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第二百五十六話 王選六日目、三

今回はハクたちが最後に用意したものの正体が明らかになります!

では第二百五十六話です!

「で、戦況の方はどうなっているのですか、シラ様?」


 獣国ジェレラート王城謁見の間にて。

 そこには獣国サイドの面々が集結していた。シラやラミオ、さらに現国王にその家臣たち、また複数の執事と護衛が張り付くような形でその場に佇んでいる。

 王選六日目はまだ始まったばかりだというのに、その空間には張りつめた空気が流れシラを中心とした作戦会議が開かれていたのだ。

 黒い毛並みを持ったその現国王は玉座に座りながらも丁寧な口調でシラに現状の報告を求める。


「完全に五分五分というところね。まだ今のままじゃ確実に勝てるとは言えないわ。夜中の間まで統制の檻が高出力で放たれていた以上、そう簡単にいかなかったという感じかしら」


「むう、しかし昨日の状況よりはまだ改善されているのでしょう?」


「そうね。最悪の事態は脱したわ」


 現国王が言うように昨日戦況ははっきり言ってシラたちにとって絶望の何物でもなかった。統制の檻を発動させたところでそれはハクの得体の知れない力に破壊されてしまうし、腕輪のブーストも効かない。ましてシラサイドにそれを打開する手立てなど残っていないという最悪の状況が出来上がっていたのだ。

 しかしそれはシラの機転とラミオの決断によって窮地を脱することに成功した。


「ですが、シラ様はよかったのですか?」


「何がよ?」


「ラミオとの婚約についてです。我々はシラ様にこの国の王座につくことを半分強制させています。ですので夫婦となる相手ぐらいはシラ様の望む相手でも構わないと思っていたのですが……」


 国王を含む獣国サイドの人間は確かにシラという存在を王座にあげようとしているもののそれは獣国の発展と安泰を願ってのことだ。確かにシラを引きずり出した手段は頷けるものではないものの国民の生活を第一に考えて行動した結果、このようなことになっている。

 つまり根っからの悪人ではない。

 ゆえにシラの婚約相手くらいは自由に決めてもいいのではないかと考えていたのだ。

 しかしそんな言葉にシラは大層機嫌が悪そうな顔を浮かべながら返答する。


「何をいまさら。私をここまで祀り上げておいて、いきなり自由を与えようなんて虫唾が走るわ。それに私が好きなように婚約相手を選んでいいならそれこそハク様を婚約相手にするわよ?」


「そ、それは………」


 さすがにどんな相手でもいいと言ったものの今回の王選を混乱させシラの主であったハクの名前を出されてしまっては国王も簡単には頷けない。

 シラはその台詞を吐いた後、すぐさま隣にいるラミオに向き直り申し訳なさそうな顔をすると、小さな声で謝った。


「ごめんなさい、ラミオ。別にあなたと婚約するのが嫌というわけじゃないの。今のは方便だから許してちょうだい」


「ええ、わかっています。お気になさらず」


 ラミオはシラの意図をしっかりとくみ取っており表情一つ変えずシラに頭を下げた。


「で、ですがこのままで本当にシラ様は勝てるのでしょうか?妹君のシル様の勢力も衰えてはいないのでしょう?」


 そんなシラとラミオのやり取りに水を差すように家臣の一人が声を上げてくる。今の戦況は互角。それもシルの力は衰えるどころか隙があれば一瞬でこちらの票数まで奪っていきそうな勢いまで見せているのだ。

 だがそれでもシラは焦ることはない。


「大丈夫よ。最後の最後になったらもう一度腕輪の力を使うし、それにまだ一日は始まったばかり。私とラミオの婚約話はこれからどんどん広がっていくわ。完全にはシルの力を潰せないでしょうけど、勝つことは間違いないわ」


「な、ならばよいのですが……」


 シラの返答に家臣は引き下がると、その言葉を引き継ぐように国王が口を開ける。


「とはいってもこのまま何もしないというのは不用心です。何かしらの作戦を立てておいたほうがいいでしょう」


「そうね。ハク様ならそれこそ何を仕掛けてくるかわからないもの」


 と、シラが国王の言葉に同意を示した瞬間、この部屋の外にいたであろう兵士数名が悲鳴とともに部屋の中に転がり込んできた。


「「「ぎゃあああああああああ!?」」」


「な、何事だ!?」


 その光景に国王は目を見開きながら現状の把握に努める。

 すると部屋の外から入ってきたのは、白いローブに金髪の髪を携え腰には一本の純白の長剣を指した青年を先頭にした複数人の集団だった。

 その青年は自らの体から圧倒的とも呼べる力を放出させ、部屋の中央までやってくるとさらに気配を上げ、威圧を強める。


「は、ハク様………!」


 シラは自然とその青年の名前を口に出し表情を凍り付かせてしまう。本来ならば騎士のラミオは真っ先にシラを守るように動かなければいけないのだが、それすら封じてしまうほどの力がこの空間には迸っていた。

 そしてその青年は顔に笑みを作りながらゆっくりと口を開き、言葉を放った。


「主の許可なくうちのメイドを婚約させるわけにはいかねえな。少しだけ待ったをかけさせてもらうぜ?」












 ハクたちは自分たちに残された最強のカードを手にメンバー全員とイロアたちのパーティーを引き連れ獣国ジェレラート王城に訪れていた。

 一昨日この城に訪れた際はイロアの用意した馬車で赴いたが、今回は一度行ったこのとのある場所なので転移を使用できる。

 だがそれはシラを対峙した応接間までなので今シラがいるであろう部屋には転移ができない。ゆえに一度応接間まで転移してそこからは自らの足でその部屋に向かうこととなったのだ。

 当然王城内は大量の警備隊が付いており俺たちを発見するとすぐさま取り押さえようと襲い掛かってくるが帝国の軍隊を壊滅させることのできる俺たちにとってそのような連中は相手ではない。

 全ての兵士を外傷なく気絶させながら歩みを進め、とうとうシラがいる部屋に到達した。部屋の扉の前に立っている兵士を威圧だけで吹き飛ばした俺は仲間たちを連れてその部屋に侵入する。

 そしてその部屋の中央に立ちこう言い放った。


「主の許可なくうちのメイドを婚約させるわけにはいかねえな。少しだけ待ったをかけさせてもらうぜ?」


 するとその言葉に真っ先に反応したのは俺の登場に冷や汗を流しながら玉座に座っている黒い毛並みを持った獣人族であった。


「な、何の用だ、ハク=リアスリオン………?」


「ほう、俺の名前を知ってるとは俺も随分と有名になったものだ」


「ぬかせ………。貴様がシル様をこの王選に参加させたのだろうが」


「まあそうだな。とはいえお前らだって俺のことを責められないぞ?無理矢理シラを獣国に連れ込んだだけでなく、統制の檻を使って王選を有利に進める。国のトップ集団が行うとは思えない立派な不正行為だ」


 俺は半ば殺気の滲んだ声でそう呟くとおそらく国王であるその男を睨みつける。

 だがその言葉に返答してきたのは国王でもシラでもないその周りに群がっていた家臣たちだった。


「だ、黙らんか!陛下の眼前で無礼だぞ!」


「そうだ!そもそも貴様がシラ様とシル様を束縛していたのだろう!」


「このお二人は我が国にとって宝のような存在。決して貴様ごときの人間が手をかけていい方ではないのだ!」


 その言葉を俺の隣で聞いていたアリエスは明らかに不機嫌そうな顔をしながら前に進みだそうとする。


「そ、そんなことが通じる、と………。って、ハクにぃ?」


 俺はそんなアリエスを左手で制すとそのままさらに威圧を上昇させ空間の空気を凍り付かせる。おそらく何の耐性もないやつはこの威圧を受けただけで気を失ってしまうだろう。現にこの部屋にいる兵士や家臣は何人か気絶しているようだ。


「お前らの御託は聞く気になれない。確かに俺はシラとシルの二人をメイドとして仲間に引き入れたが束縛したつもりはない。もし自分の意思でパーティーを抜けたいと言えば別に止めも追いかけたりもしないさ」


「ならば、何故貴様は今ここにいる?」


 俺の威圧を受けてもまだ意識を保っている国王は俺に対してそう呟いてきた。国王であるがゆえの器なのか、それともシラをどうしても王にしたいという願望からなのか、どちらにしても俺の威圧を受けても顔色を変えていないことはさすがだろう。


「簡単だ。俺だけでなく、パーティー全員の目から見て、今のシラは相当無理をしている。もっとわかりやすく言えばシラはこの国の国王になることを望んでいない。言葉で上辺を偽ってもその意思がひしひしと伝わってきたんだよ」


 すると今まで黙って俺たちのやり取りを聞いていたシラが肩をわなわなと震わせながら俺に対して叫ぶような声を上げた。


「ふ、ふざけないでください!ハク様に私の何がわかるっていうんですか!私はしっかりと自分の意思でこの王選に臨んでいます!それは一昨日会った時も説明したでしょう!!!」


 そのシラの姿は肩で息をするように体を上下に揺らしており、怒りが爆発しそうな表情を浮かべている。

 だが、それこそが大きな間違いだ。

 俺はそう心の中で呟くとさらに畳みかけるように言葉を放っていく。


「ならばなぜお前は今まで俺たちについてきた?俺が奴隷の首輪を外した途端シルを連れて逃げ出すこともできた。確かにその時は獣人族の秘密は知らなかったのかもしれないが、シルよりもその歴史をよく知っていたお前はいずれこうなることも予想できたはずだ。だがそれでもお前は俺たちと様々な国や村を回って旅をした。これはどう説明するつもりだ?」


「そ、それは………」


 一昨日シラと話した口ぶりを聞いていた限りではシラはシルや俺たちよりも随分と前にある程度腹をくくっていたように感じられた。それはおそらく俺たちと一緒に旅をしているときから考えていたことであり、想定していたことなのだろう。

 よく考えればシュエースト村での血晶病での一件にシラが過剰に反応したのももしかすると今回のことが絡んでいるのかもしれない。

 かつて獣人族の王についていた者の血を継いでいる自分は困っている人を見捨てることはできない、なぜなら自分たちも差別され助けを求めてきた人間なのだから、などと考えていてもおかしくはないのだ。

 だがそれでもシラは俺たちについてきた。

 それこそがシラの本音を物語っている。

 するとここでようやく動けるようになったであろうラミオが自らの剣を抜き放ちシラの前に進み出ると威勢のいい声を上げながら問いかけてきた。


「答えろ、ハク=リアスリオン!お前は何故この場にやって来た!私とシラ様の婚約は既に成立している!もはや取り消すことなどできんぞ!」


 それは前に会ったときのような丁寧な口調ではなく、シラを守ろうとする一心で絞り出された強気の言葉であり覇気がこもっている。

 ただ、取り消すことはできないねえ………。

 俺はその言葉を脳内で反芻させながらラミオの後ろにいるシラを見つめると、そのまま例の物をローブの中から取り出し、この場にいる全員に見えるような形で差し出す。


「シラ。これが一体何かわかるか?」


「…………なんですか、それは」


 俺の右手に握られていたのはかつて俺がまだ第一神核を倒す前、多額の金を一夜で集めその金を使って手に入れたものだ。

 厳密にいえばその証明書。

 それは俺がシラとシルという奴隷の首輪をつけられた少女を買い取った時の証明書だった。


「これは俺がシラとシルを奴隷として買ったときに受け取り、サインした主を示す書類だ。この書類がある限りお前は俺のメイドであり俺の仲間であり俺の奴隷でもある。本来ならばこのような使い方はしたくなかったが、この際やむを得ない。つまり何が言いたいかというと、一度奴隷商に捕まり俺に買われているお前は行動の自由はあれど、婚約の自由までは認めていない。その権限は全て主である俺にあるんだからな。そしてそれはこの書類と首輪が証明している」


 俺はそう言うとそのまま蔵に入っていた絶離剣レプリカによって両断された奴隷の首輪を投げ捨てる。


 これこそが俺たちが最後に振りかざす切り札。

 汚いやり方ではあるが、これでシラの婚約はもとよりこの王選自体の決着が大きく傾き始める。

 契約は古い契約に対して逆らうことはできない。それが仮に獣国という大きな力がのせられていても。

 それこそが奴隷の契約であり不変のルール。

 つまりこの瞬間、シラが用意した作戦の全てが崩壊したのだった。


次回はシラの本音が語られるお話です!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は今日の午後五時以降です!

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