っていたんだから仕方ないか……。

 と半ば諦めて腹をくくっていると案の定アリエスからお誘いの言葉が飛んできた。


「ハクにぃ!今日はそういうわけでこの獣国をたくさん見て回るから、ついてきてね!」


「はいはい、どこまでもお供しますよ。だけどとりあえずみんな朝食はしっかり食べろよ?健康第一だからな」


「「「「「「「はーい」」」」」」」


 俺はその元気のいい声を聞くと自分も目の前に置いてあるパンとスープを口の中に頬張っていく。今日はなにやらカボチャのようなものを擦り混ぜたスープのようで、それに相反するようにパンには塩が若干振りかけられている。いわゆる塩パンというやつだ。

 なかなか珍しい組み合わせの朝食を頬張っていると不意にイロアが隣にやってきて話しかけてきた。


「まずはおめでとうと言っておこう。シラ君奪還おめでとう」


「形式ばってるな。イロアの協力あっての奪還だと思うぞ?」


「それは重々わかっている。我々も相当今回件では動いたからな。褒めるならもっと褒めていいぞ?」


「否定しないところがさすが黄金の閃光のリーダーだな」


「SSSランク冒険者というものはそういう集まりだ。基本的にプライドが高く自分の実力に絶対の自信を持っている。とはいえ私は君に対して威勢を張れるほど馬鹿ではないがな」


 と、お互い表情を明るくさせてちょっと変わった雑談を展開する。

 しかしイロアが言っているように今回の件は本当にイロアたちに助けられた。事前の連絡から始まりシルのサポート、それに多方面へのアポ。はっきり言って口に出せないくらいたくさんの仕事を受け持ってもらった。

 感謝してもしきれないというのはこのことだろう。

 するとイロアは一度その空気を断ち切るように息を吐き出すと、急に真剣な表情を浮かべながらとある話を切り出してきた。


「話は変わるが丁度昨日のことだ。シラ君の奪還が成功してしばらくしたころ、私の下に一本の念話が届いた」


「なに?」


「相手はジュナスだ。内容は帝国軍の新たな動きについて。何やら確証は持てないが帝国の中が妙にざわついているらしい。それが何を意味しているのかはよくわからないが、結局それは隣国のトップ連中にとある結論をはじき出させたらしい」


「結論?」


 イロアは目の前に置かれている自分の持ってきたコーヒーに目を落とすと、そのまま俺に目を合わせることなく言葉を呟いていく。


「帝国への進撃だ」


「な!?」


 俺はそのイロアから発せられた言葉に一瞬思考が凍り付いてしまった。

 帝国への進撃。

 それはつまり本当の戦争を始めるということだろう。隣国の国々というのはおそらく学園王国とシルヴィニクス王国、それにそれほどまでは大きくない他の周辺国を指しているはずだ。

 つまりそのトップがその決断を出したということは完全に帝国を潰すつもりなのだろう。


「といっても帝国内に住んでいる人々は無関係だ。ゆえに皇帝とその家族、それに勇者と兵士たちが今回の標的になる。どうやら何かしらの手段でおびき寄せて戦いを始めるらしい」


「…………で、その話を俺に振ってくるということは俺たちも参加しろってことか?」


 イロアが俺にその話をするということは間違いなくそういうことだろう。現に俺たちは学園王国で大量の帝国軍を壊滅させている。その情報が伝わり俺たちを戦闘に引きずり出そうとしていてもおかしくはない。

 だがイロアが返してきた答えはまったく別のものだった。


「いや、特段そのようなことは聞いていない。そもそも我々冒険者は政治とは無関係なポジションにいる。いくら国王の権力が偉大でもさすがにそれを強制させることはできない。我々SSSランク冒険者が動いてきたのはあくまで自主性に則ってやってきたことだからな」


「だったらなぜその話を俺に振る?」


「そうだな………。簡単に言えばこれは私の願望だ。当然我々黄金の閃光はその戦いに参加する。私は元々帝国のやり方が気に入らないし、今回のこの戦は私の本望でもあるからな。だが、そこに君たちという最強の集団がいてくれると心強いと思っただけだ」


 その言葉を吐きだすイロアは少しだけ申し訳な表情をしており、普段のイロアとは思えないほど弱気な発言だった。

 まあ言い方を変えればいつもの血が溢れかえるであろう戦場に俺たちを参戦させようとしているのだ。それはその戦いを望んでいるイロアにとっても口にしにくいことだったのだろう。

 イロアには今回の件で大きな借りができた。それを返すという点で考えれば確かに筋は通っている。

だが、だからと言ってこれは即答できる話ではない。

 確かにシラを奪還した今、俺たちの次なる目的地はオナミス帝国だ。もっと詳しく言えばその近くにあるであろう第五ダンジョンの神核を倒すこと。

 それを考えれば今回の戦争の参加も悪くはないのかもしれない。実際、俺たちが参加することによって前回のように流血という点は限りなく抑えられる。死者数だってかなり落ちるだろう。

 しかしこれを決断するにはまだ早すぎる。俺だけの判断ではどうすることもできないし、それにせっかく今までの空気を取り戻したメンバーたちをすぐに戦場に引きずり出したくないのだ。


「今この場で答えることはできない。俺たちもいずれオナミス帝国には向かうが、それとこれは別の話だ。答えは保留にさせてくれ」


 すると、まるでその答えをわかっていたかのように笑みを浮かべたイロアは一度大きく頷くと俺に言葉を返してくる。


「そうか。ならば期待せずに待っておくことにしよう。返答はいつでもいいが念話で頼む。我々は今日この国を立つからな」


「もう行くのか?」


「ああ。私は君のように転移を使えるわけじゃない。この国にある転移陣も一方通行だ。ゆえにそろそろ出発して準備を整えないと間に合わない」


「そうか」


「ではな、ハク君。また会うことにはなるだろうが、その時は飯の一つでも奢ってくれ」


 イロアは最後にそう呟くと自分のコーヒーを勢いよく喉に流し込んで、一人で宿の外に出て行ってしまった。

 おそらく外で出発の準備をするのだろう。見れば他のメンバーも続々とその背中についていくように移動を開始している。

 俺はそれを見ながら冷めてしまったパンとスープを喉に流し込んでいく。だがそんな俺に近くによってきていたキラが話しかけてきた。


「よかったのか、あのまま行かせて」


 キラは俺と契約を結んでいる関係上俺の心の中をある程度読むことが出来る。つまりキラにはイロアとの話が大方聞こえていたのだろう。


「今はまだいい。とりあえず今日は羽を伸ばそう。焦ることじゃないさ」


 するとそんな俺とキラに問いかけるようにアリエスが言葉を投げてくる。


「ハクにぃ!まだ食べ終わってないの?早く早く!」


「ああ、わかったよ」




 オナミス帝国。

 その場所で一体何が起こるのか、俺にはまだわからない。

だがそれでも今は考えないようにしようと必死に思考を切り替えるのだった。


次回はこのお話の続きになります!

そしてそのお話が終わるとついにあの存在が出てきます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ