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第二百三十八話 奴隷区域へ

今回は奴隷区域に行くまでの道中を描きます!

では第二百三十八話です!

 ルモス村にやってきて久しぶりにキラに右腕を抱きかかえられながら眠り朝を迎えた俺は、セルカさんがやってくる前にある程度の準備を整えていた。

 今回は奴隷区域という得体のしれない場所に向かう。さすがにその中に魔物や襲い掛かってくるものはいないだろうが、おそらく問題になってくるのはメンバーの精神面だ。

 俺に関しては神妃化を実行すれば精神すらも神に近づくため、よほどのことがない限り心が乱れるということはないのだが、他のメンバーはそう言うわけにもいかない。特にシル、アリエス、エリアは目の前に展開される光景にやられてしまうはずだ。

 ルルンやキラはとてつもなく長い時間を生きてきているので精神が成熟しているし、サシリに至っては自身が吸血鬼という精神感応魔術に秀でているため対策は出来る。

 シルは出来るだけその事実を受け止めようとするだろうが、あのシーナやセルカさんが根を上げるほどのものが待っているのだ。

 七歳という小さな少女には荷が重い。

 かといってその目を塞いでしまうのは奴隷区域に来た意味がなくなるので、そのような手段は取れない。

 というわけでその問題を解決するべく俺が仕掛けているのが精神安定術式だ。

 性質としてはサシリたち吸血鬼が使う精神感応魔術の洗脳の力をマイナス方向に振ったようなもので、感覚から与えられる情報の波をある程度制限するというものになっている。

 これを発動しておけば俺の神妃化している精神状態と同じような形式になり、比較的その心は安定するはずだ。

 この術式はかつてリアが作り出したものでアリエスが持っている魔本リブロールに収納されており、アリエスから一時的にその魔本を借り受け発動している最中である。


「よし、今から術式をかけるから動くなよ?」


「うん!」


「はい!」


「はい………!」


 アリエスとエリア、それにシルの三人に対してその術式を纏わせる。魔力に関しては俺から供給されるのでアリエスたちに負担はない。しかも俺が解除するまでこの効果は続くので途中で切れる心配もないのだ。

 俺は三人にその術式を施し終わると、残っているメンバーに声をかける。


「一応お前たちにもかけておこうか?」


「いや妾は構わん。そもそも精霊は人間とは精神の造りも異なる。感情の起伏はあれど、それが身体に影響してくることはない」


「私も大丈夫だよー。伊達に五百年生きてないからねー」


「私はもうすでに対策をしているわ。問題なしよ」


 ということなので、唯一対策をしていない俺は神妃化を実行しリアの体質に自分を近づけて準備を整えた。

 多分この神妃化を行わなくても真話大戦などで人間のえげつない光景を目にしているので問題はないと思うのだが、それでも一応の念は踏んでおく。

 俺たちはその後も各々の準備を進めセルカさんの到着を待っていると、丁度九時ぴったりの時間にアリエスの屋敷の呼び出しベルがなり、セルカさんの到着を知らせてきた。

 セルカさんはいつも通りのギルドの制服に短剣を何本か装備しており、戦闘の準備も整えているようだ。

 確かに奴隷区域には魔物はいないがそこに至るまでの道中に関してはそうはいかない。俺の転移を使用するにしても俺自身が一度もその場所に行ったことがないのでそれも使えない。

 また空を浮遊して行くという方法もあるにはあるのだが、なにやら隠蔽魔術を切っているとはいえ少し残っているらしく地上から歩いていくのが一番効率がいいようだ。

 セルカさんは俺たちを発見すると、笑顔でこちらに近づいてきた。


「やあ、みんなおはよう。さっそく向かいたいのだけど準備はいいかな?」


「ええ、俺たちのほうは問題ないです。精神安定術式もかけておきましたし、よほどのことがない限り大丈夫でしょう」


「さすが、抜け目がないね。ならば行こう。それほど遠くはないが区域内を回ることを考えれば早く出発したことに越したことはないからね」


 俺たちはその言葉に全員が頷くと、最後に各々の武器を装備してアリエスの屋敷から離れる。

 その際にカラキとフェーネさんが見送りに来ており、アリエスともう一度抱擁を交わし俺たちを送り出してくれた。

 村門をくぐりセルカさんの背中をつけるようにルモス村から出て奴隷区域を目指す。

 ちなみに奴隷区域というのは立ち入り禁止というわけではなく隠蔽魔術によって意図的に隠されているだけであって許可なく誰でも入ることが出来る。今回は一応カラキやセルカさんに確認を取ったが本来ならばそれすらも必要ないらしい。

 しかしその中の光景に耐えられるかという部分が問題で、今までもシーナのように迷い込んだ冒険者たちのトラウマになっているのだという。

 ルモス村から奴隷区域までは徒歩で一時間くらいの距離にあるらしく、馬車などを使ってしまえば一瞬でつく場所だ。

 しかしやはり高速で移動しているとその入り口を見失う恐れがあるらしく、浮遊と同じく馬車も翼の布(テンジカ)も使用することはできないらしい。

 するとセルカさんが自分の持っている短剣を一本取り出すと、空間に掻き消えるように姿を消した。

 それはどうやら前方に見えた魔物を討伐するために動いたらしく、気が付けばそこに魔物の死体が転がっていた。


「やりますね、セルカさん」


「まあ、これくらいはいくらでも倒せるよ。なんといっても私も元冒険者だからね」


 セリカさんは冒険者だったころにはAランクの冒険者名をはせており、短剣を主に使用する近接型の戦闘スタイルを取っていたのだという。

 当然、俺やエリア、ルルンといった実力値が飛びぬけているものには敵わないが、それでも冒険者ギルドの受付嬢にしておくのがもったいないほどの実力を持っている。


「あ!だったら私も戦う!」


 アリエスがセルカさんの動きを見て自分の腰にささっている絶離剣レプリカ引き抜き右手に構えながらセルカさんの隣に立った。


「お!だったら一緒に戦うとしようか。アリエスちゃんの強くなった力を見せてよ」


「うん!セルカさんには負けないんだから!」


 そう二人は意気込むとそのまま周囲にいる魔物たちを順番に切り倒し始めた。その動作は二人とも洗練されており、次々と魔物たちが倒されていく。


「なんだか楽しそうですね、二人とも」


「そうだねー。やっぱり久しぶりの再会っていうのは嬉しいのかな?」


 エリアとルルンがその光景を微笑ましそうに眺め笑みを浮かべる。確かにアリエスとセルカさんは自分たちに攻撃してくる魔物を相手にしているわりにはすごく楽しそうなオーラを放っており、見ているこちらも表情が和らいでしまう。

 このルモス村周辺の魔物は基本的にさほど強いものはおらずDランク冒険者程度の実力があれば楽に突破できるレベルだ。

 つまりアリエスとセルカさんの実力を考えれば苦戦するはずがなく、神速の速さで切り刻んでいっている。

 しかもなぜだかその返り血は服を汚すことなく地面に落ちており、返り血で朱の神と呼ばれた俺からすれば理解ができない光景が広がっていたのだ。

 うーん、なんでまああんな風に血がつかないのかねえ………。

 俺だったら今頃血まみれになってるぞ。

 こればっかりは女性ならではの技術があるのだろうと一人で納得してその光景を眺めた。

 セルカさん曰く、この季節は魔物の繁殖期だそうで血気盛んな魔物が多いらしく、必然的に人間を襲う魔物が増えてくるらしい。

 その言葉の通りアリエスとセルカさんが何匹も群がっている魔物を倒しているのだが、一向に減る気配がない。

 気配探知を使用してみると俺たちを囲むように数百体の魔物が集まっているようで、以前シラとシルを救出するために魔物を魔剣で呼び寄せたレベルの量が集結しているようだ。


「さすがにこの量はまずいか?」


「単体の戦力は問題ないだろうが、このままでは時間がかかる。助太刀したほうがいいかもしれんな」


 俺の言葉にキラが答え意見を述べてくる。

 俺は頷くと右手を前に差し出し気配創造を使用し、この場にいる魔物の気配を全て吸出し絶命させた。

 気配創造という力は本来吸い出した気配で別のものを作る力なのだが、気配を吸い出すという行為も相当強力で今回はその力で魔物を全滅させたのだ。


「あー!ハクにぃ、ずるい!私たちが倒すはずだったのに!」


「ままあ、そう言うなよ。これだけの量を二人で倒すとなると時間がかかるだろう?」


「そうなったら、魔術使って一瞬で倒すもん!」


 あ、その手があったな。

 完全に忘れていた。

 アリエスは絶離剣レプリカを持っているものの本気の戦闘になれば魔術主体のスタイルに変わる。

 今回もその魔術を使用すれば一瞬で片が付いただろうが、目の前で剣を振るっている二人を見ていたらそれをすっかり忘れていたようだ。


「ははは………。悪い」


 俺は苦笑しながらアリエスに軽く謝ると再び奴隷区域へ向かうために足を動かし始めた。

 地図によればもうしばらく歩くと着くはずなので、もう魔物は狩る必要はないだろう。

 すると先頭を歩いていたセルカさんがいきなり足を止め立ち止まる。


「さあ、着いたよ。ここから先がかつて獣人族が大量に捕まっていた奴隷区域だ」


 セルカさんはそう言うと目の前に広がっている空間を指さしてそう呟いた。しかしそこにあるのは周りの風景となんら変わらない場所でのどかな自然が広がっている。


「あ、あの、何もないんですが………」


 シルが心配そうにセルカにそう呟くが、俺はそれを右手を差し出す形で制した。俺はそのまま自らの両目に魔力を流し魔眼を発動するとその場にある空間を眺めてみる。


「どうやら、本当にこの中にあるみたいだ。隠蔽魔術の残りのせいで目には見えていないが入ってしまえばその光景が広がっているだろう」


 セルカさんは俺の言葉に頷くと自分も解説を入れてきた。


「そういうことさ。隠蔽魔術は切って来たけれどもさすがにまだその効果は残っているみたいで視認することはできない。だけど確実にこのなかは奴隷区域だ。私はここで待っているから気を付けて入ってくるといい。気分が悪くなったり身の危険を感じたらすぐに出てくるんだよ」


 セルカさんはそう言うと最後に俺の耳元に口を寄せて小さな声で言葉を発してきた。


「おそらくこの奴隷区域の中にある一番奥の家屋の中があやしい。私とカラキが来たときはその場所にたどり着けなかったが、もし大丈夫そうならそこに行ってみるといい。それとシルちゃんのこと頼んだよ」


「わかりました」


 俺はセルカさんの言葉に小さく頷き、メンバーの様子を確認すると自分が戦闘に立ちその空間へと足を踏み入れた。

 霧のようなモヤが空間を覆っていたが次第にそれは晴れてきて、俺の眼球にかつての奴隷区域が映し出される。


「な!?」


 俺はその光景をメンバーの誰よりも早く見たわけだが、神妃化をしている状態でも俺の表情は凍り付き動かなくなってしまう。




 それは獣人族を苦しめ続けてきた奴隷区域の内部が俺たちの記憶に刻み込まれた瞬間だった。


次回はついに奴隷区域の内部が明らかになります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は今日の午後五時以降になります!

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