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第二百四十六話 シラとの再会

今回は久しぶりにシラとハクが対面します!

では第二百四十六話です!

「それではここでお待ちください」


 俺とシルは王城へ着くなり豪華絢爛な廊下を通った後、とある部屋に移動させられていた。どうやらこの部屋は応接間になっているようで俺たちが入ってきた扉以外にもう一つ扉が備えられており、そちらからシラがやってくるのだろう。

 俺とシルはなんというかソワソワした気分でシラの到着を待つ。

 俺たちの後ろにはなにやら執事のような人たちが三人ほど立っており常に俺たちの行動を監視している。

 気配探知は既に発動しているのでどのような動きをされても対応できるがいつどんなときも見られているというのは落ち着かない。

 すると、俺たちの向かい側にある扉が勢いよく開け放たれ、そこから先程イロアから見せてもらった念写絵にそっくりな人物が入ってきた。

 名は確か、ラミオだったか?

 シラの直属騎士というポジションについており、身の回りの世話と護衛についているやつだ。


「ただいまよりシラ様がご入場されます!」


 ラミオはそう高らかに声を上げると、今から入ってくるであろうシラの道を開けるようにして壁に下がる。

 それに合わせるようにその部屋にいた執事たちも頭を下げ敬意を示すようなポーズを取った。

 あれ、これ俺も何かしないといけない感じ?

 そう思っていると俺の隣で静かに立ち上がったシルが小さな声で話しかけてくる。


「ハク様、こういうときは立つんですよ」


 あ、なるほど、そういうことか。

 俺は少しだけ遅れて素早く立ち上がった。元の世界ではこのような場面はなかったし、王国での作法なんて知っているはずがない。

 くそぅ、現役男子高校生には厳しい所業だ……。

 そんな俺たちの動作を確認するように煌びやかなドレスに身を包んだピンク色の毛並みを持った獣人族の女性が姿を現した。

 その女性は薄っすらと化粧をしているようで口には少し赤い紅をさしている。また着ているドレスはその紅に相反するような水色で髪の色を目立たせるかのような造りになっていた。髪は少しだけ頭より高い位置でまとめられており、風で靡けばうなじが見えてしまいそうな形になっている。

 俺とシルはその女性、つまりはシラに一礼し頭を下げる。

 おそらくこのような場合はシラが席に着いてから俺たちも腰を下ろすのがセオリーなはずだ。こちらはあくまでシラに婚約を頼みに来ている立場である。であればどちらの身分が高いのかなど言うまでもない。

 それくらいは男子高校生でもわかるのだ。

 その予想は完璧に的中しシラはそのドレスの裾を引きずりながら俺たちの目の前に置かれているソファーに体重を預けた。

 俺たち二人はその光景を見届けた後、出来るだけ音を立てないように腰を落とす。

 ふう………。たったこれだけのことなのにとんでもなく緊張するぜ……。

 今考えてみればアリエスやエリアの時は基本的に普段の俺を全面的に出すことができたからよかったものの、今回はまったくの別人になりきらなければいけないという条件が出ている。

 不慣れなうえに演技までしないといけないとなるとさすがに俺も厳しいのだ。

 俺たちが座ったことを確認した直属騎士のラミオはなにやら綺麗にまとめられた紙を見ながら声を上げ始める。


「今回お越しになった方々は、クハ=キリナカ様。そしてその妹のルシ=キリナカ様です。ルシ様は年齢が小さいということで同席なされております」


 今回俺たちの名前は元の名前から変更して提出されている。というのもやはり元の名前をそのまま使ってしまうと俺たちがどのような存在かバレてしまう恐れがあるからだ。

 俺はSSSランク冒険者集会の際に名前が割れているし、シルに関してはシラと名字が一緒だ。ミルリスの名前なんてだしたらそれこそ大騒ぎになってしまう。

 このは「ハク」という名前を反対にして元の世界の名字をカタカナ表記にしたもので、シルに関しても「シル」を逆読みさせただけである。


「そう」


 シラはそのラミオの言葉に素っ気ない返事を返すと、俺たちにはまったく興味がないといった態度を取りながら目線を違う場所に飛ばしてしまう。


「縁談の時間は三十分です。それまでは自由にお話を楽しんでください」


 楽しんでねえ………。

 普通縁談なんていうものはいかに相手を落とすかがポイントになってくるはずだ。つまりこのラミオとかいう騎士は俺たちではシラを攻略できないと思っているのだ。

 ラミオはそう言うとそのままシラの斜め後ろに移動し、何かよくわからない書類に目を通している。

 つまりここから俺たちのターンというわけだ。

 俺は一度隣にいるシルと目線を合わせると、軽くうなずき合って声を発して話し出した。


「きょ、今日はいいお天気ですねー、シラ様。た、体調はいかがですか?」


 がーーーーー!

 何を言ってるんだ俺は!こんな意味不明な会話から入ってどうする!?素人まる出しじゃないか!


「そうね。普通よ」


 シラは俺が声を上げたにも関わらず目線を向けることなくそう返事を返してきた。その表情にはまったく覇気が込められておらず、どこか暗さを滲ませている。


『おい、リア!こういう時はどうすればいいんだ!』


『そうさのう。普通に世間話をして出来るだけいい雰囲気にもっていくことが目標ではあるが、今の主様たちはそうではない。正体がばれない程度に色々と核心を突くような質問をぶつけていくほうがいいじゃろうな』


 そ、そうか、そういうものなのか。

 俺は自分の相棒に意見を求めると、返ってきた解答を反芻して声に出す内容を高速でまとめる。


「そ、そうですか。で、ではここで少し違う話を。シラ様はつい先日までこの国にはおられなかったとお聞きしましたが、それはどうしてでしょうか?」


 俺がその言葉を発した瞬間、シラの目を大きく見開き俺たちに向けられる。それは今までシラから感じたことのないような威圧が込められており、俺でさえ少したじろいてしまった。

 あ、やっべ。ミスったかも。

 シラはその威圧を放ちながらもの俺の問いにさらなる質問をぶつけてくる。


「なんであなた達がそれを知ってるのかしら?」


「い、いや、風の噂というやつですよ。シラ様はお綺麗で有名になられましたので、あちらこちらでそのような情報が流れているんです………あはは」


そんな俺の反応を見たシラは大きく息をついて話を続ける。


「そう。あまり自分の噂を吹聴されるのは気分がよくないのだけれど、今回は特別に許してあげるわ」


「あ、ありがたき幸せ……」


 な、なんというかもう完全に別人だな。

 シラは普段このような口調ではなかったはずだが………。ここまで変わってしまうものなのか?

 隣にいるシルも自分の今目の前にある姉の姿に驚きが隠せないようで目を見開いたまま固まっている。


「そしてその質問に答えるなら、まあ諸事情でということかしら。あまり口に言えたことではないのよ」


 シラはそう呟くと一瞬だけなにやら寂しそうな顔を作り、すぐに元の表情に戻した。

 今の顔は………。

 俺はその顔をかつて何度も見たことがあった。シラとシルが俺に助けられたときやシュエースト村でヒールを助けたとき、さらにはシラが一人で何かを考えていた時。

 その至る所でその顔を見てきた。

 俺はその光景を見届けるとさらに核心に迫るような質問をぶつけてみることにした。


「ではシラ様はその環境に戻れるならば、今すぐにでも戻りたいと思いますか?」


 その瞬間、俺の後ろに控えていた執事たちが一斉に声を上げた。


「貴様!何という無礼なことを!」


「お兄様。さすがにそれは……」


 シルもその場の流れに合わせて俺を牽制してくる。シルからすればこの質問はまだ早いと判断したのだろう。

 実際に俺だってそう思っている。

 だが、このタイミングを逃すともう二度とこの質問を投げ出せない気がしたのだ。

 するとシラは右手を挙げてその執事たちを制すると、そのまま目を細めて俺に言葉を投げかけてくる。


「あなた、何を言っているかわかっているの?一応あなたは私と縁談しに来ているのでしょう?それなのに私の神経を逆なでするような発言ばかりして楽しいのかしら?」


「まさか。ただ仮にも縁談に来ているわけですから自分の妻になる方の望みは出来るだけ叶えたいと思いまして。お気に障ったのなら申し訳ございません」


 俺はそう口に来ると座りながら大きく頭を下げた。


「ふん、ならもう少し気を使った言い方をしなさい。誤解を招くわ。それと私はその環境に戻りたいとは一切思ってないわ。何が起ころうと私はこの国の王座につく、それだけよ」


「ッ!?」


 その言葉にシルは息を飲むような声を小さくあげ、その場で顔を下げてしまう。

 だが俺はこのとき思ってしまった。

 ああ、これは嘘だなと。

 何を根拠に言っているわけでもないのだが、いつものにこやかな表情を浮かべていたシラを知っている俺はその言葉が本当の気持ちから発せられた言葉ではないことに気が付いたのだ。

 感情というのはどう隠そうと何かしらの形で表に出てしまう。いくら冷静を装っても対面することで感じられる情報というものもあるのだ。

 おそらくそれにはシルも気が付いている。だが、それはある意味自分を守ろうとしている姉の気持ちの表れだと気づいてしまったのだろう。

 シラが国王になればシルという妹をこの国とミルリス一族の歴史から守ることが出来る。確かにこれは当たっていることではあるし、それをシラは実行した。

 だからこそシラはここで俺たちの下へ戻る気がないこの場で述べたのだ。

 だが、くしくもその隠された感情は俺たちに伝わってしまった。

 俺は当初の目的であるシラの意思を確認したため、そのままシルの顔をあげさせ立ち上がる。


「どうしたのかしら?まだ縁談の時間は残っているわよ?」


「ええ、わかっています。ですが私にはこれで十分です。ありがとうございました」


 俺は最後にそう述べると、そのまま大きく一礼し執事たちが立っている扉へと向かう。シルはまだ何か言いたそうだったが、それでもその気持ちを押し殺して俺についてきてくれた。

 イロアさんにもあまり騒がないように言われている以上、このあたりが引き際だろう。

 俺がシラに元の場所へ戻りたくないか?と聞いただけで執事たちは過剰なまでの反応を見せた。であればこれ以上踏み込んだ質問をすれば獣国の反感を買いかねない。それは避けたいのだ。

 俺はそのまま執事たちにも一礼し部屋のドアに手を駆けようとする。

 しかしそこでシラがとんでもないことを呟いた。


「そうですか。でしたらもう二度と私の前に姿を現さないでいただけますか、ハク様?」


「なに?」


 俺は反射的にその声が発せられたシラの方に振り返ってしまう。

 そのシラの表情は今までのような強気なものではなく、俺たちがよく知っているシラのものへと戻っていたのだった。


次回はシラ自分の思いを吐き出します!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日になります!

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