第二百四十九話 作戦の内容
今回はどんどんハクの考えていることが明らかになっていきます!
では第二百四十九話です!
「い、いつの間にそんなものを………」
俺の言葉を聞いたイロアが若干引きながら声を濁してくる。
今回俺がシルを完璧に王選出場させるために用意したのはシルヴィ二クス王国国王と学園王国国王の推薦状だ。これは俺が近衛騎士団団長のシーナとシンフォガリア学園学園長に頼んで書いてもらったものだ。
学園王国に関してはその場を旅立つ直前に、シンフォガリア学園に関しては獣国に向かう際に立ち寄った時に頼んでおいた。
獣国に着きシラと対面した時にどのようなことが起こるか予測できなかったので年には念をということで張り巡らせておいた策である。
本来ならば平民である俺の頼み事など一国の君主が聞くはずもないのだが、この二つの国に関しては色々と貸しを作ってあったために多少融通が利いたということなのだ。
「それぞれの国に立ち寄った時にサクッと話しておいたんだよ。この獣国で何が起こるかわからない以上、奥の手の一つや二つ作っておくのは常套手段だ」
「ま、まったく………。君というやつは本当に抜かりがないなあ………」
イロアは俺の言葉に対して肩の落とすように息を吐き出すと、そのまま目を閉じてしまう。
俺はそんな姿を少し笑いながら、これからの動きを整理していく。
この推薦状は間違いなくこの獣国に対して大きなダメージとなるはずだ。いくら獣国に腕のいい騎士や兵士が集まっていたところでシルヴィ二クス王国や学園王国を無視できるほどの戦力ではない。
つまり何がどうあってもシルの王選参加は認めなければいけないのだ。
意図的ではあるがその状況を作り上げてしまえば獣国側も逃げることは出来ない。
「それでこれから私たちはどうしたらいいのかしら?」
サシリがぷにぷにとシルの頬をつつきながらそう呟いてきた。
「まず、俺は今すぐこの二つの国にいってその推薦状を取ってくる。一応サシリもカリデラの君主として同じようなものを書いておいてくれ。数は多いことに越したことはない」
「わかったわ」
「あとのみんなはシルの立候補準備をしておいてほしい。そこらへんはイロアの指示を仰げば問題ないはずだ」
「「「「了解!」です!」したよー」だ」
俺はその反応に頷くとすぐさま転移を実行して、学園王国とシルヴィ二クス王国に足を向けるのだった。
結果的に俺は十分ほどでその二つの国を渡り歩き、シルたちがいる宿の部屋に戻ってきた。本来ならばもう少しじっくりと世間話などをしてもよかったのかもしれないが、生憎と俺たちには時間がないため、くだんの推薦状を受け取りすぐに戻ってきたということである。
「あ、返って来たね」
イロアがそんな俺を発見すると声をかけてくる。アリエスたちはただいまシルのドレスアップ中とのことなので別室に移動していた。
「どうだ、そっちは?」
「高々十分程度で大きな変化があるわけないだろう。でもまあ一応シル君の王選参加用紙くらいは調達してきた。あとは私の部下が色々と根回しに回っているというくらいだな」
「根回し?」
俺はその聞きなれない言葉に首を傾げると、得意そうな表情をしているイロアの顔を見つめた。
「簡単に言えばシル君という存在の情報を拡散しているということだ。シラ君はおそらく自分に妹がいるということを隠してこの王選に臨んでいる。しかしシル君を参加させる以上、その情報は隠しておくほうが我々の不利に繋がるはずだ。ゆえにそれをバラまき、浸透させているところだ」
確かに現時点でとてつもない人気を集めているシラの妹で同じく王選に参加するということが広がればそれなりに話題の的になるだろう。
今回は俺たちだけでなく国民さえも味方につけなければならないのだ。この際手段に構ってなどいられない。
「なるほど、そういうことか。ならばそれは出来るだけ続けておいてくれ。事が明らかになったら獣国側も動き出すかもしれない」
「というと、偽の情報を流すということか?」
「まあそれもあり得るだろう。なにせわざわざ学園王国までシラを追い求めてやってくる連中だ。その執念深さは俺たちの予想を超えているだろう」
「だけど、それを封じ込めるための推薦状だろう?」
「まあな」
この巨大国家の頂点に君臨する国王の推薦状というのはシルの王選参加をスムーズに進める目的と、さらにもう一つの効力を発揮する。
それは一種の脅しだ。
自分たちもその王選に興味があるんだ、という意思示すことで獣国側を牽制する。国王からの推薦状というのはそういう意味も込められているのだ。
「SSSランク冒険者二人とカリデラ君主に巨大王国国王の推薦。これ以上ない最強の布陣だろうな。とはいえシル君の参加が決まったとして、具体的な動きはどうするのだ?はっきり言ってシル君が参加したところでシラ君の絶対的優勢は変わらない。これを崩さない限りはどうしようもないぞ?」
イロアの言っていることは最もだ。
いくら国王の推薦状を拵えたところでシラがこの王選を牛耳っていることには変わりない。ましてシラの背後には獣国という最大のバックアップが付いているのだ。そう簡単に切り崩せるものではないだろう。
しかしこれに関しては先程言ったように考えがある。
だがそれはみんながいる場所で説明したほうがいいだろう。
「それはわかっている。だから策も用意してあるさ。だけどとりあえずはシルの着替えが終わってからだ。全員そろっているところで話したほうが効率がいい」
イロアはそれもそうだな、と軽く言葉を吐きだすと近くにあった椅子に腰を落とす。その姿は戦場で見せているような凛々しいものではなく年相応の女性のような雰囲気が漂っていた。
「な、なんだ、ジロジロ見て………」
「い、いやー、べ、別に大したことじゃないさ………。ただイロアも女性なんだなーと………」
と、俺がその言葉を口にした瞬間、イロアの身に纏っている空気が急変しドス黒いものへと変化する。
「おい、ハク君。それは一体どういうことだ?」
「へ!?あ、あ、えっと、それは………」
やばい、何か地雷を踏んでしまったかもしれない。
俺は咄嗟にそう考えると、出来るだけ笑顔を作りながらイロアに話しかける。
「イロアって男らしい口調だけど、見た目は綺麗だし、仕草も戦闘やパーティーのメンバーの前以外では女性らしいなって………ごはあっ!?」
そう呟こうと声を出していた俺の腹にSSSランク冒険者であるイロアの拳がめり込んでくる。
「悪かったな男らしくて!」
あ、き、気にしてたのか。男らしいってこと………。
イロアは基本的に兜や鎧さえ着てなければ絶世の美女と呼ばれてもおかしくない容姿を持っている。それがいかなる経緯でSSSランク冒険者になったのかは不明だが、男っぽい口調をしていることから過去に何かがあったのは間違いない。
当然その話題を掘り下げるつもりはないが、イロアのパーティーメンバーの苦労が少しだけわかった気分になったのだった。
俺はそんなことを考えながら腹の痛みに耐えるようにして体をベッドの上に預ける。その天井に何かがあるわけではないが、それでもジッと目をそこに合わせていた。
思えば遠いところに来たものだ。
物理のテスト勉強中に異世界に呼び出され、盗賊を倒し仲間に恵まれ、神核と戦う。果てには一国を敵に回して王選参加という状況になっているのだ。
元の世界で起きた真話大戦が始まりであるとはいえ、畑違いの世界に来てまで力を振るうことになるとは思っていなかった。
この旅がどこまで続くことになるかわからないが、いずれ絶対に終わりを迎える。それは星神を倒し元の世界に戻るまでなのか、はたまたさらに別の世界が待っているのかはわからないが、それでも終わりというものは存在する。
果たしてその終わりを迎えたとき、俺はどのような人生を歩んでいるのだろうか。
それを考えると少し寂しくあるが、それでもまだ俺の道は終わっていない。その確かな感覚を今という一瞬、一瞬を生きて感じていればいいのだ。
そう自分の中で恥ずかしい結論をはじき出すと、それと同時に俺とイロアのいる部屋のドアがノックされた。
するとそのドアは何故か勢いよく開け放たれ、外からアリエスたちが一斉に入り込んでくる。
「じゃーん!シルの着替え、終わったよ!」
アリエスは部屋のど真ん中で高らかにそう宣言すると、俺とイロアにシルの格好を見せるように道を作るとシルを部屋に招き入れた。
「「おおー!」」
その姿は以前のようなメイド服ではなく、しっかりとしたドレスに変わっており夏の蜜柑を連想させる様な淡いオレンジ色に染まっている。また肩くらいの長さまで伸びていた髪の毛はパーマが掛かったかのように軽く渦巻いておりなにやらキラキラと輝くものが吹きつけられているようだった。
「先程に引き続き二度目の着替えでしたので、苦労しました………」
エリアが完全に脱力したような顔でそう呟いてくるが、それでもその表情は明るいものになっており一種の達成感を滲ませている。
さすがは王女だけあってこのような機会には慣れているようで今回のシルの着付けもエリアが中心となって行わせたようだ。
俺とイロアは二人同時に感嘆の声を上げると、シルに対して声をかける。
「似合ってるぞ、シル」
「うんうん、シラ君に似てシル君もとても綺麗だ」
そんな俺たちの言葉に顔を赤くしているシルは床を眺めながら恥ずかしそうに言葉を返してくる。
「あ、ありがとうございます…………」
俺はそんなシルの整った髪を崩さないように撫でると、そのまま立ち上がり先程イロアに聞かれた話を再開した。
「よし、それじゃあこれからの具体的な作戦について話すぞ」
俺がそう呟いた瞬間、みんなの目の色が変わりこちらに視線を向けてくる。それだけでみんながこの王選に対してどれだけの気持ちをかけて臨んできているかが伝わってきた。
「現在、シラは統制の檻の力を使って国民の大半の指示を集めてしまっている。シルがこの戦いに勝利するにはこの現状を完全に逆転させるしかない」
「しかしシルはその統制の檻という能力を使えないのだろう?であれば同じ手は使えないぞ」
キラが目を細めながら俺を訝しむような表情でそう呟いてくる。
「だろうな。シルは統制の檻を使える十歳に到達していないし、それに今使えるようになったところで既にその力を使いこなしているシラに敵うはずがない」
「ならどうするの?」
キラの意見に同意を示した俺にアリエスが話の先を促すように問いを投げつけてきた。俺はそんな言葉にニヤリと微笑むと、この王選における最大の鍵になるであろう作戦を吐き出す。
「シルが統制の檻を使うことができないのならば、代わりに俺たちがその力を発動させればいいんだよ」
「「「「「「「は?」」」」」」」
俺の言った言葉はこの部屋にいる全員の思考を完全に停止させ、静寂の空間を作り出すのだった。
なかなか話が進まず申し訳ございません!しかしこのお話はじっくりと書いていきたいのでもうしばらくお付き合いください!
次回はついにシルが表舞台に出てきます!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




