第二百三十話 真話大戦の結末
今回からしっかりと毎日三本投稿に戻します!
第六章スタートです!
「あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「アリス!!!」
真話大戦最終局面。
イレギュラーな十二階神を気配殺しと神妃の力を受け入れることで倒した俺は、今目の前に広がっている光景が信じられなかった。
今のアリスは全身から赤い稲妻を走らせており、膨大な力を放出させながら空中に浮かんでいる。金髪だった髪は何故か真っ赤に染まり瞳の色も同じ色に変わっている。神妃の力を取り込んだ今の俺でも気を抜けば吹き飛ばされてしまうくらいの力を放出させていた。
アリスを中心に周囲の空間が壊れ始め、空は黒く染まりアリスを取り巻くように風が集まっている。それは世界中の見えないパワーを凝縮させているような雰囲気で、まさに神の領域に足を突っ込んでいるような光景だった。
「おい!あれは一体どういうことだ!!!」
俺は気配殺しによって消えかけているゼロの船倉を掴み質問を投げかける。ゼロを倒せば戦いは終了すると思っていた俺にとって今の事態はまったく理解できなかったのだ。
「ふ、ふはははははは!ぼ、僕が、一体何を司る、神か、知らないのかい………?」
「なに?」
「僕は、全ての、人間が、頭の中で、ま、真っ先に、連想させる、神の、姿の象徴………。つ、つまり、ど、どんなに、他の神々を信仰していようが、この、世界に生きる、人間は全員僕に力を、ささげている、のさ……。ゆえに、ぼ、僕は、十二階神の中でも、最も強い……!」
全ての人間の信仰だと!?
そもそも神々というのはその偉大さと強力さゆえ、人々の信仰を力の源にしている場合がある。それは世の中に伝わる宗教や神話、伝承といった様々な形で収束されているが、どうやらこのゼロはその中で破格の存在のようだ。
なにせ、全ての人間が初めに想像する得体不明の抽象的な神として信仰を集めているのだ。
例えば、日本でもよくある神社やお寺。そこにお参りする際に目を閉じたり鐘を突いたりと、所作を行いながら自分の望みをいるかもわからない神や仏に呟く。
しかしその時に想像するものは人々が考え出した空想の神々でしかない。
つまりゼロというのは、そういう不確定な人々の心理をまとめあげ力に変換していたのだ。
であれば、その存在が消失しかけている今。
拠り所を失った力は一体どこに流れるか。
「ということはお前が管理していた信仰と力がアリスに流れているってことか!!!」
「ご、ご明察……。だ、だけど、彼女は二妃でもある。そ、それは、多分僕の、何倍もの力を無理矢理、そ、注ぎ込まれている、だろう、ね。体、に、かかっている負担は、相当、なはずだ。い、いずれ、消滅、して、しまう、だろうね……。ふははははははは!!いい気味だよ。僕が死んでも、いずれ、世界は消えるんだから!!!」
「黙ってろ!!!」
俺はその笑い出したゼロにもう一度気配殺しを使用し、その存在を完全に吹き飛ばした。
「おい、聞いているな!どうやったらアリスは助けられる!!」
先程ゼロを倒すために同化した神妃リアスリオンに俺は問いを投げかける。
神妃は全ての根源だ。
知らないことなどないだろうし、そもそもかつては最強の存在だったのだ。この状況にだって正確な解を与えてくれるはずだ。
しかし。
『…………無理じゃ』
「は?」
『も、もう、あの娘は助けられん………』
「な、何を言っているだよ!そ、そんなこと納得できるわけないだろ!!!」
だって、さっきまで眩しいくらいの笑顔を俺に振りまいていたのだ。そんな奴の目の前にいて手を差し出さないっていうのは絶対にできない!
『私だって必死に考えたわ!!!だが、あれはどうしようもない………。信仰の集中があの娘に集まり、事象の生成ですら取り消せんような力が渦巻いておる。このままではあの娘を助けるどころか、その前に地球が、星が、世界が崩壊してしまう!言っておくが、今あの娘に流れ込んでおる力は地球だけのものではない。私が作り出した全ての世界から集められておるのんじゃ。止めることなどできんよ………』
「だ、だったら、なんでそれは俺じゃないんだ!俺は妃の器なんだろ!?それに今はお前だって同化しいるじゃないか!?どうしてアリスなんだよ!!!」
アリスは確かに二妃であり、世界に一人だけ残っている神妃の力を受け継いでいる存在だ。
だがそれでも今はその片割れである二妃の力を宿し、まして神妃を受け入れる器である俺のほうがその信仰を受けていてもおかしくないはずなのだ。
『それは無理な話じゃ。そもそも主様は世界的に見てもその存在の歴史が浅すぎる。信仰というのは長い年月をかけて生み出されるものじゃ。それは必然的に長期間にわたり君臨し続けてきた神を選ぶ。ゆえに主様ではなく、あの娘が選ばれたというわけじゃ……』
するとその瞬間、アリスの顔が一瞬こちらに向けられたかと思うと、目が光り何か得体のしれないものが飛んできた。
それは俺の左頬を掠め、後方へ飛んでいく。
「があああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ッ!?…………な!?く、空間を切った、のか……?」
俺の後ろには今まで見たこともない切れ目のようなものが入っており、赤色の風をなびかせながら大穴を開けている。
アリスはもう言葉とは呼べない何かを呟きながら攻撃をありとあらゆる方向に飛ばし始めた。
「くっ!?な、なんて力だ!?このままじゃ本当に取り返しのつかないことになるぞ!」
リーザグラムの同調能力を使用しつつ何とかその攻撃を切り払い避けていく。
俺の方はなんとか問題ないが、周りの世界にその被害は及んでいた。ゼロとの戦いは異空間で行われていたので、周りのことをさほど気にする必要はなかったが、ゼロが死んだ今その空間は残っていない。
神妃の力である青天膜を張り巡らせているので、住宅街が崩壊することはないが、それでも俺の力はどんどん削られていった。
すると、俺の中にいる神妃が重たい口調で話し始める。
『………主様もわかっておるじゃろう。もうあれは無理じゃ。残っている手段はあの力で存在ごと消してしまうしかない………』
「うるさい!まだ何かあるはずだ!だってお前は神妃なんだろ!何でもできる最強の存在じゃないのか!!!」
すると神妃の口調がいきなり変化し、荒々しいものへと変わる。
『いい加減現実を理解しろ!!!お前があの娘を大切にしているのはわかる。だが、それでもこのままではあの娘どころか私たちまで消えてしまうのだぞ!それだけではない、ゼロが言っていたように間違いなく世界の崩壊が始まる。それは全ての生命が潰え、再生の余地などかき消してしまう被害を出すのだ!それを臨界一歩手前で救えるのはもうお前しかいない!!!』
「ぐっ………」
この神妃の言っていることはもっともだ。
今この状況でアリスを消してしまわなければ俺たちどころか世界が危ない。
それはわかっている。
だが、それでも
俺は少しの間だったが、この少女に特別な思いを抱いているのだ。それを抜きにしても俺はアリスを殺すことなんてできない。
『迷うな!!!もう手段は一つしかない!私だって悔しいのだ。目覚めた瞬間から自分が生み出した二妃という存在がこのようなことになるというのは腸を切られるような感覚が走っている。だが、この状況は仮にフルスペックの私でも救出することはできん。ゆえにもうお前のその力しか残っていないのだ!!!』
「くそがああああああああああああ!!!」
俺はリーザグラムを振るいながらアリスを睨みつけ致命傷になるような攻撃を回避していく。
もう本当に手段は残っていないのか?
殺す、いや消すしかないのか?
確かに気配殺しを使えば現状は打破できる。しかしそれは同時にアリスの消滅を意味しているのだ。
俺は奥歯を血が出るほど噛み締めながら、体を動かす。
すると、一瞬だけアリスの動きが止まった。
そしてその時間の中で俺の脳内にアリスの声が響き渡る。
『殺していいよ、ハク。私は大丈夫だから。だからお願い、私を消して』
「な、何を言っているだ!そんなことできるわけないだろ!!!」
しかしアリスはそれでも優しい声を響かせながら言葉を紡ぐ。
『本当はハクともっとたくさんの世界を見てみたかったけど、それはまた今度かな?今は私をこの世界から消滅させないと』
「だから何でそんなこと言うんだよ!!!お前言ってたじゃないか!この戦いを生きて勝ち残るんだって!それをお前自身が諦めてどうする!?」
『いいの、多分これは私の運命だったんだよ。それは受け入れるしかない。だからハクは私の分までしっかり生きてね?』
「ふ、ふ、さ、ける、なよ………。お、お前がいなかったら、俺は……」
知らずのうちに俺の両目からは大きな涙があふれてきていた。それはリーザグラムを濡らし、青く反射させていく。
『ねえ、ハク。前に私が言ったこと覚えてる?ハクは一体何のために戦うの?その答えが今目の前にあると思うの。だからその力で私を消して?』
アリスは表面上の外見は一切変わっていないのだが、それでも幾分か身に滲ませている空気を柔らかくしてそう言葉を呟いた。
俺はもうその言葉に涙が止まらなくなり、肩を落とす。
『ハクはもっと新しい世界に行くべき。今回の戦いは半分私が巻き込んじゃったから…………。だから前を向いて、ね?』
アリスは制御の効かないはずの体を必死に動かし、右手で俺の頬をそっと撫でると、俺の涙をぬぐい、目を見つめてくる。
そして時はきた。
俺はもうアリスの言葉に反論できなくなり、その言葉を口にする。
「気配殺し………」
瞬間、アリスの体を青白い煙が包み込みその力も体も気配も、何もカモを消していく。
そこに悲鳴はなかった。
最後に見えたアリスの表情は笑っており、実に幸せそうだったのだ。
膨大な力と存在が消失したことによって暗くなっていた空は明るさを取り戻し、朝焼けを広げる。
「お、終わったのか……………」
俺は誰に問いかけるわけでもなくそう言葉を吐きだす。
するとそれに答えるように神妃、のちのリアが返答してくる。
『ああ、終わったのじゃ』
これが真話大戦の最後。
そして俺がアリスという存在を消した瞬間。
二度と出会いないであろう結果を俺自らが作り出した戦いであった。
「……………」
夢。
最近多いな。
俺はそう思いながらベッドから体を起こす。
向かい側のベッドにはグラスが寝息を立てながら眠りについている。
時間は午前五時を指示しており、随分と早い目覚めになってしまった。
昨日はシルの一族の話を聞き、今後の方針を打ち立てた。学園長と相談し今日をもってこの学園を卒業することになったのだ。
ゆえにこの部屋で眠るのも今日で最後だったのだが、その睡眠がまさかあの瞬間の夢だとは。
はっきりいって精神衛生上よろしくない。
ただでさえ今はシラという仲間がいなくなっており、シルほどではないもののダメージを負っているのだ。
それに加えてアリスを自らの手で消した夢を見るなど、運命のいたずらにしても性格が悪すぎる。
俺はそう思いながら立ち上がると、朝日が入り始めている窓際に立ち、その太陽をジッと眺める。
「そういえば、アリスを消したときもこんな空だったかもな」
こうして目覚めの悪い朝から獣国ジェレラートへ向けての旅が始まる。
ようやく真話大戦の最後を描くことが出来ました!
これは本編プロットを制作する前から作っていたお話で、制作時系列的にも真話大戦というのは本編よりも先に出来上がっているのです。
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