第二百三十二話 シーナの情報
今回はシーナがメインです!
では第二百三十二話です!
気配探知の情報を頼りに俺たちはシーナのいる王城に向かっていた。
前に何度かシルヴィ二クス王国の王城に訪れたときにも思ったがこの王城はかなり大きいものでこの世界に来てずいぶん経つがそれでもその大きさには驚かされてしまう。
シーナはその中でも大きな修練所にて部下たちを指導していた。
部下たちは全員が重たそうな木剣を振るっており、汗を流し掛け声を上げながら修練に励んでいる。しかしその動きはまだシーナのような卓越したレベルには到達しておらず、まだまだ甘い個所が何点か見られた。
その中にルルンの持つレイピアに似た剣を腰に下げているシーナが部下たちの様子を確認しながら声を上げている。
「おい!しっかり腰を入れろ!そんな振りでは敵を打ち倒せんぞ!」
あー、やってるやってる。
部下の中にはシーナよりも遥かに年上な者もいるのだが、それでも完全な実力社会なので全員がシーナの指示に従っているようだ。
もはや何かの軍隊かと思わせるような雰囲気が漂っているが、まあ実際本当に近衛隊として働いているのでその一体感は当然なのだろう。
俺はあまりこういう空気は好きではないので自分が入りたいとは思わないが、それでもその一連の動きは感心してしまった。
そのシーナに俺たちはエリアを先頭に近づいていった。
「よっ。久しぶりだなシーナ」
「ん?ほう、また珍しい顔が来たものだ。魔武道祭以来か、ハク君」
シーナは俺の言葉に顔を向けると一度部下たちの指導を中断し俺たちに向き直った。シーナの表情は前見たときと変わっておらず、長く赤い髪は気高き闘志を感じさせるほど煌びやかに靡いている。
すると俺の背中に隠れるように姿を消していたルルンがいきなりシーナに飛びついた。
「ヤッホー!シーナ、元気にしてたー?」
「し、師匠!?なんでここに!?」
シーナはその抱きついてくるルルンに驚きながら言葉を紡ぐ。しかしその反応に構わずルルンはシーナの髪を撫でまわしながら明るい表情を浮かばせた。それは本当にうれしそうな顔をしており、いつもでは絶対に見れないルルンの姿であったのだ。
「ちょ、ちょっと!?やめてください、師匠!?ぶ、部下が見てますから!!!」
シーナは照れくさそうにしながらもその頬を染め、ルルンと同じように表情を綻ばせている。
シーナは十五歳で騎士団長になっていると聞いている。ということはそれよりも前にエルヴィニア秘境を出ているということだろう。であれば十九歳のシーナを考えれば少なくとも四年間は離れ離れになっていたのだ。
ルルンはエルフなので俺たち人族よりも遥かに長い年月を生きているが、それでも人族と流れている時間は一緒なのでその時間感覚は同じなはずだ。
つまり四年間という期間を経て再会するというのは本当に久しぶりと言えるだろう。
「えへへ、いいじゃんいいじゃん!減るもんじゃないんだし!」
王城に入る前のルルンは何か企んでいるような顔をしていたが、今はそんな雰囲気はまったく感じられず、純粋に再開を喜んでいるようだ。
「嬉しそうだね、ルルン姉」
「ああ。まあルルンはダンジョンの門番、シーナは騎士団長というかなり重職についてしまっていたから会う機会もなかなかなかったんだろう」
「やはり二人は師弟関係なんですね。私もそういうのは憧れてしまいます」
「微笑ましい光景ということか、悪いものではないな」
「ええ。普段ルルンは明るい性格を浮かばせているけど、こういう顔もするのね」
俺たちは各々感想を述べながらその光景を見つめる。
もしかすればシラとシルも再会すればこのような顔になるのではないか?と思いを馳せながら俺はルルンとシーナのじゃれ合いが終了するのを待ったのだった。
ルルンとシーナの感動の再会から三十分後。
俺たちはエリアの計らいで個室を用意してもらい、そこでシーナと向かい合っていた。目の前にはいい香りのするお茶が出されている。
それをシーナは一口啜りながら言葉を発して話し出した。
「コホン、えーさっきはみっともないところを見せてしまい申し訳なかった。師匠は私と会うといつもこうなってしまう。許してほしい」
「別にいいさ。誰だって長い間会っていない人と出会えばそういう反応になる。気にするな」
「そうだよー。私たちはそういう関係でしょ?」
「師匠………。できれば誤解を招くような言い方はやめてください……」
「えー、どういうこと?」
ルルンはそれでも笑いながら表情を柔らかいものに変え明るい雰囲気を滲ませている。よほどシーナと出会えたことが嬉しいようだ。
しかしシーナは反対に大きくため息を吐き出し息を整えると、そのまま視線を俺に戻し言葉を紡いでいく。
「はあ………。で、ハク君。どうして君たちはわざわざ私に会いに来たんだ?聞けば学園王国の競技祭で優勝したらしいが」
あ、それも伝わっているのか。
まあ、あの大会は学校という珍しいシステムのある場所で行われているので、それなりに噂が広まるのだろう。
それにその前にはSSSランク冒険者の集会も開かれていた。その場に俺という存在が参加していたということは話題に上がっていてもおかしくはない。
俺はそう推測するとシーナの問いに答える。
「まあ色々話さないといけないことはあるんだが、その前に一応聞いておきたいことがある。俺たちがここにいない間、帝国の連中が攻めてはこなかったか?」
このシルヴィ二クス王国は学園王国と同じくらい大きな都市国家だ。戦力や資源を考えても帝国が襲ってきていてもおかしくはない。実際に今は目に見える被害は出ていないので大事には至っていないのだろうが、それでも見えないところで被害が出ているかもしれない。
「ん?帝国兵?ああ、エルヴィニアでの件を踏まえてこちらにもその兵が来ていないか、ということか。こちらは特に動きはないな。それにSSSランク冒険者のイナアさん、だったか?彼女も来てくれているから問題はない。むしろ君が行くところ行くところで問題が起きているようだが、そちらはどうなのだ?」
どうやらシーナの耳には俺たちがエルヴィニア秘境で遭遇した事件や学園王国での話も大方伝わっているようで、それを踏まえて話しを展開してくれているようだ。
「こちらは正直言って面倒ごとの連続だったよ。まあそれでもなんとか潜り抜けてきたけどな。でもこの国に被害が及んでいないことには安心したぜ。なにせ俺たちはエリアっていう王女様で最有力戦力を連れ出してるんだからな。気が気じゃないさ」
俺は近くに腰かけているエリアの顔を見ながらそう呟く。
するとエリアは何やら機嫌の悪そうな顔をして俺に反論してきた。
「最有力戦力なんて言い方、少しひどいですよハク様?私は戦力でなく一王女です!そこは間違えないでください!」
「あ、ああ、わかったよ………」
どうやら俺たちのパーティーに加入し、壮絶な戦いを潜り抜けてきてもその心は王女でありたいようで俺の言葉に食い掛ってくる。
「ふふ、さすがの君もエリア様には口答えできないようだな。なかなか珍しいものを見た」
「いや、これは本当に珍しいからな?普段なら立場は逆になっているぞ」
「それはそれで苦言を呈したいところだが、そろそろ私を訪ねた理由を聞かせてもらおうか。それほど時間があるようには見えないようだしな」
シーナはそう言うと、顔を俯かせているシルに目線を飛ばしながらそう呟いてきた。さすがは大人数の近衛隊を率いているだけあり人間の雰囲気から事態をある程度察知できるようだ。
俺は軽く頷くと、今までの話を全て話し事態の緊急性を伝えたのだった。
「なるほど。つまりはシルの姉であるシラが獣国ジェレラートに一人で向かったのではないか、という推測が立っているというわけだな。で、その獣国に関して情報を集めるために私の元へ立ち寄ったということか」
「まあ、簡単に言えばそうなる。できれば知恵を貸してほしい。このまま獣国に行ってもシラを連れ戻せるとは思えないからな。多少の情報は聞いておきたいんだ」
今回はシラという少女と獣国の国王という座が絡む事態になっている。もしこれが無理矢理その座に置かれているのだとすれば単純に力技も通じるのだが、シラの意思が固まっている場合にはそう簡単に事態は進まない。
その可能性がある限りは少しでも獣国に関して知っておきたいのだ。シルも差別による難民であったためさほど獣国に関して知っていることなく、精々自分たちの一族のことに関する言い伝えくらいしか聞いていないらしい。
「ふーむ、正直言って私が知っている情報というのはあまり多くはない。というのも獣国というのはやはり他の国とは違い少しだけ特殊なのだ。普段は差別されている獣人族が集まっている場所ということもあり、王国の騎士団長になっていてもあまり踏み込める領域ではない。ゆえに私が語れることというのは殆どないだろう」
その言葉にシルはさらに肩を落とし蹲ってしまう。
やはりきついか。
そもそも獣国は国の位置的にかなり辺鄙なところにある。これが各地に獣人族の難民を生み出す要因にもなっているのだが、それにしても立地的に厳しい場所に存在しているのだ。
この世界の地図で見れば左下の左下。
南西の南西にその口は存在している。
そこは滅多なことがない限り近づくことのない場所で、生活システムも他国の影響をまったく受けないものが出来上がっていることもあり、王国といってもなかなか踏み込めないのだろう。
するとルルンが泣きつくような声を上げてシーナに問いかける。
「な、何かないのシーナ?どんなに小さなことでもいいの。私たちに力を貸して!」
その言葉に頷くようにシーナは目を瞑り考えを巡らせている。その表情はどんどん厳しいものに変わっていき、何かを迷っているようにも見えた。
「おそらく私が知っている情報の殆どは君たちがすでに聞いたことのあるものだろう。ゆえにそれに関しては私の口から話すことはない。だが、一つだけ私が獣人族のことで何か手掛かりになることがあるとすれば」
シーナはそこで一度言葉を区切り息を吐き出す。
シルも次の言葉を待っているようで、固唾をのんで見守っているようだ。
「私はかつて遠征の最中に大昔に使われていたという獣人族の奴隷区域を発見したことがある。そこに行けば獣人族に関する情報が少しでも出てくるかもしれない」
それは今までに俺たちが聞いたことのある話とは違い、かなり有力な情報であった。
獣人族の奴隷区域。
不快すぎるその響きの単語は今は俺たちに一筋の光をかざし、獣人族という種族のミルリス一族に迫る大きな鍵になるのだった。
次回はイナアが出てきます!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




