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第二百四十一話 獣国ジェレラートへ

今回はルモス村での最後のお話です!

では第二百四十一話です!


「詳しく聞かせてくれ」


 俺はイロアとの念話を皆にも聞こえるように調節し、音を広げるとそう呟いた。念話は魔力を拡大することによってスピーカーのように拡張することが出来る。言ってしまえばリアの声を外に発せさせるようなものだ。


『ああ、そうだな。少し慌ててしまった、すまない。だが、言ったことは間違いない。シラ君が獣国ジェレラートの王選に参加してきたんだ。今回の王選立候補者は全部で五人だったのだが、今日になって急に六人目の参加者としてシラ君がいきなり姿を現した。しかも現国王の推薦付きという異例の事態でだ。今、獣国はその話題で持ち切りになっている』


「姉さんが王選に………」


「ついに動き出したって感じだな」


 俺はシルの言葉に続けてそう述べると、今までの情報を整理しながら思考を整えていく。おそらくシラは今俺たちがこの祠で知ったことをすでに理解しており、それゆえ獣人族の王となるべく俺たちの前から姿を消した。

 そしてそれは現国王を含め、獣国の政治を回している奴らの考えと一致しておりイロアの知らせと同時に王選に出場したという流れなのだろう。

 まして国王の推薦状という本来ならありえないものが出されている以上、獣国自体がシラを国王の座に持ち上げようとしている。


『一応こちらも監視は続けているが、シラ君は今朝姿を現した後直ぐに獣国の中央にある王城に籠っているからなかなか連れ出す隙がない。いくらSSSランク冒険者とはいえ、王国に歯向かうことは難しい。ゆえに君たちに連絡したのだが……』


「ああ、ありがとう。俺たちも今丁度とある情報を入手したところだ。今から獣国に向かう」


『というと既に近くに来ているのか?』


「今はルモス村にいる。おそらくだが残り二、三日で着くだろう。翼の布(テンジカ)を全速力で走らせればその程度の時間で到着する」


『そうか。ならば出来るだけ急いだほうがいい。私の目から見てもシラ君の人気はとてつもないぞ。今回は今日から一週間の国民投票によって国王が決まるらしい。ゆえに時間が経てば経つほど連れ戻しにくくなっていくはずだ』


「了解だ。すぐにでも獣国に向かおう」


 俺はそう言うとイロアとの念話を切り、魔力を収めた。

 するとその話しを聞いていたキラが俺の顔を覗き込むように問いかけてくる。


「で、どうするのだマスター?獣国へ向かうタイミング的には丁度いいが、この奴隷区域を放置しておくわけにもいかないだろう?」


 確かにこの区域で得られる情報は既に得た。はっきり言ってこの場所をこのまま保存しておく理由はない。この場所の惨さを保存しておくことで獣人族に対する扱いの酷さを示すことは出来るかもしれないが、それを起こしていたのが同じ獣人族だと分かった以上、もはや残しておくほうが問題だろう。


「そうだな。とりあえずアリエスたちのところに戻ろう。この場所に関してはセルカさんとも相談する必要がある」


 俺はそう呟くと、この場にいる全員をアリエスたちがいる奴隷区域の入り口前に転移させた。








 転移が終わり、目の間の光景が変化するとそこには顔色をすっかり元に戻したアリエスたちが俺たちを待っていた。


「あ!ハクにぃ!シル!大丈夫だった?」


 アリエスは俺たちの姿を発見するとすぐさま駆け寄ってきて俺たちの状態を確かめる。アリエスとエリア、ルルンはこの奴隷区域に入った時点で気分を悪くしセルカさんと外で待っていたので、その後も奥に進んで行った俺たちの状態を気にしているのだろう。


「うん………。大丈夫……」


「そういうことだ。俺たちに問題はないよ。とはいえ、かなり驚く真実があったけどな」


「ということは目的の情報は得られたのですか?」


 エリアが俺の目の前に寄ってきてそう問いかけてくる。


「ああ。それに関しては今から伝える。キラ、頼んだ」


 俺はエリアの問いに答えるとそのまま自分の契約精霊に言葉を投げかけ指示を出す。

 キラは大きく頷くと右手を前に突き出し、自身の力を解放した。


「記されるは時間の理。定着するは生ける魂。素は円環に帰し万象に影響す。爆ぜるがいい、記憶の回廊」


 キラの文言と同時にアリエスたちの頭上から水色の光が降り注ぎ記憶の中に俺たちがあの祠で聞いてきた内容を刻み込んでいく。

 キラは精霊の中では特殊な「記憶」という属性を司っている精霊だ。初めて戦ったときも俺の記憶の中にある真話大戦の記憶を呼び起こし具現化させた。つまり今回もその力を応用させ、アリエスたちの記憶に俺たちの見てきたものを焼き付けたのだ。

 とはいえあの奴隷区域内の惨い光景までは記していない。

 入り口に入った時点で値を上げたメンバーにあれはあまりにも刺激が強すぎる。

 キラの力が完全に定着すると、黙っていたセルカさんが俺の方を向き言葉をかけてくる。


「なるほど。なかなか重たい話だったようだね。獣人族が獣人族を奴隷にするというのはさすがに私も考えられなかったよ」


 その言葉に頷くようにルルンも声を発する。


「そうだねー。私もてっきり他の種族の人がこの奴隷区域を作ったと思っていたよ。でもこうなった以上、シラちゃんの行動は頷けるのかな?」


「まあな。ここに来たマスターの判断は正しかったということだ。これで心置きなくシラの前に出ていける」


 ルルンの言葉にキラが力のこもった声でそう呟いた。

 さらに今までの会話を聞いていたアリエスが俺の服を引っ張りながら言葉を投げてきた。


「ハクにぃ、だったら次は獣国に向かうの?」


「ああ、そうなるな。アリエスには申し訳ないけど、獣国でシラの存在が明らかになった以上、ルモス村とは今日でお別れだ。ごめん」


 アリエスからすればせっかく帰ってきた故郷に一日しかいられないというのはさぞ悲しいだろう。

 とはいえ獣国では今日という日から国民投票がスタートしているらしい。もたもたしていれば完全に手遅れになってしまう。仮にシラが獣国の王座についてしまえば会うことすら困難になるのだ。

 しかしアリエスはいつもと変わらない笑みを浮かべて返答してきた。


「ううん、大丈夫だよ!私はハクにぃについていくって決めたんだから!エリア姉も言ってたでしょ、パーティーリーダーのハクにぃの意見には従うって!」


 …………。

 俺はアリエスの言葉に少しだけ罪悪感を抱いてしまった。事態が事態なだけに仕方のないことなのだが、それでも俺はこの小さな少女に気をつかわせてしまっている。エリアに関してもそうなのだが、リーダーでありながらメンバーに助けてもらいっぱなしというのも情けない。

 俺はそんなアリエスの頭を優しくなでると、その顔を眺めながら小さな声で礼を言う。


「ありがとう。いつか埋め合わせはするからな」


「うん!楽しみにしてるね!」


 するとその言葉を聞いていたエリアが飛び掛かるようにして俺に抗議の声を上げた。


「ハク様!アリエスだけずるいです!私にも何か、埋め合わせをお願いします!」


「あ、ああ。わかったよ」


 俺はその飛び掛かってくるスピードに驚きながら苦笑を交えて返答した。

 と、とんでもない地獄耳だな……。

 一応小声で呟いたはずなんだが………。

 俺が心の中でそんなことを考えていると、セルカさんが俺の顔を見ながら声を上げる。


「ということは君たちはすぐに獣国に向かうのかい?」


「ええ、そういうことになります。ですがその前に一応確認を取っておきたいのですが、この奴隷区域は残しておく必要あるんですか?この奴隷区域の真実が明らかになった以上、むしろ保存する意味すらないと思うのですが」


「そうだね。確かに必要はないかもしれない。正直言って私たちギルドも、公爵のカラキもこの場所には手を焼いていたんだ。近寄れもしないし隠蔽魔術によって大量の魔力は消費するし。多分破壊しても文句は出ないだろう。一応シルヴィ二クス王国の管轄内だけれど、そこは私とカラキが上手くやればいい話だ。できれば今のうちに破壊しておいてくれると助かる」


 この奴隷区域には奴隷の首輪や生物を悍ましい自然物に変化させる魔具が大量に残されている。仮に破壊するにしてもよからぬことを考えている輩が盗み出す恐れもあるのだ。遺体の一つでもあれば墓を建ててやりたいところなのだが、全体を見た感じそのようなものは残っておらず、唯一生きていた獣人族の成れの果てといえるものも俺たちが殺してしまった。

 ゆえにこの場所をあえて残しておく必要性はないのだ。


「では」


 俺はそう呟くと、右手を差し出し気配創造を使用した。

 その力はその場にあった全ての気配を吸い出し無に変えていく。それは赤い血のような液体や腐敗した地面、さらには空中に浮いていた魔法陣すらも分解し気配を抽出していった。

 そしてそれは俺の力によって豊かな自然へと作り替えられ新たな土地を作り出す。この場所ではおそらく大量の人が死んだ。であればその気配を少しでも生かしてやりたい。それがせめてもの救いになるはずだから。

 目の前に広がっていた惨い世界は太陽の光を綺麗に反射する草原へと変貌し、その中心に一つの建物だけが残された。


「あれは残したのね」


 サシリがその建物を見て言葉を発した。


「まあな。あれは別に獣人族の負の遺産というわけではないだろう。あの建物まで破壊する気にはなれなかったんだ」


 それは俺たちが先程まで立っていた白い祠で、そこにはいまだに精霊の護符が展開されている。


「あれだけは残しておきました。あの中には獣人族が残した宝玉が入っています。その管理はお任せしてもいいですか?」


「ああ、任せておいてほしい。こちらでしっかり管理しよう」


 セルカさんはすっかり綺麗になった光景を眺めてそう返してきた。そこには穏やかな風が流れ先程までの忌々しい空気は漂っていない。

 俺はもう一度その光景を目に焼き付けるとセルカさんに向き直り、話しかける。


「では俺たちはもう行きます。アリエスのご両親とジルさんによろしく伝えておいてください」


「わかってるよ。こちらは心配ない。むしろこれが仕事だ。私のやるべきことだよ。それよりもハク君、君はしっかりシラちゃんと話してくるんだ。仮にシラちゃんの意思が変わらなくても対話することにこそ意味がある。無理はしないように頑張ってくるんだよ」


「はい、わかっています」


 セルカさんはその後、アリエスとシラの近くに寄って行き言葉をかける。


「アリエスちゃんのご両親には私がちゃんと話しておくから心配しなくていいよ。とはいってもあの二人ならもうわかってるかもしれないけどね」


「はい!よろしくお願いします!」


「シルちゃんは、しっかりとシラちゃんに自分の意見をぶつけておいで。シルちゃんの声ならきっと届くはずだから」


「はい………」


 セルカさんは二人の反応に満足そうに頷くと、もう一度俺たちを見て最後にこう呟いた。


「それでは、ご武運を。冒険者ギルドのスタッフとして無事をお祈りしております」


「それ、前にも言ってましたよね?」


 俺は過去のルモス村での出来事を思い出しながらそう呟く。


「まあね。一応私はギルドの受付チーフだ。これくらいはやっておかないとね」


 その言葉に俺は一度微笑みかけると、そのまま蔵に手を突っ込み翼の布(テンジカ)を取り出す。

 青い絨毯に金の刺繍が入ったそれは俺たちの意思に反応するように勢いよく広がり、俺たちの前に現れた。

 その翼の布(テンジカ)にアリエスたちが次々と飛び乗っていく。

 俺もその上に乗ると、最後にセルカさんにこう告げてその場を後にした。


「出来るかわかりませんけど、今度はシラを連れて戻ってきます。そのときはもっとたくさん話しましょう」


 翼の布(テンジカ)はそのまま浮かび上がり高速で空を移動し始めた。


 俺たちが消えた後、セルカさんは一人こう呟いていたのだという。


「君なら出来るさ。きっとシラちゃんの心を開くことができる。私はそれに賭けてるんだ。SSSランク冒険者、朱の神である君にね」





 こうしてルモス村での目的は達成した。

 次の目的地はついに獣国ジェレラートである。


次回は獣国に到着します!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は今日の午後五時以降です!

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