第二百三十一話 再びシルヴィ二クス王国へ
今回は懐かしいシルヴィ二クス王国に帰ってきます!
では第二百三十一話です!
夢から目覚め、朝。
俺たちパーティーは俺の蔵に荷物を詰め込み学園の寮から立ち退き、学園王国の関所前に集まっていた。
というのも俺たちだけの卒業式というのはあまりにもショボいということで手続き的に卒業させてもらうことにして、俺たちは獣国に急ぐことにしたのだ。
とはいえその別れにはたくさんの生徒が集まっており学年問わずこの場に詰め掛けている。
特にアリエスたちは同じ寮の友達との別れを惜しんでいるようで最後の会話を楽しんでいるようだ。
俺は自分の準備をしながら目の前にいる学園長に話しかけた。
「すみません、無理言って昨日の今日で出発してしまって。慌ただしかったですよね?」
「問題ない。むしろ君には競技祭の恩もある。これくらいは当然だ。それに三か月という期間はあくまでもダンジョンに入るために設定されたものだから、君たちの卒業はつつがなく処理されたよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「して、君たちはこれから獣国に向かうにあたってどうやって行くのだ?転移は使えないのだろう?」
学園長の言う通り俺の転移は言ったことのない場所には使うことはできない。集団転移という方法もなくはないのだが、あまりにも距離が離れすぎているので使用することはオススメできないのだ。
よって今回は転移何度かにわたって使用し、遥か南西に位置する獣国まで行くことになっている。
「一応、シルヴィニクス王国に一度寄ろうと思っています。あそこには何人か知り合いもいますし、何よりエリアの故郷ですから」
「なるほど、確かにそれは悪くないな。あそこにはSSSランク冒険者のイナアもいるだろう。声をかけてやってくれ」
ん?今少しだけ違和感があったような………。
するとその学園長の隣に現れた生徒会長が口を挟んだ。
「もう、正直になればいいものを。あのイナアさんとこの学園長は親子なのよ。ちゃんと血も繋がっている」
「ええ!?ほ、本当ですか!?」
「ま、まあな。あのバカ娘は学園にも入学せず、自分の強さだけを求めて旅に出ていってしまった。一年に一回この学園王国で集会が開かれることで顔は合わせているが、それでも素っ気ない対応しかしていないのでな。帝国軍の侵攻を食い止めるためにイナアはシルヴィ二クス王国にいるのだろ?であれば少し様子を見てきてほしいのだ」
ああ、な、なるほど。
つまりは表に出さない親バカなわけだ。
確かにシルヴィ二クス王国にはイナアが配属になっているので、聞けば間違いなく果物を抱えて街中をうろついているだろう。
「わかりました。会ったら声をかけておきます。念話でも飛ばしましょうか?」
「ああ、頼む」
とまあ、学園長の親心が見えたところで話を少しだけ変える。
「俺がこの国から離れるということはここを守るSSSランク冒険者がいなくなることを意味します。ですから、この二人を俺の代わりに置いていきます」
俺はそう言うとパンドラとフレイヤを呼び出した。
「はぁい。任せておきなさい。何が来ても私の色気ではじき返してあげるわ」
「私も箱で戦いますぅ!この国には指一本触れさせませんー!」
「おお、頼もしい。陛下にもそう伝えておこう。二人の実力は競技祭と昨日の戦闘で証明されている。問題はないだろう」
学園長は可憐な二人を一瞥したあと俺に向き直りそう呟いてきた。
本来ならもっと戦闘向けの神もいるのだが、やはりこの二人はある程度この国に馴染んでいる。それを考えるとこの二人に任せておくほうが俺としても安心なのだ。
俺はその二人の背中を軽く押し出したあと、自らの腰にエルテナをさしこみローブを羽織る。
他に何か準備することはあったかな?と考えていると、この三か月間同じ部屋で生活していたグラスが前に出て話しかけてきた。
「は、ハクぅぅ。み、短い間だったけど、楽しかったぜぇぇえ!!」
「おいおい、泣いてんのかよ………」
グラスは以前のように先生という呼び方を止め俺にそう呟いてきた。毎日朝の訓練を共にし親友と呼べるほど仲良くなった俺たちでも別れるのは少々つらい。
グラスの顔は涙と鼻水で濡れてしまっており、見るも無残な表情になってしまっている。俺はそんな姿に呆れながら苦笑を浮かべ、手を差し出しながら言葉を紡ぐ。
「今はまだ発展途上だが、次会う時には俺に一太刀でも食らわせられるように強くなっとけよ?」
「あ、当たり前だ………!」
グラスは俺の差し出した手をしっかりと握り返すと、キリッとした顔を俺に向けて真剣な眼差しを俺に向けてくる。
それに俺は頷くとアリエスたちの方に視線を流した。
そこには大量の生徒に囲まれているメンバーの姿があった。まあ、学園にいるときもファンクラブが出来るほどの影響力を持っていたので当たり前といえば当たり前なのだが、そこにいつもストッパーになっているシラの姿がないことに気づいてしまった。
やはりいつおいたメンバーがいなくなるというのは寂しいものだな。
見ればシルもいつも以上に無口になってしまい、表情も物凄く硬い。
『やはり、相当なダメージが入っておるようじゃな』
『ああ。だから俺は早くシラを発見してあの二人を合わせてやらないといけない。リーダーの責務だ』
『ふん、随分と格好つけるようになったのう主様?私の世界にいたときとは別人のようじゃ』
『それを言うな。というかあの世界にはアリス以外にまともに話せる奴がいなかったんだからしょうがないだろう………』
『まったく悲しい奴じゃ。なんなら私が夜這いしてやってもいいぞ?』
『絶対にお断りだ!』
リアはいつもと変わらず抜けたテンションで話しかけてきており、改めて神妃の器の大きさを思い知ってしまった。
いや、これは器が大きいというより、ただの馬鹿なのでは?と思ってしまうのは気のせいだろうか?
とはまあ、そんなこんなでとうとう出発の時間がやって来た。
今回は翼の布飛行するのではなく、直接転移で移動する。よってあの絨毯は蔵の中に入っており、代わりといってはなんだが俺は魔力を集中させていた。
「それじゃあ、また」
「ああ、いつでも来るといい。君たちは短い間だったとはいえ我が学園の生徒だったのだ。いつ来たって歓迎する」
俺の言葉に学園長はそう答えると軽く笑いかけながらシルの頭を撫でた。その仕草に逆らうこともせずシルはされるがままにされていたが、その顔はいまだに暗い。
学園長も一人の娘の親として気を使ってくれたのだろうが、それでも今のシルには届かないようだ。
そのシルをそっと俺は近づけると、そのまま見送ってくれる生徒や学園長たちに手を振りながら転移を実行する。
「よし、行くぞ!」
その言葉と同時に俺たちパーティーの姿は一瞬で掻き消え、残っているものは何一つなくなった。
その後学園長は厳しい表情をしながらこう呟いていたらしい。
「ハク君。おそらく今のシラ君を連れ戻すのは相当難しいだろう。それでも仲間思いの君なら、あの神核たちを倒してきた君なら、彼女の気持ちを変えられるかもしれない」
転移して到着したのはシルヴィ二クス王国の王門前。
そこにはかつて訪れたときと変わらない熱気というか活気があふれており、学園王国とはまた違った雰囲気が流れていた。
「うわー、ここは相変わらずにぎやかだねー」
「そうだな。というかまたパンフレットがないと迷ってしまうな……」
俺は気配探知を発動させながらそう呟いた。確かこの前来た時には国に入った直後、アリエスが地図を発見してくれたから何とかなったが、今はどこを見てもそんなものは見当たらない。
「いえいえ、お忘れですかハク様!私はこの国の王女なんですよ!道ぐらいわかります!」
おお、そうだった!
ついつい忘れがちになってしまうがエリアはこのシルヴィ二クス王国第二王女なのだ。それも日常的に城の外にギルを巻き込み外出していたので、その土地勘は信用できるだろう。
「で、これからどうするのハク君?何かこの国でやることがあるの?」
「本音としては獣国のことを知っている人物とかがいれば話を聞いてみたいのだが、とりあえずはシーナかイナアを探そうと思っている。イナアは学園長の言伝もあるし、シーナに関しては、まあ単純に騎士団長だから他国の情勢も詳しいだろうしな」
「お!シーナに会いに行くのかー。これは、楽しみだね、ふふふふふふふ」
ルルンは俺の言葉に反応し、君の悪い笑い声をあげる。
『お、おい。ルルンのやつちょっと怖くないか?』
『あ、ああ。いつにもまして不気味だ……』
『というか何か企んでそうな笑いみたいな感じがするわ……』
俺とキラ、サシリは小声でそう呟きながらルルンの様子を観察していた。よくみるとその右腕はしれっと自慢のレイピアに伸びており、その動作が余計に怖さを演出している。
俺はそんな光景に眉を下げながら二人の居場所を気配探知で探った。
するとどうやらイナアの気配はこの国にはないようで、近くの草原に位置しておりなにやら戦闘中のようだ。
で、残っているシーナはというと王城の中で騎士たちを教育しているようで、大量の気配に囲まれて剣を振るっているようだ。
こうなればまずはシーナから突撃するべきだろう。好都合なことに今回はエリアもいるため王城内は自由に出入りが出来る。効率を考えればシーナの方に向かうべきだろう。
「ならとりあえずシーナのところに向かうぞ。居場所は王城内だ。エリア、案内を頼む」
「はい!了解です!」
エリアはそう元気よく返事をすると人込みを避けながらどんどんと道を進んでいく。当然俺たちも追随するのだが、その時に丁度落ち込んでいるシルにアリエスが必死に声をかけている姿が目に映った。
どうやら普段から明るいアリエスでも今のシルには手をこまねいているようで、なかなか難しいようだ。
俺はふとちょっとしたアイディアを思いつき蔵の中に手を突っ込みあるものを二つ取り出す。そしてそれをアリエスとシルに同時に手渡した。
「ほら、王城までは少し距離があるからこれでも食べてると言いい。甘いものは食べてると落ち着くからな」
それは競技祭の後にシルが欲しがった異世界風リンゴ飴で、あのあと何個か買いだめしておいて蔵に入れておいたのだ。基本的に蔵の中は時間の流れが存在していないので食べ物を入れても問題ない。
「ありがとう、ハクにぃ!」
「あ、ありがとうございます………」
するとアリエスはいつも通りの笑顔を、シルは少しだけ顔を綻ばせ笑みを作った。
その姿にひとまず胸を撫で下ろした俺は王城の内で部下の教育に力を注いでいるであろうシーナの下へ足を向けたのだった。
次回はシーナとの会話です!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




